せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2009年03月13日(金) サーカス劇場「カラス:

 タイニイアリスにサーカス劇場公演「カラス」を見に行く。
 冒頭から、舞台を走り抜けるバイク、リアルなガード下が再現されている装置、そして、妖しい風体の「カラスおばさん」を演じるワダ・タワーさんの歌と、一気にワクワクさせられる。
 演出は、唐☆ゼミの中野敦之さん。芝居の見せ方がなんてうまいんだろう。
 昨日の池の下の寺山修司につづき、今日は、唐十郎。アングラ、2DAYSだ。
 今日の俳優陣は、たぶんにアクが強く、こういう身体がまだまだあるのだなあと、おもしろかった。昨日の舞台のことも、ひるがえっていろいろなことを考えることができた。
 場面が固定された群像劇で、しかも戯曲のテイストが唐十郎というのは、なかなかに高いハードルだったんじゃないかと思う。全部の人物が登場してからの物語の展開に、もう一工夫ほしかったような気もする。
 というか、僕としては、カラスおばさんをどかんと中心に据えた物語が見たかったんだなあとあとから思う。
 終演後の宴会にお邪魔して、出演の久米さん、タワーさん、そして森澤くんとおしゃべり。舞台上とは、全然違う素朴なキャラクターの俳優陣にちょっとどきどき。


2009年03月12日(木) 演劇クラブ発表

 富士見丘小学校の演劇クラブの発表を見に、富士見丘へ。
 朝の全校集会での発表、開演は8時30分。上演時間は15分とのこと。
 学校の前の横断歩道で、一昨年の卒業生、中学2年生のマツザワくんに「関根さん」と声をかけられる。ときどきブログ見てますと言われてびっくりするが、とてもうれしい。
 演劇クラブの顧問、馬場先生に聞いたところによると、何を盗むかという話し合いの中では、理科室のマンモスの毛や、校長先生の私物といったアイデアもあったそうなのだけど、結局、図工室の前に飾られた「モナリザ」の絵ということになったとのこと。
 今日までに学校中に「モナリザはいただく」という謎の張り紙が貼られていた。
 一年生などは「どろぼうか来ちゃう!」とあわてて窓に鍵をかけたり、泣き出してしまった子もいたそう。すごいなあ、この演劇が学校中の一大事になってるかんじ。
 そして、全校集会での発表というのもすばらしい。
 泥棒が来るという噂を聞き、どうしようと話し合う子供たちの一群。彼らは本舞台にせいぞろい。予告状の他に、何か泥棒のことで知ってる人はいない?という問いかけに、客席にいた子が手を挙げて話し始める。この二人の子はどちらも演劇クラブの子なんだけど、当たり前のように客席と一緒に芝居しているそのかんじがすごい。そして、声がよく通っていることといったら。先週(?)学校前のローソンを襲撃したものの失敗した泥棒達の様子を、きっちり語っていった。
 この仕込みの二人の他に、一年生の男の子が、僕も・・と手を挙げていたのが、おかしかった。担任の先生があわてて、止めに行ったのだけれども。
 泥棒たちは、体育館の後ろからこっそり入ってくるので、観客になる各クラスには「泥棒たちはこっそり入ってくるので、見つけても騒がないように」というお願いが、担任の先生方から伝えられていたそうな。それもまたおもしろい。
 こっそりやってきた泥棒たちは、あっけなくつかまってしまうのだけれど、物語の他愛なさはさておくとして、全校生徒と一緒になって生み出されていく、この時間、演劇的な時間がすばらしかった。
 「お芝居をつくろう!」で活躍していた何人もが、違う役を生き生きと演じていることが、もう身内の感覚で楽しい。15分という短い上演時間だったけれど、大満足。お疲れ様でした。
 夜、シアター1010のミニシアターで、演劇集団池の下公演「疫病流行記」を見る(作:寺山修司 演出:長野和文)。
 俳優はみんな白塗りで、演技も多分に様式的。予想していたイメージは、「アングラ」だったのだけれど、思っていたより、さらさらときれいな舞台だった。
 寺山修司の戯曲が持っている毒の部分が、きれいに洗い流されてしまっているような印象。
 どんなにきれいにやっても、きれいになりきれない、アクのような部分が、寺山修司にはあるように思っていたのだけれど、そうとも言えないのだと気づかされる。
 そのアクは、戯曲ではなく、俳優の身体に依るものなのかもしれない。もしかすると、これから、寺山修司の劇世界の表現は、だんだんむずかしくなっていくのかもしれないなあとも思った。


2009年03月11日(水) 感謝の会と稽古場

 午後から、富士見丘小学校の卒業を祝う会。
 校長室で、先日の卒業公演の感想を子供たちが書いた作文「卒業公演文集」をいただき、午後からの舞台を近くの高井戸小学校の6年生全員が見に来ての感想文集と一緒に読ませてもらう。
 高井戸小学校の6年生は、当日、とてもきちんと発表を見てくれていた。
 同じ6年生という立場から、「卒業を控えた忙しい時期にすごいと思う」という感想がとてもおもしろい。そのいたわりの感覚。
 そして、富士見丘小学校の演劇の伝統を、「200年、300年続けていってほしい」と書いてくれた子、また、「台本も歌も生徒が作っているのがすごい」とか、「一年間かけてつくっているのがすごいと思う」といった感想がうれしい。
 舞台の感想の「おもしろかった」ということだけではない、創り上げるまでの背景まで想像してくれているのがとってもすばらしいと思う。
 富士見小の6年生の感想もとてもすばらしい。
 毎回の授業の後つけていた「演劇ノート」を見ながら書いたんだろうなあと思えるほど、一年間の演劇授業のことをていねいに振り返っている。
 僕や篠原さん、健翔さんや渡邉さんが授業の中で言った言葉が、あちこちに顔を出している。言葉を覚えてくれているのはとてもうれしい。
 稽古の初めの頃は、あまり乗り気じゃなかったのに、オーディションでやりたい役になれなかったけど、今はあの役を演じることができてとてもうれしかったという感想。
 本番を休んでしまった三人の子供たちの感想は特にドキドキしながら読ませてもらう。
 2人は本番は出られなかったけど練習もいい思い出だったと書いてくれて、ほっとする。
 そして、インフルエンザだった一人の子は練習がどれだけ大変だったかを細かくていねいに書いた最後の一行に「やっぱりやりたかった」と書いていて、とても切ない気持ちになった。
 祝う会は、保護者の方が主催と司会進行、体育館に子供たちと一緒に座って、保護者のみなさんの歌や、6年生の歌と合奏があったり。そして、6年生の今と入学当時(orもっと小さい頃)の写真のスライド上映があったり。今の写真には、一言ずつのコメントが。カズマ役を演じた彼は、「将来は俳優になりたい」と書いてくれていた。
 一言挨拶をということで、僕からは、演劇は、本番の舞台の成果がすべてということが多いというか常識ですが、富士見丘小学校の卒業公演は、本番の舞台だけではなく、そこに至るまでの練習や話し合いもとても大事なんだなあと、今年は特に思いました。当日見に来てくれた高井戸小のみんなも、そのことをちゃんとわかってくれているのが、すばらしいと思いました。これから、大人になっていくと、結果よりもそこにいくまでの経過が大事なんだということは、なかなかないかもしれません。でも、みなさんは、今回、本番の舞台と同じくらい、そこに至るまでの練習や話し合いをがんばった。そのことの大切さを、これからも忘れないでいってくださいと。
 篠原さんからは「兎と亀の競争の話をモチーフに、足の速い兎が油断して、努力を積み重ねた亀が勝つというのがイソップ童話ですが、なんで兎と亀は競走をしたんでしょうね? もし泳ぐことにしたら、亀は楽々と勝ったでしょう。兎さんは走るのが速くてすごいなあ、亀さんはなんてかっこよく泳ぐんだろう、そう思えるのが、演劇だと思います」と。いい話だ。
 お母さんたちは、「手紙 拝啓十二の君へ」を全員で歌ってくれた。
 そして、子供たちは卒業公演のエンディングの「それぞれの宝箱」を歌ってくれた。今までで一番声がよく出てた。そして、合奏は「宙船」。卒業公演の歌の作曲をがんばってくれた二人の男子が、ドラムとピアノを担当。かっこいい。
 そして、全員で歌。グリーンの「キセキ」なんだけど、そんな急に言われても・・・歌ったことないよと思いながら、いただいた楽譜を見つつ、歌ってみる。
 最後は、仰げば尊しのピアノが流れるなか、先生方と一緒に子供たちがつくったアーチの間を通って退場。なんだか、僕たちが卒業するみたいだねと言い合う。
 記念品として、感謝の言葉が書かれたカードと、ハンカチでつくった花をいただいた。
 校長室で、子供たちの文集の続きを読ませてもらう。先生方とも、公演の後の子供たちの様子などをいろいろうかがう。
 明日は、朝の全校集会で演劇クラブの公演があるそうだ。篠原さんと二人、また明日伺いますねと言いながら、失礼する。
 夜は、ダダこと岡田梨那ちゃんが出演している劇団印象「青鬼」の稽古場におじゃまする。
 芝居全体がわからないまま稽古を見るのは、おもしろいパズルを解いてみるようで、ドキドキする。
 作演出の鈴木さんの稽古の進め方、台本の中で何を大事にしているのかということなど、いろいろ考えながら、楽しい時間をすごさせてもらう。
 なんだかおいしい匂いがすると思ったら、炊き出しのクリームシチューを制作のまつながさんがつくってくれていた。寒い夜、とてもおいしくいただく。ごちそうさまでした!


2009年03月09日(月) 演劇ぶっく

 仕事帰りの北千住、マルイの地下で、小池れいさんにばったり会った。
 シアター1010のアトリエで上演される演劇集団池の下の仕込み中だとのこと。びっくり。しばらく近況などをおしゃべりさせてもらう。
 ひさしぶりに演劇ぶっくを購入。いわき総合高校の第五期生が昨年上演した「あらわれる、とんでみる、いなくなる」の記事が載っているのだ。
 五反田団の前田司郎さんが、昨年の夏、作演出をした舞台が、12月に五反田団のアトリエで上演された。
 野球部の応援をどうするかと相談している女子8名。応援のための選曲をパフュームにするか、Paboにするかを話しているうちに、近くの勿来の町が伝説の怪獣マソンに襲われているとの知らせが入る。さあ、どうするという状況になるかと思いきや、そうでもなく、彼女たちは、野球部の男子への恋の話やら、エコの話やら、勿来にいる鍵っ子の幼稚園児の友達の話やらを、ゆるゆるとしている。
 ああ、言葉では全然伝わらないのだけれど、これはほんとうにおもしろかった。
 みんなが話すいわき弁がなつかしくもあたたかく、そしてとってもゆるくひびく。
 世の中は大変だけれども、とりあえず私たちはそれどころじゃないというかんじが、今の高校生らしさでいっぱいだった。
 今回、編集部のインタビューに答えている彼女たちのコメントも、ああ、こういうこと言いそうだわと思えて、とてもほほえましい。
 卒業して、みんなそれぞれの道に進んでいくのだけれど、系列の演劇授業の経験が、彼女たちの中で大切なものになっているようでとてもうれしい。
 僕も、アトリエ公演の舞台を一緒につくる中、たくさんの大切なものをもらえたと思う。
 今度会うときは、大人どうしになってるんだろうか。
 富士見丘小学校の卒業生とはまた違う、卒業生たち、いつかまた会えるのを楽しみにしていたいと思う。


2009年03月07日(土) 小松川高校演劇部卒業公演「卒業したくないヤマアラシ達の遊び」

 母校小松川高校に演劇部の卒業公演を見に行く。
 いい天気。 今日から春、そんな陽気だ。
 総武線の中で本を読んでいて、うっかり乗り過ごし、新小岩まで。読んでいたのは、この間亡くなった中村又五郎さんのことを描いた池波正太郎の「又五郎の春秋」。
 開演時間ぎりぎりに到着すると、会場の視聴覚室の狭い舞台にイスやら掃除用具のロッカーやらが無造作に並べられている。
 明日に卒業式を控えた三年生が「卒業なんかしたくない!」と、校内にバリケードをつくって立てこもるお話。
 ありあわせのものでつくったバリケードが、「レミゼラブル」のようでよくできている。
 生徒会長とその友人たち、それから後輩たち。初めはわいわいおもしろがっている彼らが、一人減り二人減りというかんじで、いなくなっていく。
 棘で自分をよろっていたヤマアラシ=会長の針が一本ずつ抜けていく様子が、ハンガーで針を表しながら、立てこもっていた仲間達が一人ずついなくなる様子とシンクロさせた演出がかっこいい。
 なんで卒業したくないのかという理由より何より、卒業しないで、今のまんまみんなでわいわいこうやっていたいよね!という気持ちがまっすぐに伝わってくる。
 ここ数年の小松川高演劇部の公演の中では、かなりおもしろく、よくできていたと思う。
 何より、上手にやろうとかじゃない、その場を生き生きと生きるということを、全員が全うしていることに感動。
 脚本・演出はOBの麹くんこと酒寄拓くん。同期の也くんに、もっちゃんもスタッフとして手伝っている。それもまた暖かくていいなあと思う。
 終演後、教えてもらってびっくりしたのだけれど、今日は卒業式だったのだそうだ。
 そういえば、やけに校内が人でいっぱいだった。
 卒業式の後に、卒業公演って、すごいと思う。
 出演者が、みんな生き生きとしていたのはそのせいもあったかもしれない。
 終演後、OBのミチキヨくん、キミーちゃんから、彼らの同期の近況を聞く。
 そういえば、彼らの代は、卒業式の後、4月になってから卒業公演を企画したんだった。
 芝居の世界に飛び込んでいるメンバーが何人も。がんばれ!と思う。
 近くの区民館でOBと現役生との交流会があるというのを、仕事のため、お先に失礼する。
 卒業おめでとう! そして、素敵な舞台をありがとう。


2009年02月27日(金) 富士見丘小学校卒業公演「お芝居をつくろう」

 朝から雨。僕の熱はようやく平熱にもどった。
 さあ、子供たちもみんな来れたかな?と授業の前、校長室に行ったら、昨日、代役をお願いしたマサキ役の彼がダウンしてしまい、お休みだということが判明。他に、女の子がもう一人欠席。トシキ役もお休み。キャストが3人いない本番。どうしよう。大人はほんとうに途方に暮れた。
 校長室で相談。先生方は、大人が代役で入ってほしいという意見を言ってくれる。健翔さんからもいろいろなアイデアが出た。そして、いろいろ話し合った結果、子供たちに決めてもらうことにした。
 体育館に集まった全員を前に話をした。
 本当は、今日のこの時間は「6年生を送る会」の時間だ。下級生がいろいろな出し物をしていたはずなのだけれど、下級生にお休みが多いので、一昨日急遽、延期ということになり、6年生が本番の直前に練習ができることになった。
 その時間に、練習ならぬ話し合い。
 正直に話をした。「僕たち大人は、みなさんの芝居の中に入って代役を演じることもできます。カンペを持って客席から手伝うこともできます。でも、これはみなさんの芝居です。どうすることが一番いいか、みなさんで決めてほしいと思います。じゃあ、輪になってください。」
 全員で輪になって腰を下ろし、意見を言ってもらった。はからずも劇中の場面と同じだ。外クラスの子からは、アイデアを提案しているのは外クラスなんだから、外クラスがセリフを言ってもいいと思うという意見が出た。みんな誰かに任せるという意見ではなく、自分たちにできることをやりたいという意見だと聞きながら気がついた。みんながそれぞれの意見を言う中、やっぱり中クラスのみんなに決めてもらおうということになり、いつもの3チームに分かれた。
 この時間では、今日、一週間ぶりに学校に来ることができた魔法使いアリスのための練習もしないといけない。
 僕は、魔法使いと火星人の練習の担当。魔法使いのヘッドドレスがとてもかわいい。昨夜夜遅くまでかかってつくってくれたものだ。全員そろった魔法使いチーム、元気にもりあがった。火星人チームも、いいチーム感で安定してきた。転校生と先生と役人たちにも、もっとこうしてみたらといろいろアドバイス。
 その間、篠原さんが見てくれた中チームでは、マサキとトシキのセリフをどうするか話し合い、結果、いるメンバーで割ろうということになった。
 一つ一つのセリフを誰が言うことができるかを、子どもたち一人一人が提案した。場面によっては動きもある。僕ならここで一緒にサッカーに行かなくてもだいじょうぶ。ここで急に強気になるのはおかしいから、自分じゃない方がいい、などなど。
 外クラスチームは、この芝居全体のテーマになる設定を提案する役である和馬役の彼を中心に、ミーティング。輪になって。こちらには渡邉さんがついていてくれたのだけれど、彼がまとめる必要もないくらい、活発に「もっとこうしたら」という意見が出たそうだ。
 そして、中クラスが、セリフを分担して一度ずつ軽く練習してみたところで時間切れ。4年生がイスをもってくる時間になったので、特活室に移動する。
 雨は雪に変わった。「去年だったらよかったのに」と火星人のリーダーが言った。去年の「雪の降る日に」の設定そのままの天気だ。
 特活室で最後のミーティング。僕からは、がんばって伝えてくださいと。健翔さんの「行くぞ」「おー!」という気合いに、ラストの歌詞「大変だったけど、楽しかったよ、みんなといたから」を足して、みんなで大声で繰り返した。
 そして、本番。
 1年生から5年生までが見ている前で。
 今回の芝居はディスカッションドラマだ。しかも、体育館全体の広いエリアを使う。劇中劇の構造も複雑だ。外クラスのみんなが提案する「こんなお芝居はどう?」というのが、そのまま中クラスで演じられるスタイルの芝居になっている。
 低学年にちゃんと伝わるだろうか、ちゃんと大人しく見ていてもらえるだろうかというのが、とても心配だった。
 でも、それは余計な心配だった。下級生の子供たちはずっとみていてくれた。客席の後ろで見ていると、場面が体育館のフロアの真ん中から、本舞台、体育倉庫側のひなだん(外クラスのみんなはここから全部を見ている)へと動くたびに、子供たちの頭がいっせいに動くのがわかる。
 照明の伊藤さんから聞いた話。下級生は大きなパイプイスに座っているのだけれど、二列目以降になるとかなり見えにくかったらしい。頭を左右に動かして見ていたのが、思いついて、イスを降りて立って見ることにした子がいたそうだ。でも、立った時点で、座っているときより背が低くなってしまい、あきらめて、またイスに座ったんだそう。
 直前に練習したセリフの割り振りは、まるで初めからそうだったかのようにスムーズに進んだ。誰もほんの30分前に急遽練習したセリフだとは思わないだろう。
 大人が考える「ショーマストゴーオン」とは全然違う、もっとやらなきゃいけないことをやるのが当たり前という姿勢で子供たちは芝居をつくりあげた。割り振られた子がピンチヒッターでスターになるというのでもなく、ほんとうにみんなのために、当たり前のことをしているだけというように。こんなこと、絶対に大人にはできない。昨日、伊藤さんに聞いた記憶力のピークは12歳というのが本当なんだとしても、すごすぎる。昨日のマサキ役の彼のがんばり方が、子供たちみんなに「やればできるんだ」と火をつけたのかもしれない。
 火星人が登場する場面。伊藤さんがバックライト仕込んでくれた。逆光に浮かび上がる妖しい姿、と登場するのは赤いタコの形の火星人。下級生は大喜びだった。
 魔法使いのかわいい衣装も女子に大受けだった。
 そして、終演。今朝の授業開始前には、無事に開演できるんだろうかと、ほんとうに心配だった舞台が見事に幕を下ろした。子供たちのがんばりのおかげで。
 4時間目は特活室で振り返り。
 講師陣から一言ずつという時間になって、胸がいっぱいになる。この文章を書いている今もそうだ。
 子供たちに輪になって座ってもらい、感想を言い合ってもらう。劇中と同じに次の人を指しながら。
 助け合ってできてよかったという意見がなによりもうれしい。
 僕は、急遽割り振ったセリフなのにきちんと演じてくれてすばらしかったです。今日はお休みの3人の声や演技が、みんなの声や演技から浮かび上がってくるようでしたと話した。
 あと一回、今度は一般の公開。
 給食の後、特活室に集合して、午前中と同じように気合いを入れる。
 そして、本番。
 今年は、上演中の撮影を一切禁止した。写真もビデオも。おかげで観客の大人たちがとてもきちんと集中して見てくれるようになったのがうれしい。
 昼間は受けなかったセリフのおもしろいニュアンスやつっこみで客席が沸き、演じる子供たちもどんどんリラックスしていった。
 一回目はドキドキだった急遽割り振ったセリフは、もう何のあとかたもなく演じている彼ら一人一人のものになってしまっている。すごいなあと思いながら、芝居って残酷だなあとも思う。
 ラスト近く、今日でこの小学校は廃校になると話す先生にざわめく教室、やってきた国の役人が「落ち着いてください」と言ってもおちつかず、「座りなさい」と言っても席に着かない子どもたち。僕は、ここで子供たちに「座りたくなかったら座らなくていいから」と話し、役人役の彼には「座るまで『座りなさい』って言っていいからね」と伝えた。今日は、その「座りなさい!」が初めて4回繰り返された。そして4回目の「座りなさい!」はびっくりするくらい迫力があった。その後、悠然と子供たちを見ながら歩く役人の彼。小柄な彼がとっても大きく見えた場面だった。彼は、永井さんの授業で、犬が乗り込んできたエレベーターで一人困っていた男子を切なく演じていたんだった。
 ラストの歌。稽古の始まりでは、エンディングの位置のまま客席を向いて歌っていたのを、稽古の後半、輪になって内側を向いて歌う演出に変更した。その方が声が出やすいし、「みんなで」歌っている気がして、声も出やすくなるじゃないかと思って。
 間奏で本舞台前のひなだんに移動、整列して2番を歌う。「信じることで初めて開く、心の中の宝箱、ひとりひとりのたから箱、今はみんなのたから箱」。
 そして、芝居は終わった。拍手。お疲れ様でした。
 特活室の振り返り。みんな実にいい顔をしている。ほんとうによかった。今、こうしてみんながいい顔をしてここにいてくれることが、とってもうれしいです、と話した。
 うまくやろうというようなことだけじゃなく、ほんとうにみんなに力を合わせて助け合って、芝居をつくったんだと思う。
 芝居の出来も大事だけど、そこに至るまでの過程が大事なんだ、それが、授業で演劇をやることの意味なんだと改めて思った。
 伊藤さん、篠原さん、渡邉さんと照明の片付け。
 三年前に卒業したヤエガシくんたちが来てくれる。「放課後の卒業式」の年の彼らだ。みんな中学三年生。女子がぐーんと大人っぽくなっている。
 ヤエガシくんにギャラリーの照明の片付けを手伝ってもらいながら、おしゃべり。高校の合格が決まったと報告。おめでとう。二人そろって、永井さんの後輩だね。同じ高校に受かったアンドウくんとは、中学の野球部でがんばってたんだそう。ヤエガシくんもアンドウくんも、卒業公演は即興劇のエレベーターのパートに出演していた。ヤエガシくんの妹は、今年の6年生で、出演していた。「見てるとやりたくなっちゃう」という言葉がとてもうれしかった。
 その後、先生方と振り返り。今年もまたいい芝居をみんなで造ることが出来てほんとうにうれしい。
 今日の朝の一時間の話し合いの時間が、どれだけ中身の濃いものだったかということを、みんなが話した。子供たちがどうしたらいいかを話し合ったあの1時間は、富士見丘小学校でなければ、絶対にありえない時間だったと思う。
 何年か前だったら「こどもたちに決めてもらう」という選択肢は、僕らの中から出なかったと思う。
 今、その選択肢を当たり前のように思いつけること、子供たちを信頼することができること、そして、子供たちが実際、話し合いの結果、どうするかを決めることができたというのは、富士見丘小の演劇授業の忘れてはいけない大きな成果だと思う。上演した舞台の出来のすばらしさだけが、すべてじゃない。
 「どんなことがあっても芝居の幕は開けなきゃいけない」「ショー・マスト・ゴー・オン」という話を、子供たちにしたことはないのに、子どもたちは、当然のようにそれを実践した。
 演劇人として、こんなにうれしいことはない。ありがとう、みんな。拍手。


2009年02月26日(木) リハーサル

 1、2時間目を小返しの練習にあてて、3、4時間目で通し稽古というか、本番前の最後の通し、リハーサル。
 明日の本番にインフルエンザのため参加できないトシキ役の彼の代役を検討する。トシキは、中クラスの中ではわりとセリフの多いキャラクター。
 大人が相談した結果を中クラスのみんなに伝え、練習してもらう。
 何人かにセリフを割り振り、今日、風邪から復活して来てくれたマサキ役の彼に、その中でも長いセリフをお願いする。彼は、永井愛さんの即興劇の授業で、犬になってエレベーターに乗りこんだ子だ。今回も、クラスの中でもクールなキャラクターを自然にのびのびと演じてくれている。病み上がりで申し訳ないのだけれど、がんばってほしい。
 リハーサル開始。
 オープニングのダンスをふわふら踊っているマサキ役の彼を見ていると胸がいっぱいになる。がんばれ!と心の中で声援を送る。
 割り振ったセリフは、芝居が始まったら、みんな見事に自分のものにしてしゃべってしまえていることにびっくり。一度練習しただけなのになんで? どれだけ、人のセリフを覚えてるんだ!?
 マサキ役の彼にお願いしたトシキの長いセリフ、渡邉さんがプロンプターでついていてくれたのだけれど、これも彼が当たり前のようにさらさらとしゃべり始めたのでびっくりする。受け答えだけじゃない自分の気持ちを話すセリフ。3つあるうちの最後の1つが出てこなかったのだけれど、それでもとんでもないことだと思う。こんなことができてしまうってどういうことなんだろう。
 リハーサルの前にみんなに話した、誰かが失敗したら「なんだよもう!」と怒るより、「だいじょうぶかな?がんばれ!」と思うほうが、芝居はよくなるということを、みんながそのまんまやってくれた、そんなリハーサルになった。みんなで力を合わせて60分の芝居をみんなが生きた。そのことがすばらしい。大人も一緒にがんばった。
 5時間目にも急遽練習ができることになったので、歌の練習とラストシーンの練習をする。
 そして、子供たちと振り返り。
 明日の一二時間目も練習はできるけれど、明日になってやってくる子のための最後の練習にあてたいということを伝える。だから、今日までにやったことは、ちゃんと確認をしておいてくださいと話す。
 最後に、明日の本番に備えて、今日お休みだった女の子が明日のお休みだったら、セリフをこう分けますという案を伝える。一応、練習しておいてねと。でもでも、どうかがんばって来てほしいと思う。
 大人たちは、伊藤さんと一緒に照明の仕込みに取りかかる。
 去年の卒業生のイナバさんとニヒくんが来てくれた。今日まで試験休みなんだそうだ。1年ぶり。二人ともすっかり大人になったなあというかんじ。楽しくおしゃべりする。
 18時近くまでかかって終了。
 その間、校庭ではサッカークラブが練習をしている。火星人役の彼たちも元気に走り回っていた。
 さあ、明日は本番。


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