月の輪通信 日々の想い
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朝、アプコとともに坂道を下る。 今日も駆け足。 朝の支度が遅くなって、とうとうアプコの髪を結ってやる時間がなくなってしまった。寝癖のついたおかっぱヘアを通学帽にぎゅうと詰め込んでニッとアプコが笑う。 「ゴム、持ってるから、学校で自分でくくるね。」 それができるんなら、いつももうちょっと早めに起きて自分でやんなさい。 ピンコピンコと向きたい放題にはねたアプコの髪に、きらきら朝の光が絡む。 今日も暑くなりそうだ。
「好きな男の子?いるよ。クラスの子。名前はおしえてあげな〜い。」 何日か前、そっと耳打ちしてくれたアプコ。 4年生になって、幼い丸顔がちょっと面長になり少女らしいはにかんだ表情が時折見られるようになった。 まだまだちっちゃい子と思っていたら、いつの間にかこんなおませなことを言うようになったんだなぁとほほえましく聞いていたのだけれど・・・。
「あのね、席替えがあってね。」 早足でぴょんぴょん跳ねるように歩きながら、アプコが話し始めた。 「好きな男の子がいるって言ってたでしょ?あの子が私のお隣の席になったの」 「ほほう、それはラッキーだったね。」 「でもね、それがね。」 とアプコの表情が曇る。 「その子ね、前からとっても物知りなんだけどね。 授業のときとか、何かっていうと、『こんなことも知らんの?』とか、『あほやな、常識やん。』とかって、知ったかぶりするねん。 なんか、いやんなっちゃった。」 今まで「好き!」と思っていたのに、隣の席になったら途端に嫌気が差してしまったんだという。 「まあね、男って言うのは女の子の前ではええかっこしたがる動物だからね。」と、こみ上げて来る笑いを噛み潰してアプコの話を聞く。
「離れた席の時には『かっこいいなぁ』と思ってたのに、なんで隣の席になったら急に嫌いになっちゃったんだろ。」 とまじめな顔でいうので、 「テレビの中のイケメンの素敵な男の人だって、もしかしたら身近にいて毎日一緒に暮らしてみたら実はイヤーな奴だったりすることもあるのかもね。 ま、いい男を選ぶ目をしっかり養いなさいってことだね」 と茶化してみる。 「そっか、そだよね。」 と大真面目に頷いているのが可笑しい。
Nさんのトウモロコシ畑のそばまできたら母の送迎サービスはおしまい。 登校班の集合場所までさらに下っていくアプコを見送る。 「ま、いい勉強になったと思って、新しい恋を探しなよ」と駆けて行くアプコの背中に声をかけたら、アプコがくるりと振り返って笑う。 「もう、他にかっこいい子、見つけた!」
・・・この変わり身の早さがアプコのアプコたる所以。 だからぁ、 男は見た目で選んじゃダメなんだってば!
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