僕の、場所。
今日の僕は誰だろう。
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「アキトさん、で合ってますよね?」 得意げな笑顔…可愛い。とりあえず頷いておくことにする。すると何やら一しきり喜んだ後、彼女は自分を指差してこうのたまった。 「私の名前、当ててみてください」 「そんな無茶言われても困るって…ていうか君はなんで知ってるんだ僕の名前」 不意に僕は馬鹿馬鹿しくなってきた。どうして一時間に一本しか走ってないバスを見送ってまでこの女の子の相手をしているんだろう。そろそろ日も暮れる、実際さっきより寒くなってきている。僕は寒いのが嫌いだというのに……どうしてここまでしてカヤに付き合っているんだろうか。 「……」 「アキトさん?」 「………君…」 誰だ。カヤって誰だ。この子は誰だ。…僕は誰だ。 「ちょっと待ってくれるか? その…そう、僕はアキトで間違いない。ヤスハラアキト」 「えぇ。良かった。それで、私の名前は分かりますか」 「分からないよ」 「……」 「分かるわけないだろう? 僕はさっき君と会ったんだ」 「……本当に、分からないのですか?」 「………」 さっきまで浮かれていた彼女が、急に少し小さくなった気がした。俯いて、というより顔を上げるのをやめて、押さえた声でさらに繰り返す。 「本当ですか?」 「………」 「…………本当に本当に、私の名前が分かりませんか」 「……カヤ」 言ってみた。言ってしまえば何かが始まってしまう気がして、正直怖かったが。 しかし、何の効果音も背景も出現はしなかった。相変わらず、人通りは僅かながらも途絶えない町のバス停ベンチ。夕暮れに学生二人。なんともありがちな風景だ。 それでも僕は初めて会った女の子の名前を口に出した。 「ありがとうございます」 そしてカヤは笑った。 「意地悪しないでください、アキトさん。」 「いや…だって普通は分からないものだろう……」 「でも分かってくれましたよね」 そんな嬉しそうに言われると、全くつかめない事情なんかどうでも良かった。 バス停で偶然出会った女の子と仲良く話をしている。それだけ見てみればかなりラッキーといえる事態だ。それも女の子は可愛いときた。中学生だろうか高校生だろうか。セーラー服を着ているのだから学校に通っているはずだ。そう、どこの学校だろうか。僕の見たことのない制服だ。遠くの学校なのか…いや、それならこの時間にいるのは不自然か? いや、そこまで詮索するのは失礼だよな、僕だって中学の頃からよくサボって電車で遠出したものだ。 「よしっ、探し物一つ発見っ」 たまに悪意丸出しの笑顔のオニーサン方に囲まれては軽くゲーセン代をたかられたりしていたが…………待てよ今何か聞こえたか。 「…カヤ、さん」 「カヤで良いです」 「……カヤ。探し物をしているんだろ?」 そう言うと、カヤはまた嬉しそうに頬を緩める。 「今、見つけたって言わなかったか?」 「はい。ひとつ、見つけました。アキトさんです」 やっぱり、聞こえたのは幻聴や何かではないようだ。カヤはそっと、僕の手に触れた。細い指が冷たくて、やはり初冬であることを思い出させる。そして、カヤが探しているもう一つも「思い出させ」た。 「…………カヤ」 「…何ですか、アキトさん」 頭の中に浮かぶイメージをもう一度追う。まだ追える。大丈夫だ。 「僕も探そう。というか…僕もそれを探している」
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