月の輪通信 日々の想い
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2004年04月11日(日) 超えていく

昼間はとても暖かくて、子供達はトレーナーを脱ぎ捨てて半袖Tシャツで過ごす。
この春買ったアユコのTシャツは初めて大人サイズのぴったりタイプ。
お子様Tシャツと違って短めの袖と少し絞ったウエストのおしゃれなデザイン。スリムなアユコには細めのジーンズとシャツのスタイルがよく似合う。
冬の厚着の季節から少しづつ着け始めて慣れてきたジュニア用のブラのラインが、白いTシャツの肩にまぶしく透ける。
青いつぼみのような少女の今だけの美しさ。
「かっこいいなぁ、アユコ。そういう格好が一番よく似合うねぇ。お母さんはそんなスリムなTシャツやジーンズ、着たことなかったなぁ。」
幼い頃からイレギュラーサイズで、市販のパンツをお直しなしで着こなした経験の無い母にとって、アユコの小枝のような若々しいスリムな体型はうらやましい限り。

自分では着られなかったスタイルの服を娘のために買う。
なんだか自分のことみたいに嬉しかったりするよなぁ。
そういえば幼い頃の自分には出来なかったこと、かなえられなかった夢を子供達が経験していくという事は親にとってちょっと嬉しいことかもしれない。
たとえば、息子が鉄棒で超ウルトラCを軽々と決めたりしちゃったら気持ちいいだろうなぁ。
たとえば、娘がなみいる求婚者を振り切って、相思相愛の玉の輿に乗っちゃったりしたら、どんなにスカッとすることだろう。
そんなあほらしい親ばかな夢を、自分のことのように妄想させてくれるから、未来ある子供達の存在はありがたい。

子供が成長して、いつしか親を超えていく。
嬉しくもあり、少し寂しくもあるその日がいつか来る。
親の知らない土地へ一人で旅立っていこうとする子を私は笑顔で見送ってやることが出来るだろうか。
イラクで人質になっている方の中に高校を卒業したばかりの青年が居た。
18歳にしてすでにフリーのライターとして社会問題に関心を持ち、危険な戦地に単身渡航していく正義感あふれる活動家。
仮にこんな優秀な好青年が我が息子であった時、私はその親に似合わぬ立派な成長振りを誇りに思うだろう。
けれども、見知らぬ異国の人のために命の危険を侵してまで戦地に赴こうとする息子を「がんばって行ってらっしゃい」と送り出すことはできないだろうなぁ。
息子の無謀を攻め、泣き落とし、「何もあんたが行かなくても・・・」と支離滅裂な論理で息子の正義感の芽を摘み取ってしまうことだろう。

その意味で、人質になった方々の家族のTVで見る記者会見の様子には複雑な想いがある。
悲壮なる決意で送り出した自慢の息子、自慢の娘だったのだろうか。
親の制止も聞かず、本人の強い意志で飛び立っていった子供達だったのだろうか。
「力を貸してください、お願いです、助けてください。」
母の涙は悲壮だ。
しかし、自分の、そして息子の決断が招いた当然の結果に取り乱すぐらいなら、私だったら子供達の夢を事前に摘み取っていただろう。
自分の出来なかったことを子供達が果たしてくる喜び。
その影には、自分では負いきれなかった苦難や責任を、子供とともに再び背負うという覚悟が母親にも必要なのかもしれない。


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