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2005年08月23日(火) ■ |
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「きよしこ」 重松清 |
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「きよしこ」新潮社 重松清 冒頭、どもりで成功した作家が、ある母親の「どもり」の息子を励まして欲しいという手紙を無視した経緯を書く。そしてそのとき書けなかった『理由』が一人の少年の成長を描いたこの短編連作である、と明かす。だから、「どもり」の子が勇気をもらったり希望を持てる話ではない。しかし、そんな子に寄りそうことは出来る。それはべたべたすることではない。文字通り、つかず離れず寄り添うのである。何が寄り添うのであろうか。人ではない。『想い』が寄り添うのだ。
最後、高校を卒業する少年が自分に寄り添ってきた女性に突きつけた『決断』は、まだ19歳になっていない子が読んだら不可解に思えるかもしれない。
重松清氏はもちろん「どもり」では無い。しかし、いじめの物語をたくさん書いてきた彼の元には同様の手紙はたくさん届くのかもしれない。それに対する回答がこの作品なのであろう。もちろん回答はひとつではない。 (05.07.30記入) (05.08.14記入)
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2005年08月22日(月) ■ |
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『日本全国見学できる古代遺跡100』 文芸春秋編集 |
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『日本全国見学できる古代遺跡100』文春新書 文芸春秋編集 まずこの本の利点は、実際に見学遺跡が整備されている場所とすぐ近くに展示施設も在る所をピックアップしていることだろう。遺跡を全体的に見ようとしたら、単に復元した建物やら墓を見ただけでは無理で、きちんと解説をした展示施設が必要なのだが、ホームページで調べてみても、その二つがそろっていますよ、という記述は案外少ない。よって有名遺跡で無い限り展示施設だけ訪れてせっかくの遺跡公園に足を伸ばさなかったり、遺跡の復元を見て『ふーん』といって、何を意味するかも分からないまま帰ってしまうことが多い。そう言う意味ではいい目の付け所である。
しかし、この本は無理に買う必要は無い。全国の遺跡を無理やり満遍なく紹介しているので、ページ数の関係から、遺跡の解説は表層的で、しかも地図も分かりにくい。展示時間も書いていないので、結局目次を見てこの遺跡に行こうと思ったら、ホームページか他の手段で調べるのが必須になってしまう。どの遺跡に行くか決めるための本であり、決してガイドブックにはならない。 旅の計画を立てるとき、この本を図書館で読むかして、活用するのがいいと思う。 (05.08.14記入)
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2005年08月21日(日) ■ |
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「おかやまエコ読本」 |
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「おかやまエコ読本」吉備人出版 これ一冊で、県内のエコ業者地図が出来あがる。米、野菜、茶、果物などの農家。お店は自然食品店、酒、定食、うどん、そば、豆腐、パン、ケーキ、喫茶店、調味料、民宿、などなど。しかし、それだけではない。
きちんとエコライフの生活提案にもなっている。むしろ身近な店といっしょに提案しているだけに、現実性が高い。
編集は実行委員会形式。口コミで集めた情報に基づいて作成しており、正直岡山県にこれだけエコ業者がいることに驚いた。全面カラーA4写真豊富で、140Pもあるのに、1000円というのは安いと思う。 (05.08.14記入)
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2005年08月20日(土) ■ |
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『ナルニア国物語 ライオンと魔女』C.S.ルイス 瀬田貞二訳 |
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『ナルニア国物語 ライオンと魔女』C.S.ルイス 瀬田貞二訳 英文学を代表するファンタジーだという評判を聞いて読んでみた。なるほど、ひとつの世界観を背後に隠しもって、息もつかせぬ展開で面白い。
四人姉妹兄弟の末妹ルーシィは好奇心で洋服ダンスの奥の『探検』を試みる。洋服の重なりのもっと奥の暗いところにある『何か』へ入っていくとなぜか雪の積もった森の中に入ろうとしている。振り返るとたんすの入り口はまだ見えている。『ルーシィは少しこわくなりました。けれども、いっぽうでは、こころがわくわくして、ゆくてをつきとめてみたくてたまらなくなりました。』ここでひきかえさなかったルーシィに乾杯!
ただ、著者の親友であったというトールキンの『指輪物語』と比べると、まだ当時のイギリスの生活の『世界』が『ナルニア国』自体に色濃く残っていて、独自の世界観の構築に成功しているとは言い難い。お茶の習慣などは当時の上流イギリス文化そのものであろう。サンタクロースまで出てくる。子供が読むには『良質』の物語だと思う。 (05.07.31記入)
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2005年08月19日(金) ■ |
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『光源』 桐野夏生 |
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『光源』文芸春秋社 桐野夏生 ひとつの映画製作にかかわる人々の、欲望の交わる顛末記である。私自身は映画製作にはまだ『夢』を持っているほうなので、このような物語は、心理の駆け引きやら打算やらを垣間見ることが出来て大変興味深いと思うと同時に、ちょっとやりすぎではないのというところもあった。
もちろん無理も無いと思わせる設定にはなっている。この映画のねらいは単館上映、芸術肌の作品である。監督はなんと新人監督で、オリジナル脚本。プロデューサーはベテランの女性。しかし、大監督の夫とは離婚危機の途中。プロデューサーのもと恋人の撮影監督。新進の主演男優。アイドル上がりの主演女優。普通なら監督がしきるか、プロデューサーが有無を言わせない進行をするはずなのであるが、この設定では監督は頼りなく、プロデューサーの力は弱く、すべての登場人物たちがふらついているので、先が見えない。唯一の望みはうまく創れたとしたらちょっとした傑作になるかもしれない脚本の出来だけである。
私が思い出したのは寺島しのぶが主演した『ヴァイブレータ』という作品である。スタッフも内容もまるきり違うのではあるが、ロードムービー、単館上映であるところと、この作品で一人の女優が開花したという点で、この作品が出来あがる過程には『光源』のようなどろどろもあったかもしれないと思った。『ヴァイブレータ』は成功した。一方この作品中の映画『ポートレート24』は…。 (05.07.30記入)
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2005年08月18日(木) ■ |
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『佐原真の仕事1考古学への案内』 |
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『佐原真の仕事1考古学への案内』岩波書店 考古学方法論である。遺跡、遺構、遺物の違いとは何か。考古資料は何を語りかけるか。年代論、分布論。本来仲の悪いとされてきた、文献史学と民俗学と、どう付き合って総合的な学問を作り上げていくか。 佐原真らしい議論のし方で、日本文化論まで語る。面白く読ませてもらった。 (05.07.18記入)
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2005年08月17日(水) ■ |
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『ひまわりの祝祭』 藤原伊織 |
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『ひまわりの祝祭』講談社 藤原伊織 まず、読みだしたら止まらず、いろんなことを犠牲にして二日で読み切ったという事を告白しておこう。
その上で述べるのだが、著者の本を『テロリストのパラソル』に次いで読んだのだが、失望した。著者が長年勤めていた広告代理店の論理でいえば、第一作めがヒットしたなら、次ぎの二作目あるいは三作目ぐらいまでは同じ傾向の作品を作る事が消費者の期待に応えることになるのかもしない。
一作がそこそこ面白かったぐらいならそれも有りだったかもしない。しかし一昨目が江戸川乱歩賞、直木賞のダブル受賞をするような作品だったとしたら、次ぎの作品は一作目をこえて欲しいと願うのが、ファンのワガママな期待というものである。ところがこの作品一作目と構造があまりにも似ている。そもそも「ハードボイルド」というものは構造が似ているものなのではあるが、主人公は頭のいい世捨て人、もと好きだった女性によく似たヒロインが現れる。主人公の過去と絡んで物語が進んでいく。魅力的な相棒が現れる。意外な人物が悪役である。
ここまで似た作品を創ってしまうとは、面白かっただけに失望した。 (05.07.18記入)
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2005年08月16日(火) ■ |
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「生きる意味」 上田紀行 |
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「生きる意味」岩波新書 上田紀行 今このとき私はこの本を手にしたのが、偶然だとは思わない。私自身がこの春『生きる意味』を探して新しい旅に出たのではあるが、じつは日本や世界自体が、『生きる意味』を探しているのである。
生きるということは『わくわく』することである。苦悩は『わくわく』の種である。−−−−−おそらく表現は違うとは思うが、この本で書かれてある生きる意味を私はこのように受け取った。そういう記述を読むことで「もやもや」していた私の気持ちをすっきりさせることが出来た。と、同時にここではグローバリズムや、構造改革に対する簡略で的確で全体的な批判が述べられており、自分の内面も振り返ることが出来ると同時に世界全体のことも概観することが出来る。
人は、生きるためにはそのように個人と世界を常に往復することが必要なのではないだろうか。
この本が哲学者からでもなく政治学者からでもない人物、文化人類学者から出てきたというのは、ボーダレスの世の中にあっては必然だったのではあろうが、しかし、貴重である。
この本が求められる世の中というのは不幸である。しかしこの本が無視される世の中ならそれはもっと不幸だ。 (05.07.15記入)
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2005年08月15日(月) ■ |
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『たたら製鉄』 光永真一 |
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『たたら製鉄』吉備人出版 光永真一 製鉄遺跡についての教養本というものは、今までほとんど出版さていないと思う。この本の巻末参考文献を見ると、すべて発掘報告書か専門書だけなのがそれを示しているだろう。専門書を読んでたたら製鉄とは何だったのか知るのは非常に難しいと思う。古墳とは違い、実測図や発掘中の写真を見ても、当時どういう形で、どういう製鉄をしていたのか分かりにくいからである。この本の記述はそれらと比べると記述も専門用語を出来うる限り排除し、非常に分かりやすい。ただ出来るなら現地にいって復元遺跡か、ジオラマを見ることをお勧めする。
古代を考える場合は『製鉄』というものが最大のキーポイントになる。特に弥生から古墳時代にかけては『鉄』をめぐって、ダイナミックにクニが動いた(私の考えでは吉備は東遷したのだからまさに文字通りクニが動いたのである。)のだから、この遺跡を理解することが最も重要なのである。昔から吉備の地は枕言葉で「まがね吹く」と詠われてきた。『まがね』という以上、単なる鉄の加工ではない、おそらく当時のクニグニで初めて『製鉄』に成功したのがこの地域であったのだろうと私は思う。実際現在日本で最古級の千引カナクロ谷遺跡は吉備北に位置している。ただ私は6Cが最古だとは思わない。きっと弥生時代にこの吉備地方で『製鉄』は始まったはずだ。この本を読みながら、この本に書いていないことをしきりに考えた。 (05.07.05記入)
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2005年08月14日(日) ■ |
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『玉蘭』 桐野夏生 |
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『玉蘭』毎日新聞社 桐野夏生 有子は突然現れた叔父の幽霊に聞く。「あなたも共同体からつまはじきされたことがあるの?」「ある。個人として生き抜こうとすると、ぶつかるものは必ずある。」「話して」簡単な話じゃないよ。どこに行っても自分の世界を引きずって最果ての世界に到着する。新しい世界など存在しない、というのはそういう意味だ」「それはよく分からないけど、わたしは孤独だわ」
『柔らかな頬』と同じように、この作品では現実とも夢とも分からない描写に満ちている。そして主人公はここでも最果てに心を持っていくのである。世界の中心に自分がいたという思い出だけをつれて。
胸が潰れる。だけども、小説とはそういうものだ。謎は提示されるが、謎は必ずしも解決されうるものではないのだろう。 (05.07.05記入)
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