水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。


2004年05月28日(金) 島村洋子『七夕の春』

恋愛の本質が【想う】なら、これもひとつの恋愛なのかもしれません。
恋愛アンソロジー「LOVERS」(祥伝社文庫)・5番目の作品『七夕の春』に、
うれしい衝撃を受けて、更新が滞っておりました。

激しく求めあう愛ではなく、耐え忍ぶ愛でもなく、涙・涙の愛でもなく、それは、
とても穏やかな想い。主人公の女性に、中学卒業から15年間、同じクラスだった
J君から手紙が届きます。ふたりは同窓会委員として、名簿を把握しておく必要が
あったのです。年に一度の手紙のやりとりを続けるうちに、彼女はJ君に不思議な
親近感を抱いていくのですが……。

いくつかの挫折を経験していく主人公にとって、J君からの手紙が、心のよりどころ
になっていく過程がとても自然で好感が持てます。

年賀状だけのつきあいだけど、ずっと見守っていたい人はいませんか?
好きとか嫌いとかの感情とは違う、絆のような感情を思い出させてくれる人が
誰にでもいるのではないでしょうか。

ただひとつ、気になるのは、J君・・って。。
純一郎君とかの方が、わたしは好きなんですけど。


2004年05月21日(金) 安達千夏『ウェイト・オア・ノット』

'98年に『あなたがほしい』で、すばる文学賞を受賞してデビューした安達千夏。
レズピアンの主人公と大胆な性描写が、当時話題になりました。
『ウェイト・オア・ノット』では、主人公のルームメイトがレズビアンです。
しっかし、、書き出しから性描写は、、やめてほしい。つかみはOKのようですが。

あぅ、、何にこだわって、レズビアンを登場させるのかは、よーくわかります。
ルームメイトのセリフが、すべてを語ってくれていますもの。

おおっと、肝心の主人公についてが、まだでした。
主人公は29歳の独身女性。結婚している男と逢瀬を重ね──。
不倫ですか・・で、男は自分の妻を<あの人>と、女に話します。
夫婦の間に愛情がないことを説明するための<あの人>のようですが、うーむ、
この男は、やめた方がいいよ。織江ちゃん!← 主人公

妻を大切にしない男は、愛人だって、大切にしません。たぶん、ね。
人目を考えない男は、その不倫愛をも、いきあたりばったり感覚よ。おそらく、は。
ぜんぜん罪の意識がないのはどうよ。不倫愛というより、スリルを楽しんでいる
ような『ウェイト・オア・ノット』。タイトルも軽いから、これでいいのか、いいのね。
共感できないのに、納得させられた感じ。


2004年05月18日(火) 谷村志穂『キャメルのコートを私に』

大人の女に憧れるのは、若い男の子だけじゃありません。
女の子だって、落ち着きがあって、いろんなこと知っていて、着こなしが
上手な、きれいなお姉さんと出会うのは、熱い衝撃なのです。

そんな大人の女が現れると、どうしたって、自分が子どもに思えてしまう。
恋の拙さや恋人の未熟さに急に気づいて、立ち止まってしまうんです。
女は背伸びしながら恋をして、大人になっていくような気がします。

『キャメルのコートを私に』── 冬の訪れと共に終わった、ある恋のお話。
舞台は札幌。札幌生まれの谷村志穂にとっては、お得意の冬物語。
さりげなく添えられた自然の描写が素敵です。
金沢生まれの唯川恵も、雪を効果的に使うのが巧いですよね。

恋は終わっても、何かが始まる。
力強くてすがすがしい明るいラストは、読んでいて気持ちが良いです。
ラストって、大事ですね。← 今さらながら。(笑)


2004年05月15日(土) 川上弘美『横倒し厳禁』

これも、「あたし」の登場で引きぎみ。「あたし」は苦手なんですっ!
『横倒し厳禁』は、中年男と若い女の子の組み合わせ。
お互いの寂しさを埋めるための恋みたいですね。いえ、恋をしてると、
寂しさが見えてくるのかもしれません。

愛しあったあと、桃の缶詰を・・。

ふーん、へぇー、そー、などと平静を装いながら(一人で読んでたので、
平静を装う必要もないのだけれど)読みつつ、わたしなら、桃の缶詰より
フレッシュジュースがいいなぁ〜できたら、大きな手でギュギュッと搾った
グレープフルーツの・・それで、、それから・・しばし妄想中。

川上弘美の魅力は、きわどい状況を描いても、いやらしくないとこですね。
で、読むときいやらしくない方が、記憶に強く刻まれていく感じがします。
そして、思い出すと、すっごくエロティックなのですよ。
『トカゲ』(中公文庫、「物語が、始まる」収録、03.06.07記)も、そうでした。
トカゲに馬乗りになって喜ぶ主婦のお話。忘れたくても忘れられません。


2004年05月13日(木) 江國香織 『ほんものの白い鳩』

恋愛アンソロジー「LOVERS」(祥伝社文庫)を読み始めたんですが、
選択を少々後悔しております。ミステリーなら10や20、続けて読むのは
平気でも、恋愛ものは大変です。恋愛ものを続けて読むと、胸やけする
体質だったことをすっかり忘れていました。9編の恋愛アンソロジーを
無事に最後まで読むことができるでしょうか?今夜は弱気。

そして、弱気に拍車をかけるように、最初が・・江國香織です。
カラメルが多すぎるプリンのような甘ったるい文章が・・苦手。
「あたし」というのが、なぜか・・苦手。「わたし」と「あたし」、一文字だけの
違いなのに、わたしにとって、この一文字の持つ意味は、かなり重要。

ストーリーは、あたしと新太郎の出会いと別れなんですが、、、
なんだか・・微妙。恋人たちに見えないのですよ。まあ、こんな恋人たちも
いるってことかな。恋は、白い鳩のようなものだ。って、あるんですが、
ここだけは、わかります。恋は羽根をもっていると思ったことありましたから。

恋のおわりを知るのは、鳩がでていったと感じたとき。
ん?苦手苦手と言いながら、江國香織の世界に浸ってました。
おそるべし、江國香織。甘すぎるねーと言いながら平らげたプリンのよう。


2004年05月08日(土) 小池真理子『一人芝居』

ミステリーアンソロジー「緋迷宮」(祥伝社文庫)の悼尾を飾るにふさわしい作品で、
満足、満足。小池真理子の作品は安心して読めます。巧いですねー。

『一人芝居』は、美しい人妻に恋をしてしまった男が、彼女を遠くから見ているだけ
では足りず、とんでもない行動にでたあと、とうとう声をかけるのですが……。

タイトルからおわかりのように、男の気持ちだけが空回りして、いやはや。。
こんな声のかけかたはないでしょ。いきなり、そんなこと言われたら警戒しますよ、
ふつう。あー、ダメダメ!そんなことまで初対面で言うなんて。。ダメよ。
「僕はあなたのことを本当によく知っているんですから」─こ、こんなこと言ったら
ストーカー相談室行きよ。

人妻の身に何か起きたら大変!と、ドキドキし始める頃──。
!!!
ぜひ読んでみて下さい。

ヒヤヒヤの恐怖感がたまりません。


「緋迷宮」、どれも楽しめましたが、特に、
宮部みゆき『おたすけぶち』、海月ルイ『鉄輪』、小池真理子『一人芝居』が
良かったです。
んー、このところ、恋愛もの読んでないですねー。
次は、コテコテのラブラブ小説読もうかな〜なんて思っております。


2004年05月07日(金) 若竹七海『船上の悪女』

豪華客船・箱根丸は、とんでもない悪戯を繰り返す子供のせいで、船内は阿鼻叫喚
(あびきょうかん)。乗客たちが大騒ぎする中、悪戯小僧の胸の内には──。

想像していたのとは全然違う展開になっていって、引き込まれました。
この子の日記の部分が、少しせつないんです。父親への敬慕の念がストレートに
ビシビシ伝わる文章で……。戦前の子供は、こんなふうに父親に敬語を使っていた
んですよね。古きよき時代の雰囲気を知るのは、まず言葉遣いかもしれません。

船旅ですか、、いいですね〜憧れます。それも箱根丸!箱根丸ですよ!

箱根丸は、大正10年から昭和初期にかけて横濱(よこはま)と倫敦(ろんどん)を
6週間で結んだ日本郵船の定期客船で、欧州航路の花形でしたが、開戦で軍に
徴用された後、昭和18年に米軍機の爆撃を受けて沈没。
船上では、いろいろな物語が生まれたでしょうね。頭の中に流れるメロディーは
「My Heart Will Go On」(セリーヌ・ディオン)、映画「タイタニック」をピンポイント
で再生早送りしております。


『船上の悪女』の“お父様”と同じくらい印象的な“ダディ”“キャプテン”から始まる
父親への手紙形式の物語、浅田次郎の『薔薇盗人』(新潮文庫、2003.4.21記)も
良かったです。
豪華客船の船長である父への息子からの手紙が、母の秘密を知らせる秀作。


2004年05月03日(月) 海月ルイ『鉄輪』

「緋迷宮」(祥伝社文庫)8番目のミステリーになりました。
呪詛の霊験を持つとされる井戸・わら人形・夫の愛人に赤ちゃん誕生、とくれば、
どういうお話かおおよその見当がつくはず。そうそうそういうお話です。

でもでも、ただの呪い殺そうなんていうんじゃないんです。
裏には裏が、実は…に続く実は…がでてきて、なかなかのショ〜ックッ!!
その上、この裏には裏が、のタイミングが絶妙なのですよ。
海月ルイは、’02年に『子盗り』でサントリーミステリー大賞を受賞しているんですね。
こちらも読みたくなりました。

「鉄輪」は「てつりん」じゃなく、「かなわ」となってますが、京都に実在するんですか?
井戸の傍らで、怨しゅうの名前をつぶやく人が今もいるんでしょうか?

読み終えて、ハラハラから解放されても、なんとなく、モヤモヤしたまま。
まったく、んもーーーなんて愛人なのよぉーーーー!

読書日記の中心で、こんな愛人はあんまりだとさけぶ。


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