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2009年12月23日(水) バルセロナ建築の旅(その5)

今回の旅は奇才ガウデイとモデルニスモ建築を見るだけでなく20世紀モダニズム建築の三大巨匠のひとり、ミース・ファン・デル・ローエが1929年のバルセロナ万国博覧会で建設されたドイツ館、バルセロナ・パヴィリオンを見に行くのが主な目的だ。


バルセロナ・パビリオン
(ミース・ファン・デル・ローエ記念館/Fundacion Mies Van der Rohe)




有名なバルセロナチェアがあった。
このシンプルで美しい佇まいはどうだろう!

ここを訪れる人はきっと建築家かそれを目指す人、あるいはミースの作品が好きな人だけだろう。
 
この美しい佇まいを眼の裏に焼き付けて次へと移動。

次はグエル別邸


グエル別邸はグエルが週末だけ過ごす別邸だったところ。かつては広大な庭園に囲まれていたが、その邸は現存しない。
タイルとレンガを組み合わせた外壁はガウデイ初期の作品にしばしばみられるムデハル様式と呼ばれるものだ。


幅約5メートルの正面の「ドラゴンの門」は錬鉄製。ギリシア神話に登場するドラゴン「黄金の林檎の番人」をモチーフにしたもの。この仕事でグエルの信頼を勝ち得たガウデイは次々と重要な仕事を任されるようになった。曲がった面に細かく砕いたタイルを利用したのはこの作品が最初。


ものすごい迫力でドラゴンが迫って大きく開いた口に飲み込まれそうだ。
すごい!

短い旅ゆえ、先を急ぐことにしよう。
次はカサ・ビセンスという建物。



カサ・ビセンスはガウデイが手がけた住宅建築の処女作といわれる。ムデハル様式(優雅な曲線を多用した装飾的な様式であることから、しばしばスペイン版アール・ヌーヴォーなどといわれているもの)の影響が顕著。

建築主のビセンスがタイル業者だったため、化粧タイルが多用されている。建築費がかさんで倒産の危機に陥ったが、建物が出来上がるとその宣伝効果で再び財を成したという。現在は個人住宅なので中に入ることはできない。



敷地内には大きなシュロの木が茂っていたことからガウデイは鉄柵にシュロの葉のパターンを用いている。
 中は個人住宅ゆえ見ることはできないので外から残念そうに写真を写していると中からオートバイに乗って門扉をあけて外出しようとしている男性が見えた。私は思わず、「すごい歴史的建造物にお住まいでうらやましいです」と声をかけると、何とこの男性は門を開けて、「私はもし、仕事に行かないなら中へ案内してあげるんだけど今から出かけるんでごめんなさい」と丁寧な美しい英語で答えてくれた。
「いやいや、結構ですよ、ガウデイが大好きで日本からはるばるとこの建物を見にきたんです」というと、ヘルメットをとって、じゃあ、中庭だけ見せてあげよう。こっちへいらっしゃいといってくれた。誰も今まで入ったことがない中庭へ入れると聞いて夫と私は体が震えてしまった。中庭の門扉を開けると赤い車で出かけようとしている金髪の若い美女がいた。男性は「これは私の妻です」と紹介してくださった。「若くてチャーミングな方ね」と言うとにっこり。私たちは夢中でいまだかつて誰も中に入れなかった中庭の写真を写すので忙しかった。金髪の美女が車で出かけたので私たちも門を出ることにして門扉を閉めようとすると男性が「いやいや、それは自分がするから」と言って閉めてくださった。
丁寧にお礼を言って私たちはそこを去ることにしたが、こんな思いもよらない親切に胸がいっぱいになってしまった。

たくさんとったが本来なら見るのも写すのもいけない建築世界遺産であり、個人宅の庭ゆえ、ここでは一枚だけ載せることにしよう。


この中庭にある大きなシュロの木を見たガウデイが門扉をデザインしたのかと思うと時空を越えてガウデイのそばにいるような気がして涙ぐんでしまった。

私と夫はこんなに外国人の私たちに親切にしてくれたことを思うと日本に来た外国人にも親切にしなければねと心から思うのだった。
 それにしてもヘルメットをわざわざ脱いで丁寧な美しく正しい英語をお話になった中年の男性はいかにもインテリのジェントルマンと言う感じの人だった。スペイン人は意外と英語をしゃべれる人が少ないので驚いた。それも大学生がしゃべれない。そう思うとこの男性はかなりのインテリ階級のひとなのだろう。もっとも世界建築遺産に住んでいるのだから相当の人であることは想像できる。
バルセロナの世界建築遺産に住む心優しき紳士に感謝。

建築をめぐる旅はまだ続く。
 次はバルセロナ郊外にカタルーニャ鉄道に乗って出かけることにした。
 ガウデイの強力なスポンサーで理解者であるグエルが工場をバルセロナ郊外に移転させ、田園工業都市を作り上げるために計画したのがコロニアル・グエル。ガウデイはここに教会を作った。
 電車を降りるとそこは何もない田舎の風景が広がっていた。そこにいまだにグエルの工場が稼動していて村の人が働いている。のどかな田園地帯だ。
そこにあらわれたのがこの田舎の風景に何の違和感もなくひっそりとたたずんでいたのがコロニアル・グエル教会だった。
これを見たくて日本からはるばる来ました!






切り出したばかりの柱が支える半地下の教会堂の空間にステンドグラスから差すあかりが床に緑や赤や青の光を映して神秘的であった。




このステンドグラスのシンプルで温かみのあるデザインはどうだろう!愛らしく美しく素朴で心を温めてくれる。
このステンドグラスに見ほれていたら、この教会を守る人だろうか男性が突如ステンドグラスの下の鎖を引き出した。
すると何と!ステンドグラスの下の部分が蝶々の羽のようにあいて外の空気と明かりが入ってくるしかけになっていた。鎖で開け閉めするとまるで蝶々が羽をばたばたと言わせているようだ。そのたびに教会堂の中の明かりが変化していった。
これを私たちたった二人だけの見学者のために開け閉めしてくれた男性に「グラシャス!」と感謝の言葉が自然に出た。ガウデイは本当に天才である。
閉め切りのステンドグラスでなく、蝶々がはばたくようにステンドグラスの羽が開いたり閉じたりする。教会は呼吸している。自然と共にある。


ただただ美しくひっそりと素朴で温かい空気が流れていった。






木々に囲まれた田園地帯にひっそりとたたずむコロニアル・グエル教会は自然の中で育ったガウデイの心がぎゅっと詰まっているようでいつまでも心に残るものであった。
(続く) 


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