投打共に世代交代の機運に乗じて圧倒的な戦力層を形成、日本一まで上り詰めた今年のダイエーは強かった。そんなシーズンオフを襲った激震が二つ。オープン戦で負った大怪我が原因でシーズンを棒に振った主砲小久保は巨人へ無償トレードされ、復活したリードオフマン村松はFAでオリックスに移籍することが事実上決まった。 転換期を見事に乗り越えて強くなったダイエーだが、その途端に新たな転換期が訪れたのは誤算といえば誤算だろう。だが、裏を返せばここを乗り切ればダイエーの黄金期は現実的なものになる。それだけに、今年のドラフトの持つ意味は後々になってかなり大きく出てくるのではないだろうか。 急速に世代交代を推し進めた先発投手陣は、日本シリーズでも阪神打線を手玉に取ったように12球団トップの布陣。チームの貯金の半分以上を1人で稼いだ20勝エース斉藤を筆頭に、アテネ五輪予選でも好投した14勝の和田、日本シリーズMVPで10勝の杉内が絶対的な三本柱を形成。故障離脱さえなければ新垣も新人王を争う活躍を見せ、2年目の寺原も7勝。この5人の平均年齢(来年時)が23.8歳だから、この圧倒的な布陣で向こう10年は任せられるのは他球団にとって脅威そのもの。 実績組の田之上・星野・永井がこの座を奪い返すのは容易ではなく、若い小椋や神内、伸び悩む山田に水田が余剰戦力になりうる先発層の分厚さ。そこに自由枠で加わる大学球界屈指の本格派右腕・馬原にとっても、先発の座は用意されたものではない。若返りを進める意図、地元九州出身、そしてポジションに関わらずいい選手を獲るというダイエーお得意の人選だが、これ以上いるのか?という疑問も正直ある。余剰気味の先発候補をトレード要員にする、という腹づもりもあるかもしれない。 余り気味の先発陣が兼備する中継ぎ陣は、ダイエー唯一の弱点箇所。日本シリーズでは岡本が獅子奮迅の活躍を見せたが、左の篠原と共にムラっ気が強く、1年を通して信頼するには危ないタイプ。佐藤が安定した活躍を見せたのは好材料だが、吉田・渡辺というベテラン左腕の衰えが顕著になり、スクルメタで失敗したクローザーも1年間固定できなかった。三瀬と竹岡は中継ぎ強化の意図がはっきりした指名だが、岡本や篠原まで崩れた場合、もしかしたら新垣や馬原にクローザーのお鉢が回ってくるかも。年齢的なものを考えれば、麻生徹(旭川大)、高宮和也(徳山大)辺りの即戦力左腕はもう1人指名してもよかったかもしれない。仁部智(TDK→広島5巡目)辺りが取れれば言うことなかったのだが。 小久保を欠きながら井口・松中・城島・バルデスで100打点カルテットを形成、そこに川崎の台頭でスピード感が一層増した打線から、来年は村松が抜ける。井口に残留の目が強くなったのは安心材料に間違いないが、レギュラーと控えの層に完全な隔たりがあるのは現実的な不安要素。鉄壁の布陣だがそれだけに控えに経験と安心感がない、という状況は数年前からのヤクルトと状況がよく似ている。 村松の穴を埋めるセンターには高橋・荒金・出口と候補がいるが、内野はポスト小久保と言われた吉本がなかなか芽を吹かず、鳥越と井口のどちらかが欠けた場合の内野の手当ては万全ではない。4巡〜6巡で高校生内野手を3人指名し、33と言う鳥越の年齢や井口のFA権獲得の年数を考えればいいタイミングだが、すぐ手当てができる即戦力内野手の指名も1人はあっていい。地元九州の池田隼人(日産自動車九州)、甲斐俊治(九州共立大)の指名は狙い目だったかも。 外野手の指名は2巡目の城所だけだが、村松が抜けても年齢的に充実期に近い外野陣なので、城所にとってはいいチャンス。ただ、吉本を獲得して以来、ダイエーは大物打ちの高校生に向かっていない点が気になる。城所はイメージがイチロー(マリナーズ)にかぶる中長距離系。吉良俊則(柳ヶ浦→近鉄2巡目)をさらわれたのは確かに痛いが、永田雄二郎(波佐見)、小島昌也(自由ヶ丘→オリックス7巡目)、松山竜介(鹿屋中央)など、九州だけ見てもズラリの超長距離砲タイプにはそろそろ向かっておきたかった。 上位で逸材のビッグネームを獲り、下位で弱点ポイントを補強しようという戦術は今年も健在。その中で世代とポジションのバランスを取ろうという意思が、今年は例年よりも強かった感がある。ソツのない指名ではあると思うが、バランスに執着するなら小久保と村松の抜けた“現時点の応急処置”があっても面白かった気がする。ただ、4巡目〜6巡目で見せた徹底的な高校生野手路線は、ダイエーが世代交代をほぼ完了して安定期に入りつつある兆候。そう考えれば、意欲的な指名と言うこともできるか。
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