僕の、場所。
今日の僕は誰だろう。
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手を、つないでいた。隣に少女。僕の服。制服のひだスカート。素足に靴下。まだまだ幼い顔つき。時々不安そうに、時々愛らしく。…これは。この情景は、誰かが僕に与えたものなのだろうか。答えは「応」らしい。僕は僕だが、僕のものじゃない。誰かの意識内で生まれた僕には自由がない。それはこの隣にいる少女も同じ。そして、彼女は結末を迎えたいと望む。
歩く。特に何も考えていない。ただ、何かに誘導されるように足が勝手に進む。よく知った町なので困らないし構わない。曲がり角や交差点で、時折カヤが僕の方を見てはどちらに進むのか尋ねる。ちょっと考えて僕は指差す。 「…多分、こっちだと思うんだけどね」 「多分ですか?」 「きっと」 「えー」 「おそらく」 「そんな…」 「…大丈夫だよ」 手を、ぎゅぅ、と。少し強めに握って。小さな手、白く細い指。 この年端もいかない少女が、カヤが、数時間後に迎える結末を僕は知っている気がする。だけど分からない。知っているんだけど思い出せない、見えているのに見えない、認識できていない、頭の中に幾重にも薄い帳がかけられたような変な感覚。僕は。僕は。
「アキト、さん」 「ん」
ほら。いつの間にか僕はただっぴろい草原に立っている。カヤと二人で。言ったろ、大丈夫だって。吹きさらしの広場は一段と寒く、周りの喧騒も少ない。ここは何処だっけ。この町にこんな場所あっただろうか。切なく枯れた薄茶色の波が揺れている。辺りの民家から、そろそろいい匂いが漂い始め、空がほんのりと暮れかけている。 一陣の風が、ふわりとカヤの髪を揺らす。ふわり。ふわり。寒いのに寒さも感じないくらい神秘的。けれど少し不安そうな表情は、やけに現実的で。
僕は、つい、カヤを抱き締めた。
ポケットに突っ込んでいた片手で、カヤの髪を撫でる。驚いた瞳が眼鏡越しに見えて。苦笑を零した。 「えと…何を笑ってるんですか、女の子抱き締めといて」 「うん…ごめん。つい、ね」 本音。特に理由もなく。僕は何がしたいのだろう? つまり、何をすることになっているのだろう? 誰かが呼ぶ。誰かが呼ぶ。ページを捲る。 「私」 薄い木箱を、僕の胸に押し当てて。カヤが僕から離れる。 「私、行きます」
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