- 2010年08月17日(火) 田中宇の国際ニュース解説(1)
この際、丸写し。
ちょっと前だけど8月2日配信。
こういう記事に目を通しておかないと、世界の見え方が偏ってしまう。
この記事が「正しいかどうか」、ということとは別だが、ともすれば日本人の多くは「〜に決まっている」という見方をさせられてしまう。
今自分でも読んでみるまで、「天安艦事件」は北朝鮮の仕業として「話がついている」と思い込んでいたが、国際世論は必ずしもそうは思っていないようだ。
そんなチャンスはまずないけれど、万が一外国人とこの話題で話し合うとしたら「あんた何を決めつけてんの?(頭悪い〜)」と思われたくはない。
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田中宇の国際ニュース解説 無料版 2010年8月2日 http://tanakanews.com/
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★中国軍を怒らせる米国の戦略
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7月25日から28日まで、韓国の近海で、北朝鮮を仮想敵とした米軍と韓国軍の合同軍事演習が行われた。この演習は当初、3月末に韓国の駆逐艦「天安」が沈没した(米韓の主張では、北朝鮮に撃沈された)現場周辺の韓国西岸沖の黄海で、7月初旬に行う予定だった。米軍は、横須賀を母港とする空母「ジョージ・ワシントン」を、この黄海での演習に参加させる予定になっていた。
しかし、黄海対岸の中国が、黄海に空母を入れて演習をすることに猛反対した。米韓は、演習の予定を延期して中国と話し合った結果、譲歩し、演習の主たる実施地域を韓国東岸沖の日本海に移動し、黄海側でも演習は行ったものの、中国に配慮して小規模なものにとどめた。韓国軍は、8月も黄海側で軍事演習を続けるが、それには米軍は参加しない。
http://www.atimes.com/atimes/Korea/LG31Dg01.html
The (war) games go on - Donald Kirk
(米国は韓国を同盟国として重視すると言っているが、米国防総省の広報官は「米韓軍事演習を『日本海』で行う」と発表してしまった。韓国では、日本海を『東海』と呼び、日本海と呼ぶと激怒される。韓国を重視していないことをうっかり露呈してしまった国防総省は、日本の自衛隊員も招待した米韓演習で中立的な表現で言い直そうと苦慮し「朝鮮半島の東と西の沖合で行う」と言い直した)
http://www.atimes.com/atimes/Korea/LG24Dg01.html
South Korea reels as US backpedals
米韓は毎年、韓国の周辺海域で北朝鮮との戦争を想定した合同軍事演習を行っているが、その実施海域は主に日本海側だ。中国を威嚇することにならないよう、黄海側で小規模なものしか行ってこなかった。米国は、北朝鮮のミサイル発射実験に対処した1994年以降、空母を黄海に入れていない。94年には、台湾問題などで米中関係も悪化しており、黄海に入った米空母キティホークは、中国軍の潜水艦と接近遭遇し、米中は戦闘機どうしで威嚇しあい、一触即発の事態になった。それ以来、米中関係の好転とともに、米国は空母を黄海に入れないようにしてきた。
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2010-06/23/content_20331512.htm
米韓共同軍事演習 米国が黄海に空母派遣か
今回、16年ぶりに米国が空母を黄海に入れようとした理由は、天安艦事件である。もし米韓の主張どおり、北朝鮮の潜水艦が発射した魚雷が天安艦を撃沈したのであれば、米韓が報復威嚇的な軍事演習を沈没現場周辺の黄海で実施することは自然である。それに激怒する中国は過剰に北朝鮮をかばっていることになる。中国の猛反対に対し、米国が譲歩して空母を黄海に入れなかったのは、中国に米国債を買い続けてもらわないと財政破綻するという米国の弱みがあるためということになる。しかし実際には、これらの「定説」の根幹に存在する「天安艦が北朝鮮に撃沈された」という可能性は、どんどん低くなっている。
天安艦は、米軍との合同演習中に間違って同士討ちになって沈没したか、もしくはロシア政府やハンギョレ新聞が主張するように、70年代に韓国軍がペンニョン島周辺に無数に敷設した古い機雷に触れて(天安艦のスクリューが、島の沿岸に多く仕掛けられている定置網の漁網に巻きつき、漁網が機雷を巻き込んで爆発して)沈没した可能性の方が、北朝鮮犯人説より、はるかに高い。
http://joongangdaily.joins.com/article/view.asp?aid=2923819
Russia says sea mine sunk Cheonan: report
http://www.jrcl.net/frame10053h.html
西海の緊張に伴い機雷136個設置、10年後、10%も回収できず
私が聞いたところでは、日本の防衛省の機雷の専門家も、証拠品の魚雷の残骸をめぐる韓国政府の説明は不合理だと言っている。韓国の潜水の専門家は、海中に沈んだ魚雷の残骸は、1カ月という短期間では韓国政府が発表した「証拠品」のように錆び付いた状態にならないことを、仁川の海岸で実際に金属片を海中に沈めた実験によって立証した。韓国政府が発表時に拡大して示した魚雷の設計図は、韓国政府が主張する「CHT-02D」の設計図ではなく、北朝鮮製の別の魚雷の設計図であることもわかった。韓国政府は、5月末の地方選挙を有利にするため、米国にそそのかされ、北犯人説をでっち上げて発表した可能性が高まっている。
http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1213081.html
海難救助専門家 "天安艦 魚雷推進体は捏造された証拠"
http://english.yonhapnews.co.kr/national/2010/06/29/49/0301000000AEN20100629007300315F.HTML
Investigators admit using wrong blueprint to show N. Korean torpedo that attacked Cheonan
(日本のマスコミは、韓国政府の発表に疑いを抱かせる報道を、おそらく意図的に避けている。たとえば7月9日、米国のジョンズホプキンス大学の助教授らが、根拠をあげつつ韓国政府の発表に疑問を呈する記者会見に行ったが、日本のマスコミはほとんど無視した。外務省など日本政府は、天安艦事件後に米韓が北朝鮮と対峙する姿勢を強めたことを、東アジアにおける米国の覇権巻き返しととらえ、日本が対米従属策を延命できる好機だと喜んで、マスコミを動員し、日本人に天安艦事件の「北犯人説」以外の情報を伝えないようにしているのだろう。911事件に対する報道官制と同じ趣旨である)
http://www1.voanews.com/english/news/asia/US-Professors-Raise-Doubts-About-Report-on-South-Korean-Ship-Sinking--98098809.html
US Professors Raise Doubts About Report on South Korean Ship Sinking
http://blogs.yahoo.co.jp/lifeartinstitute/41671700.html
天安艦事件検証(37)「魚雷説は実験結果に反する」
天安艦沈没の北犯人説が米韓の濡れ衣だとすると、天安艦事件を口実に黄海で米韓が軍事演習をすることは、米国が意図的に中国や北朝鮮を過剰に威嚇していることを意味する。韓国は、北朝鮮との対立をいたずらに煽っていることになる。中国が、黄海に米空母が入ることに猛反対したのは当然だということになる。
▼黄海は第1列島線の中国側
米国の右派メディア(共和党系のWSJ)は「今回、オバマ政権が中国の反対を受けて譲歩し、空母を黄海に入れなかったことは、悪しき前例を作ってしまった。今後、中国が了承しない限り、米国は空母を黄海に入れないだろう。黄海は、中国の海になってしまった」と米政府を非難している。
http://blogs.wsj.com/chinarealtime/2010/07/17/a-sea-change-in-us-china-naval-relations/
A Sea Change in U.S.-China Naval Relations?
実は、黄海を「中国の海」にしたのは、米政府の今回の一回限りの譲歩だけが原因ではない。米国は昨年、中国に対して「米中で世界を二分する覇権体制を作ろう」と「米中G2体制」を提案した。中国は「わが国はまだ発展途上で、そのような体制に参加するには早すぎるし、世界覇権も狙っていない」と断った。だが中国は、G2体制の初期的な第一歩として、自国周辺の台湾、チベット、新疆ウイグル(トルキスタン)という、中国が「国内」と主張する3つの地域「3T」と、東シナ海と南シナ海という、中国が経済水域権(大陸棚)や領有権(南沙群島)を主張する2つの海域において、中国だけが国家主権(覇権)を行使する体制を容認してほしいと米国に求めた。
米国はこの要求を容認したらしく、中国は今年初めから「3T地域における中国の国家主権を認めない言動に対し、中国は今後容赦なく攻撃し、潰すことにする」と宣言した。同時に中国は、東シナ海(琉球列島の西側)と台湾東部沖、フィリピンの西側、南シナ海(ボルネオ島からベトナムの沖合)をつなげた海域の境界線を「第1列島線」として設定し、第1列島線から中国の海岸の間は、中国の影響海域であり、他の国々の領有権主張や軍事進出、資源探査を許さないという方針を打ち出した。
http://tanakanews.com/100627china.htm
消えゆく中国包囲網
「第1列島線」と同時に、伊豆諸島、小笠原諸島、グアム島(北マリアナ諸島)、ミクロネシアの西側を南下してニューギニア島沖に至る「第2列島線」も制定された。従来、第1列島線の西に位置する台湾までを影響圏にしていた米国は、第2列島線の東にあるグアム島まで撤退し、それと同時に中国が第1列島線の西側のすべてを自国の影響圏として設定し、2つの列島線の間に位置する日本やフィリピン、インドネシアなどは米中の緩衝地帯として機能するという、将来的な米中の影響圏の取り決め構想である。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a1/Geographic_Boundaries_of_the_First_and_Second_Island_Chains.png
第1列島線、第2列島線のの地図
米国では、中国が2つの列島線の構想を出したと説明されている。だが、G2を時期尚早と断った新参者の中国が、将来的な米中の影響圏の設定を、まだ世界最強の古参覇権国の米国に話を通さず、勝手に独自に設定するはずがない。米国の外交戦略を考案する奥の院である「外交問題評議会」が発行する雑誌「フォーリン・アフェアーズ」は今年「米国が第2列島線まで後退し、中国が第1列島線まで進出してくるのは、不可避のことだ」と主張する論文を載せている。2つの列島線は、米中が合同で話し合って決めたものに違いない。
http://tanakanews.com/100623japan.php
米中は沖縄米軍グアム移転で話がついている?
東シナ海の奥に位置している黄海は、第1列島線の西側にある。上記の米中影響圏の構想に基づけば、黄海は今年から中国単独の影響圏(覇権海域)である。米国(などあらゆる外国勢)が黄海に勝手に入って資源探査したり、無断で空母を航行させることは、米中の了解事項に反する。米軍が空母を黄海に入れなかったのは、第1列島線をめぐる米中の取り決めに沿っている。
(中国人は「覇権」という言葉を嫌う。中国政府は「覇権を求めない」と宣言している。こうした主張は、中国古来の政治学における「覇」という言葉が「軍事圧政」を意味するところに依拠している。中国では、道徳政治である「王道」と、武断政治である「覇道」が対立項になっており「王」が正しく「覇」は悪である。一方、日本語や中国語の訳語としての「覇権」の原語である欧米の「ヘゲモニー」は「直接的な領土支配(国内化)をせず、国外の地域に影響力を行使する」意味だ。そこには、武力による威嚇で従わせる中国古来の「覇道」の手法も含まれているものの、それ以外に「資金を出したり資源を安く提供して、相手に喜んでもらって影響力を強める」とか「わが国と親しくした方が得ですよ」と説得する「王道」的な外交戦略も「覇権」の中に含まれている。資金を出して相手国を丸め込むのは、中国が最も好み、得意とする「ウィンウィン」の外交戦略であるが、これは欧米概念では、まさに「覇権(ヘゲモニー)」の範囲内である。「覇権を求めない」という中国政府の宣言は、正しくは「武力による覇権を求めない【平和理な覇権は積極行使する】」と言うべきである)
http://www.chinapost.com.tw/commentary/the-china-post/special-to-the-china-post/2010/07/28/266355/Chinese-think-tank.htm
Chinese think-tank asked to handle a delicate challenge
(続く……「記事は原稿用紙20枚以内で」と言われちゃったので)→次の記事