せきねしんいちの観劇&稽古日記
Diary INDEXpastwill


2009年09月21日(月) 音響打ち合わせとヒゲと眉の伸ばし始め

 9月21日(月)
 劇団劇作家の「劇読み」の稽古。
 すでに他の演目は先週から稽古が始まっているのだけれど、僕が担当している3演目5作品は、今週から。
 今日は、1本目の「時はおもちゃ箱につめこんで」(作、錦織伊代)。
 まずは自己紹介と簡単なシアターゲーム。
 それから、ト書きと台本の改訂部分の確認をして、読み始めた。
 ほんとうに初めての読み合わせ。
 これから計3回ある稽古のうちの一回目。
 初めましてのみなさんに、今年もよろしくのみなさん、一緒に文字通り、戯曲を「立ち上げて」いく。
 終了後、音響の青木タクヘイさんと音響の打ち合わせ。
 きっちり読み込んでくださって、細かくていねいに曲を入れる位置を提案してくれる。
 おお、なるほどと、演出の僕がおもしろがりながら、それでいきましょうとお願いをする。
 ばたばたと終電で帰宅。
 昨日終わった芝居が、まだどこかに残っているようで、ふと加賀川さんのセリフが口にのぼってきてしまうのを、もうおしまいと途中で止める。
 剃った眉とヒゲも今日から伸ばし放題にしてみる。
 眉はまだ影も形もないので、きっちり描いておいた。


2009年09月20日(日) 千穐楽と舞扇

 9月20日(日)
 千穐楽の舞台。九回裏。
 千穐楽だから特別な何かということは何もなく、ただ、いつもと同じで毎回違う、今を生きるそんな時間を舞台上で過ごす。
 終演後、劇団劇作家の篠原さん、佐藤さんが楽屋に来てくれる。昨日に続いてのIさんにも御挨拶。
 ばらしのお手伝いはほとんどできないまま、メークを落とし、着物を片付け、お世話になったかつらの手入れをして返却の準備をする。
 川和先生の奥様から加賀川役への贈り物をいただいた。
 松竹梅の金地黒骨の舞扇。自作の短歌が添えられている。
 「人の世の 習いに添った面つけ さらりと生きる 加賀川かなしや」
 実は、僕は加賀川さんを演じながら、哀しい人だなと思ったことはなく、劇中で「運がいい方」自分で言っているくらいなので、そうなんだなあとばかり思っていた。
 でも、言われてみれば、遊女に売られて、抱一に落籍されても、男を頼りにして生きるしか道はないわけで、そういう意味では、ほんとうに哀しい人だなあと、千穐楽の舞台の後で気がつかされた。
 今度やるときは(いつか、あるかどうかもわからないけど)そんなことも考えて演じてみたいと思う。
 打ち上げは、本来は休業日の「青葉」さんを貸し切りで、川和先生も一緒ににぎやかに盛り上がった。
 二次会に流れるみなさんと別れ、一次会で失礼させてもらう。
 気持ちよく舞台を終えることができて、本当にうれしく、ありがたい。
 ご一緒させていただいた、キャスト、スタッフのみなさん、そしてご来場いただいたみなさん、どうもありがとうございました!


2009年09月19日(土) 芝居の話と八回裏

 9月19日(土)
 今日も二回公演。
 昨日の夜から、着付けを共演の吉田幸矢さんと山口晶代さんのお世話になっている。
 写真は着付けた後の後ろ姿。初日と帯が違うのは、衣装の鳥井さんと相談して、もう少し派手にしてみたため。
 終演後、三枝嬢、目劇者のみどりさんたちが楽屋にきてくれる。
 三枝嬢からは、肌にやさしい「ウォータークレンジング」のボトルと、オーガニックなコットンの差し入れ。ブログを読んで心配してくれたそう。感謝。
 みどりさんたちからもうれしい差し入れ。にぎやかにしばしおしゃべり。ありがとうございました。
 ソワレの前に、ふと楽屋の化粧前で、松尾智昭さん、根岸光太郎さんと三人になる時間があって、三人並んだ化粧前で、芝居の話をいろいろとする。
 川和先生から聞いた、「城」の初演で、ヒロインの雪絵を演じていたのは新派の女形、喜多村禄郎さんだったということ。
 「根岸の一夜」を川和さんに渡されて読んだ松尾さんが、加賀川役は「女形じゃないですか」と川和さんに伝えたという話(それで、僕に出演の依頼があったんじゃないだろうか)。
 最初に読んだときは、ほんとになんだか分からなかった「根岸の一夜」を、演じているうち、演じているのを見て聞いているうちに、だんだんわかってきたという不思議について。
 などなど、今だから言えるというようなことをいろいろ話し、うかがった。
 ドラマチックな盛り上がりがあるようなないような、不思議な台本「根岸の一夜」をやりながら、演じていてとても楽しいのは、いいセリフがいっぱいあるせいかもしれないと思う。
 前半の、抱一上人と二人で、間に養子の八十丸(実生ちゃん)をはさんでの長い場面、松尾さんも僕も長セリフがずっと続くのだけれど、これがとってもいい時間なのだ。
 自分がどうやろうとか、どういうふうにこの場にいようかというようなことはさておいて(座り位置にはとても気をつけるのだけれど)、この場面の抱一上人の話がほんとにおもしろい。
 酒井家との関わりを洒落のめして語るセリフ、自分は絵描きしては上々の人生を歩んできたという話に加賀川がこんな話をする。

加賀川「思えば、私(わちき)も運のいい方ざますね。」
抱一「あはは、まずそうだ。その上にそんな子は出来て行く末の便りはある。ただこれからは命だいじに永らえて移ってゆく世をながめるのだ。『楽しみは命のほかはなかりけり、長らえて見る有明の月』年をとっての楽しみは、寂しくともただ命だ」。」
加賀川「だが上人さん、私は時々、思いいす。人間というものも、これが一生ならばつまらぬもの。しあわせというものも、大抵こんなことならば、いっそ生まれぬほうがまし。そう思いいすと、ふっと嫌な気持ちになりいして気が滅入り、何ともいえぬ気がしいす。」
抱一「ふむ、其方はそんな気が時々起こるか」
加賀川「あい」

 僕はこの場面の加賀川のセリフが、樋口一葉の「にごりえ」のおりきの言葉のように思えてしまう。
 「にごりえ」には「これが一生か、一生がこれか」というおりきのセリフがある。
 そんな加賀川に抱一上人は、「物はつきつめて思うものではない。(中略)物はぢっと見つめたり、思いつめたりするものではない。ただ軽く見ておくものだ」と話す。
 それを聞いていると、慰められるような、許されたような、とても静かな気持ちになれるのだ。
 どう演じるかということもとてもおもしろい場面なのだけれど、このセリフのやりとりの中に身を置いていること、この言葉を受け止めている時間が、なんだかとてもしあわせに感じられる。大好きな場面だ。
 終演後、小松川高校演劇部の後輩の西山くん、フライングステージのお客様のIさん、劇団印象のまつながさんが顔を出してくれる。
 西山くんとはほんとにひさしぶり。この土日は、小松川高校の文化祭なのだけれど、僕は名作劇場があるので、顔を出せない。みんなによろしくとお願いする。
 Iさんは、とても楽しんでくれて、明日、お友達と一緒にまた来て下さるとのこと。とてもありがたい。
 まつながさんから、「父産」の稽古のことをいろいろうかがう。フライヤーと台本をいただいた。来週末からは、また稽古が始まる。
 今日もスタッフルームでの缶ビール飲みに参加。
 そういえば、ソワレの開演前、誰かが「八回裏」と言っていた。全部で九回の公演、二本立ての二本目だから、たしかにそうなる。「まだ逆転のチャンスはある」というのに「え、負けてるの?」などと軽口を言いながら、開演前の板付きの準備をした。
 明日はいよいよ「九回裏」の公演。これでおしまいだ。勝ち負けはどうでもいいので、いい試合をしたいと思う。


2009年09月18日(金) 缶ビールと眉なしの帰宅

9月18日(金)
 二回公演の日。
 マチネ。本番中、セリフを言いながら口の中を噛んでしまう。
 「八十丸さん、八十丸さん」と呼ぶところの二度目の「さん」の「ん」で右の奥歯で頬の内側の肉を思い切り。
 痛いも痛かったが、びっくりした。で、その後の「上人さんがお呼びだよ」もなんだか変な音になってしまう。
 いつもとちょっと違う音、少し高めの音を出そうとして失敗したんだと思う。それにしても「ん」を言おうとして噛むっていうのも、何だかありえないことのような気がする。
 終演後、劇団劇作家の有吉さん、石原さん、劇団印象の加藤くん、桜澤凛さんが楽屋に来てくれる。
 加藤くんは、印象の「父産」で僕の息子を演じる予定。
 今日は「息子として」見に来てくれた。着替え途中の「おっ母さん」なまんまでごあいさつ。
 桜澤さんは、以前、名作劇場の「遺族達」に出演していたんだった。ひさしぶりなおしゃべり。
 ソワレ。
 このところ、毎回思うことなのだけれど、オープニングの酒井家御用人の某(「なにがし」、そういう役名なのです)、芸者のおきわさん、おとらさん、幇間の鼓八さんとのやりとりが、とても楽しい。
 冒頭の加賀川さんは、こてこての花魁言葉で某さんを煙に巻いてるので(僕は「花魁ごっこ」のつもりで演じてます)、やりとりよりは、どうしゃべるかということを意識していたのだけれど、初日が開いてから、舞台でのやりとりがどんどんおもしろくなってきた。
 某の杉浦くんが笑うのと一緒に、声を上げて笑ってみたり、幇間の初月くん、芸者の五弓さん、吉田さんを、三人まとめておしゃべりしているのではなく、一人一人に向けて話しかけるようにしてみたり、そんなことがいろいろできるようになって、ものすごくラクに舞台上にいられるようになってきた。稽古場でなんでできなかったんだろうと思ってしまうが、まずは、今、そんな時間を楽しめていることに感謝。
 終演後、母校小松川高校の演劇部の後輩の鈴木さんたち、それに相楽満子さんが楽屋に顔を出してくれる。また、着替えとメーク落としの途中でごあいさつ。
 着物を片付け、メークを落として、スタッフルームでの缶ビールでの乾杯に参加。
 スタッフ、若手キャストのみなさんと。
 22時撤収なので、ばたばたとあわただしく。
 終演後すぐのビールは、このタイミングならではおいしさ。
 帰り、両国の駅で、メークを落としたままで眉を描いていないことに気がつく。
 うわ、駅のトイレで描こうか?と思ったのだけれど、毎朝、眉を描かないまんまで劇場入りしていることに気がつく。
 なんで、帰りにだけ、描かなきゃという気になったんだろう? いや、なんで毎朝、家を出るときに描かなきゃという気持ちにならないんだろう?
 乗り換えの亀戸駅のトイレでさくっと描いて、駅近くのドンキホーテでキャットフードを買って帰宅する。
 写真は、今回お世話になっている地味顔化力ばつぐんのかつらです。


2009年09月17日(木) マチネのみの日とパック

 9月17日(木)
 今日はマチネのみの日。
 開演前の仕事の順番が大体決まってくる。
 まず、着物の下着をつける。膝のサポーターをつけて、足袋をはく。
 それから、ヒゲと眉を剃って、化粧水。羽二重を付けて、ファンデーションを塗って、メーク。
 下げ髪の地味顔化力が強いので、今回和物なのだけれど、つけまつげをつけている。
 メークは、それでもドラァグクィーンや女装のときよりは、かなりおとなしめ。
 それから着付け。
 「城」が開演して30分後くらいに、衣装の鳥井照子さんと共演の吉田幸矢さんが、二人がかりで着付けてくれる。
 吉田さんは、稽古もほとんどずっと着物で来て、そのまま稽古をしてたくらい着物を着慣れた方だ。
 そして、ものすごくきちんと着付けてくれる。帯を締めるときの力の強いことと言ったら。
 細い身体のどこにそんな力があるんだろうというくらい、きっちり締めてくれる。感謝。
 着付けが終わると、かつらをかける。
 今回、仕掛けがあるので、生え際を整えた後、下げ髪の部分の仕掛けを共演の初月佑維さんが付けてくれる。吉田さんもそうだけれど、同じ、幕開きの板付きにいる役を演じているのに、出番の直前に、とてもありがたい。
 ぐーんと後ろに重みがかかるのを感じると、これで出の準備が完了。
 懐に入れる小道具の確認をする頃には、「城」が終演している。
 今日は、マチネ一回きりの公演。
 1時間ちょっとの舞台なので、どう考えても舞台上より楽屋で準備をしている時間の方が長いのだけれど、今日はいつも以上に舞台上でラクに息をしていられたような気がする。
 終演後、見に来てくださった東工大の谷岡さんと打ち合わせ。
 11月に講演というか、一人芝居をするのだけれど、そのタイトルやら内容やらをあれこれ話し合う。
 一人で考えているときよりも、二人で話している方が、いろいろなアイデアが浮かんで、しかもそれがみんな具体的に立ち上がってくるのがおもしろい。
 いいものになりそうな予感。「根岸の一夜」が終わって、劇団劇作家の劇読みの演出、それから劇団印象「父産」の次の舞台。
 まだまだ時間があるので、いろいろ工夫して冒険してみようと思う。
 夜、早めに帰宅できたので、洗濯。足袋や肌着、サポーターやらをまとめて。夜洗った洗濯物が翌朝には乾いているのが大助かり。これが冬だったら、乾燥機のお世話にならないといけないところだ。
 メールのやりとりをいろいろしながら、ひさしぶりにパックをしてみる。
 舞台メークで肌が荒れてくるように思えるのは、年齢の問題もあるだろうけれど、化粧を大急ぎで落とす時のクレンジングシートのせいなのだと友達に言われた。
 クリームで油分を補給しながら落とすのと、石油からできた(たぶん)何かでえいっと落とすのでは、肌にかかる負担も全然違うんだろう。
 で、パック。眉がないせいで、とっても簡単!
 もう少しで、おでこからあごまでが一枚につながってはがれるところ。
 ちょっとすっきりして、お風呂に入り、たまった日記のアップロードをのんびり始めた。


2009年09月16日(水) ラジオ体操と猫日記

 9月16日(水)
 2日目。
 小屋入りしてすぐ、有志(若手キャスト)のしきりでラジオ体操。
 何年ぶりだろうと思いながら、一緒にやってみる。
 かんたんにできたはずの動きが、え?というくらい大変なことになっている。
 びっくり。
 毎日、これをやってるだけで、結構な体調キープになるかもしれない。
 まんべんなくあちこち伸ばされ、ウォームアップをした気分。
 マチネ、ソワレの二回公演。
 マチネにマミィともっちゃんが来てくれる。もっちゃんに「おっかさん!」何度もと言われる。しかも、笑いながら。そんなに笑うかと思いながら、たしかにそのとおりと、納得。
 ソワレ。
 舞台はライブだと実感することいろいろ。
 終演後、目劇者のオジーさん、東屋さん、それにフライングステージの水月アキラが来てくれる。
 かつらを取って、メークを落とそうとしていたら、先に帰り支度を終えた共演の五弓さんに、「あ、メーク足したでしょ?」と言われる。
 たしかに、今日の本番は、ゲネの頃よりは濃いめのメークだけど、五弓さんは「芝居を終えて、試しにまた足してみた」んじゃないかと思ったんだそう。
 「そんなことしません!」と言いながらも、下げ髪のかつらをかけているときよりも、かつらをとったままの素頭の方が、メークが引き立って見えるのはたしか。
 五弓さんも実生ちゃんもそう思うと言っていた。
 下げ髪のかつらの力は、地味顔にしてしまう力はすごいんだなあと実感。
 早めに帰宅したので、このところすれ違っている猫たちと顔を合わす。
 最初に来た黒いのがなかなか帰らずにベランダにいるなあと思ったら、しましまがやってきて、なにやら挨拶をしているよう。
 黒いのが帰って行き、今度はしましまがやってきた。
 今日は缶詰を切らしてしまったので、カリカリのみ。
 それが気に入らないのか、しばらく食べようとしないでじっと座っている。
 写真はその様子。
 見えにくいのだけれど、べろがちょっとはみ出てる。
 20分ほどそのままでいた後、あきらめてかりかりを食べて、帰っていった。
 夜中、歌舞伎のビデオが見たくなって野田秀樹の「野田版、研辰の討たれ」を見る。
 着物をしっかり着ていても、そんなの関係ない動きが新鮮。
 そうだよ、着られてるうちはダメなんだよと気がつき、明日の目標を見つけたような気持ちになる。


2009年09月15日(火) 初日と後ろ姿

 9月15日(火)
 午後からゲネプロ、夜、本番。
 屋台の揺れはスタッフのみなさんのおかげで、ずいぶん軽減。ほっとしながら、何度も歩いて、確認をする。
 ゲネは、下げ髪のさばきにやや失敗。余計に顔にかかってしまい、途中から気になりだし、集中力がとぎれがちに。
 本番前にかつらの手入れをきちんとする。その後、しっかり着付けをしていただいて、本番に臨む。
 鳥井さんのお知り合いの踊りの先生が、わざわざ来てくださった。
 大柄、太めな僕の身体にきっちりと帯がフィットしてる。とてもありがたい。
 写真は、着付けていただいた後ろ姿を、化粧前をとなりにさせてもらっている根岸さんに撮っていただいたもの。
 初日の公演は、無事終了。
 久しぶりな丁田政次郎くんが楽屋に来てくれる。
 何年ぶりだろうという話になり、山崎哲史くんの書いた「夜曲」に彼と桜澤凛さんが出演したのを演出して以来かもしれないと話した。
 彼は今、作家として活躍している。こうして久しぶりに会えたのがとてもうれしい。
 初日乾杯は、名作チーム行きつけの中華「青葉」にて。松尾さんと今回、初めてご一緒する。
 ごちそうさまでした。


せきねしんいち |MAILHomePage

My追加