おひさまの日記
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| 2005年11月15日(火) |
「存在するすべては現実であり、そして、幻なんだ」 |
昔もこの日記に書いたけど、私はアニメの「攻殻機動隊」シリーズが大好き。 少し前も、シリーズの最初の作品「Ghost in the shell」を改めて観た。
攻殻…シリーズは、 人間が電脳化され、声を出さずとも、コンピューター端末を打たなくとも、 ネットワークを通じたデジタルコミュニケーションが可能になり、 それと同時に、肉体の機械化も進み、人とサイボーグ(機械化人間)、 ロボット(人形)が共存する、2032年の日本、魂が希薄になった時代が背景。
↑これ書かないと話が進まないんで、勘弁してくだせぇ(笑)
詳しく書くとヲタになるので、それは避けながら、 人間の存在や、心、精神、それらに通じるインパクトの強いシーンやセリフがいくつもある。 私の好きな般若心経に説かれていることも盛り込まれている。
いくつものあるその中のひとつのセリフがこれだ。
「疑似体験も夢も、存在するすべては現実であり、そして、幻なんだ」
事件の中である男性が、脳をハッキングされ (みんな電脳化、つまり脳みそごとPCになったようなモン、なので)、 実際には自分が体験していない記憶をデータとしてプログラミングされてしまう。 そして、プログラミングされた偽の記憶を現実だと思い込んで生活している。 奥さんも可愛い娘もいる生活。 それがハッカーの仕業による単なるデータのプログラミングだと知った時、 男は、自分を取り巻いていた妻、娘、そして家族との絆を失い、 激しく落胆し、泣き崩れる。
ハッキングされた男性は、現実には家族などいない。 みすぼらしいアパートでのひとり住まい。 そんな彼がプログラミングされたデータは、 既婚者の自分が浮気をし、別居となり、現在離婚調停中、 なんとか復縁しようと妻とのやりとりをしているが、 弁護士が間に入っていて直接話をさせてもらえない、というもの。 なかなか会えない娘がかわいくてかわいくて仕方ない。
男は、単なるデータとして与えられたものを現実としてとらえ、 そこでの体験に感情を芽生えさえ、移入している。 本当は単なるプログラミング、夢のようなものなのだが、 それが彼にとっての現実なので、 ハッキングによるプログラミングだと発覚した時、 強い喪失感を感じ、悲しみの中に落ちていった。
それを見ていたバトーという登場人物が言うセリフがそれだ。
「疑似体験も夢も、存在するすべては現実であり、そして、幻なんだ」
このシーンで私は頭をガーン!と殴られたような衝撃を受けた。
そう、存在するすべては現実であり、そして、幻。 この仕事をしていて、それを強く強く感じる。
意味わかんないなぁ…と思った人、 いや、なに、実はいたって簡単な話。 つまり、こう。 誰もが思い当たると思う。
人間関係の中で、ネガティブな気持ちになる相手がいるとする。 「こんなことをされた、ひどい、あいつはムカつくヤツだ」 そう思ったりすることはないだろうか?
私はよくあるよ。
例えば、誰かにひどく冷たい態度を取られたり、無視された、とする。 すると、ほとんどの人に心理反応が起こるだろう。
腹が立つ、悲しくなる、ショックを受ける、 自分が何かしてしまったのではないかと不安になる、 それによって怒らせてしまったのではないか思い、 相手の出方や、それによるこれからの自分の未来を恐れる、等々、 心理反応には色々あるだろう。
そして、そういう感情が胸の中に渦巻いている間は、とても苦しい。
その出来事の後、自分にひどいことをした(と感じる)相手が、 実は、親を亡くした後で、悲しみのどん底にいて、 人と話せる心のゆとりも何もなく、自暴自棄になっていたことを知ったとしたら?
すると、ほぼ間違いなくこう思うだろう。 「ああ、そうだんったんだね、だからああいう態度だったんだね」と。 許せてしまうし、自分も気にならなくなるだろう。 相手は自分に敵意や嫌悪などのネガティブな感情でそうしたのではないとわかるから。 苦しい感情が胸の中から消えてゆく。
私にはそういうことがある。
で、だ。 この例え話の中で、相手の親が亡くなったと知る前と後では、 現実が違っていることに気づくだろうか?
目の前で起こっていることは、単にひとつの出来事。 けれど、自分がそれをどう意味付けするかによって、体験する現実が変わっているでしょう?
それが「存在するすべては現実であり、そして、幻」ということ。
相手の親が亡くなったということを知るまでは、 相手はあんな態度とってイヤなヤツってのが現実だったので、 それと共に生き、感情を伴って体験してた。 けれど、相手の親の死を知った時、それは「ない」ものとなる。
映画「Ghost in the shell」の中の男もそう。 プログラミングされたデータそのものが、彼にとっては現実だったので、 それと共に生き、感情を伴って体験していた。 けれど、実はそれは「ない」ものだった。
また、「ない」ものとなってもなお、 疑似体験した出来事や感情は彼の中に残り、それに苦しむ。 私達は、実際には存在しないものに苦しむ。 心理反応によって生まれた現実の中で生きるから。 これによって、幻も現実も同じであるということがわかるだろう。
私達は「こうである」と思い込んだ世界に住んでいる。 存在するすべては現実であり、また幻、というお話。
そんなことを考えさせられる攻殻…シリーズを観て感じることは、 マトリックス」シリーズを観た時にも感じたこと。 それもそのはず、この「Ghost in the shell」が、 「マトリックス」の監督ウォシャウスキー兄弟に多大な影響を与えたことは有名。
押井監督が、自分の住む日本の観客に向けて広く問いかける作品だと言われている。 だからこそ、一見SFファンタジーの形式を借りながら、 現代の日本そのものを正面から描き出すという究極的なテーマに挑んだそうだ。
ここにご紹介したセリフやシーンはほんの一部、 内容が一見難しかったりもするけれど、全編に深い深いものがちりばめられてます。 個人的には、観ていて引き込まれていって、深い部分でなにかが動く作品なので、 ご興味のある方はぜひどうぞ。 映画「イノセンス」が「Ghost in the shell」の続きなので、ふたつご一緒に(笑)
あ〜、長くなっちまったです。 もう寝ます。
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