夏休みになると、毎日の子連れ客が多くなるのは言わずもがな。
あれ買って、これ買って、おなかすいた、疲れた、もう歩けない、抱っこして・・・本能の赴くままの子ども達のありとあらゆる叫び声が聞こえてきますが。
中でもやはり、泣き声って言うのは一番耳につくもので、ぎゃんぎゃん泣き喚く子どもの声は当然注目の的となるわけで。
親が一緒なら、ああ、大変ね、と思ったり、あれじゃ余計に泣いちゃうじゃん、と思ったり、親子関係の縮図を垣間見ることができます。
親が一緒でないと、これは、保護しなければなりません。
先日、お客さんから声をかけられた。
「あそこでお子さんが泣いてるんですけど、お母さんいないみたいで、迷子さんみたいなんですよ。転んだらしくてケガして歩けないって言ってるんですけど」
行って見ると、うちの息子と同じくらいの男の子がワンワン泣いている。近くには少し年上の男の子もいた。
「どうしたの?転んじゃった?」
声をかけるとますます泣きじゃくり、話にならない。そばにいた年上の子が
「そこで転んじゃったんだ」
と説明してくれた。
「君はこの子のお兄ちゃん?」
と聞くと、その子はうなずいた。
「お母さんは?」
「肉の所にいる」
肉?食品で買い物してるんだろうか?
「じゃあ、お母さんのところに行く?それともお母さん呼ぶ?」
あたしが言うと、お兄ちゃんが、
「お母さん肉の所で働いてるんだ」
え?従業員てこと?
「お母さん、君たちがここにいること知ってるの?」
「ウン、だって、一緒に来たんだもん。お仕事終わるまで待ってるの」
「お仕事何時までなの?」
「9時半だよ」
その時の時刻はだいたい6時半過ぎ。あと3時間ほどもある。
「それまでここで待ってるの?」
「ウン、下で遊んで待ってるから平気」
下のフロアにはゲームコーナーがある。その子達の手には小銭が握り締められていた。
「ボクはケガ大丈夫かな?」
弟のほうはまだ泣いている。ケガと言っても大したことはなく、ちょっとすりむいた程度だ。
「歩けない」
泣きじゃくりながら繰り返す。お兄ちゃんから事情を聞く間、ずっと抱っこしていた。見知らぬ人に抱っこされる時って言うのは、たいていの子どもは警戒心からちょっと離れた感じで抱っこされるものだ。ところがこの子はあたしの体にぴったりと張り付くように抱きついていた。
「どうしようか?おかあさんお仕事じゃ、呼べないね」
あたしは弟をベンチに座らせた。
「ケガね、ばんそうこう貼っておくから。そしたら歩けるよ、きっと」
そう言いながらばんそうこうを貼り、
「はい、治ったよ」
と言うと、その子は立ち上がって、泣くのをやめた。
あたしも仕事があるし、これ以上は関わっていられない。
「お兄ちゃん、ちゃんと一緒にいてあげるんだよ?何か困ったことがあったらお店の人に言うんだよ?」
お兄ちゃんのほうは分かってるんだか分かってないんだか、一応うなずいて2人で手を繋いでゲームコーナーに向かっていった。
あとから話を聞くと、旦那さんの帰りが遅いから、と一緒に連れて出勤してきているそうだ。働く時間が選べなかったのか、たまたま預け先が確保できなかったのか。
次の日、また、泣き声が売り場に響き渡る。
見るとどうも昨日のきょうだいのようだ。
今日ははっきりと、
「ママがいないー・・・ママア・・・」
と泣いている。
行き交うお客さんたちも怪訝な顔をしてみている。
何人かが声をかけるが、ずっと泣いたままだ。
隣の売り場の人がしばらく話し掛けるが、一向に泣き止む気配がない。あたしはレジに入っていたから身動きが取れず、遠くから見ているしかできない。
見るに見かねたみぽりんが話を聞きに行くと、お母さんは今日はお休みでいない、とか、肉の所で働いていない、とか昨日と違ったことを言ったらしい。
もしかしたら、前日、家に帰って母親に売り場であったことを話し、自分が働いているとかそう言うことは言ってはいけないといわれたのかもしれない。
あたしがずっと抱っこしていたことで、味を占めてまた誰かにかまってもらいたいと思ってやってきたのかもしれない。
働く事情はそれぞれだ。その環境も様々だ。
だけど、ついこの間のような事件もあったというのに、店内に幼い子ども達だけを放置しておいてよいのだろうか。
夏休みの間、幼稚園も休みで預ける先がないからなのかもしれないけど、なんとかしてあげないと、と思うのは余計なことなんだろうか。
あたしのマイは非通知です。