たまに××したり。
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2002年06月25日(火) |
ハーフ・フィクション。 |
昼間は晴れていたというのに、急に降り出した雨。駅前のコンビニでビニール傘を買い、家路を急ぐ。駅から家までは歩いて15分ほど。住宅街に入るに連れ、人通りも少なくなっていく。ビニール傘を打つばらばらという雨の音と、自分のヒールのこつこつという音だけが響き、だんだんと闇が怖くなってくる。 あの角を曲がれば、自宅から程近いコンビニだ。コンビニの明かりはなんとなくほっとする。周囲からは浮き立った照明が、不自然なほどではあるけれど、暗闇から一瞬解放され、一種の安堵感に包まれる。 通りすがり、コンビニの入り口に目を向ける。立ち寄るわけではないが、単なる習慣のようなものだ。その日もいつものように何気なく入り口に目を向けた。急に降り出した雨に傘がないのか、軒先で雨宿りをしているのだろうか、そこにいた一人の男と目が合った。長髪で、がっしりとした体つき、ラフな格好から近所に住んでいる人が、ふらっとコンビニに立ち寄った、というような風情だ。取り立てて珍しいことでもないので、気にもとめず、コンビニを通り過ぎ、家へと向かう。 コンビニから家までは坂道だ。この坂、距離的には短いのだが、かなり急だ。しかも、坂を登りきってなお、階段を上らなければならない。この最後の道のりが、疲れた体にはつらい。息を切らし必死に登っていく。 ふと、人の気配が背後からした、と思ったその瞬間。思わず振り返ると、そこに先ほどのコンビニにいた男がいた。 「すみません、Lマンションって知ってますか?」 Lマンションは確かこの先を行ったところだ。 「あちらのほうにあったと思いますけど。越してきたばかりでよく分かりません」 そう答えると男は、 「良かったら途中まででいいんで、一緒に行ってくれませんか?雨だし、傘持ってないから」 そう言い、私の傘の中に入ろうとする。いくら私がお人よしであっても、このシチュエーションで、やすやすと傘を差し出すわけには行かない。 「いえ、私のうち、そっちじゃないんで、ごめんなさい」 それは本当のことだ。私の家は坂を登りきった先、さらに階段を上っていかなければならない。Lマンションはそのまま階段を上らず、まっすぐ行った先にあるはず。 「そうですか」 男は恨みがましく、私を見つめた。いたたまれず、足早にそこを立ち去る。階段を上りきったところで、何気なく後ろを振り返ると、男はまだそこにいた。 冷静に考えれば、道を尋ねられただけのこと、何をそんなに怖がることがあろうか、そうも思ってみた。だが、しかし、私が最初に男を見たのは、コンビニだ。道を尋ねるのなら、コンビニのほうが、適していよう。見知らぬ場所を尋ねてくるにはあまりにもラフな感じ、それに、傘がない、とはいえ、コンビニで買えばいいのではないか?そう、私が駅前で買ったように。 帰宅し、家族に話して、 「夜道は怖いからね、気をつけないと」 などという結論に落ち着き、その日のことはいつしか忘れてしまった。
その日もまた、いつものようにコンビニを通り過ぎ、家路に向かった。そしていつものように、コンビニの入り口に目を向けると、一人の男と目が合った。 一瞬にして記憶がよみがえり、訳のわからない恐怖が沸き起こる。以前、薄暗がりの中見た男の顔は、この男と同一人物だろうか。長髪で、がっしりとした体つきは同一人物だといわれればそのような気もする。とはいえ、そう言う男だっていくらでもいる。別に気にすることはない。そう気を取り直し、さっさと通り過ぎる。 坂を登りきり、階段を上り始めると、間近に足音が迫ってくる。居たたまれない恐怖感で、階段を登りつめ、後ろも見ずに歩き続ける。足音はどんどん近づいてくる。どうしよう、そう思った瞬間に、足音は私を追い抜いた。やれやれ、と、ほっと一息つくと、追い抜いたその男は、先ほどのコンビニの男だった。得体の知れない恐怖が襲ってくる。歩調を緩め、男から離れようとしたその瞬間、男はおもむろに振り向き、 「すみません。最近出来た、Kマンションて、こちらのほうにありますか?」 私の頭は混乱した。同じだ。いつかと同じだ。どう見たって、住宅が立ち並んでるようにしか見えないところで、マンションがあるか、なんて、ことを尋ね、しかも、コンビニで聞けばいいのに、なぜ、私に聞かなければならないの? 激しく動揺しながら、 「知りません」 そう一言答えるのが精一杯で、家とは反対方向に向かう。振り返ると、やはり男は立ち尽くしていた。追いかけてくるのじゃないか、と早足で、遠回りして、途中何度も振り返ったが、追いかけてくる様子はなく、家に着いたときにはすっかり息が上がっていた。
それ以来、夜道はとても怖い。今では、毎日コンビニが近づいてくると、もしそこにまたあの男がいたら、と、恐怖感でいっぱいになる。
さて。どこまでが実話でどこからがフィクションでしょう?
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