ライフ・ストーリー

DiaryINDEXpastwill


2005年03月28日(月) 春の雨 -昭和元禄という時代-

 外は春の雨です。

友人と行く予定だったきものコレクター兼デザイナーの池田重子さんのコレクション展「日本のおしゃれ展」。急用ができた友人の代役に夫をたてて銀座まで出かけたあの日も、夕方から雨になりました。

鑑賞するひとの中には和服を召した方がたくさんいらっしゃいました。その方たちのきものを鑑賞させてもらうのも楽しみのひとつでしたが、残念なことにそのほとんどは雨コートの下に隠され、春を彩るきものや帯の華やかな模様を観ることができたのは、コートを脱いだほんの2、3人の方たちのものだけでした。

昭和元禄の「粋とモダン」にスポットをあてた今回のコレクションでは、芝居見物にふさわしい贔屓の役者の隈取りをデザインしたきものや帯、これから向かう季節に似合う涼しげな芭蕉布を用いたしゃれた夏きものの数々、それに艶やかでモダンな三つ襲(かさね)の花嫁衣裳など、今まで雑誌でしか見たことがないような貴重なきものや帯に出会うことができました。たくさんの美しくて不思議な帯留たちにも。

欧米のファッションの影響を受けながらも、独創性にあふれる華やかな芸術・文化が芽生えたよき時代の遺産。

観終わって外に出たら雨は強くなっていました。
ついでに足を運んだヨーロッパ展で見つけたドイツワインと、大好きな春の和菓子をかかえて雨に濡れないように急いで電車に乗りこみます。
家に着く頃には短い春の雨はあがっていました。

きょうのこの雨も、  今、わたしのこころに降り続いている雨も、いつかあがる日がくるのでしょう。

未だ、果たせない約束をいくつもかかえています。
雨雲が少しずつ取り除かれ空が晴れていくように、
ひとつずつ、その約束を果たしていけますように。

- * -

きょうから始まったTV小説『ファイト』(橋部敦子脚本)。
馬好きの主人公にはげまされています。ファイト。

上のふたつの話を合わせて(ちょっと無理矢理ですが)、

明治・大正・昭和元禄まで生きた詩人の
馬の詩を一篇どうぞ

- * -

 「 大阿蘇 」

 雨の中に馬がたつてゐる
 一頭ニ頭仔馬をまじへた馬の群れが
 雨の中にたつてゐる
 雨は蕭々と降つてゐる
 馬は草をたべてゐる
 尻尾も背中も鬣(たてがみ)も ぐつしよりと濡れそぼつて
 彼らは草をたべてゐる
 草をたべてゐる
 あるものはまた草もたべずに
 きよとんとしてうなじを垂れてたつてゐる
 雨は降つてゐる 蕭々と降つてゐる
 山は煙をあげてゐる
 中獄の頂きから うすら黄ろい
 思つ苦しい噴煙が濛々(もうもう)とあがつてゐる
 空いちめんの雨雲と
 やがてそれはけぢめもなしにつづいてゐる
 馬は草をたべてゐる
 艸千里濱のとある丘の
 雨に洗はれた青草を 彼らはいつしんにたべてゐる
 たべてゐる
 彼らはそこにみんな静かにたつてゐる
 ぐつしよりと雨に濡れて いつまでもひとつところに
 彼らは静かに集つてゐる
 もしも百年が この一瞬の間にたつたとしても
 何の不思議もないだらう
 雨が降つてゐる 雨が降つてゐる
 雨は蕭々と降つてゐる


   / 三好達治 詩集『春の岬』より
      (改行位置を一部変更)


☆三好達治は1900年(明治33年)大阪市生まれ。
 中学を中退し、父の希望で大阪陸軍地方幼年学校に進学します。
 21歳のとき実家が破産。叔母の援助を受けながら第三高等学校
 (現・京大)→東京帝国大学文学部仏文科へと進みます。
 1926年、梶井基次郎、中谷孝雄らによる『青空』の同人となり、
 1930年、処女詩集『測量船』を第一書房より刊行。
 1934(昭9)年、堀辰堆、丸山薫とともに『四季』を創刊。
 師でありライバルでもある萩原朔太郎を常に意識しながら
 詩を書きつづけ、昭和14年に『艸千里』を発表する頃から
 抒情詩の代表詩人としての名声が高まりました。
 明治以降の作品は千篇を越えます。


<< previous      next >>


夏音 |MAILMy追加