せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2008年09月30日(火) 「グッド・ドクター」

 かめありリリオホールヘ「グッドドクター」のゲネプロを見せていただく。
 ニール・サイモンがチェーホフのボードヴィルを元に構成したオムニバスの舞台。「名医先生」というタイトルで何度も見ている作品。
 演出は、石井愃一さん、 出演は、立川三貴さん、三田和代さん、松本紀保さん、小野ヤスシさんといった実力派&個性豊かなみなさん。
 味のある役者が演じるとこんなにおもしろくなるんだという印象。
 特に、大好きな三田和代さんのコメディの舞台がとてもうれしい。
 四季時代のチェーホフの「かもめ」「桜の園」、アヌイの「アルデールまたは聖女」といった舞台での演技がなつかしく思い出された。
 いつも思うことだけれど、三田さんの芝居はあんなに明晰なセリフなのに、いつも体が言葉より先にある。
 今回の役々でも、まず体が人物を表現しているその様子をみているのが、とても勉強になった。
 そして、三田さんと二人で女性役をすべて演じている松本紀保さん。これまでなかなか納得できなかった「オーディション」という場面の若い女優の役がすばらしかった。
 風邪を引いて熱がある中、田舎町のオデッサからモスクワへやってきた女優のオーディション風景。
 最後に演じる三人姉妹のラスト。マーシャ、イリーナ、オーリガの三人を順に一人で演じていくのだけれど、見えないはずの彼女たちが一人ずつ舞台にいるのが見えるようだった。
 このニーナという役の演劇や劇場へのひたむきな愛情が、こんなにまっすぐ伝わってきたのも初めての経験で、僕は何よりそれがうれしかった。
 ラスト、「ありがとうございました」と言って彼女が退場したあと、「オデッサに帰る前に呼び止めてくれ」という作家のセリフでこのシーンは終わる。
 いつもここで、「ええ?そうなの?」と思ってしまっていたのだけれど、今回は「うん、呼んできてあげて」と素直に思えた。
 笑いがメインのように思えていたこの芝居だけれど、腕のある俳優さんたちが演じると、どの場面からも劇場への演劇への信頼と愛が立ち上がってくる、こういう作り方もあるんだなあと思った。
 どうもありがとうございました!


2008年09月28日(日) 普段女装で舞台挨拶

 「地球でたったふたり」の舞台挨拶に登壇するため、新宿K's cinemaへ。
 かつては古ぼけたポルノ映画館があったところが、おしゃれなビルになっている。
 僕は、映画の中で女装をしているので、すっぴんでは誰だかわからないだろうと、今日は女装して出かける。
 文字通り、「家から女装」(!)して出かけた。
 こしらえは、この間の「祝/弔」の前半の衣装。
 はきつぶしてしまったパンプスだけ、ちょっと高めのヒールに変えて、電車に乗って出かけた。
 女装で電車に乗るのは、ずいぶん久しぶり。
 微妙に緊張したのだけれど、道行く人には何も気づかれず、もしくは無視され、なんとなくはりあいがないかんじ。
 まあ、なじんでるってことなのか・・・
 劇場では、忍成修悟さんをはじめ、撮影以来久しぶりのみなさんにご挨拶。
 スクリーンの前の奥行きのない舞台から落ちそうになり、隣の菜葉菜ちゃんに助けてもらったりする。
 終了後、劇場の前で、上映を見たお客様に呼び止められ、握手とサインを求められる。
 とってもうれしい。
 その後、せっかく女装してきたんだからといういやしい気持ちで(笑)、新宿の街を少し歩く。
 三越、歩行者天国の新宿通り、伊勢丹。
 ここでも誰にも目を留められないのだけれど、伊勢丹の1Fのフロアを歩く気分はなかなか良かった。
 少し足を伸ばして、日曜の午後も営業しているバー、タックスノットへ顔を出す。
 ここでは、「誰かと思った」とみなさんに驚かれたものの、タックさんに「コンセプトがわからない」と言われる。
 うん、たしかにそうかも。きれいになりたいとかそういうのでもないし。メークも抑えめだし。
 楽しくおしゃべりしたあと、店を出たところ、向かいの女装のお店から同じく出てきた女装の人の後ろをついて歩く形になってしまう。
 店の人が女装してるんじゃなくて、女装した人が行く店。普段着で着て、違う部屋で着替えるというコースもあるんだそう(聞いた話です)。
 明らかに僕より年上で、ガタイがいいその人は、シンプルなスーツ姿(スカートだけど)。
 もう少し、歩き方に気をつければいいのになどと思いながら、地下鉄の階段を下りていくその人を立ち止まって見送った(あんまり、並んで歩くのもどうかと思ったので)。
 家にたどりつき、メークを落として着替える。
 舞台での女装とは違う疲れ方をするなあと思い、お風呂を沸かして湯船にじっくりつかった。


2008年09月25日(木) 「開幕ベルは華やかに」

 もっちゃんに貸してもらった、何年か前のテレビドラマ「開幕ベルは華やかに」を見る。
 原作は、有吉佐和子。出演は、浅野温子、風間杜夫、加藤治子、北村和夫ほか。
 来年の新作に川島芳子が登場する予定なのだけれど、この有吉佐和子の小説には、劇中劇で川島芳子が登場する。というか、川島芳子が登場する芝居を上演する舞台にまつわるサスペンス。
 十代の頃に初めて読んだおぼえがあって、その後まもなく、テレビドラマになった。
 主演は、白川由美と中村敦夫、主演女優には高峰三枝子。
 脚本も、有吉さんが手がけていただけあって、見事に原作通りのドラマ化だった。
 演劇界の闇の部分を見事に、ちょっと意地悪に描いた作品。
 主演女優のモデルは絶対、水谷八重子だよね・・などとすぐイメージできてしまう。
 今回は、お正月のスペシャルドラマというだけあって、軽い仕上がり。
 原作にあった設定を大幅にカットして、殺人予告の前で右往左往する劇場の重役たちの姿がコミカルに描かれていて、ややひょうしぬけ。
 原作のラストの名場面もあっさりと描かれてしまっていて、ちょっと残念。


2008年09月23日(火) ラ・カンパニー・アン「鳥の眼」

 シアターミラクルへ、ラ・カンパニー・アン「鳥の眼」を見に行く。
 今回は、西山水木さんの台本を、桃唄306の長谷基弘さんが演出している。
 人物の会話のつるつるしたかんじが新鮮。
 それでも、ジェストダンスが始まると、アン独特の体がしっかりある想いが立ち上がってくる。
 ラスト、ひばりとして空に駆け上っていく明樹さんの姿が眼に焼き付いた。
 終演後、トークショーに参加させてもらう。
 長谷さんの司会で、出演の明樹さん、扇田拓也さん、岸浪綾香さんたちと。
 長谷さんの意向で、シェリー酒を飲みながらのおしゃべり。
 テーマは「うちとどうちがうか」だったのだけれど、「こういうところが同じかも」というような話になってしまったりもする。
 ほろ酔いのおしゃべりが、とても楽しかった。


2008年09月21日(日) ワークショップと昔の日記

 ワークショップの準備をしているうちに目がさえてきて、朝まで起きてしまう。
 準備だけでなく、引っ越しのついでに見つかった古いノートを読んでしまう。
 劇団の養成所にいた頃もらった、アフタヌーンティーの白い表紙のノート。
 授業の課題のプランが書かれたページ、それから、進級できないまま、友達と一緒に暮らし始めて、もんもんとしていた頃の日記。
 今から、22年前(!)の自分の気持ちがなつかしい。
 思ったのは、今とあんまり変わってないじゃん!ということ(笑)。
 少し書き出してみる。

>>
 このノートは、1986年の秋に
 「円演劇研究所」で
 ○○○○くんからもらったものです。
 その頃、僕らは「ジョーとマイラ」でした。

 8月29日(土)

 いろいろ切ってかなきゃいけないこと、わかった。
 去年、あちこち、泊まり歩いてたカンジとはちがう。
 帰るべきところがないってわけじゃないけど。
 帰れるところとも、なんかちがう。一日中、自分とつきあってしまう。
 顔つきが変わったりするんだろうか、そのうち(体つきも)
 少し期待してるところあるなあ。
 でも、まあ、前と違って、生きていくこと(くらしていくこと)に直接自分が関わってるカンジは悪くない。
 なんだか、その生活する「自分」ってものがはっきり見えてきた。
 前は、なんだかよくわからなくて、大変そうだったのが、今では、各日に手の届くところにあるってカンジだ。
 ○○くんとは一緒に住んでるわけだし。
 今の僕らにとって「住む」ってことはある「たたかい」だったりする。
 ○○くんが僕の同志だとするなら、そんな関係の人間を待ったりするのは、ちょっといい気分だ。

 8月30日(日)

 今日は、なんとなくすることがなくて。
 マクベス夫人のセリフ読んだりして。芝居ものにあこがれてる時代の僕のようでした。
 女の人するのは、いいかげんやんなってるはずなのに、マクベス夫人したりしてみて、ばかみたい。
 年相応のコトしなきゃとか思うと少し「?」しちゃう、マクベス夫人なんだけど。
 昼間とか夜とかTVみてたら、久しぶりに涙が流れて、うれしかった。
 2月からこっち、ずっと凍ってた心がとけて流れたそんなカンジだった。
 なぜだろう。芝居すればするほど、心が凍ってくのは。
 そんなんじゃないはずだよね。
 僕の賭け方にやっぱり問題があるんだろうな。
 途中で投げたりとか、さめたりとか、いけないんだろうな。
 でも、さめさせないでほしいとも思う。
 今夜は思いがけず、○○くんが帰ってきた。
 あんまり思いがけないから、僕はまたいそいそと支度したりして飲んでた。
 ○○くんは寝てる。バイト先で飲んできた分、酔っぱらって。
 僕はまだ起きてる、と思う。

 今、僕はバカだと思う。
 何もしてない。
 一年前はこんなじゃなかった。
 「ジョーマイ」のアイデアのメモ、なつかしい。
 一生懸命だった、あの頃の僕たちがなつかしい。
 もう一度、火を点けるにはどうしたらいいのか。
 でも、このたきぎは凍っているのでした。
 燃えるかな?
 でも、燃やさなきゃいけないね。
 ○○くんはいい刺激だ。
 いてくれてほんとうによかった。
 一昨年の僕みたいに、芝居と縁切ってたら、どうなってるかわかんないもの。
 負け惜しみとか、敵がい心とか、単なるジェラシーとか、そんなもののおかげで、今、芝居とつながってる。
 「僕」はどこにいるんだろう。

 ああ、酔っぱらってる。
 このノートが終わったら、ワープロを買おう。
 その方がきっとたのしい。
 あした、朝は6時。


 午後から、フライングステージのワークショップ。
 今日は、テキストにシェイクスピアの「マクベス」を使う。
 シンプルなシアターゲームをいろいろした後、マクベスと夫人の場面を立ち上げていく。
 面白い場面がどんどんできあがる。
 人数の関係で、僕はマクベスを一手に引き受けることに(笑)。
 昔は、こんな芝居はできなかったなあと、今朝読んで日記を思い出す。


2008年09月20日(土) 「ラグ」「藪の中から龍之介」

 母校、都立小松川高校の文化祭の一日目にうかがう。
 昨日からの台風で中止になるんじゃないかと心配だったのだけれど、台風はさっさと行ってしまい、きれいな青空。
 校舎の正面にあざやかな垂れ幕が何枚も。
 こういうふうなこと、昔はやらなかったなあと思う。
 ベニヤで立て看板を作るより、ずっとラクそうだし、おしゃれだ。
 演劇部の演目は、「ラグ」という創作劇。
 コンピューターがなくなった未来を舞台にした、人の心が読めてしまう人たちのお話。
 台風のせいか、観客が少なかったのが残念。
 SF風な設定の中、しんぷるな友達を思う気持ちがさわやかに描かれている。
 終演後、演劇部室の前で集まったOBたちから、恒例のダメだし。
 いつもよりもあわただしい雰囲気の中。
 明日もがんばってほしい。
 夜は、青年劇場「藪の中から龍之介」を見に、紀伊國屋サザンシアターへ。
 篠原久美子さんが、書き下ろした新作。
 よく知っている芥川の作品の登場人物たちが、死んでしまった芥川の死の床に集まってくるというお話。
 終演後、劇団劇作家の福山さんとしばし立ち話。
 戯曲を作品として立ち上げていくことのむずかしさをいろいろ思う夜。


2008年09月17日(水) 打ち合わせとインターネットテレビ

 富士見丘小学校で、卒業公演のための打ち合わせ。
 篠原さんと二人で富士見丘小へうかがう。
 先日の打ち合わせで見えてきた、僕らからの「こんな話でどうでしょう」ということを先生方へ伝え、また、子どもたちにそれをどう伝えるか。どんなふうに伝えたらいいかを話し合う。
 夜、インターネットTVの映画トーク番組「T-TIME」にゲスト出演のため、秋葉原のスタジオへ。
 20日から公開の「地球でたったふたり」の話を、久しぶりの菜葉菜ちゃん、加治木均さんと45分間の生放送で。
 公開前の映画の話をどこまでしていいんだろうと考えていたのだけれど、番組冒頭で流れた予告編に、僕が殺されるところがしっかり映っていたので、もういいやとどんどこしゃべってしまう。
 いつ撮ったんだっけ?という話をしていて、「一昨年じゃない?」と言っていたのだけれど、「一昨昨年」ということが判明。2005年の暮れに撮ったことに気がついて、みんなでびっくりする。
 映画のなかでの僕は、ゲイバーのママ(らしいキャラ)の「きみちゃん」こと「きみ子」という役。
 芝居とちがって、数日間だけのつきあいだった人なのに、こうして映像になるといつまでも残るんだなあと不思議な気分。


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