水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。


2006年03月17日(金) 勝目梓『棺の中』

「闇に香るもの」(新潮文庫)の棹尾を飾るのは、勝目梓『棺の中』。
今回の“香るもの”は、アクセサリーです。ふとしたことで関係を結んだ女に
18金のネックレスとイヤリングを贈った男。愛情はなく、はずみで始まった
情事は何も残さず終わったはずでした。女が死ななければ。女が、この
アクセサリーを棺の中に入れて欲しいと言い残さなければ──。

お葬式で、死んだ女に夫がいたことを知るなんて……。
はずみにも、ほどがあるでしょう!!
何気なく贈ったプレゼントのことで、夫に呼び出される男。
夫はこの男をどうしたいのか、夫自身わからないようですが、うーむ、
わたしもわかりません。こんな夫のココロ。男も然り。

夫vs妻の恋人、というより、夫vs妻の夫に対する憎しみ、のような図式が
浮かびます。言葉にできない思いを持て余すふたりの男対決が、
妙になまなましく、せつないですねぇ。



「闇に香るもの」(新潮文庫)、どの作品も強烈ですが、特に印象に残るのが、
東野圭吾『栄光の証言』。誰の身にも起こりそうです。


2006年03月16日(木) 結城昌治『不可抗力』

主人公が哀れですねー!というか、この男のダメダメぶりに疲れます。

妻を殺そうと企む主人公は、自分が捕まらない方法を知ろうと、推理小説や
犯罪記録を熱心に読み進むうちに、刑法第39条に行きつきます。

刑法第39条というのは、心神喪失者の行為は罰せず、心身耗弱者の行為は
その刑を軽減するという法律で、これを利用すれば、妻を殺して、捕まっても
無罪になると主人公は考えるわけですよ。。まったく!!
そこで、心神喪失を装うために、主人公が考えたのが──。


浅はかですよね〜。

離婚を承知されないかもしれないから、殺すって、、あんまりです。
一度でも、「別れてくれ」って、言えば良かったのに。。
案外、あっさり、「そうね」かもしれないのに。


妻への不満を誰にも言わないでいると、殺意が生まれるのでしょうか。
妻が死ねばいいなんていう願望が内攻すると、こんなふうになるのでしょうか。。
結婚したときは、憎しみなんてなかったでしょうに……。


2006年03月09日(木) 森瑤子『香水』

短編集のタイトル「闇に香るもの」(新潮文庫)からイメージしていた香水が
登場しました。森瑤子さん……今もお元気なら、どんな恋物語を……と、
思ってしまいます。表参道ヒルズや携帯電話を、森さんなら、どんなふうに
描くのでしょうか。急逝されてから13年ですね。森さんほど、濃密で艶やかで
めくるめくような淫靡さで、琥珀色の恋愛小説を書ける人は、なかなか
いないものです。

『香水』は、婚約者の部屋を訪ねた女が、香水の残り香から他の女の
存在を感じ……というお話。な、なんなんでしょう?行間から立ち昇る香り。
読んでいくうちに息苦しくなります。匂い付き本?なワケないですよねー。
ムアムア香ってきます。ハァハァ・・酸欠状態になりそうです。息継ぎしないで
泳ぎきった感じで、読み終えました。。フゥ〜

人間、誠実で知性があれば、未来についてのどんな約束もすべきじゃない。
というようなことを男が言うんですけど、うーむ、これは、わかるわ〜。
口約束で婚約して、6年もずるずるきたら、男は女に飽きて、女は男に
執着するような気がします。どーですか?

女が自分の年齢に愕然とする口の周囲の皺、欲望に膨らんでいく男の
唇の両側が柔らかく釣り上がってできる官能の皺。皺(しわ)にもドキドキ。

愛と憎しみは紙一重。女は恐い。


2006年03月03日(金) 北方謙三『男の小道具』

これは、短い。コーヒーが冷めないうちに読み終えてしまいます。
そして、巧いですねぇ。隙がなくて、ツッコミどころが見当たりません。

あえて言うなら、、男の小道具=葉巻って、、そ、そうなんですか?
上司が葉巻喫ってたら……ぜんぜん想像できません。
北方謙三ぐらいじゃないですか?葉巻が似合う人。他は、ゴルゴ13?笑
まわりに葉巻を喫うような人がいないから、葉巻の匂いがわかりません。
でも、だからこそ、想像力が刺激されて、一層楽しめます。

ストーリーは、21歳の女子大生とつきあう50過ぎの作家の元に、彼女と別れて
ほしいと若い男がやって来て……。ん?んんーん?実話?
じゃないですよねー。妙なリアリティーを感じます。北方流哲学をベースに
語られる男と女の関係。女の心理も、、よくご存知で。北方先生。

「闇に香るもの」(新潮文庫)第五話は、確かに香ります。右脳がモワッ!


2006年03月02日(木) 阿刀田高『ギャンブル狂夫人』

嗜好品を扱った短編集「闇に香るもの」(新潮文庫)を読んでおります。

第四話の嗜好品は、煙草。ただ、煙草環境は10年で大きく変わりました。
煙草は嗜好品とは言えないのではないでしょうか。愛煙家などという
言葉も古臭い感じがします。もっと古いのは、ギャンブル狂。
煙草とギャンブル狂と夫人です。なんてレトロなキーワード!

ところが、予想を裏切られ、スリリングな気持ち良さ。テンポも良いわよ。
阿刀田高、ですもの。完成された美しさ。
旅先で偶然知り合った夫人から、ある賭けを持ちかけられた男の話が
こんなに面白いなんて!どんな賭けかは、読んでみてね。


ラストで、フッ。
人生、泣いたり笑ったり。笑ったり泣いたり。


今日のわたしは、笑ってました。


水野はるか |MAIL
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