momoparco
  ピンク色の長靴と光と影と
2007年08月25日(土)  

 通勤途中の道に幼稚園の園バスが停まるバス停がある。

 このところ夏休みでバス停に集まる母親と子供の姿を見かけなかったのだけど、今朝雨の中を歩いていたら、幼稚園の制服を着た小さな女の子がお母さんに手を引かれながら、目の前の角から出て来て私の少し前を歩いていた。

 小さな傘、小さなスカート、小さな長靴の足は母親の歩調に合わせるようにして歩くととても早足になる。

 少しだけ走っているように小刻みに動く小さな足と、そのたびに開いたり閉じたりするスカートのプリーツと小さく小さく揺れる肩から下げたかばん。

 片手に傘を持ち、もう一つの小さな手で母親の手を握って、女の子は体中で雨の中を歩いていた。

 女の子の回りで動く何もかもが女の子と繋がっていて、ピンクの長靴はもつれそうに踊っていて、まるでそよ吹く風に揺れるチューリップのようだ。濡れ羽色に光るアスファルトの上で、傘と長靴の影が大きく赤く滲んで女の子の鼓動を映している。

 誰にでもそんな時があって、そしていつか大きくなる。あんなに一生懸命歩いているのを母親はきっと知らない。子育て中の親は前を見て歩き、お互いの後ろ姿を思い起こす余裕もない。

 でも本当は大切な大切な愛しい時間はそこにあって、何気ない日々の一つ一つがかけがえのない時間だったと、ずっとずっと後になって思うのだ。

 小さな子は何だって一生懸命だ。女の子の後ろ姿を眺めているうち、私は涙ぐみそうになる。可愛いらしさのせいかも知れないし、後ろ姿を想い出したからかも知れない。

 やがてバス停に着き親子は足を止める。その脇を私は黙って通り過ぎる。私が眺めていた事など親子は知らない。今度は私が後ろ姿を見せて歩いて行く。振り返らない。振り返っても決して後ろ姿は見えないから。




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