V字経営研究所・酒井英之の4行日記 DiaryINDEX|past|will
成功体験その3。人は、どんな時に変わるのか?という問いに、「時間の使い方が変わるとき」「付き合う人が変わるとき」「居場所が変わるとき」という解がある。そのすべてを体験し、実感した年だった。あるクライアントで月曜日の朝一の時間帯の使い方を変えたら、生産性が大きく飛躍した。また、先輩がメンター役になって若手を教える研修を行った会社や、階層別研修で二階層がお互いに感謝と期待を伝え合う研修を行った会社では、「付き合う人が変わる」という成果が出た。さらにビジョンを掲げた会社は、とても熱い集団へと進化した。生産性を飛躍させる方法は一つは AI の導入だが、もう一つは企業のエンゲージメントを上げることだ。これを理論だけでなく、実例で証明できた一年だった。
成功体験その2。去年まではクライアントのビジョン会議において、ディスカッション時間に制約を設けることなく自由に行っていた。合宿も当たり前だった。が、今年は時間内にアウトプットしなければいけないという制約が強かった。しかしそれゆえに一つ一つのテーマをよく分解し、それをブロックのように積み上げるように組み立てたら、納得がいくアウトプットが得られた。これを活用すれば、遠隔・オンライン化して、より効率よくアウトプットは出せることが分かった。
今年は激動の1年だったが、成功体験の多い年であった。それをシリーズで振り返ってみたい。第1は50歳を過ぎた人がほぼ全員再生するのを目の当たりにしたことだ。再生した人に共通していたことは、過去の自分にダメ出しをしたこと。そして、これからを生きていく希望となるような技術を、自ら身に着けたことだ。この二つで人の意識も行動もガラリと変わる。逆に言えば、自分にダメ出しができない人=プライドの高い人、ダメな自分をしっかりと認識できていない人は再生しない。これが明確になったことも収穫だった。
I社のI会長に脱下請けを目指す人へのアドバイスを伺った。「脱下請けで「やりたい!」と思っている人は、どうせ我慢ができなくなるのだから、アンテナを高くし、スピードとタイミングを見計らってやればいいという。ただし、無駄な努力にしないことが重要で、勢いに任せるのではなく、一度石橋を叩いてからやるといい」。この『どうせ我慢できなくなる』の言葉に共感した。我慢できないことを我慢することが経営ではない。理解し合える人だけを相手にする。I会長にはその踏ん切りこそが経営だと教えられた。
I社の社内は大変アットホームな雰囲気がした。2階の食堂は、業務用のキッチンをそのまま導入し、ランチタイムの食事はすべてここで作っている。料理教室を主宰している「べっぴん食堂」の経営者に来てもらい、無農薬野菜を用いた料理をスタッフが作ってくれるのだ。コストは全然合わないが、健康を思いやる経営者の気持ちだという。また、その持ち出し分に見合うだけのリクルーティング上の効果があるという。学生が集まるのがわかる気がした。
床材の競争は1)意匠性 2)耐久性 3)安心安全にある。この安心安全に関して、アレルギー対策や消臭、ウイルス対策など施した商品を2015年から発売した。ただ当初なかなか売れなかった。目に見えないものに金を出す習慣が日本人にはないからだ。そこで、それを全て含んだ商品を特別品ではなく標準化したところ、拡販につながった。さらに4)針葉樹を使ったレジリエンス(社会貢献)。5)には、納期遵守。同社は今後も床材に特化し、グレードアップをしつつ徹底的に差別化を図っていく方針だ。
I社は毎年、イタリアのミラノのデザインをご紹介するセミナーを行っている。東京200人・名古屋150人の規模で集客する。毎年大変好評で、来客はインテリアコーディネーターが7割を占める。床材メーカーでありながら一種のシンクタンク機能=情報発信機能も持っているわけだ。情報発信=専門家集客=商品認知度の向上=採用の可能性の向上というモデルはどこの会社でもできることではない。デザイン性や環境貢献性を問われる分野の可能性を示している。
I社は高山の大手家具メーカーと組んで、家具と床の調和を PRするショールームを開設したこうした。そのようなSHOWROOM がこれまでなかったのだ。I会長はこれを「他人の褌作戦」と笑う。ショールームはラウンジのような空間で、滞在時間は60分から90分。うち説明45分で残り時間は雑談で過ごしてもらうようになっている。100人のお客にまとめて話すよりも、1対1で100回やった方がファンは出来ると言う。高級品のマーケティングはまさに1VS1のマーケティングだ。
I社はカラーフロアーはやらない。大手と同じ土俵では勝負をしたらダンピングされてしまう。逆に「銘木フロア」という独自商品を提供している。デザイナーやインテリアコーディネーターなど住宅のコンセプトを作っている人の声を聞いて、それを製品化している。流通は建材商社を通しているが、有名ホテル等に採用され、それが宣伝材料になっている。製造技術が優れていて、業界内での優位性がある。大手に同じ製品はつくることができない。
同じ頃、世の中はカラーコーディネーターに飽きてきた。大手建材メーカーの50%は未だにトータルコーディネートの呪縛を背負っている。が、そうでなくてもいいのではないか、調和できていれば、カラーはバラバラではないのかと考える人たちが出てきた。トータル=没個性、バラバラの調和=個性という考え方だ。バラバラな分野では大手はなかなか手が出せない。「気に入った人達だけに認めてもらえる商品」。それしか生きる道がないとI社は考えた。
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