小説集
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2007年07月06日(金) : タイトルなし
 

医療班も去って、昼も過ぎただろう
ベットに横になっている男の目はまだ赤く濡れていた。
ユリウスは上着を脱ぎ捨てネクタイをはずす。
「まだ辛いか?」
普段の敬語は消えうせている。こういう時はユリウスが…いや、ベットに寝そべる男アルフレッド・ミラーが言ったのだ。「抱かれる時に敬語はなしだ」と。
主人の命令は絶対だ。
「…くそ、十分輸血していかなかった」
「動けないのを抱くのもまた一興」
余裕に笑って上掛けをまくる。
少し痩せ気味の体の腰の下に手を入れ、息苦しそうに少し開いた唇に唇を重ねた。
「んっ」
アルフレッドがもがいても口を離さない。
目じりに涙が溜まって、ようやくユリウスは口を離した。
「キスだけで…」
むっとしたアルフレッドが視線をそらす。
「そうしたのはどっちだよ」
起き上がろうとしたがめまいがして起き上がれなかった。
「暴走しないように輸血は最小限しかしていませんからね。
 辛いときは言ってください いつでもやめますから」

いつからこの男を受け入れるようになったのだろうか?
ふとアルフレッドは そんな疑問を抱いた。
そうせざるを得なかった行為が いつの間に歓迎するようになった?
いつの間に待つようになった?
戦闘後のこの時を…
自分に子供は作れない。
人間のなりはしているがいらないものは精密に作られてはいない。
人体模型に子供を作る能力なんていらないもの
それが自分にもそうであることは知っている。
なのに尽くす男 ユリウス・ミングレイ

わからない

ユリウスの巧みな技と声でアルフレッドは意識を飛ばしかけていた
もう、何がなんだかわからない
口から出るのは喘ぎだけで、言葉を伝えられない。
ユリウスもアルフレッドがそろそろいきかけていることに気づき、更なる高みに導こうとしていた。
が、その体が動きを止める。
リビングのドアが開いたのだ。部屋として区切るためのロールカーテンは下りてはいない。
この部屋の鍵を持っているのはアルフレッドのいとこのフランク・ミラー、同じ部隊にいたデイヴィッド・ボーマン、アルフレッドの父親ハインツ・ミラー、それに自分と…
「ごちょ〜 遊びに…」「伍長さぁ〜ん 並んで有名なケー……」
2人の声が重なり、同時に消えていく。
そう、奇妙な生き物のヒトダマとヒトダマを頭に乗せた緑髪の少女が鍵の保持者だった。
アルフレッドに自分のものを入れたまま、ゆっくりと振り向き、にっこりと笑って人差し指を立てる。
目の前の状態に凍りついた2人が顔を真っ赤にしてそろそろとリビングのドアを閉める。
普段ならもっと遊ぶのだが、あの2人をどうにかしないといけないので一気に入れ出しを激しくする。すると、アルフレッドは悲鳴のような声を出し高みに上りつめる。

「なななななNATさん、私たちとんでもないところに来ちゃったんじゃないですかぁ?」
「だだだだだだだから鍵で開けるのやめようって言ったのに〜〜!!」
二人とも、目の前で繰り広げられていた光景に違う意味で驚いていた。
アルフレッドは本人認定済みのバイ・セクシャルであり、どちらかというと男の方を好むと言うことは知っていたが、抱かれいていて それがアルフレッドを守るための影であるユリウスさん に だったのである。
「こういうのなんて言うんだっけ なんちゃって年下攻めのげこくじょう(漢字変換できず)?」
あああまたNATさんに要らない知識がついてしまいますぅとヒトダマが嘆く。
「でもぉ、このケーキ買うのに3時間もならんだんですよぉ。伍長さんは待つの嫌いだから絶対食べられないケーキ どうしましょう。」
甘いもの大好きの伍長のために、お一人様5個まで(伍長3個のつもりで)を買ってきたのである。
と、リビングの扉が開いた。
ユリウスは腰にタオルを巻いて、シーツにくるんだアルフレッドを抱えていた。
「換気もしたし、中に入ってもういいですよ。」
とりあえず、は〜いと返事をしてリビングのソファーに沈む。
ほどなくして、シャワーを浴びてきたユリウスがアルフレッドをタオルに包んで戻ってきた。
そのままアルフレッドを寝かすと、自分の脱ぎ捨てたスーツを着る。
「紅茶とコーヒー、どちらにします?」
さらりと言う。
「「紅茶…じゃなくて!」ですぅ」
二人の声が重なり合う。
「では紅茶をいれましたら教えてあげますよ」

「じゃ、しないと伍長が危なくなるってこと?」
紅茶を飲みながらNATが聞き返す。
「ええ、もっと荒っぽい方法もあるのですが アルフレッド様の歳を考えますと一番いい方法なんですよ。」
「そこまでして なんで人間にこだわるのでしょうかぁ」
ヒトダマがケーキをつつきながら質問とも自問ともつかない声を出す。
「人間でいたいからですよ。彼は」
そう、「人間」でありたいから
短命種でも長命種でもない 命を持つものではない偶然の産物−Al6-redのコードを持った彼は「いきること」にこだわり続ける。
ただ、「ひと」でありたいがために
単純に「生きる」ために
それが終わるとき、自分は彼の命令に従うだろう。
それが規律に反することであっても…
「ひと」でありたいがために憎むべき存在になって戦う彼ーアルフレッド・ミラーは「ひと」であり続ける




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