月の輪通信 日々の想い
目次|過去|未来
毎年、一番遅く咲く駅前の八重の桜もそろそろ終わりが近い。 「ほら、おみやげ」 帰宅したアプコが、帰り道に拾ってきた柔らかなピンクの花弁を差し出した。 5年生になっても、相変わらず道路に散り敷いた桜の花弁をそっと拾ってくる習慣はやめられないらしい。アプコがもっと幼い頃には、通学帽いっぱいに拾った花びらをふわふわと宙にばら撒いて、「セルフ花吹雪」を楽しみながら下校してきたこともあった。 格別きれいな一輪だけを選んで持ち帰るようになっただけ、少しお姉さんになったと言うことか。 ゼリーの入っていた丸っこいガラス瓶に水を満たして、はかなく薄い花びらを浮かす。 「わぁ、きれい。」と手をたたいて瞳を輝かせる様は、まだまだ幼い。
夕方、オニイからのメール。 珍しく、画像つきだ。 「こいつら、喰える?」 入寮直後に近所のスーパーで買ったジャガイモ、玉ねぎ。使い余して放っておいたら、春の暖かさにつられて一斉に発芽が始まったものらしい。 がははと笑って、「芽のところを取りのぞけば大丈夫。喰え!」と返信する。
オニイが家を出て、十日。 初めての自炊生活もなんとかうまくやっているようだ。 メールや電話でも相変わらず仏頂面のオニイは、向こうでの生活の有様をあまり多くは語らない。 それでも時折思い出したように帰ってくる短いメールからは、新しい土地、新しい生活にゆっくりと自分の場所を育み始めているオニイの奮闘振りがそれとなく知れる。
がんばれオニイ。 ジャガイモや玉ねぎだって、芽を出し、根を張り、ズンズン成長していくのだ。 君も、やれる。
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