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- 2002年04月11日(木) 忘れられない昔の事です
その日は小雨が降っていた
保育所から送り迎えされ、家についたわたしは
呼び鈴を何度も押した
焦った。誰もいないかと思った。
「まあ、まあ、こんなに濡れて。服を着替えなきゃだめよ。」
めったに会えない曾祖母がいきなり顔を出したので
私は嬉しいのとびっくりしたのと気持ちがごっちゃになった。
びっくりしたって気持ちのほうが数倍大きかったが。
「大丈夫だもん。濡れとらんよ。」
3歳の私はつっけんどんに答えた。
「だめよ。風邪をひくと大変だから。」
ちょっと反発しながらも私はタンスから新しいトレーナーを引っ張り出した。
水色のロゴいりのお気に入りのトレーナをすっぽり脱ぎ、新しいのと交換した。
鍵っ子の私の胸はこそばゆさでくすぐったかった
嬉しかった
おばあちゃんは横浜から来てくれた。
こんなこと3年に1度くらいしかない。
そのときの私はまだ知らなかった
十何年後かに、もう凛とした彼女の姿を見ることができない事を
この家の、この空間で過ごす空気を
彼女が横浜の家からこっちに戻ってきたのは一人暮らしが危険だと言う事だった。
火の元や、ガスの始末、食事など、そういうさまざまな生活が
皆の目から見て。。。そういう事になったのだ。
ここに来る前も親戚などあちこちたらい廻しにされてきたと祖母に聞いた。
少し痴呆の入った曾祖母のめんどうを見るのにはかなりの神経が必要とされるだろう。夜中に布団に尿を流してしまうらしい。
大変だから。
私は勝手に解釈した。
それから悲しかった
「しずくちゃんこんなに大きくなって。」
涙ぐむおばあちゃんの顔と照れながら向かい合った
私は中学1年生になっていた
私の心の中は複雑だった。
嬉しいけど、曾祖母はどう思っているのだろう
祖母は?祖父は?
どんな気持ちで彼女を迎え入れ
彼女はそこに住むのだろうか
あの時とは違う、色んな気持ちがざわめいた。
想像していた通り、なんだか曾祖母は家にいづらそうだった。
肩身が狭い思いをしているのが一目でわかった。
何度も同じ昔話を繰り返し私や母に聞かせた。
私はそれを黙って何度も聞いた。
ずっとずっと聞いていた。
曾祖母は、きっと何かの役に立ちたかったんだと思う。
自ら食器を洗った。家族全員の。
祖母は完璧主義だったから曾祖母が洗った食器をまた洗剤をこれでもかと言う風に
こすり付けて洗いなおし、水でじゃんじゃん流した。
「お母さんが洗うと、汚れが落ちないからやらなくていいのよ。」
怒ってそう告げていた。
寂しそうな彼女の姿がくっきりと私の目に焼きついた。
実の母親なのに・・・
そう思った
「洗濯物はこのたたみ方でいいのかしら?」
何か役に立てないかと、迷惑をできるだけかけないようにと
気を使いながらいつも祖母に聞く彼女。
「どうでもいいのよ。家は決まりなんて無いんだから。」
祖母の答えが冷たく聞こえた。
「何度教えたら、電子レンジの使い方が分かるんだい?お母さん。」
祖父もなんだか冷たく見えた。
昔は電子レンジじゃなかったもんね。
釜でご飯を炊いたんでしょう?
躁鬱病で私はほとんど学校にいけず
そこの家の1階のソファアでぐったりといつも横になっていた。
頭はがんがんするし、気持ちは不安定だし。
2階の真中の部屋にいる、彼女の存在が気になって
しょっちゅうドアを空け様子をうかがいにいった。
寂しくないのかな?
悲しくないのかな?
不安じゃないのかな?
ドアを空けると、年寄り特有のつんと鼻を突く匂いがする。
そんな気持ちになっちゃいけない。
いろんな事を考えながら部屋に入っていった。
こんな田舎だもん。新らしい友達は作るの難しいよ。
変にグループつくって寄せ付けないんだもん。
冷蔵庫からゼリーを取り出す彼女。
「しずくちゃん、これ食べない?」
ほんとは甘いもん好きじゃないんだけど
うん、って言ってすばやく食べた
何だか寂しい味がした。
「おばあちゃん、オセロやらない?」
「おばあちゃん、ケーキ作ってきたよ。食べない?」
「おばあちゃん、誕生日プレゼント買ってきたよ」
痴呆のおばあちゃんだからやっぱり私が話した事も何度言っても忘れる。
だけど、何度でも話してあげられる。
彼女は昔の人だから、私より弟の方が可愛かったようだ。
お小遣いの量も違ったし。
弟の方に、少しだけ優しかった気がした。
弟は彼女に気をかけてないのにってちょっといじけたりもした。
「おばあちゃん、手にクリーム塗ってあげるよ。手だして。」
「あら、どうもありがとう、しずくちゃん。どうせおばあちゃん(祖母)
にいわれてやってるんでしょ?」
嬉しそうだったけど悲しそうだった。
寂しそうだった。
そんなつもりはないのに。
「私がかってにやってるんだよ。」
そう言いたかったけど、かえっていい訳に聞こえる様で
私は黙って彼女の手にハンドクリームを塗りつけた。
ちいさい、しわしわの手だった。
そんなたわいのない日々が1年ほど続いた。
わたしは祖母の家を行ったり来たりしているので(本当の家はちゃんとあるから)
この日は自宅でだるい体を横たえてテレビを見ていた。
電話が鳴った。中2になってた私
「おばあちゃんが亡くなったよ。」
一瞬頭が真っ白になった。
言ってることの意味がすぐには理解できなかった。
葬儀に出る前の彼女を、祖母と一緒に支度した。
頭に白い三角のがついていた。
葬儀やさんが言った。
「じゃあ、そっちを持って。」
布団を移動させた。
軽かった・・・・
人の体はもっと重たいものだって思ってたのに。
「おばあちゃん、
色々支度があるからおじいちゃん来るまでここで待っててあげて」
怖かった。
何が起きているのか状況が理解できないまま
私はその部屋にあった漫画の本を集中できないまま気を紛らすために読んだ。
部屋の角で固まって読んだ。
誰が悪いわけでもない。
みんな自分のことで精一杯だ。
そんなことは分かっていたけど
彼女は本当に幸せだったんだろうか。
何度も自問自答した。
彼女を避けていた事があった自分を恨んだ。
もっと他に、もっとたくさんしてあげられる事があったんじゃないかって。
「いい顔してるよ」
彼女を見て、祖父はそう言った。
とあるひとに訪ねた。
「おばあちゃんは本当に幸せだったのかなって思うんです。」
「幸せだったよきっと気持ちは伝わってるよ。」
その人はおばあちゃんと同じくらいの歳に見えた。
おばあちゃん、天国で元気にしてますか?