シモーヌ☆かく語りき
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2013年03月20日(水) SS



 『海の底』





 白翡宮へとつながる道を、気配を殺しつつ、ひたすらに走る。抜け道は、ない。いや、あったところで経験の浅い間諜や狡賢い泥棒のような真似は、自分の矜恃が許さない。――自信があった。白翡宮への道、そしてあの女がいる部屋までの径路を具体的に思い描き、頭の中で幾度も繰り返したそれらが完璧であることを、最後にもう一度頭の中で確認する。
 (…………)
 口元が僅かに反った。あの女――アーシェがあの日最後に自分に見せた表情と共に、ふいに思い出されたからだ。誰しも一度会えば忘れることができない印象的なその大きな瞳は、思い詰め、何かに耐え、そして縋るかのような、切羽詰った緊張感を孕んでいた。親衛隊の一行に守られながらその場を去り、そして自分の視界から消える最後まで、何度か後ろを振り返っては強く訴えかけていた。遠目でもはっきりと判る、それは今までに見たこともない、明らかな自分に対する切望――いつも傲慢な態度のあの女が見せたことのない、あの瞳が心に微かに引っかかっていた。





 『一週間後の夜、私の部屋に……来てください。』
 それはあの日、別れる間際。騒動があった一角から少し離れた路地裏で、お互いがすれ違った時のこと。消え入りそうな小さな声で、自分にだけわかるように……最後に交わした言葉は、今まで二人の間で交わしたどの会話より親密に聞こえた。
 『なんだ、夜這いにでも来て欲しいのか?』
 普段と全く違う雰囲気を纏った、ともすれば冷淡にも見えるその整いすぎた目の前の顔に驚きつつも、わざと面倒くさそうに頭を掻きながら、いつものように軽口で返した。ちらと横目で見れば、綺麗に整った眉を僅かに寄せるだけで、それが返事とばかりに背を向け去っていく。一瞬の出来事だった。後ろに付き従う親衛隊数人の、薄暗く狭い通路の石畳を遠慮なく鳴らす革靴の音が次第に遠くに消えていくと、先ほど自分の頭を掻いたその手が所在無げに残るのみだった。




 今日の月は格別に明るい。全体を白に統一された城壁が、その月の光を受けて、妖しい雰囲気を醸している。目に見える全てが青白く映し出され、それらが数々の経験と共に鍛え抜かれた体中の、ありとあらゆる神経を更に研ぎ澄ます。
 これは、決して簡単な侵入ではない。今いる場所は、国を治める皇帝が住む城だ。これほど厄介な”仕事”はそうそうないだろう。
 (あいつ、簡単に言いやがって……)
 心の中で悪態を吐く。しかし裏を返せば、自分なら必ず果たすことができるという、あの女なりの信頼ともとれる。悪い気はしないし、実際、難無くこなしている。そもそも、正式に依頼されていないこの”仕事”に報酬が出るのか些か疑問ではあったが、報酬以外の興味が湧いた、と言えば、古今東西の知己はきっと驚くだろう。理由は簡単だ。ただ知りたい――それだけだった。





 
<続く>
……かも





 長らく、長らく日記の更新をサボッてました。すみません。もう長年替えていない、というか替えれないHPトップ絵ジュリアン目線のSSです。シモーヌの脳内にある彼の?物語?(ざっくりすぎて一体主人公が誰なのかわからん)のワンシーンを、無計画に指が動くまま書いてみました。製作日数3日。時間にすると5時間?くらい?(おそらく)。はぁー、疲れた。こんだけの文章書くのにどれだけ時間割いてんだか……肩が懲りすぎ。でもでも、いつか何気〜〜〜に書いてみたいなと思ってたので、少しだけ満足。恐らく今回と同じ量くらいの続きがあると思うんだけど、そこはまぁ予定は未定ということで。例えこれ一回きりで終わったとしても、タイトルが内容と全くもって沿っていないことは、心にそっとしまっておいてください。
 しかし、こうやって活字と向き合うことなんて、長いこと(恐ろしくて言えない程)日常から消滅してましたので、良いリハビリになったような気もします。
 というか絵が古すぎて、もう何年もの間恥ずかしくて見れなかったんですけど、久しぶりに見たらやっぱり恥ずかしかった。ヘタすぎて死にそう。いや、恐らく今のほうがもっとヘタ。


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