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2004年09月19日(日) ローマは一日にして成らず

 3連休のなか日。学者さんは午後の便でシドニーへ発った。
これから2週間はまたひとり暮らし。すこしは慣れてきたけれど、ひとりになるとつくづく部屋が広く感じられてしまう(物理的にはそう広くはないのだが)。救いは机に積んである先週末にも何冊か増えた未読の本たち。


金曜の夜のパーティは久しぶりに楽しかった。
ワシントン在住20年の日本人ジャーナリスト氏が上梓された本の出版記念パーティだったのだが、主役である著者もさることながら、魅力的で多彩な出席者で会場は盛りあがった。

いろんな方と会話した。なかでもとりわけ印象深かったのは作家の塩野七生さんの姪の舞さんとの会話。妙齢というのがまったくふさわしい年齢の長く豊かな髪を持つ彼女は、上から(頭髪も含め)下まで黒い色で身を包んでいた。そして少し伏し眼がちに話した。

彼女はイタリアにある彼女の叔母の家をまだ一度も訪れたことがないという。「どうして?」と尋ねると、微笑して「まだ叔母とやり合えるほどの知識武装ができていませんから」と答えた。叔母である塩野七生さんは(その作風からもうかがえるように)、それはそれはツッコミが厳しいひとらしい。「ツッコミどころ満載の今のわたしではやりこめられるのは必至です。しんどいですが歴史も経済も文学も、あらゆる面を該博な知識でしっかり武装して行かないと」。

隙のない文章を書く著名な作家を叔母に持つというのは、端から見るより楽なことではなさそうだ。イタリアにある白亜の豪邸の門をいつか舞さんが胸を張ってくぐる日が来ることをひそかに祈ろう。

なにごとも「ローマは一日にして成らず」なのだ。


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読んでいてとても心が潤った
一篇の詩をどうぞ

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  「樹」

 人ひとり立ち上がる部屋うちの
 静かなとよめきを心に映す 路のうへの
 一樹(ひとき)は
 定まる形を己れに与へずしとやかに
 風の来るままに 俛(ふ)し また 伸び上り
 日を息しながら
 蒼い時から蒼い時まで 聳え立ち

 静けさに静けさを掘る動きに沿うて
 押し移る
 その色は
 眺める眼(まな)うちの充(あら)ゆる風光を生かさせる。

 生(いのち)を女の睫毛よりも かげ深く樹姿にと見出す
 遥かなる眼差のひと時こそ
 身は
 立ち
 額は上がる 水より宏く空を映して―――。


       /北村初雄


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夏音 |MAILMy追加