夜 海が私をゆすり 色あせた星の輝きが 広い波の上にうつる時 私は自分をすっかり 一切の行いと愛とから引離し じっとたたずんで ただひとり ひとりぼっち海にゆられて僅かに呼吸する 海は静かに冷たく無数の光を浮べて横たわっている
すると 私は友だちたちをしのび まなざしを友のまなざしの中にしずめずにはいられない そして ひとりひとりにそっとたずねる 「君はまだぼくのものか ぼくの悩みは君にとっても悩みか ぼくの死は君にとっても死か 君はぼくの愛と苦しみについて 一つの息吹き 一つのこだまでも感じるか」
すると 海はゆうゆうと見ながら 語らず 否 とほほえむ どこからも あいさつも答えもやってこない
『Nachts, auf hoher See』 Hermann Hesse
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