せきねしんいちの観劇&稽古日記
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二回公演。そして中日。 今日もいい天気。 シアターΧのある両国の街に吹く風は、川風、海風のようにかんじられて、余計すがすがしい。 お客様に「冷凍人間みたい」と言われたという上原くんの歩き方について、あれこれアドバイスさせてもらう。それにしても「冷凍人間」って・・・。 マチネ。 ANZAさんの歌がものすごい迫力だった。「レ・ミゼラブル」の「ON MY OWN」がよみがえるような切なさ。舞台裏の暗闇でしみじみ聞かせてもらう。 いろいろなことがありながら終演・・・。 終演後、見に来てくれたマミィこと石関くんとひさしぶりにおしゃべり。劇団のこれからのことなどあれこれ。 ソワレまでの短い時間、差し入れのパンやおせんべいのおすそわけをいただく。昨日の清田さんのバースデーケーキもおいしくいただく。 楽屋でスタンバイしている時間に三谷さんのお話をうかがう。 来年1月の「なよたけ」(健翔さん演出、三谷さん美術)の話から、芥川比呂志さんの「なよたけ」についてのエッセイにあったお話。不安でたまらない「なよたけ」の初演の初日前に、演出席にとなりに(今は亡き)加藤道夫さんが座っていて「だいじょうぶ」と言ってくれたと、芥川さんは書いていたそう。だから、初日の調光室にいた加藤道夫さんもほんとうにいたんだよと、三谷さんは話された。 ソワレ開演のスタンバイに楽屋から舞台裏の螺旋階段を下りながら、途中で立ち止まって舞台裏の天井を見る。これまで気にとめたことにない空間が、何かで満ちているようなそんな気がした。 「芝居は祈りである」と言ったのは誰だったろう。ふいにそんな言葉を思い出した。 台本を書いて、演出して、芝居を立ち上げるいつもいつもの作業の中、一番つらいときに僕が思うのはこの言葉、「芝居は祈りである」だ。 このところ、前回の「狂人教育」、そして「襤褸と宝石」ととても恵まれた客演の舞台で、この言葉を思い浮かべて、文字通り「祈る」ことはなかったなあと。 劇場の暗闇に向かって、祈ってみた。神頼みというんじゃなく、誰かに捧げるための舞台がどうぞうまくいきますように。おごることなく、自分のやるべきことが全うできますように。 そして、開演した夜の公演。 スタッフ、キャスト全員でつくりあげた舞台は、祈りになっていたんじゃないかと思う。 演じながら、舞台裏で舞台上で行われていることに耳をすましながら、そして、カーテンコールで大きな拍手をいただきながら、僕にはそう思えた。 終演後、ロビーで、福山さん、三枝嬢、奈須さんにごあいさつ。 ロビーの隅で、健翔さんが「冷凍人間」の上原くんに、ナンバにならない歩き方の練習をさせていた。まずは、腕を振らないで固めて歩く練習をして、それから、力を抜いてみる。なるほど、上原くんは、自然に腕を振りながら(ナンバじゃなく)歩いていた。 今日の舞台、健翔さんが「みんなセリフが自分のものになっていた」と言っていたと伝え聞いた。たしかにそうだったと思う。 これまでの舞台とどこがどう違うとはっきりと言えないけど、言葉にならない、分量としても計れない部分が、きっと「祈り」ってやつの正体だったりするんじゃないだろうか。 もともとは神に捧げるものだった演劇の根っこにある「祈り」のひたむきさや謙虚さを忘れずにいたいと思った。 同じ時代に生きられなかった劇作家加藤道夫さんに、とてもダイレクトにつながる交信を僕らは毎日送っているのかもしれない。今は亡き劇作家に思いをはせながら。 家に帰って、本棚を探した。「芝居は祈りである」という言葉はどこにあったろう。 内村直也「ドラマトゥルギー研究」にその言葉はあった。 「少なくとも、ぼくらが創り出そうとしている演劇には、娯楽と同時に、『祈り』がなければなりません。」 戯曲を書き始めた頃、僕がとても頼りにしていたこの本に、「演劇は祈り」という言葉があったんだ。誰の言葉かはすっかり忘れてしまっていた。加藤道夫が愛した、ジロドゥの「オンディーヌ」を訳している内村直也。なんだか、またここでも加藤道夫という人が身近になったように思えた。 明日は千穐楽。
きれいに晴れた。夏のような日差しがまぶしい。 「襤褸と宝石」は2日目。 ゆっくりな劇場入り。 開演前、キャストの清田さんのバースデーサプライズを舞台で。 その後、開演の準備。 僕はメークといってもポマードで頭を固めるだけ。このポマードが、強烈だ。 宝石組のポマード使用者は、みんなシャンプーで苦労したよう。 僕も、2度シャンプーで洗ってもネトネト感は去らず、最後は石けんでごしごし洗ったもののさっぱりとはしないかんじ。かえって手が荒れたような気がする。 それでも、いつまでたってもすぐうしろにおじさんがいるようないやーな感覚。独特の香りは消えない。 今日もキャスト、スタッフ、お客様と一緒に2時間30分の旅をする。 昨日よりも少し軽やかな気持ちで走り抜けた、そんなかんじ。 終演後、お客様にご挨拶。畑先生、小林くん、ごっちゃん、どうもありがとうございました。お久しぶりなpinさん、由佳ちゃんにもごあいさつ。今回のキャスト、ほんとうにいろいろなところでいろいろな人につながっている。 帰りは、軽く飲みに行こうということで、今日は別所さん、服部さん、べんちゃん、黒木さん、上原くんと同じテーブルで、芝居についてあれこれ語り合う。楽しい時間。 明日は、二回公演。
昼間、通し稽古。というか、もう一度ゲネプロをするような気持ちで。 これまで、おそるおそる鉛筆で書いていた人物の輪郭を太いマジックにしていく、そんなかんじで芝居をした。 あきらかに人のセリフを聞く余裕が生まれているので、そのことから来る、自分の変化もおもしろい。 休憩時間、ANZAさんからの差し入れのお弁当をみんなでいただく。ごちそうさまでした。 ゲネプロの開始前に、舞台に集合し、みんなで黙祷。健翔さんから、「これまで亡くなった数多くの人」そして、加藤道夫さんのことを思ってと。 その後、別所くんが、一曲歌を歌ってくれた。ギターの弾き語り。客席で聞かせてもらう。心にしみる、そして、また立ち上がって歩いていけるんだと思えるような、そんな素敵な歌だった。ありがとう。 本番前、楽屋では、今日初めてのメークで、ポマードを使用。グリースとは違う、強烈な濡れ感とそして懐かしいような香り。 バタ屋の面々は、衣裳さんからのダメだし「白い手も気になる」とのことで、見えてるところは全部「汚し」てる。その半端のなさと、ポマードな人たちが一緒にいるのがおかしくて、リステリンを吹き出してしまう(ごめんなさい)。 そして開演。大勢のお客様を迎えての初日の舞台。 芝居はやっぱり、お客様がいて初めて生まれるものなんだと、あらためて思う。 これまで、自分と相手役とで支えていたからだを、違う方向からお客様がささえてくれる。 これまでできなかったことができたかどうかはわからないけれど(それでも、ミスはなくなったと思う)、舞台の上にいながら、今、初めて思うこと、初めて見ること、初めてしゃべることを、じゅうぶん楽しめたと思う。 昨日できなかった、聞えない音のくだりは、なんとかクリア。今となっては、どうして、この音がとれなかったんだろうと思うくらい。聞くだけじゃなくて、見る芝居も足して、自分のなかでちゃんと気持ちが動いていくようになった。 終演後、ご来場いただいたみなさんにご挨拶。柏木さん、オジーさんたち、篠原さん、明樹さん、あかねちゃん、平田さん、相馬くん、どうもありがとうございました。 ロビーでの初日乾杯のあと、三谷さんが帰りしなにこうおっしゃった。 「今日、調光室で加藤道夫が見てて、さっき僕にこう言いました。俳優座でやった50年前のより、今日の方が僕は好きだなって」。 これから日曜まで5回の公演。 柏木さんたちと話していて、今回のようなゲイでもない男性の役(もちろん、女役や女装じゃない)を演じるのは3年ぶり、青年座スタジオの「浅草シルバースター」以来だと気がつく(4年ぶりじゃありませんでした、ごめんなさい)。 今回の支配人役は、まだまだ手探りなのだけれど、まずは生まれ出ることができたんじゃないかと思う。 「どうせ僕には無理な役だけどしょうがない・・」じゃなくて、楽しみながら演じられている今に感謝。 あと、5回のステージ、一回一回を楽しみながら、いい時間をキャスト、スタッフのみなさん、そしてお客様と過ごしていきたいと思う。
通しとゲネプロ。 これまで何回も通して来ているわけだけれど、ここまで来ての通し稽古はやっぱりいろんな発見があっておもしろい。 僕は、自分のできてないことにいくつも気がつけた通し稽古だった(これまでやったことのないようなセリフのかみかたとか・・)。 夜はゲネプロ。 食事休憩のあとリラックスして開始したはずが、「イアーゴがハンカチを忘れたような(健翔さん談)」なトラブルやら、僕は僕できっかけを間違えてセリフを言ってわけがわからなくなり、迷惑をかけてしまう(井上さん、ごめんなさい)。他にもあちこちで、びっくりするようなことが起きていたらしい(後で聞いた)。 終了後のダメ出しで健翔さんから、「本番じゃなくて、今日でよかった」と言われ、明日はがんばろうということに。 それでも、気持ちは微妙にブルーで、誘っていただいた飲み会も失礼して、一人帰ってくる。 一番、できなかった場面。きっかけになる音が舞台上からは聞きにくい。よく聞えないその音を聞えたことにして台詞を言わないといけないと思い込んでいて、ちゃんと聞こうとすることを忘れて芝居をしていた。聞きにくい音なら、なおさらちゃんと聞こうとすればいいだけなのに。簡単にできるだろうと思っていた段取りが、実はできなかったことにびっくり。というか、そんなふうな嘘が平気でやれるようにはなってないんだ。明日は、少していねいにやってみようと思う。
「襤褸と宝石」、今日は場当たり稽古。 いつもなら、劇場入りしてようやく慣れてきたかどうかというタイミングで行うことが多い場当たりだけれども、今回は、劇場入りしてもう1週間。立ち位置も舞台裏の移動もすっかり体に入っている。 いろんなことに集中してへとへとになりながら、これでいいの?と思っている日のはずが、今日は、のびのびと照明と音響の確認をさせてもらった。 劇場ともすっかり仲良しだ。 照明が入った舞台は、やっぱり違った顔を見せている。舞台装置がそれぞれ息をしはじめたような。鏡が急に生き物のように芝居をしている。 昨日まで思いつかなかったことを、あれこれ考えながら、舞台にいられるのは、なんて幸せなんだろう。 きっと一日がかりだろうと思っていた予定が、無理をすれば通し稽古ができるんじゃないかという時間で終了。 その後は、歌がらみの稽古ということで、お先に失礼させてもらう。 髪型は健翔さんからOKをもらう。よかった。 関係性の中で見えてきたキャラクターだけれども、ようやく自分が何なのかわかった上で、外に向かっていける。 明日は通し稽古とゲネプロだ。 そして、明後日は初日。 みなさまのご来場をお待ちしています。
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劇詩人加藤道夫第一回公演 ショウデザイン舎・シアターΧ提携公演「襤褸(ボロ)と宝石」
作:加藤道夫 演出:山本健翔 美術:三谷昇 出演:ANZA 別所ユージ 世古陽丸 青山伊津美 関根信一 松本邦裕 中嶋ベン 井上倫宏 ささいけい子 剣持直明 三谷昇 ケイタケイ 清田直子 河原田端子 黒木麗太 浅井孝行 関田敦 佐久間隆之 上原英司 塚本千代 大谷英里 成澤玲奈 饗庭さやか 八木佳祐 服部賢一 松岡秀平 榊原仁 桑田充貴 日程:2008年6月5日(木)〜8日(日) 5日(木)19:00 6日(金)19:00 7日(土)15:00 19:00 8日(日)13:00 17:00 会場:両国 シアターΧ 料金:前売4000円 当日4300円(全席指定)
*関根扱いでご予約いただくと、「ほんの少しだけ」割引きになります。 ご予約、お待ちしています!
今日は、仕込日ということで、稽古はお休み。 「襤褸と宝石」の演出助手をしている劇団劇作家の石原燃さんに貸してもらったDVD「日本人のへそ」を見た。 井上ひさしの初戯曲を映画化したもの。監督は、須川栄三。この人は、日本のミュージカル映画のマイベスト「君も出世ができる」を撮った人だ。 吃音矯正のための演劇という枠組で演じられる、田舎から出てきたストリッパーの成り上がりの物語。そして、ラストのどんでん返し。 ということなのだけれど、原作を知っている僕としては、なんだかちょっと物足りないかんじ。物語や歌のナンセンスなおかしさは1977年当時はかなりイカしてたんだろうけど、今となってはあまり効いてこないのが残念。 それでも、キャストの豪華さはすごい。 主役のストリッパーが緑魔子。プラス、草野大悟、三谷昇、小松方正、ハナ肇、熊倉和雄、なべおさみ、などなどくせ者ぞろい。 そして、もう一人、絶対に見逃せないのが美輪明宏、美輪さんの「男役」演技だ! 劇中で何役も演じる美輪さんだけれども、全てが男役、緑魔子との濃厚なベッドシーンもある。後半に登場する、レズビアン、ホモの話の中でも、美輪さんはほぼノンケキャラなのだ。 1977年といえば、美輪さんは40代前半。何年か前には、深作欣二監督で「黒蜥蜴」を撮っている。この「日本人のへそ」という作品は、美輪さんのキャリアの中でも、とってもとっても異色なものだと思う。 どうして出演することにしたんだろうか?などと、いろんなことを考えた。 男役の美輪さんは、とっても二枚目で、長いもみあげも男くさい。声だけ聞いていると、今のゴージャスな美輪さんなんだけど、ドラマとしては何の違和感もない、男の人だ。 見ていて思ったのは、美輪さんが細かな演技のテクニックで、キャラクターを作っているんだということ。ヤクザ者やら、学生やら、会社員やら、どの男もみんな、美輪さんがものすごく工夫した役作りの結果なんだ。 (役作りがものすごいのは、他の役者たちも同様だけれども。三谷さんもものすごいことになっている。) 初日が近い「襤褸と宝石」で久しぶりの男役、しかも、おじさんを演じている僕には、とてもとても参考になった、美輪さんの芝居だった。僕もがんばろう。
夜、髪を切りに行く。 髪を短くすると、ハリのなくなった髪の毛が少し元気になったような気がしてくるから不思議だ。 いつものように「ごっつい加藤登紀子」になったらどうしようかと思っていたのだけれど、真っ黒にしているせいか、そんなでもないようでほっとする。ふつうのおじさんになってるんじゃないだろうか。 さあ、明日は、衣装とメークありでの場当たり。 公演の案内をメールで送らせてもらう。 加藤道夫の最後の戯曲。タイトル通りの襤褸と宝石の世界。大人数のアンサンブル。ベテランの俳優さんたちの芝居、ANZAさんの歌、別所くん演ずる民夫のひたむきさ。みどころ、いっぱいです。 僕は、いつもとはずいぶん違うキャラクター。でも、僕じゃなきゃできないキャラにはなんとかなってるんじゃないかと思う。 みなさんのご来場をお待ちしています!
冒頭から、少しずつ止めながらの通し稽古。 昨日の2回通したあとに、こういう稽古ができるのはとてもうれしい。 全体の中の自分がわかったあとで、もう一度、自分のことを考えられる。 用心棒の富田役の上原くんがナイフの扱いに苦労している。 昨日、そう聞いたので、今日は、いろんな人がアドバイス。 殺陣の専門家、黒木さんや、剣持さん、青山さんに井上さん、それに僕も、いろいろなことを言わせてもらった。 みなさんのナイフと体の扱い方についての話は、どれもみんな、経験に裏打ちされたもので、なんだか「芸談」を聞いているようなおもしろさがあった。 上原くん一人に、みんながああでもないこうでもないと向かっているのは、みんなで作っている芝居なんだなあというかんじがして、とてもいいものだった。 僕は、これでいけそうだという線が見えてきた気持ち。上原くんにいろいろなことを言いながら、自分のことも同じように考えて、言ったからにはちゃんとやらないとという気持ちになる。 明日は仕込日で休み。 次は、場当たりだ。 今日の稽古で、これでいける、だいじょうぶと思えたことがとてもうれしい。
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