Lovesick×Rose≫樹里
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≫2006年02月09日(木)≫共犯 そのいち
絶対遅刻しないって言ってたのに
やっぱり彼は30分も遅刻。
強風で電車が遅れてるって。
駅の表示で本当だってわかったけど、

正直に寝坊しましたって言ってごらん?

って意地悪メールを送った。

はあ、時間つぶさなきゃ。
こりゃ40分は待たされるな。
チョコレート買おうと思ってたからちょうどいいや。

今年もバレンタインのチョコは
当日渡さないの。
で、なにげに目的ボカシとくの。

気に入ったチョコはあっさり見つかった。
ああ、どうしよう。
コーヒー飲むにも時間が半端。

スタバなら外に持っていけるけど、
スタバはあんま好きじゃない。禁煙だし。コーヒー濃くて苦いし。
でももう見たいとこない。
仕方なくスタバラテを買って席に着く。
携帯をテーブルにおいて、
ちょっと苦いラテを一口飲んでふーってため息。

彼に会う日はちょっと切ない。

ごめんね、こんなのの相手させて
ごめん。

5分もしないうちに電話が来た。

ごめーん!今ついた

…じゃあ、そっち行くね

仕方なく買って3口しか飲んでないこのスタバラテどーすんのよ。

スタバのカップを持って
いつもの待ち合わせ場所にわざとだらだら向かう。
30秒でも待たせてやんないと気がすまないんだから!

初めてあたしを待つ彼の顔を見た。
フツーの人の振りしてるよアイツ。
いっつも待たされてたから見たことなかったなぁ。

聡宏さん、おはようございます

おはよー!…ごめんなさい

もう!これまだ飲んでないんだけど!
どうしてくれんの…


(笑)


タトゥの予約の時間には間に合った。

ほら やっぱ
待ち合わせ30分早くしといてよかったじゃん!


タトゥスタジオのドアを開けたらお香のにおいと
ずらっと並んだピアス。

あの、タトゥの予約したんですが
で、こっちはピアスなんですけど
いま開けてもらえますか?


(…こっち…。)

大丈夫ですよ

大丈夫って!ほらー、ピアス見ようぜ

あたしが固まったアメジストのピアスはもう
売り切れちゃってた。

あー、残念

どんなのがお好きですか?

ムラサキ色のがいいんです

じゃ、この辺りですね…

ハートやお花の形はすっごくかわいかったんだけど
あたしはちょいオトナな
トライバルチックなムラサキを選んだ。
売り切れちゃったのより
ずっとずっと素敵。

よかったね ムラサキあって

うん

タトゥの準備はまだできてないらしく、
あたしが先に呼ばれる。

ひゃー、なんかコワイ…
耳以外にピアスを開けるのは初めてだもの。

彼はふざけて
歯医者みたくぬいぐるみでも見せられんじゃないの??
なんて言ってた
ぬいぐるみはなかったので
ベッドに横になってからは
窓から見える寒い空を見ていた

あたしが今ここにいることは
このピアス開けてくれるお姉さんと
彼しか知らない。
そんなこと考えてたら
親に隠れて悪いことをしてるような
10代のころに戻ったような気持ちになった。

じゃ、開けますね

う…
注射の「ちくっ」くらいの鋭い痛みと、開けたての穴にピアスを通すときの鈍い痛み。
気分いいもんじゃないけど、胃カメラよりずっとまし。
軟骨より痛くないなぁ。

たった数分であたしのおへそには
きらきらのライトアメジストがくっついた。

おそるおそる起き上がり、個室を出たらまだ彼は座ってた。


あたしの悲鳴聞こえた?

聞こえた聞こえた

悲鳴なんてあげてないよ

でも聞こえたよ


あたしはセーターをめくって
彼におなかを見せた


あ〜〜〜くっついてるよぉ。痛い?痛かった?

ううん、思ったよりぜんぜんへーき

なんだよ、じゃ俺だけ痛い思いすんの?

そうだよ

つまんない…。

遅刻した罰でしょう


彫師のおねえさんが彼を呼びにきた。

お誕生日おめでとうございます!
準備できましたので
彼女さんもご一緒にどうぞ


施術部屋は狭かった。
機械の乗ってるワゴンと、パソコンデスクと、ベッド。
ここに三人か。酸欠になりそう。

背の高い彼が横になったベッドは長さがぜんぜん足りてなかった。


ほんっとどこ行ってもデカイよねぇ?

(爆!!!)


狭い部屋の中どこにいたらいいのか迷ってるあたしに
おねえさんが

彼女さん、彼の足元に座っててください

と言ったので、
窮屈そうに横になった彼の長い脚をさらに曲げて座った。

冗談でなく
ほんとに歯医者さんみたいな音のする機械が出てきて笑った。

じゃ、彫っていきますね

彼がちょっと顔をしかめる。
おねえさんの仕事の邪魔をしてはいけないので、
口パクでお話。


(痛い?痛い?)

(うーん??ビミョー…)


あたしは手持ち無沙汰で
ゴム手をしたおねえさんの手元と
彼の腕に刻まれていくふたりで選んだ太陽と
目を閉じた彼の顔と
素敵な模様の壁紙を順番に見ながら

やっぱ「彼女さん」だと思われてたか
まぁ普通はそう思うよなぁ
予約のときも一緒だったし
誕生日に一緒なんて
やっぱ友達じゃなくて彼女だよなあ

でもあたし 違うんだよおねーさん?
でも勘違いでも「彼女」と言われてうれしい。

終わるまでの1時間、そんなことを考えてた


はい終わりました
お支度して受付までお越しください


痛い?

ううん ぜえーんぜん

本当は?本当のこと言ってごらん?

(笑!!!!)いや、痛いは痛いけど、でも思ったほどじゃなかったよ

そっか…太陽、かっこいいね

うん、いいね これにしてよかった


一生彼の腕に残る太陽
もしもあたしと会わなくなっても
それを見るたび
彼はあたしを思いだすんろうか

彼の誕生日に
一緒に体に傷をつけた
なんか貴重な思い出

あたしは心の中で
コワイ!うわ、ちょっと痛い!早く終わって…
と悲鳴を上げて
彼には聞こえちゃって

お香のにおいと
部屋が異常に暑かったことと
あたしのムラサキと
彼の黒と赤と

そんなの全部思い出すんだろうか

あたしが一緒に来てしまって
よかったんだろうか

じゃああたしはおなかを見るたびに
彼のことを思い出す?

きっと何十年もたったら
あるのは腕の太陽とおなかの穴だけで
きっとなんでもないことになってるんだろう

今までだってそうして忘れてきた

だから、この日に一緒にいられたことは
素直にうれしかったって
思っておくことにする。

いまだけね。
いまだけは。
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