月の輪通信 日々の想い
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2009年09月08日(火) 道教え

朝、子供たちを送り出して、大慌てで朝の家事を片づける。
2件分のゴミ出しを終えて、工房へ向かう。
本日、梅田の百貨店の展示会の搬入日。
夕方までに、今朝、最後の窯から出た作品を梱包して積み込まなければならない。今回も締切ぎりぎりまで窯場の仕事がずれ込んだ。いつも数日前から始める作品選定や梱包の作業のほとんどは、義兄や義母にお任せ状態だった。
はたして、間に合うんだろうかと焦る気持ちで、洗いたての仕事着に腕を通す。

自宅から工房までの短い距離。
足もとのアスファルトに、つぃーっと跳ねるものがいる。
「道教え」
ハンミョウという名の昆虫だ。人が近づくと、その足もとを先へ先へと道案内するように跳んで逃げるので、俗名がいたのだという。
青緑のまだら模様が美しく、そのままブローチにして閉じ込めてしまいたくなる愛らしさだ。
毎年、夏休み明けの今ごろ、仕事場に向う私の足元にふいと現れる。
2.3歩先へ飛び跳ねては止まり、近づくとまた2,3歩先についーと跳ねる。
その繰り返しが面白くて、ついつい目で追い、青い宝石の行方をたどってしまう。
今朝もまた、律儀な案内人の後をたどって仕事場についた。



早朝、窯から出たばかりの作品に残った、やんわりとしたぬくもりを抱く。
展覧会の度、「まだ足りない」「まだ作れない」と、絞り出すように父さんが焼き上げる数々の作品たち。
結果的にはいつだって、出品予定数の枠内に収まりきれないほどの追加の新作を焼き上げてしまうというのに、それでも父さんは「まだ足りない」ともどかしそうに言う。
この人の中には、まだ形にならない風景、まだ定まってこない形、まだしっかりと混じり合わない色彩がたくさんたくさん渦巻いているのだろう。
「今度こそ」「次はきっと」とどんどん自分を追い詰めていくこの人の呻き声をもう何度聴いたことか。
その声を聴いたからと言って、私には何もできない。
ただ、窯から出てくる魔術のような色彩と暖かな形を、そっと手と目に覚えさせることだけだ。


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