おひさまの日記
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2011年04月09日(土) 役割

近所にインド料理のお店ができた。
インド料理大好きな私は大喜び。
最近の外食はもっぱらそのお店。

少し前、そこでカレーを食べていたら、
お店の売り上げがレジから盗まれる、
という現場に居合わせることになった。



お店は、インド人のシェフと、
その彼女さんのふたりで切り盛りしている様子。

その日は彼女さんがいなかった。

私達がカレーを食べていたら、
日本語が片言のシェフが、
なにやら必死に私達に訴えている。

片言の日本語とジェスチャーから察するに、

「レジからお金が盗まれた」

と言っていることがわかった。
犯人は、私達の後ろのテーブルにいた、
中年の男女ふたりだと言う。

ふたりのお会計をしようとレジを開けたら、
店の外に出ていた女性がシェフに話があると呼び出し、
外であれこれ話をしたのだそうだ。
レジの前に残った男性が、
そのスキにレジからお金を盗んだらしい。
戻るとレジの1万円札がなくなっていたそうだ。



彼女さんもおらず、日本語もうまく話せず、
右往左往のシェフ、
私達が代わりに警察に通報することになった。

警察が到着し、
代わりにシェフから聞いた事情を説明し、
あとは夕方出勤の彼女さんが来てから、
ということで、私達も帰った。



なんだか悲しくなった。
ウチのばあちゃんも涙目になって、

「コツコツ頑張っている人達に、
 あんなことをするなんて悔しいね。
 犯人が憎らしいね」

とつぶやいた。

オープンしたてのお店で、
真面目に一生懸命働くふたり、
ポスティングやチラシ貼りもしたんです、
彼女さんが笑顔で話していたことを思い出す。

あんな素晴らしい人達が、
なぜこんな目にあわなくちゃならないんだろう、
どんなにか悔しいことだろう、
そう思った。

犯人達は決していい目にあわないよ、
いつかしたことが自分に返ってくるよね、
みんなでそう話していた。



夕方、どうしても気になって、
彼女さんが出勤する頃、
またお店に行ってみた。

ちょうど警察が事情聴取に来ているところだった。

彼女さんは、私が入るなり、
私をドアの外に押し出しながら、

「申し訳ありません、今日は…」

と言った。
警察官が、

「その方です、通報してくださったのは」

そう言うと、
彼女さんは一気に脱力したようになり、
涙目で、

「そうだったんですね、
 本当にありがとうございます。
 失礼しました」

と言った。



警察官が帰った後、
他に誰もいない店で、
お茶でもどうぞ、と、
大好きなチャイを出してもらった。

そこで、彼女さんと私は色々な話をした。

オープンしたてで、1日も休みなく働き、
シェフも疲れ切ってストレスでイライラしていたこと、
だからふたりケンカが絶えなかったこと、
休むことも大切だということ、
シェフがのんきに歌っていた鼻歌は、
本当はのんきだからじゃなく、
心のバランスを取るためで、
精一杯の頑張りの証だったんじゃないかということ、
レジの場所が盗難にあいやすい場所だから
移動するようにと、
警察に注意されたということ、
色々、色々。

私達はお店の人とお客さんという立場から、
お互いの気持ちがもうちょっとだけ近くなった。



それからも、私達家族は、
足しげくそのインド料理のお店に通っている。
ばあちゃんまで自分から行くと言い出すほど。

警察のアドバイス通り、
レジの場所も変わっていた。

これからお休みもちゃんと取ることを
考えているみたい。

シェフは、
サービスだからとアイスを出してくれたり、
ナンを追加で持ってきてくれたり、
帰りには片言の日本語で、
「日本の友達と飲む」
と言って缶コーヒーをくれたり、
言葉では伝え切れない気持ちを、
いっぱい伝えてきてくれる。

彼女さんは、
オープンしたてのお店に通ってくれてうれしい、
出会えてよかった、
そう言ってくれる。

大好きなインド料理が近くで食べられるだけではなく、
お店の人との交流があたたかく、
私達はとても幸せだ。



そんなことを感じながら、ふと、思った。

インド料理屋さんのふたりと、
こんなに近くなって、
おいしく、うれしく、楽しく、
料理をいただきながら、
交流させていただけるのは…

あの事件があったからじゃないかしら。

あの事件がなかったら、
ただのよく来るお客様だったかもしれない。

それに、ふたりは、
防犯のことを考えるようになり、
休むことも大切だと思えるようになり…

あの事件があったからじゃないかしら。

あの事件がなかったら、
ふたりは以前のままでずっとお店を続けて、
もっとケンカしたかもしれないし、
体を壊したかもしれない。



この世界では悪と呼ばれる「役割」を
果たす魂も存在している。
その悪が存在することにより、
それによる不運が存在することにより、
気付いたり学んだり、
何かが生まれたり、変化できたり、
するということも事実だ。

とても歯がゆいけれど、事実だ。



だから、私は、

「あなたを愛しています」

心の中でみんなに言う。

魂と魂で交わした約束で、
あることを体験するために、

私はこういうふうにするよ、
じゃあ私はこういうふうにするね、

そんな魂同士の約束が、
人間となってこの世界で果たされている、
そんなことがたくさんあるんだと思う。

けれど、理屈ではそんなことわかっていても、
つらいことはイヤだ。
不運だと感じるような体験はイヤだ。
自分や周りの大切な誰かを、
傷つける人が憎らしい。

それでも、すべてが愛ならば、
愛に見えない形で生きている人達にこそ、
私は伝えたい。
矛盾を感じながらでも。

「あなたを愛しています」

すべての人が完璧に自分の「役割」を生きている。
誰ひとり欠けてもこの世界は完璧ではないのだ。
尊い命、尊い存在、それが私達。





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