キ ミ に 傘 を 貸 そ う 。
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Aさんが花火大会に連れて行ってくれた。
ある日突然、『○日、花火大会があるから行こう』って。
私が、「お祭りに行きたい」って呟いたのを覚えていたみたいで それで誘ってくれたらしい。
私はとてもとてもびっくりしてしまって。 だってAさんにとって私は遊び以外の何物ではなく。 私をどこかに連れ出して楽しませてあげようだなんて そんなこと思ってくれてるなんて、微塵にも思わなかったから。
傷つかないように、私はAさんに何も期待しないで生きているから。
誘ってくれた数日後に。 『席も予約した。チケット買った。』って。えー! 嬉しくて、心がはしゃいだ。
花火大会の前日に私の家に来てくれて。 2人で2本映画を見た。
ひとつはとても笑える映画で。 Aさんが「一緒に観たい。」って借りて来てくれた。
もうひとつはとても哀しい映画で ひとり泣いてしまった。 Aさんは「せつない映画だな。」と言っていた。
花火に行く前に2人でお酒などを買出しに行って 本当に恋人のように2人で花火を遠くから見て 幸せだなんて感じてはいけないのに。 私はきっと幸せだった。
私がこんな夏を過ごすなんて思ってなかった。
Aさん。 私は、あなたのことをどうしようもなく愛してる。
あなたは私こと、少しでも愛してくれてる?
色々なことがあった。
Jに3年以上ぶりに会ったり。 王子とバッタリ遭遇したり。
それでも分かったのは 昔には戻れないということ。
当たり前のことかもしれないけれど どこか実感が湧いていなかった。 Jとも王子とも、もう前のようには戻れないこと。
*****
毎週金曜日は、Aさんに会ってゴハンを食べてサヨナラをするのが習慣になった。
金曜日になるとなんとなく会う流れになって 2人で一週間分のたまった疲れを癒しながら 美味しいゴハンを食べる。
突然Aさんが不思議なことを言う。
『最近たまに考えるんだけど、 俺が死んだら、はるかちゃんは俺の棺の前で泣いたりするのかな。 嫁も、急に俺が死んだらびっくりするのかな、とか。』
そんなの。 泣くに決まってるじゃないですか。
私以外の人たちだって、みんな泣きますよ。
本心だった。 Aさんはみんなから愛されてる。
けどAさんは苦笑いをしながら首を横に振った。
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