日々雑感
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2003年01月15日(水) 「アレクセイと泉」

東中野にて映画「アレクセイと泉」を観る。上映時間よりだいぶ早く着いてしまったので、駅前のミスター・ドーナツにてドーナツとコーヒー。午前中の店内は、小さい子どもを連れたお母さんたちで満員だ。ほとんどが常連らしく、店員もコーヒーのおかわりを注ぎにきては言葉を交わしてゆく。地元密着型ミスター・ドーナツか。

「アレクセイと泉」は、ベラルーシにある小さな村の物語だ。チェルノブイリの原発事故によって汚染されたこの村に現在も暮らすのは、55人の老人と、ひとりきりの若者であるアレクセイ。村の真ん中には泉がわいている。半永久的に汚染された土地の中で、なぜかその泉からは放射能がまったく検出されない。

泉のほとりで、村人たちは自分たちの食べ物を得るために働き、笑い、泣き、収穫祭にはダンスを踊り、いかにも嬉しそうにウォッカを飲んでは酔っ払う。人間によって汚染された土地も、そこで暮らし続けてゆかねばならぬ人々の生き死にも、すべてを越えて泉はわきつづける。こんこんとわいてくる。その揺るぎなさ。

泉の前に村人たちは十字架を立て、イコンを飾る。その前で目を閉じて、じっと祈る。いつか誰もいなくなっても泉は変わらずそこにあるだろうか。木を彫ってつくりあげた十字架もやがて朽ちて、それでも水だけはわきつづけるだろうか。

風も強く、寒い日。映画館を出ての帰り道、坂の向こうの遠くのほうまではっきり見える。手袋がほしい。


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