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―― 連ねた意味も、持てない小鳥。
氷室火 生来
回帰

2008年12月19日(金)
どうも、基本的にネガティブです。


映画を観る会の知人たっての希望で『私は貝になりたい』を観てきました。
という事で(元々リメイクなのでいいかなと思って)ネタバレ交えつつ文句です。えぇ、文句です。

先ずはそうですね、こういった事を口にすると以後外に出る際に気をつけなければいけませんがしかし敢て憚らず言おう、
僕は天皇様がきらいでよかったです。
空想上の宗教や現人神はすきですし利用しますが現実に私は神ではありませんといわなければならないのはどちらの立場もナンセンスだし、太陽の化身だからどうだってんだと。この間旅行で伊勢神宮に行った時もそんな具合で大変不信心でしたが、なんてったって神様なんです懐深くそれくらい許して下さいますよね?

さてその神の命令だと喜び勇んで命を散らし或いは刈り取ろうというのだから全く素晴らしい意識ですねそんな時代に生まれなくてまっことよかった。
ただ、現代風に多少カスタムされているんだろう事を差し引いても、あくまで、本当はいやだけど逆らいようがないからせめて腐らず従えるよう無理に昂揚していた、という向きになっているので、それならばまだ理解のしようもあるのですが。実際はどうなんですかね。
そんな感じで戦争映画にも拘らず序盤から不謹慎に笑っていたのは自分です。他の観客といっても御老人方しかいらっしゃらなかったのですが、後で考えると中々危ない行動でしたね自重しなければw

で、話はすっ飛ばして。というのも、それが出来てしまう内容だから。
制度によるごたごたを見せてはいたけれど、敢て語るべくも無い、簡単に粗筋で事が足りるような、中身というとそんなところです。それでもこれから語る事の為にざっと紹介すると、下っ端であれど、否だからこそ命令が絶対であった軍人が、敗国になった為戦犯容疑をかけられそのまま冤罪で拘留される、と本当にこれだけなのですが。人との交流や心情の揺れ動きはありましたが、特筆すべきものもなく。
だから、そこなんですよ。米兵との絡みにときめきの欠片を懐きはしたけれど、全般的に浅く薄く味付けされているから中々深入りしたり熱く語るべくもない。まぁ、史実に基づいている、という点では仕方の無い事なのやも知れませんが。
ただ、個人的な話勝利国では英雄で敗戦国では戦犯、というのはおかしい気がする。両方共に戦犯か、さもなくば勝利国こそ戦犯であるべきだと思う。勝ちとはつまり、高度な政治的判断などを含めながらも簡潔に言うならばどれだけ人を殺しどれだけ国土を焼いたか、の割合。それならば負けた方こそ死亡者は多いのだから、虐殺に値するのは勝利国であるべきだろう、と。
なんていってもこの世は弱肉強食、勝てば正義。
言葉の不一致という問題を抱えたままの裁判に公平性は見出せませんが、勝利国のお楽しみである裁きが同等である必要性もないのだろうなと思うと、余計にそれはしみじみと。

そしてタイトルである、貝になりたい、という言葉。それは遺書の一文。
遺言を薦めた教誨師という立場にもまた疑問があるのですがそこは勝手に悶々としておきます、主人公は戦争中の人を人とも思わぬ体制、戦後の不当な扱い、そして今に至るまでの嘘と言葉の無意味さに、人間である事に絶望し、もう人にはなりたくない、という思いでその表題を記したんですが。
結局こいつは、この全編を通して何も得る事無く此方にも齎す事無く終わっていく為体、というのが率直な感想。
基本的に物語とは、その始終で違っていなければならない、或いは同じである事に意味を持たせなければならない、と思うんです。
何を知るでも何を変えるでも何を失うでも、誰かの生き様の一瞬を切り取ったものを見つめる我々が、どんなものでもいいから感じられる、何か。それが存在しないのならば、どうしようもない。勿論訴えているのに受け取れないという不一致は何処にでもあり、そしてこれに於ける自分の見解もただのそれでしょう間違いありません。
この話は戦争はむごいとか一市民の声なんて届かないとかそんな、反戦メッセージか虚無をも超える慈愛を懐きなさいと訴えるけれど、それは渦中の話なのだから当然の事として、この主人公自体にはなんの魅力も成果も無い。
人を殺した罪悪感に苛まれるでも、戦争というまやかしに踊らされた抗議に具体的な行動を起こすでも、その命を賭して誰かを救う或いは何かの礎となった訳でも、なんでもない。
ただ勝手に絶望し、ただ勝手に恨みつらみ、ただ勝手に、処刑された。
ここまで言ったら最早ネタバレどころではありませんが、その遺書のメッセージは、正確にはもう夫にも父親にもならず深い海の底で誰にも邪魔されず戦争にも巻き込まれない貝になりたい、とあります。
冗談じゃない。貝にだって生存競争はあるし、真珠や食用の養殖として人の手に翻弄される。貝を嘗めるな。とまぁ貝擁護はそのくらいにして真面目に。
この人は己を救おうと奔走してくれた妻さえ捨てて、ただ一途に帰りを待ち、或いはまだ見ぬその顔に思い馳せる事も無い子供達さえ置いて、自分だけ楽になりたいとのたまっている。
妻の行動が無駄にされた事に怒るのではなく、子供達に寂しい思いをさせる事に心配するのでもなく、ただただ、一人勝手に、もういやだって。
元々この主人公の言い分などには納得しづらいところがありましたが、最後まで見ても、それは変わらなかった。寧ろ腹が立ってばかりだった。
境遇は同情すべきなのだろう。人の弱きところをえぐいくらいに書いているから逆に受け入れたくないのやも知れない。
でも、そいつ自身は何も遣り遂げてなんていないじゃないか。陳腐でよければ、例えば家族愛を貫いて死ぬのならば、それが彼の成し遂げた事として一応は認識出来たのに。多分すっきりはしないだろうし、それはそれでやっぱり陳腐だと文句をいうのだろうけど。

とまぁ一通り文句を並べてみましたが、個人的にはバッドエンドだいすきなので最後の声のトーンの狂いっぷりったら、素敵でしたw
ただ、主人公がすきじゃないだけです。漫画家志望者指導コーナーにようけ書かれている共感、というのが大事なのは、そういう意味かなぁ、と漠然と。
尤も戦時中の子持ちの男親の気持ちなんて、接点の無さから共感は難しいのだろうけど。


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