日々雑感
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当てなく散歩して、足が止まった町にある銭湯に寄り道することが多い。
昨日は、できるだけ歩いたことのない道を選びつつ、新宿まで。よほど思い入れのある人か、迷いこんだ人しか来ないだろうというパン屋、そこだけ時間が止まっているような商店街などを抜けながら、ふと目をやると、南新宿駅のすぐそばに銭湯の煙突が見える。
新宿の高層ビル群を見晴るかす路地裏の、その名も「奥の湯」。入ってみると、思いがけず中は明るく、設備も新しい。入浴客はほとんど常連らしく、顔なじみの話などしている。このあたりに住んでいる人なのだろうか。
節分のときに飾ったであろう鰯の頭と柊の葉がそのまま残っていたり、銭湯では古くからの風習を大事に守っているところが多い。この「奥の湯」でも、年越しの大祓のための笹の飾りが入り口に施されていた。
変わってゆく街、その底に沈みつつ、残ってゆく事々。
風呂から上がって外に出ると、併設のコインランドリーの前に猫がいる。名前はわからないが、毛足の長い洋猫で、汚れた様子もなくこざっぱりとしている。口笛を吹いて呼ぶと、尻尾を立てながらこちらへ寄ってくる。
片目の猫だった。生まれたときからそうなのか、怪我か何かでそうなったのか、もう白い毛の中に埋もれて、かつてそこにもう一つの目があったということもわからない。
「完全」ではない、世からは「欠けている」と言われる、そういう物事があり、その中だからこそ残るものがある。人懐こい風情でこちらの足のすぐ側まで来ながら、それでも近寄らずに消えていった片目の猫。
どこに行っただろうか。行き先はあるのだろうか。
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