小説集
Past : Index : Will




2004年09月04日(土) :
 

 VHSOFsの特別棟―吸血鬼等の化け物について研究する施設がある所だ。VHSOFsの人間であっても各隊の隊長・副隊長以外は入る事ができないし、入るに当たって幾重ものセキュリティを通らなくてはならない。しかも研究棟へ入る道はただ一つ、センターと結ばれた地下の長い渡り廊下だけで、研究棟自体も地下にある。捕獲された化物達は、更に独自のセキュリティで守られた独房に入れられる。デイブが入れられているのは、その中でも凶悪な化物を入れる為の牢だ。牢の入口に立つ二人の警備兵に確認を取り 看守長に、ミハエルはIDカードを渡す。
 「悪いなミハ。あんただってわかってても仕事だからな」
 これで5回目の身体検査をうける。難無く通ったミハエルに、カードを受け取った男は呟いた。
 「…今日は全員俺の部下だ。ビデオは編集したヤツに切り替えた」
一番奥、厳重な扉を開けてもらい中へと入る。本来なら警備兵は面会者と共に入らなければならないのだが、一つ目の扉で待機する。
 椅子へと座るとデイブと向き合った。目をそむけたくなる様な光景が、そこにはあった。ガラス張りの不自然に広い部屋、プライバシーという言葉はそこにはない。明かりが煌々とついて、他の独房の様に、闇に紛れて生活する事も出来ない。まるで動物園の人間版のようだ。上半身が起こせるタイプのベットから垂れる4本の鎖は部屋の左端に集められ、コンクリートの床に埋め込まれ、デイブとミハエルの間を仕切るガラスまで届く長さはないが 多少の余裕はあった。頭には、吸血鬼の能力が使えない様、能力を使うと 直接毒が脳に投与されるようにセットされた沢山の管、口にはデイブの食事である血液が流れるチューブがとめられている。
 そして、至る所にある包帯とテープでとめられた脱脂綿。能力が使えない為に傷はすぐに再構築しない。
 この隠れた傷は、自分がここに来る前、牢の管理者に渡されるまでの間につけられたものだろう。
けだるそうに紅い眼がミハエルの動きを追う。能力を使えないが、血を飲まされているデイブは今、吸血鬼だった。あどけない顔つきで じっとミハエルをみている。だが、デイブは甘え方をしらない。人に甘える変わりに、自分の殻に閉じこもってしまう。アルフレットと一緒にいた時は多少良くなったのだが、一人になるとまた元に戻ってしまった。
 あどけない表情はすぐに消え、いつもの無表情な顔に戻ってしまったデイブはミハエルから目を外した。
 「…デイブ、これからは飛び出すな」
 無反応
 「デイブにだけ負担をかけたくないんだ。誰も……限界 なんだ」
 「…血を飲め と?」
 「違う!そうじゃない デイブが能力を使わずに闘う方法が…」
 苦痛に顔を歪めながらデイブは体を起こし、ベットの縁に座る。上掛けに隠れて見えなかった下半身にも 多くの傷を隠した包帯と脱脂綿があった。手足につけられた鎖が音をたてる。
 「わかってる。俺がこれ以上、FORTH 10に負担をかければ周りがまいっちまう。  
  PSG-1が欲しい ありゃぁ連射が出来るし長い分役にたつ」
 ミハエルはデイブの眼を見た。表情のない獣の眼を見つめると、心の中を覗かれた様な感じがするのだが、だからこそミハエルはデイブに向き直ったのだ。
 「ああ、手配する」
 デイブが目をそらした。
 「…その方が俺も楽だ」
 気まずい空気が流れる。
 どちらとも視線を外したまま、無言の時が流れる。先に口を開いたのはミハエルだった。
 「悪い…」
 デイブが顔を上げた。
 「いや、自分で自分を止められないだけだ」
 ――右手を口に持って行き、牙でブツリと皮膚を裂く。ギリギリと指を噛み、顔をしかめた。口から指を放しても傷は再構築せず、血を流す。だが、まったく再構築しない訳ではなく、能力が使われているとわからない程度のスピードで、ゆっくりと再生していくのだ。
 ――そうやって自分を傷付けてまで 自分‐カンジョウ‐を殺してまで人間‐メイレイ‐に従う…
 「あんたが気にする事じゃないさ」
 身体がボロボロになっても 人間から血を吸わず、そのせいで ますます苦しみを大きくする…
 しかし、自分達にはデイブをボロボロにする方法でしか止め方を知らない…
 誰か、本当にデイブの心を開いてくれる者があらわらないかぎり、デイブはこのまま 人間という化け物に喰いつくされてしまうだろう。
 デイブをこの独房へ戻すことのない者……そんな人間がいるのだろうか…
 どうしてデイブをとめられないのか

 「―――デイブ
   俺達のエゴを許してくれ―――」


Fin.
















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Photo : Festina lente
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