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僕の、場所。

今日の僕は誰だろう。



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NOT FOUND  text5.dreaming

ずっと、空を飛んでいた。
下には町。ビルとビルの間の道路、民家、商店。

風をきって降りてゆく。
見覚えのある、けれど知らない町。
今度は歩いている。
すれ違う人は知らない人たちだけど、挨拶をしてくれる。
僕も挨拶をする。
笑顔が返ってきた。

目当ての店はこの曲がり角の向こうだ――と思ったら、
大きなトラックが出てきて僕は轢かれた。
でも、起き上がって歩き出す。
違う、あの店は此処じゃない。あの通りの先だ。

店先には小さな女の子が一人立っていて、
ボールで遊んでいる。
立て付けの悪い戸を滑らせて開くと、
セピア調の店の中が目に入る。
入ってすぐ横の棚の上には黒猫が一匹丸まって寝ている。
目を閉じているので、真っ黒のかたまりに見える。
店の奥からお爺さんが出てきて、僕に小ぶりの箱を渡す。

いつの間にか僕は草原に立っている。
風が少しあって、踝くらいの丈の草が静かにどよめいていた。
箱の中身は、本が一冊、更に小さい箱が一つ。
知らない本だが、読んでみると知っている話だった。
用意されたもの。
一人の作家が身銭を稼ぐために書いた下らないフィクション。
しかし、その主人公の周りの人々を、僕は知っていた。
なぜなら、僕の身の回りの人たちだったからだ。
本は最後まで読めなかった。
何故かページが捲れない。まだ続きはあるのに。
仕方ないのでもう一つの箱を開けた。
古ぼけた、でもデザインの洗練された鍵が入っていた。
鍵には鎖がついていて、首から掛けると、
ちょうど少し前に流行った鍵っ子のようだった。
無くしてはいけませんよとお母さんに言われて、うんと頷く子供。
そんな光景を想像して、クスクス笑った。
すると、風も笑った。
草も笑っていた。
雲も笑ったようだった。
僕は歩き出した。

歩き出すと、空に浮かんだ。
何も無い空に足をつけて、一歩一歩進んだ。
それも、いつのまにか上に向っている。
まるでそこに階段があるかのように、僕は空を歩いた。
風は気持ちよく、これこそが昇天なのかなと変な事を考えた。

空を歩いていたはずが、知らない路地の行き止まりに来ていた。
コンクリートの壁には、チョークで書かれた歪な観音開きの扉があった。
子供の落書きだろう。
しかし、僕はその扉をノックしてみた。
コンクリートではない音がした。
そしてそれは見る間に重厚な木の扉になった。

ギギ、ギギギと重い音を立てながら扉は開いた。
行き止まりではなかった。
その扉の向こうは明るく、目が眩んだ。
その眩しい光は、どこかで見た事がある気がした。
そして、誰かに呼ばれた気がした。
「おいで」と。







続く

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