例えば。あの情景。
狂った波、
そしてただなんとなくそこに寝転ぶ、
視界には希薄な空気、
触れているのは気持ち悪いくらいに生温いエイチツーオー、
しかしそれは気体かもしれない、ひょっとすると固体かもしれなく、
顔の表面にある表情は「無」で。
もう自分が何だったのかさえ記憶の彼方。
ただ欲していたのは、その眼差しや声や繋ぐ手。
自棄になってブランコを大きく漕ぐ音、
カタカタと蓋をゆらす火に掛けられたやかんと
用意された二つのカップ。
彼方の窓に目をやれば、ずっとパジャマのまま咳き込む女の子。
太陽に気付いて赫を畏れ、
照らされる事の無い暗闇に目を慣らす。
波に顔を洗われて目を覚ませば此処は白い世界。
きっと僕はもう何処にも居ないんだ。