ドジャースの野茂英雄が、大阪堺市に社会人野球のクラブチーム「NOMOベースボールクラブ」を創設した。このニュースは、明るい話題のことさら少ない社会人野球にとって、近年珍しい程に明るい話題であるように思う。 練習場所は野茂が社会人時代を過ごした新日鉄堺の施設を使い、監督は新日鉄堺の先輩でもある清水信英氏が勤め、近鉄時代のチームメイトにも協力を求めていく方針のようだ。 運営費は野茂が当面全額負担だが、既に5件ほどのスポンサー申し込みもあり、内外から大きな注目を集めていることは間違いない。 日本野球連盟へのチーム加盟手続きなどの事情から、今年は練習やオープン戦を組みながら準備期間にあて、来年4月から大会参加や公式戦といった本格的な活動に入る予定。既に元プロ野球選手などからの連絡もあり、選手の集まりもかなりの数になりそうだ。 日本経済を覆う不況下で、社会人野球のチームが相次いで廃部・休部に追いやられていることは周知の事実。10年前は144あった社会人チームが、現在は僅か90。今後もこの数字は減少していくことが予想される。そんな危機的状況に対して、社会人から大リーガーまで上り詰めた野茂は何とかしたいという想いがあったのだろう。 社会人野球の衰退は、ただ社会人野球だけの問題にとどまらない。社会人野球が衰退するということは、プロ野球を筆頭とした日本球界の構造そのものの足腰を弱くする。 高校・大学を卒業した選手たちのプレーの場が少なくなることは当然大問題なのだが、社会人野球が遅咲きの選手達の受け皿になれないということもまた大問題なのだ。 社会人野球の今後が極めて不透明な以上、高校・大学の選手が社会人で野球をやろうとする意識が希薄になってしまう。社会人野球に人が集まりにくくなっている以上、高校・大学で芽が出なかった選手の受け皿は、極めて小さくなってしまっている。台湾球界や米独立リーグでプレーすることも1つの選択肢だが、都落ちという印象は付いてまわってしまうだろう。 潮崎哲也(松下電器→89年西武D1位)、与田剛(NTT東京→89年中日D1位)、高橋建(トヨタ自動車→95年広島D4位)ら、社会人に進んでから大ブレイクした選手にとって、もし社会人野球がなかったら芽を出す前に野球生命を絶たれていた可能性もある。もしそうなっていれば、プロ野球だけでなく日本球界そのものにとっての大きなダメージだった筈だ。 プロ野球には1球団70人という選手枠があり、加えて一部球団を除いてファーム組織の充実にほとんど力を入れていない現状を考えれば、社会人野球がこれまで日本球界に担ってきた役割というものは極めて大きい。少なくとも、プロ野球が社会人野球によって支えられてきた部分というものは決して少なくない。 一部の球団のオーナーは『カネにならないファームは不要』と言ったことがあるが、トップを目指す人材の受け皿が小さくなればなるほど、将来的にはトップの首を絞めることになる。さらに言えば、これまで日本のファーム組織はカネにならなかったのではなく、球団がカネにする努力をしてこなかっただけなのだ。 アメリカのように、ファームをAAAやAAなどのようにそのまま独立採算のチームにして、フランチャイズ展開していくのも1つの策。 日本には、青森、秋田、仙台、長野、金沢、岡山、松山、熊本など、プロ野球チームを置く体力を持ち得る都市がほぼ未開のまま放置されている。そのような都市にファームチームを“おらが町のチーム”として置き、その土地のスポンサーを募りながら独立採算の道を模索していくというのも悪くはない。Jリーグと同じ発想が、プロ野球にできないとは思えない。 Jリーグと同じ発想ついでに、仙台などのようにJリーグのチームを抱えている都市にプロ野球チームを置くのなら、そのJリーグチームと何らかの形で提携していくのも面白い。プロ野球のチケットとJリーグのチケットを割引価格でセット販売したり、お互いの試合の途中経過を球場で流し合ったりすれば、ファン層の相互拡大に繋がる可能性だってある。 ちなみに、この異なるスポーツ間の提携というものは、サンフレッチェ広島(サッカー)、湧永製薬、イズミ(ハンドボール)、JT(バレーボール)、広島銀行(バスケットボール)の4競技、5チームによる広島トップスポーツネットワーク(トップス広島)という形で実現しているところもある。 資金面の問題などから、「ファームを独立分化して置くことなんてできない」という批判も当然あるだろう。ならば、広い育成の場としての教育リーグという形で、プロ野球と分化した組織を形成するのもいいかもしれない。最低限の給料だけ与えながら、次のステージに向けて野球をするクラブチームのようなものだ。 実は、NOMOベースボールクラブの発展形として密かに期待しているのが、このクラブチーム形式での育成型独立リーグだ。感覚としてはJFLのような形に近い。その中で力を伸ばしていければ、プロ野球からドラフト指名されたり、MLBに移籍する選手も出てくるかもしれない。 もちろん、柳川事件のような問題がこじれないように、NPBやMLBと明文化した協約を設置することも重要だろう。 大事なのは、少しでも多くの経験を積む場があることだ。MLBにどんどんスター選手が流出し、それでも社会人野球の衰退が止まらなかったりファーム組織の改革が進まないようなら、別の形でのステージを用意するしかない。 今回のNOMOベースボールクラブは、そのような新しい波の第一歩になるのではないか。私はそのように期待している。 野茂は昨年3月、当時レンジャースの伊良部秀輝、当時ロイヤルズの鈴木誠と共に、独立リーグのエルマイラ・パイオニアーズを買収しオーナーになっている。日本人選手がMLB入りを目指しやすくするのが主な目的で、3投手の代理人を務める団野村氏は『日本の野球が衰退しているので、規模は小さいが、こうしたことでチャンスを与えられれば……』と話している。 野茂は選手として日米で成功した。そして今、現役でありながら日米双方で選手達を支える存在であろうとしている。日本野球をいい方向に導いていくのは、野茂のようにフロンティアスピリットを持った野球人なのだろう。 日本球界が1つの転換期にきていることは間違いない。そして積極的にその舵を切ろうとする野茂英雄という選手を、私は1人の人間として心から尊敬するのだ。これからもきっとトルネードの革命は続いていく。
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