2005年01月13日(木) |
「人狼 JIN−ROH」押井守の世界観+沖浦啓之の美学。ジャパニメーションの究極の美意識がここにある。 |
『人狼 JIN−ROH』1999年・日本(アニメーション) ★2000年日本映画プロフェッショナル大賞 特別賞(沖浦啓之) 【PG12指定】
監督: 沖浦啓之 演出: 神山健治 原作・脚本:押井守 編集:掛須秀一 音楽:溝口肇 主題曲:ガブリアナ・ロビン
声の出演:藤木義勝(特機隊員、伏) 武藤寿美(雨宮 圭) 木下浩之(公安部、辺見) 廣田行生(室戸) 吉田幸紘(半田) 堀部隆一(巽) 仙台エリ(未成年女子テロリスト) ナレーション: 坂口芳貞
これはもう1つの可能性としての哀しい昭和史・・・・。
昭和30年代、「日本、東京」。戦争と占領によって荒れ果てていた都市も復興へ向けて急速に動きはじめていた。 だが、あまりにも強引な経済政策がうみだしたのは、大量の失業者、そしてそれゆえの凶悪犯罪の数々だった。
反政府勢力の掌握のため、自衛隊、自治警とは違う組織を政府は苦肉の策として誕生させる。 国家公安委員会直属の実働部隊であり、首都圏に限って武力活動を行使する組織、首都圏治安警察機構、通称「首都警」。
だが、その圧倒的な武力で反政府組織と日夜市街戦を展開し続け、 勢力を拡大してゆく首都警は、次第に世論の反発を呼び、政府は窮地に追い込まれつつあった。
政治的に反政府組織を弾圧した結果残ったのは、自爆をも厭わないゲリラ集団、セクト。
今夜も、首都警の精鋭部隊である特機隊、通称ケルベロスのメンバーは、地下に潜伏するセクトを追って下水道へ。
メンバーの1人、伏が追いつめたのは、爆弾の運び屋の、年端もゆかぬ少女だった・・・。 血も涙も棄てねば生き残れない地獄の訓練を受けた精鋭部隊の伏であったが、少女を撃ち殺すことができない。 少女は伏の目の前で、自爆してしまった・・・・・。
伏は特殊な防護服により軽傷ですみ、まだ新人だったこともあり、再教育、という形で処分された。
再び訓練施設での日々がはじまる。 無口な伏は黙々と訓練に励むが、脳裏から少女の無惨な死が離れない・・・。
かつての同期であったが今は公安部にいる辺見は、伏のたっての頼みを聞き入れ、自爆した少女の素性を教える。
少女の墓前で伏は、少女にそっくりの女、圭に出逢った。 圭は少女の姉だという・・・。 圭は伏に、墓に供えようと思っていたけれど、と一冊の絵本を 手渡すのだった。 赤ずきんちゃんによく似た物語・・・・・。
2人は逢わずにはおれなくなり、次第に惹かれてゆく。
だが、圭の素性を利用して、ある企みが進行していた・・・・。
スキャンダルを利用した特機隊潰しが目的だが、その動きを先読みしていた組織があった。 「人狼」と呼ばれる、実在するかどうかすら定かではない諜報組織が・・・・。
逃げ場を失った伏と圭が辿り着いた下水道で待っていたのは・・・。
実は、押井守の世界でいちばん好きなのは、マトリックスの原点になったものではなく、「天使のたまご」。 そして、沖浦啓之とのコラボでいちばん好きなのは、TVシリーズの「赤い光弾ジリオン」、という、ちとズレた好みの私。
隠れアニヲタの私、アニメは極端なモノが好き。 完璧におこちゃま向けのアンパンマン方面か、完璧に大人の鑑賞に堪えるものか。思春期の子むけの恋愛モノや、 全年齢向けのジブリ作品にイマイチノレないのは好みのせいです。
今までは、何を観ても「AKIRA」を超えるのがないなぁ(※あくまでも自分の中でですよ〜)と思っていたのだが、 この作品にはヤラれましたわ。
上質のアニメと上質の音楽はワンセットです(断言)。 溝口肇の音楽はもともと好きだけれど、これは傑作としか 言いようがないですね。 トリハダものです。
架空の昭和30年代。 でも、なんじゃそりゃな近未来的な装備は強化スーツ以外特に出てこず、レトロモダSFとはまた違う雰囲気がいい。
近未来ではなく逆にごく近い過去、そこで繰り広げられる政府の陰謀と、殺人マシーンとして養成された、人の皮をかぶった狼としてしか生きられない男の悲哀。 要するにそれだけなんですよ。筋なんて。
舞台設定の特殊さと、映像と音楽、登場人物の声が完璧に 融け合って1つの美学を織りなしています。 そこに惹かれるのです。
タナトスの匂い漂う武藤寿美のゆっくりとした語り口。 闇の底のように静かで呪われていながらも、沼のように柔らかい 藤木義勝の低音。
結末ははじめから見えている。 そうなるしかないことがわかっているからこその痛みを伴う カタルシス。
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