日々精進 《日比野 桜》

 

 

■花 5■ - 2002年11月30日(土)



「俺ねえ。さっき失恋したんだよ。」

日向くんはのんびりと言う。
私は相槌も打たず、黙って聞いていた。

「俺は優しくて嫉妬しなくて縛らないからつまらないって。」

右隣でまだゴロゴロしているのか
ガサガサと芝生の音がする。
でも、日向くんの方を向く気にはなれなかった。

掛ける言葉が思い浮かばなかったから。

「それでも彼女が好きだった事には変りは無かったんだ。」

青空は変わらずに青くて目を離すことが出来ない。
瞬きをする事も出来ないくらいに。


「好きな人が出来たって聞かされて悲しかった。」

「………………。」

「悲しかったんだ。」

「…うん。」


………そうだね日向くん。
私達は恋に不器用だったんだ。

悲しくて悲しくて
耐えられずに花が落ちたんだろう。

誰かを好きになって咲いた花。
美しくて瑞々しくてこれ以上無いくらいに
幸せに咲いた花。

出来れば死ぬまで
守り続けて行きたかったに違いないのに。

「泣いていいよ。」

「冴ちゃんこそ。」

「私は泣かないよ。」

「泣いてるじゃん。」

「日向くんこそ。」


私達は、空を見て寝転びながら2人で鼻を啜って泣いた。
…お互い顔を見ることも無かった。
泣き顔を見られるのは恥ずかしかったし
日向くんは男の子だから特に恥ずかしかっただろう。

気が済むまで泣いた後
目が疲れて子どもみたいに眠ってしまった。
公園なのにもかかわらず。





目が覚めたのはすっかり空がピンク色に
染まった頃だった。

ゆっくりと身体を起こし、ぐるりと辺りを見渡すと
私は公園に一人きりだった。

誰も居ない公園はひどく寂しくて、
そしてピンク色の空が気持ちを余計に掻き立たせる。
…それは放課後の、誰も居ない学校の
教室に居るような切ない気持ち。

本当にどうしようもなく寂しくなって
さっきまで一緒に居たはずの日向くんを探した。

「…日向くーん!」

私の声はびっくりするほど大きくて
小さな公園中に響き渡った。
声を出し切った途端、ぎゅっと胸が締め付けられる。

何でこんなに寂しいんだろう。
ひとりって、どうしてこんなに寂しいんだろう。

ぶわっと目に涙が溢れてきた。
さっき泣いたから、涙腺が緩んできたのかもしれない。
下を向いて涙をぬぐった。

「ひなたくーん…」


「よんだー?」

遠くから声がして私はハッと顔を上げる。
日向くんが遠くから両手に2本の缶を
抱えて走ってくるのが見えた。

「冴ちゃんやっと起きたのか。」

「どこ行ってたの?」

「いや、寒くなってきたから紅茶買おうと。」

はい、と渡されたあったかい缶紅茶。
私は放心状態でそれを受け取った。
日向くんは私の顔をひょいと覗き込み

「泣いてたの?」

と、悪戯っぽくニッコリと笑って言った。
私は妙に悔しくなって、日向くんの手をワシッと掴み

「泣いてない!行くよっ!」

とグイグイ引っ張って歩き出す。
何でこんなに気恥ずかしい思いをせにゃならんのだ。

…日向くんはまだ笑っている。

「そっか。寂しかったんだ?」

「ちがーう!!」

日向くんは私の顔をじっと見ながら
ゴクゴクとコーヒーを啜る。

「…冴ちゃん。」

「何っ!」

「腹減らない?焼き鳥屋に行こう?」

よしよーし。イイ店知ってんだよ俺ー。って
独り言を呟きながら、日向くんは私の手を
ぎゅーっと握る。

その手を見つめながら
へらっと笑ってしまう自分が
何だか可笑しいなって思いながら、
これから行く夜の街の事を思った。




あぁ、夜の街は綺麗な明かりと
たくさんの花で満ち溢れているに違いない。


::::::::::::::::::::::::

いっぱいいっぱいです。
やっとお話終わりました。
終わりです。ワタシの中では終わりました。

好きな人と手を繋ぎたいです。
無性に思ったそんな今日この頃。

あーもうすぐ28歳だあ。
いやだー。



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