お茶の間 de 映画
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2004年12月11日(土) 「25時」明日から7年の刑期で投獄される男の最後の自由な一日。俳優陣の演技が冴え渡る。現代の哀しきスタンド・バイ・ミーのようで。

『25時』【25TH HOUR】2002年・米
監督:スパイク・リー
原作:デイヴィッド・ベニオフ『25時』
脚本:デイヴィッド・ベニオフ
撮影:ロドリゴ・プリエト
編集:バリー・アレクサンダー・ブラウン
音楽:テレンス・ブランチャード 
 
俳優:エドワード・ノートン(元麻薬ディーラー、モンティ)
フィリップ・シーモア・ホフマン(モンティの幼なじみ、高校教師、ジェイコブ)
バリー・ペッパー(モンティの幼なじみ、証券ブローカー、フランク)
ロザリオ・ドーソン(モンティの恋人、ナチュレル)
アンナ・パキン(ジェイコブの生徒、ダヌンツィオ)
ブライアン・コックス(モンティの父親)
トニー・シラグサ(ロシア人麻薬ディーラー、コースチャ)

ストーリー用ライン


9.11の傷跡も生々しいニューヨーク。
夜の闇に、瀕死の犬のうめき声。
麻薬ディーラーのモンゴメリ、通称モンティは、相棒のコースチャがやめておけと制止するのもきかず、暴れる犬を抱きかかえ獣医に運んだ・・・。
後に犬は全快し、ドイルと名付けられモンティの忠犬となった。


ハドソン川のほとりの遊歩道。
ドイルと朝の散歩中のモンティが川面をみつめ佇んでいる。
ジャンキーが粉を乞いに近づくが、追い払う。

モンティは先日、何者かに密告され、DEA(麻薬捜査局)に
逮捕された。
明日の朝、出頭せねばならない。刑期は7年。
最後の自由な一日。

母校の高校にふらりと立ち寄る。
授業中の高校教師、ジェイコブを呼び出し、今夜の送別会に
来てくれと告げる。胸が締め付けられる思いのジェイコブ。
冴えない中年のジェイコブに、成績評価狙いで色目を使う女子高生がいる。奇妙な胸騒ぎを隠せないジェイコブ・・・。

ジェイコブは幼なじみのフランクにも電話で伝える。
フランクは、上司にも高慢に楯突くが、凄腕の証券ブローカーだ。
自分を何より愛し信じているフランクは、モンティは自業自得だと
冷たい口ぶりだ・・・。

散歩を終え、自宅に戻るモンティを待っていたのは恋人のナチュレル。2人の最後の日だというのに妙に冷たいモンティにナチュレルは困惑し悲しむ。

実は、モンティはナチュレルが密告したのだと吹き込まれており、
彼女の目をまともに見られないのだ。

彼女を避け、父親の元に向かうモンティ。
老いた父にも、息子との最後の夕飯だった・・・・・。

モンティが何より恐れるのは、整った顔立ちの自分が刑務所で
輪姦され続けること。気が狂いそうだ。

夜も更け、この地域の麻薬売買を牛耳るマフィアが経営するパーティ会場に向かうモンティ。

パーティには、心から信頼している幼なじみの2人しか呼んでいない。ジェイコブとフランクだけだ。

モンティは、ジェイコブには愛犬ドイルを託し、フランクにあることを頼む。親友にしか頼めない、と。

モンティは、服役するのか、逃亡するのか、自殺するのか・・・。

夜は更け、朝日が昇る・・・・。


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コメント用ライン



さすがはスパイク・リー監督。感服。
黒人差別問題から離れても、やっぱりいい作品つくるな。

人種じゃないけど、一種の差別はやっぱり描かれてる。
収入。職業。(麻薬は犯罪です、それはキッパリと断罪しており、そこに同情は微塵も入ってこない)

同情は、こんなことになるまで人生の軌道修正をしようとしなかった、男の愚かさに。そしてその男をそう育ててしまった哀しい父に。
そして、人間は、失ってみなければ当たり前の日々の大切さに
気づけない生き物だということ。

当たり前の日々をこれからも失わないであろう高校教師と株式ブローカーも、失う前にまず、「得ていない」こと。
形は違えど、2人とも、失うことが怖すぎて人を愛さない。
ユダヤ人の高校教師は守りの姿勢に身を縮め、WASP(White Anglo Saxon Protestant)の株式ブローカーは自分を守るために牙をむいて攻めの姿勢で生きている。

これからの7年間だけでなく、出所後も・・・刺されたりエイズ感染などせずに運良く生き抜ければのハナシだが・・・空っぽの長い人生を送るかもしれない恐怖と不安に壊れる寸前の麻薬ディーラー
を主人公に描きながら、この映画が観客を惹きつけるのは、
彼を取り巻く周囲の人々の心の動きだ。

そして、9.11で「タフで負けないNo1、アメリカ」の自信を
ひどく傷つけられ、怒りと恐怖と先の見えない不安を抱えて生きるアメリカ人、中でも毎日、グラウンド・ゼロを目の当たりにしているニューヨーカーの言い尽くせない喪失感を痛ましく映像で表現している・・・。

3人の友情にはほんとは物語のはじめからヒビが入ってる。
モンティにだって本音の部分ではわかってる。
でも、最後のすがりたい誰かは、幼なじみだった。

同じ釜のメシを食ってる仕事の同僚のほうが気心が知れてる、
という場合もあるだろうが(父親のように、消防士のような
命が連帯しているような職ならば特に)、
モンティは、そのシゴトのせいで人生を失ったのだ。

消防士というシゴトのせいで人生を失った尊い喪失とは比べものにならない。繰り返し出てくる消防士の話題が、それを示唆している。

互いの職業がそれぞれにムシのすかない(モンティは2人の職業では友人の価値を判断していない、むしろ敬意を払っている。自分には到底無理な眩しい世界だから・・・だがそこに卑屈さも見え隠れし・・・)独身3人男が、それぞれ友を観ることで素っ裸の
自分を向き合わねばならなくなる辛い一夜。

恋人のナチュレルはあまりにも重い物語に花を添える小道具の1つ。美しい花ほど悲しみも深い。
やはりこれは男の物語だ。

★ベテラン性格俳優フィリップ・シーモア・ホフマンの演技には
相変わらず舌を巻くが、ちょぉぉぉぉっと、バリー・ペッパー&エドワード・ノートンの“幼なじみ”は視覚的に無理が(苦笑)
1人だけ中年のかおりが漂ってましたが(汗

やっぱり、何もできないジェイコブ。ユダヤ人は金持ちだと思われたくなくて必要以上に慎ましく暮らす小心者で他人の目を気にして
したいことができない(※しちゃイケナイこともありますがね)ジェイコブ。

人一倍、気が弱いけれど、人一倍、穏やかで優しい。
ジェイコブは、愛犬を託される。
犬は裏切らない。決して裏切らないと存在の象徴だ。

★出演作ごとに男前が上がってきている(たまに下がるんだが)バリー・ペッパー。なんか好きでほとんど出演作観てるもんで。
綺麗なブロンドに垂れ眉にヘの字のおちょぼ口が強烈なバリー君。
への字口が、不平垂れまくりの今回の役にはピッタシ!!
今回、初めて、「あ、かっこいい」と思いました。いや、違うな、
「演技できるんじゃん!!」と思った、だ。
あの顔立ちのおかげで、黙ってても雰囲気出ちゃいますんで、
その雰囲気を超える何かが今までなかった。

バリー・ペッパー演じるフランクは、その攻撃性をモンティに愛されている。
きっと、こうなる前に、もっと責めてほしかっただろう。モンティは。それにフランクが気づくシーンが胸を揺さぶる。
幼なじみを失いたくないから、表面的に穏やかな旧交を大切にし、トラブルを回避した結果が、コレだ。
後悔しても後悔しても、もう遅い、自分への怒り。
それを、モンティはちゃんとわかってやっていた。

素人に数分殴られたって、半月もすりゃ治っちまう。
本来の目的の役には立たんさ。
そんなの、互いにわかってる。
フランクは、泣きながら殴った。公園で、やんちゃ坊主だった
幼い日のケンカとは違って、自分の拳のほうが痛かっただろう。

オカマ掘られるのが何より怖いんじゃない。
そんなことになってしまった自分の、美しい皮の下の醜さに釣り合う顔にしてほしかったのだと思う。

友の手を借りて、心の痛みを顔の痛みにすりかえて。
フランクもそれをわかってる、だから泣いてる。

★エドワード・ノートン。
今更何も、付け足すことは、という感じですな。黙って演技できる中堅俳優は少ないですから。
主役でありながら、映画が掘り起こしたいのは彼よりも周囲の人生であることを、理解し実践できている。
これは難しいことだと思うのだ。
学はあったのに、様々な要因でドロップアウトしてしまった男の、
強がりと孤独。
友に見せる顔、恋人に見せる顔、父に見せる顔、1人きりのときの顔。
「自業自得でムショ行きになったバカなヤツ」という紋切り型の
不良青年には見せない。
そこがコケたら、この映画もうダメだもの。配役の勝利。

「デス・トゥ・スムーチー」を唐突に思い出してしまった。
ピンクのカバのぬいぐるみ着てるの、エドワードですよ・・・・・。

コーエン兄弟の「赤ちゃん泥棒」のラストシーンを連想された方も多いだろうか。
あちらはハッピーエンド。

ああ、親だなぁ、とその一言に尽きるラストのくだり。
人生にもしもはやっぱりなくて。

もしも、飛行機があの朝つっこまなければ。それと同じで。
起こってしまったことに逃げ場はなくて。

あまりにも愛が深すぎて、応えられないゆえに痛みも倍増する。
でも、救いのない結末に子守歌のように流れる、ブライアン・コックスの淡々とした無償の愛に満ちた言葉に胸がなだめられる。
観客も、そして、きっとモンティも。

25時。24時間が過ぎて、そして、あるはずのない25時を
夢見る父。その父を、父の夢ごと抱いて、モンティは父と別れた。


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