ライフ・ストーリー

DiaryINDEXpastwill


2004年09月13日(月) 旅の色

 緑の樹々ばかりを眺めてすごした旅だった。

旅には色がある。碧い海や蒼い空を見てすごしたなら青い旅。紅葉や朱い夕陽が印象に残ったら、それは赤い旅だと言えるだろう。そういう意味では、今回の旅の色はみどりだった。

車窓から流れるような緑を眺め、ときに立ちはだかるような樹木を見あげ、翠の草につつまれて、大きく深呼吸をしてきた。

深呼吸をすることがわたしの旅の目的だ。
深呼吸をすれば、わたしのこころとからだは水をもらった植物のように活性化する。

今でも少し残してあるけれど、この日記にはよく旅のことを綴ってきた。それぞれの旅にはその時々で自分なりに感じた色があった。

そして文章を綴るのも小さな旅だ。これからどんなことを書こうか、何についてどんな風に書こうか、と模索しながらたどる旅。だから文章にも色がある。この日記にはどんな色が着いていくのだろう。そう想いながら今この日記を書いている。


一部の方にはご心配いただいたようだけれど、基本的にわたしは平和に暮らせていると思う。先日書いたようにひとりですごす時間は多い。それにはこのマンションは広過ぎだとは感じるが、ひとりですごす時間は好きだし、大切にもしたい。何より、好きな本がたくさん読める。

夫の食事を作らなくていい日は、大好きなアイスクリームを主食にすることができるし、何時間もバスタブのお湯に浸かっていられる。わたしにとってこのふたつのことは、このうえないしあわせだ。

しかしおそらくひとなみに、暮らす上で大変なこともいろいろある。
深夜の青山ブックセンターに駆けこみたくなるときだって、たまにはある(深夜のブックセンターにはそういう人たちがたくさん居る。――ああ、今はそれもできないのかな? )。

だって、生きるって、そういうことでしょう?



- * -

旅の疲れのせいで、とりとめもないことをつづってしまった。
くちなおしに
昔のように一篇の詩をどうぞ。

- * -


 「火と藍 XXXV」

 誰とも口をききたくないけど
 私のこと聞いて欲しい
 誰とも口をききたくないけど
 誰かの傍に居たい
 誰とも口をききたくないけど
 知らない人から手紙が何通も欲しい
 誰とも口をききたくないけど
 物言わぬ唇と一緒になって
 旅する空想をする


   /中江俊夫『昭和文学全集第35巻』(小学館)より



 ☆中江俊夫さんは1933(昭和8)年福岡県久留米市生まれ。
  高校時代に詩人の永瀬清子と出逢い、詩を書きはじめます。
  昭和27年関西大学文学部在学中に第1詩集『魚のなかの時間』
  を自費出版。第3次「荒地」(年刊アンソロジー)同人。
  昭和29年に荒地詩人賞、39年に中部詩人賞を受賞。
  『語彙集』(思潮社)で第3回高見順賞受賞。
  主な作品は『暗星のうた』(的場書房)、『沈黙の星のうえで』
  (宇宙時代社)、『不作法者』(思潮社)、『就航者たち』
  (詩学社)など。




<< previous      next >>


夏音 |MAILMy追加