cafe rilassarsi...むつみ

 

 

あなたといたい。 - 2003年08月16日(土)

関西から帰ってきたその日。私は自宅へ、彼は寮へと帰った。
ひでくんは横浜に寮があるので新幹線を新横浜で降り、
私は1人で東京駅まで向った。
外は雨で景色も見えず、まるで私の心の内を表すように弱い雨が
シトシトと降り続いていた。その雨と同じように私の目から小さな雫が
一つ二つ、悲しく流れ落ちていった。

東京駅から中央線に乗り換え、ほどほどに混んでいた車内で私は親友に
長い長いメールを書いた。親友にはその前の日、泣き言メールを送っていて
ひどく心配をかけたので帰ってきた報告とつらかったこと、今後の不安など
書けるだけのことを書いて送信した。
長いメールを打っていたため、送信した後に力尽き、携帯電話は充電切れと
なってしまった。

家に着き、荷物を置いて、自分の部屋の畳に腰を下ろした。
一つため息をついて携帯電話を充電器にセットし、無心でPCの電源を入れた。
しばらくすると携帯電話が震え、メールの着信を知らせた。親友からだった。
親友はひでくんの両親とひでくんに激しい怒りを露にしていて最後に

「つらいのならいつでも家においで」

と書き記してくれた。それを読んで貯めていた涙が一気に溢れ出した。

もうだめかもしれない。彼の両親に嫌われてしまったら先が見えない。
彼もつらいだろう。私もつらい。私自身、彼の両親を尊敬できるとは言えなかった。
未来が見えない付き合いを続けて、苦しい恋愛の果てに幸せが待っているなんて
その時の私には思えなかった。信じて頑張る気力も消えていた。

一頻泣いて泣くことに疲れた頃、ひでくんがメッセンジャーで話しかけてきた。
つらかった連休を取り戻そうと彼は次のデートプランを話してくれた。
でも私の心と頭は悲しいことだけに埋め尽くされていて思わず言ってしまった。

「しばらく会いたくない」
「ひでくんが信じられない」
「頑張ろうってひでくんが言うことは私を追い詰めている」

彼はしばらく返事をしてこなかった。そしてやっと返ってきた言葉は

「別れよう」

だった。

その後はお互い売り言葉に買い言葉で言いたくないこと、聞きたくないことを
ただただ言い合っていた。なんて醜い口論。
結局はもう遅いから落ち着いて今度話し合おうと彼は会話を終わらせた。

私は呆然としていた。流れ落ちる大量の涙を拭うことすらできなかった。
我に返ると胸を締め付ける想いが2年前の出来事を思い出させていた。
つらいつらい大失恋。あの時も私の身勝手さが招いた別れだった。

私はまた繰り返すのか・・・・・・。

それはもう苦しいとか辛いとか悲しいとかではなく、恐怖だった。

お願い。
遠くにいかないで。そばにいて。離れていかないで。
私、もっとがんばるから。

つい先程までは頑張れないと思っていた。
もうこれ以上どう頑張ればいいのかわからないとも思っていた。
それがどうだろう。
彼がそばにいてくれるのなら何でもやろうと思えた。
そう思えた自分にほんの少しの希望が見えた。

次の日。彼に電話をかけた。「会って話がしたい」と。
彼は優しくそれを受け入れてくれ、用事が済んだら車で向うとのことだった。
私は緊張していた。これが最後になるのかもしれない。

迎えにきてくれた彼はごはんを食べに行こうと言った。
食べに行ったラーメン屋さんはあんまりおいしくなくてそれが2人の結末を
表しているようでとても悲しくなった。
ラーメン屋さんに向う時も駐車場に帰る時もいつも繋いでくれている私の手を
彼は握ろうとはしなかった。ポケットに手を入れていた。
いつも私だけに見せる笑顔もなかった。
友達になるってこうゆうことなんだなって悲しい実感をしていた。

車に戻って彼は「ファミレスにでも行く?」と言った。
私は泣いてしまうことをわかっていたのでここでいいから話を聞いてほしいと
お願いした。彼は頷いてくれた。

関西旅行でつらかったこと。ひでくんの私に対する厳しさが時につらいこと。
それでも一緒にいたいこと。これからについての決意のこと。
言葉にできるだけの想いを伝えた。言葉で伝えきれない分は涙で伝えた。

彼は優しく頷きながら聞いてくれた。話し終わった私に彼は「ファミレス行こう」
と言った。その時の彼の真意が私にはわからなかった。
だめならだめで今ここでそう言ってほしいのに。そう言おうかと思ったが
これが最後になるのならもっと一緒にいたいと思って言わなかった。

ファミレスに行く前に洗車グッズを買いたいからと彼はオートバックスに寄った。
車のことがさっぱりわからない私は早足の彼の後ろを小走りでくっついていった。
すると私は彼のある行動に気づいた。前を向いたままの彼は左手を後ろに向けて
グーパーグーパーしている。それはいつもの手を繋ぐ合図だった。
胸が熱くなって急いで私は彼の左手を握った。すると彼は振り返って
しょーがないなぁという感じの優しい微笑を浮かべて私の手を強く握り返してくれた。

そしてファミレスに行ってドリンクバーを頼み、彼は買ったばかりのゲームを
ゲームボーイアドバンスにセットして始めてしまった。
今度は私がしょーがないなぁと笑った後、読みかけの小説をカバンから取り出して
読み始めた。話をしていなくても優しい空間を作っていた。
小説を読み切ってしまった私は窓の外を見つめていた。どんな答が返ってくるのか
不安な気持ちとまだ手に残る彼の手のぬくもりが作る淡い期待が入り混じっていた。
やがてゲームに飽きた彼がこう言った。

「明日、映画でも見に行くか」

きょとんした私が彼に聞いてみた。

「あの、答を聞いてないんですけど。。。」

彼は笑ってこう言った。

「いろんなことあると思うけど二人で頑張っていこうな」

うれしかった。とてもとても。言葉ではとても言い表せない。

その日の夜、昨日の悲しい出来事を取り戻すため、二人で一緒に過ごすことにした。
抱きしめられる度、こうしていられる幸せを噛み締めた夜だった。

この数日、お互いがお互いを責め合う日々だった。とても醜かった。
ひでくんの嫌な部分もたくさん見た。私の嫌な部分もたくさん見せた。
それでも想う。あなたと一緒にいたい。
がんばろう。がんばろうね、私達。
嫌な部分も見せ合って許しあって直しあっていけたらいいね。
あなたと共に生きていきたい。あなたといたい。




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