2004年08月24日(火) |
「閉ざされた森」 どんでんがえし好きな方にオススメw 羅生門チックな演出、セリフに頼りすぎではあるが破綻のない伏線がよい。 |
閉ざされた森【BASIC(本能/根本的な)】2003年・米 監督:ジョン・マクティアナン 脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト 撮影:スティーヴ・メイソン 編集:ジョージ・フォルシー・Jr 音楽:クラウス・バデルト 俳優:ジョン・トラヴォルタ(元レンジャー、麻薬捜査官、ハーディ) コニー・ニールセン(オズボーン大尉) サミュエル・L・ジャクソン(鬼軍曹、ネイサン・ウエスト) ティム・デイリー(ハーディの旧友、オズボーンの上官、スタイルズ大佐) ハリー・コニック・Jr(病院長、ヴィルマー)
★6名のレンジャー隊員はネタバレになる可能性があるので役名は伏せる
ジョヴァンニ・リビシ ブライアン・ヴァン・ホルト テイ・ディグス クリスチャン・デ・ラ・フエンテ ダッシュ・ミホク ロゼリン・サンチェス
パナマ米軍基地。 ハリケーンが近づく豪雨の中、鬼軍曹ネイサン・ウエスト以下 レンジャー部隊7名が、悪天候を想定した地獄の特訓に突入。
奥深い森・・・。定期連絡が途絶え、捜索隊が17時間後にやっと上空から3名の姿を発見する。 1人が重傷者を背負い、追ってきた仲間を撃ち合い、射殺。 救出できたのは2人だけだった。 いったい何があったというのか・・・。 ハリケーンに包まれた密林は、捜索隊の足を拒み、数時間以内に 物証を押さえられる見込みは薄い。
重傷のケンドールは病院へ運ばれ、からくも一命を取り留める。 彼は高官の息子で、この事件を担当するスタイルズ大佐は肝を冷やしている。事件の真相を究明せねば、自分の首があやうい。
さて、ケンドールを救出したレイ・ダンバーという男、貝のように 押し黙り黙秘を続けている。 本件の担当はオズボーン大尉だが、その美しい容姿にそぐわず荒っぽく怒鳴りつけるばかりで進展の見込みがない。 ダンバーは、紙の端に「8」と走り書きをするが意味不明。
本国送還まであと数時間しかない。 なんとしても、ここパナマ基地で真実を聞き出さねば。
焦ったスタイルズは、旧友のハーディを呼び出す。 ハーディは元レンジャー隊員ではあるが、現在は麻薬捜査官、 しかも収賄の疑惑がかかっており、自宅謹慎中という身。 部外者を関わらせ軍の機密を漏洩するなど言語道断。 オズボーンは激怒するが、ハーディは取り調べの達人であり、 今まで口を割らなかった容疑者はいないのだ。
最後の砦、頼みの綱のハーディ。 旧友のたっての頼みとあってはむげに断るわけにもゆかず、 カーニバルに沸く街の喧騒を背に、陰鬱な雨の中、基地の門をくぐるのだった・・・・。
CIAかFBIがらみかい?と陽気にやってきたハーディに、 スタイルズは実はもっとやっかいなある組織がこの基地内には・・・・・と耳打ちする。
どれほど強面の男が登場するのかと苦虫をかみつぶしたような顔でハーディと対面した、ダンバー取り調べの任を解かれ怒り心頭のオズボーンは拍子抜けする。
精悍なマッチョだが、にこやかで人なつこい笑顔、軍人の目から見たら苛立たしいまでのくだけた口調に振る舞い・・・。
さて、あと6時間しかない。 さすがの話術で、とりあえずダンバーの口を開かせることに成功するハーディ。
他の者は皆、死んだのだという。
鬼軍曹ネイサンの常軌を逸したしごきが事件の背景にあるらしいことはわかってきた。 だがハーディ自身も、過去にネイサンの指導を受けており、今ひとつ合点がゆかないようだ。
ダンバーは、ネイサン殺しは自分ではないと言い張る。
一命を取り留めたケンドールを病室に訪ね話をきくが、ダンバーの供述と全く一致しないのだ。
ダンバー本国送還の時間が迫る。
時間との闘いの中で、それでも着実に糸をほどくように真相に近づいてゆくハーディとオズボーン。
やがて、再び浮かび上がる「8」の文字。 浮かび上がる麻薬ルート。
事件の真相は何処に。
誰が真実を語っているのか不明なまま闇の中の真相を探るクロサワの「羅生門」はすでにバイブル的存在なのだろう。
入れ子式に開けても開けても次の本当のような嘘のような話が飛びだしてくるあたりはイーモウ監督の大作『HERO』にも通じる 部分がある。
激しい雨と夜の闇がうみだす閉塞感と不気味さ、根底からひっくり返されるタイプのどんでんがえしは、『“アイデンティティー”』 と似た楽しさがある。丁寧な伏線に裏付けられたサスペンス、スリラーとしては『“アイデンティティー”』のほうがはるかに上の出来映えだが・・・。『シックス・センス』も伏線が巧かった。
それでも、『ゲーム』や『ファム・ファタール』のように、さんざんハラハラさせておいて、一切の伏線なしに“実ははじめっからこうなんだよ〜ん”とか“なんちゃってね、夢デシタ”というナメた展開ではない。
ただ、伏線の98%がセリフにあり、映像でミスリードを強引に誘う手法なので、キモチよく騙されたと思う方よりも、ふざけるな!と暴れる方のほうが多いのではないだろうか。
私はどうだったかといえば、ある程度の数のこの手の謎解きを鑑賞してきて、伏線を読む力が多少鍛えられてしまっているので、予想がピッタシカンカン当たってしまい、やっぱり・・・・と苦笑。 この感覚、実は『ユージュアル・サスペクツ』で味わったものと 似ている。 あれも「取り調べ」が物語の語り部になっていた。
原題のBasicは、セリフに繰り返し繰り返し登場する、 「殺人は人間の本能さ(マーダーイズベイシック)」からとったものだろう。 “根本的に”根っこっからダマしているあたり、まさにこのタイトルはお見事。邦題も悪くないように思う。
今回、日本語の字幕もかなり巧かったように思うが、耳で原語を 聞いていると、より、意味深長なセリフが耳につく。
映画の演出として、見事だったのは、オズボーンの描き方。 最後の最後まで、観客と同じ目線なのはオズボーンのみである。 彼女が知っている情報(目、耳を通し)は、観客も知っている。 彼女が疑問に思うことを、観客も疑問に思う。 彼女が知りたいと思うことを、観客も知りたくなる。 彼女が驚愕する事実に、観客も驚愕する、という仕組みだ。
豪雨と限られた時間という、憔悴と閉塞感を誘うシチュエーション、閉ざされているのは森だけではなく、通常の思考回路。 思いこみ、という森に、観客は閉じこめられるのだ。
思いこみ、取り調べで回想する“真実?”というセンで他にも 面白い作品がある。『フレイルティー/妄執』、これもオススメ。
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