ある大学院生の日記

2003年04月04日(金) 理事?

なんとなくしんどいので気分転換に(?)東京OLCの理事会に行ってみたら,都協会の理事をやらされそうな雰囲気です.最近競技してないのに.どうしましょう.どうでもいいんですが.

数日前の新聞をぼけーっと読んでいたら,「医療貯蓄制度」を導入もいいのではないか,と書いてありました.シンガポールでうまくいっているのでどうでしょうか,ということのようです.現在の日本では医療保険制度があってリスクの個人間の分担を図っているわけですが,医療貯蓄制度は異時点間のリスクの分担を図るわけです.自分の貯蓄から支払いをするわけですから,医療費削減のインセンティブが働くというのが導入論者(がどれほどいるのか知りませんが)の言い分のようです.また,公的医療保険制度への不信感著しい昨今において,保険制度に替わる制度を導入することによって将来への不安を取り除く目的もあるようです.

まあしかし,検討するのは自由ですが現在の日本にとってそんなにいい制度とも思えません.理由は以下の通り.(1)貯蓄なので異なる個人間のリスク分担ができず,経済学的な意味で非効率である.(2)保険による事後的モラルハザードの弊害の大きさは認められないこともないがたぶん小さい.(3)保険による事前の(通常の意味での)モラルハザードの大きさも小さいと見られる.(4)貯蓄の運用の失敗のリスクを引き受けることになる.といったところでしょうか.また,これをもって公的医療保険制度に対する不信感を払拭し消費を喚起する,というのは,定義からして無理です.なぜなら医療貯蓄制度は予備的貯蓄に他ならず,現在の医療保険制度に起因する予備的貯蓄が医療貯蓄へ振り替えられるだけですし,ひょっとすると強制貯蓄となるので消費を抑制する可能性のほうが高いでしょう.(2)についていま論文を書いているのでまあいいとして,(3)については,Cardon and Hendel [2001, Rand J.Econ.]等があるようです.(4)については,昨今の公的年金の運用成績を見てみれば十分でしょう.非課税貯蓄にしたところで運用の失敗は避けられませんし,運用の固定費用の存在を考慮すれば,富裕層ほど高い利回りを確保する可能性すらあります.健康と経済力には正の相関があるらしい(Smith, 1999, J.Econ.Perspectives)のですから,貯蓄からそれを拡大させるまっとうな理由はないように思います.

シンガポールでうまくいったのにはそれなりの理由があるのでしょうから(たぶんにマクロな理由だと思いますが),医療保険と医療貯蓄の最適な組み合わせがあるのかもしれませんね.


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