日々雑感
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2004年11月25日(木) 探しています

『アウステルリッツ』W.G.ゼーバルト(白水社)を読んでいる。主人公アウステルリッツが登場する場面がいい。アントワープ中央駅の待合室。やはりいつだったか、同じアントワープで訪れた動物園の夜行獣館の心象と(「ちっぽけなフェネック狐、跳び兎、ハムスター」)その待合室の心象とが、「冥界じみた闇に包まれて」、語り手である「私」の中で重なり合う。おたがいにひどく離れたまま、身じろぎもせずにじっと座っている旅行客が、「私」にはなぜか、まるで夜行獣館の小さな躯の動物のように、小さく縮んでいるように思われる。

「思うに、それ自体はナンセンスなある考えが、ふいに脳裡をよぎったせいだったのかもしれない。この人々は故郷を追われるか滅亡するかした民族の、数少ない最後の生き残りだったのだ、自分たちしか生き残らなかったがゆえに、動物園の動物とおなじ苦渋に満ちた表情を浮かべているのだ、と。――その待合室の客のひとりが、アウステルリッツであった。」

今日も今日とて夕方に散歩。電信柱に貼り紙を見つける。赤いくちばしを持つ、小さな鳥の絵が描かれ、その下にやはり手書きの文字で「文鳥を探しています」。飛び立ったはいいものの帰れなくなったのか、遮るものが何もなければ、空へ向かうのが鳥の本能か、それは人にはわからない。ただ、空っぽの鳥籠を前にした誰かの姿を思うとそれはつらい。


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