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なんてことはない、統一契約書にサインをしておきながら結局は来日を拒否しレッドソックスに移籍したケビン・ミラ-と、僅か1ヶ月にも満たない期間でいきなり『モチベーションが上がらない』と言って退団してしまったロバート・ローズのことだ。 二人の経緯については各種報道で散々書かれたことなので、ここでは改めて詳述しない。取り敢えず思うことは、日本球界も徹底的にナメられたものだということ。 前々から散々言われてきたことだが、ここまではっきりとナメられると、MLBは日本球界と交流する気など小指の先程もないということがよくわかる。要するに、MLBは日本を都合のいいマーケットの一部としか思っていないのだ。はっきり言ってしまえば、MLBもMLBに所属している(いた)選手も、日本球界など侵略した植民地程度にしか考えていないのだろう。 ミラーの件については、中日側が統一契約書をセ・リーグに提出した時点で、一つの契約が交わされているのだ。ただ、日本とMLBの取り決め上、マーリンズに在籍していたミラーが中日に移籍するには、一度MLBからのウェーバー公示を経る必要がある。紳士協定上では、この日本球団へ移籍が内定しウェーバー公示された選手にMLB側は手を出さないことがしきたりになっているが、そこにレッドソックスが横槍を入れたことで、息子の日本行きに猛反対する軍人パパとメジャーに未練タラタラのファザコン息子がゴネ始めた。そのことは周知の通り。 中日側は法定闘争も辞さずという構えを見せていたが、MLB選手会がこの問題に介入し、ミラーを自由にしないと日本での開幕戦(3月に東京ドームで行われるアスレチックス×マリナーズ)をボイコットするとブラフをかけたことで、この問題は急速に動き始める。 当初は中日とミラーの間における契約不履行の問題であり、手続きの上では中日側に一切の落ち度はなかったように見える。しかし、何時の間にか問題にどんどん尾鰭背鰭がつき、気がつけばMLBとNPB間の問題になり、ボストンの地元紙等の情報操作も手伝って「本人の意向を尊重せずにミラーを縛る中日球団は悪」という論調に摩り替わっていった。 正規の契約手続きを済ませた中日球団にとってみれば、全くもって信じられないほどに不可解な話に違いない。それでなくてもチームの浮沈を握る4番候補が、キャンプ前になって急に『来たくない』と駄々をこね始め、打線の構想が完全に揺らぐという緊急事態。挙句悪者扱いまでされては、中日球団の立つ瀬はどこにもない。 本来はNPBが総力を挙げてでも中日球団を擁護しなければならない筈なのに、MLB開幕戦の利権に伴い日本側のスポンサーとMLBの利害が一致。MLBとの関係をこじらせたくないNPBの弱腰体質を考えれば、この時点で中日側には後ろ盾がいなくなったということになる。 結局最後はMLB・NPB双方のコミッショナーからミラーとの契約解除が促され、中日球団はそれに屈するしかなかった。正規の手続きを通った契約が、本人とその後ろにある大組織の圧力でなかったことにされる…契約社会のアメリカでこんなことがまかり通ること自体、MLBはNPBという球界を初めから交渉相手とみなしていないことを証明している。 もちろん、その言いなりになるしかないNPB側にも、小さくない問題が横たわっている。しかし、今回の件に関してはそう問題が単純ではなくなってしまった。 前述のように、当初はミラー本人と中日球団の間で起こった、契約のもつれである(一度結んだ契約で、本来はもつれたもクソもないのだが)。しかし、その二者間とは関係ない力が、様々な角度からこの問題に入り込んできた。 ①ミラーを獲得したいレッドソックス ②ミラーのことは本来どうでもいいが、機構にブラフをかけたい為にこの件を利用したMLB選手会 ③ミラーの獲得を後押ししたいボストンの地元紙 ④MLB側(アメリカ)の正当制を主張する以外に能がない米メディア ⑤日本開催で一儲けしたいMLBと日米のスポンサー ⑥MLBと軋轢を生じさせたくないNPB ざっと見ても、これだけの力がミラー-中日問題に介入してきた。 本来は日本球界を揺るがす一大事件であるにも関わらず、各種メディアは松井秀喜の一挙手一投足を追うのに血眼で、中日系列のメディア以外はこの問題を全くと言っていいほど問題として扱っていない。NPBのアイデンティティや存在意義に関わる大問題より、まだキャンプも始まっていない一人の日本人大リーガーの動向の方が大切だというのなら、日本のスポーツジャーナリズムは死に体だと断言してもいい。NPBの事勿れ主義がメディアにまで浸透しているとしたら、尚更のことだ。 もしこれが日米立場逆転していたら、訴訟社会アメリカのこと、大法廷で争うというぐらいに息巻いてもおかしくないだろう。本来は対等であるべき二国間のスポーツ機構に、存在する筈のない上下関係が設定され、両国でそれを当たり前のことと思っているのなら、NPBはMLBと縁を切った方がまだマシかもしれない。 ローズの件も、要は2年間牧場暮らしで野球勘が飛んでいても、日本ならどうにかなると思っていたから来日したのだろう。家族の生活環境の件など色々と言われているが、獲得したロッテもロッテで調査不足だし、来日したローズはローズで日本をナメきっている。 試合にも出ず、キャンプ中に退団したということで、ヒルマン(巨人)やグリーンウェル(阪神)よりもある意味でタチが悪い。 NPBはMLBにとって腰掛け球界寸前というところまできていると思っていたが、もしかしたら実際はそれ以下なのかもしれない。MLBの選手にとって、今や日本球界は契約のダシに過ぎないという見方もある。 昨年、メジャートップクラスの捕手であるイバン・ロドリゲスのFA交渉が暗礁に乗りかけた時、ロドリゲス側から日本行きという選択肢がチラつかされたことが日米双方で話題になった。日本で大きな話題にならなかったのは、日本のメディアにとって日本人大リーガー以外は興味の対象外ということもあるが、所詮はブラフだということをわかっていたからだろう。 結局ロドリゲスはマーリンズと単年契約を結んだものの、これは日本行きという選択肢にマーリンズが慌てて引っ掛かったと見て、恐らく間違いない。 今後、この交渉手法が恒常化する恐れがある。MLBの選手が日本流出をメジャー球団にチラつかせることで、より良い待遇を求めるというものだ。MLBにとっては、MLBこそ世界一だという自負があるのだから、そこより格下で植民地的扱いの日本に選手が本当に流れたら、それこそ沽券に関わる問題。 ミラー本人が最初から最後まで今回のことを計画的に運んだとは思わないが(もしそうなら、世紀の大詐欺師だ)、幸か不幸か、今回の一連のミラー騒動は、MLBの選手にとって極めて美味しい蜜をもたらした。その蜜をもたらしたのは、NPB側の優柔不断さ加減も当然一役買っている。 選手がその蜜の甘さに味をしめたことは、本来はミラーと関係ないMLB選手会が開幕戦ボイコットという筋違いなブラフを持ち出したことでも、かなりはっきりした意思表示を表していると見ていいだろう。 レッドソックスが紳士協定を破ってきたということは、MLBが日本球界を食い潰そうとしてきたということの明確な表明だ。開幕戦の日本輸出を“進出”という言葉で表していたメディアもあったが、今回の件は進出などという生易しいものではない。はっきりとした“侵略”であり“侵攻”である。 明確なルール作りをしてはっきりと50/50の協約を結ぶことも当然急がれるが、松井がマイク・タイソンの試合を見たなんてことが大々的な見出しで報じられてしまう、この偏狭な日本のスポーツジャーナリズムこそどうにかしなければならない。そう思っているのは、きっと私だけではない。 戦争は既に始まっている。かりそめの平和に浮かれていたら、気付かぬうちに侵略されていたどころか、侵略されていることにすら気付かないまま日本球界は食い尽くされるかもしれない。これは、かなり現実的な話である。
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