2005年04月06日(水)
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兜の緒を締めなおすべきとき
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「頑張ってないことはないのに」と、思ってしまうイマは、なかなか良くない状況だと思う。「頑張ってる」と言い切らないのは、無意識に自分が真剣でないと分かっているから。一方で、「頑張ってる」という気持ちもあって、運が悪かったなどと、うまくいってない理由を自分の外に求めている。そんな中途半端な状態が生む言葉が、「頑張ってないことはないのに」なんだろう。
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新年度に入ったこともあって、しっかりしなきゃと思っている。最近なんとなく、「この職場は戦場だ」とか思ったりする。職場に入るとき、身がすくむ思いをすることが増えた。それでも俺は、一人防空壕の中にはまってる。どう出たらいいのか分からないし、出てからどうすればいいのかも分からない。このモヤモヤをなんとかしなきゃと思い、とにかく忙しくしてみる。
昨日、帰宅したのは2時過ぎだった。厄介な仕事を1つ終えて、さぁ、でも、次やるべきことは山積み、明日も頑張ろーって頭の片隅で思いつつ、家に入った瞬間にどっと疲れが出てきて、床の上に倒れこむ。そのまま、スーツ姿で眠ってしまった。そして、次に目が覚めたら、もう昼過ぎだった。
前日、先輩に「明日の午前中はちょっと用事あるから、代わりに職場で待機しててくれないか」と頼まれていて、俺は「了解っす。そんな、先輩の頼みならなんだってやりますよー、あっはっは」なんて、テンション高かった。その翌朝。翌朝じゃない、翌昼。バッと起き上がって、窓の外の明るい空を見て、時計を見て、血の気が引いた。12時35分。携帯に着信履歴。ああ。
とりあえず電話を入れて謝り、午後からの自分の仕事先まで直行する。夕方になって、帰り道、とにかく急いで帰ろうと、近場からタクシーに乗り込むと、ラジオから歌が流れてる。BEGINの「いつまでも」。もろみ酢のCMで流れてるやつ。何度も聞いたことがあるけれど、これ、こんなに良い歌だったっけと、泣きたくなった。「帰ろう〜♪ 君のふるさとへ♪」。
職場に着き、あたらめて先輩に詫びると、やんわりたしなめられる。「いまさら学生気分が抜けてねぇとか怒るつもりはないけれど・・・。もう少ししっかりしなきゃあさ・・・」。怒られなかったぶん、着実に失っている信頼。二度と、仕事頼まれることないかもなぁと、へこむ。
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と、書いていて、気がついたけれど、「先輩に迷惑かけてしまった」ということよりも、「信頼をなくしてしまったかも」という気持ちのほうが大きいわけか。つまり、反省してねえな、俺は。どうしようもねえな。
「若い奴がうらやましい。出会いがない。めんどくさい」と言ってる先輩に、この前、弾みで「人生の終着点はどこなんすか!」とか語ってた。いや、10年上の先輩に、冗談でもそんな台詞を投げかける俺は、何様だろう。
どっか浮付いてて、気持ち悪い。慎重でもなく、謙虚でもなく、誠実でもなく、あぁ、かろうじて少しだけ残ってるそういうのを俺から取ったら、後は本当に何も残らないじゃんか。「帰ろう〜♪」。どこへ?
強いて言うなら、も一度、足元を見つめるべきということだろうか。
2005年04月01日(金)
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経験こそがものを言う
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記者という仕事は、専門職だと思う。1年目と10年目とでは責任の重さは違うとはいえ「取材して原稿を書く」という仕事の内容は全く同じなのに、できあがる記事のレベルは違ってくるから。その違いは、研修とか受けて頭で理解すれば解決するようなものでなくて、埋めようも無い経験の差から生まれるものだと感じる。剣道などで、ひたすら基本を稽古して上達していくのと似ている。世の中のあらゆる仕事が、そういうものなのかもしれないけれど。
再来週から新人が入ってくる。彼らはしばらく何もわからず右往左往を続けるだろう。手取り足取り教えてくれる人なんていないし。一年前の自分が目に浮かぶ。どうしてもっときちっと仕事のやり方を説明してくれないんだろうと、上の人たちを少し恨めしく思った時期もあったけれど、そもそも教えようも無い部分が大半だったのかと最近思う。まさに、経験じゃないかと。
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経験、というのをもう少し具体的に説明すると、それはグランドデザインを描けるか描けないかという点に尽きるだろうと考える。内輪では、「見出しが立つかどうかが大事だ」と、折に触れて言われる。かっこつけずに簡単に言うと、「どんな記事を書こうとするかをイメージできるかどうか」ということになる。それができるかできないかで、記事の仕上がりは変わってくる。
上に挙げたように、いつもどんな仕事をしているのかと尋ねられたなら答えは単純、「取材して原稿を書く」だけ。補足すると、取材ってのは記事に使う素材を集める作業。原稿を書くってのは、集めた素材を取捨選択して記事の形に並び替える作業。その2つの作業を例えるなら、世の中に散らばったピースを探し出してきて、それを自分の頭の中に描く額縁にはめ込んでいく、半ば機械的な作業なのかなぁと思う。その額縁というのが、グランドデザインであり、見出しであり、自分が書こうとする記事のイメージになる。
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例えば、誰かと話すなりテレビを見るなりしていて、「最近黒酢が売れている」という情報を手に入れたとする。そしたらすぐさま様々な疑問が生まれてくる。なぜ売れているのか、いつから売れ出したのか、誰が買っているのか、市場規模はどれくらいか、どんなメーカーと商品があるのか、それら各メーカーや商品の強み弱みは何か、どこがトップシェアか、今後も売れ続けそうなのか、そもそも黒酢とはどんな味でどんな特徴があるのか・・・。これらの点が、最低限、聞いたり調べたりするべきことだと思い浮かぶ。最初のころは、すべて尋ねきれないまま満足してしまい後で困るものだけど。
そうして集めた情報から、記事を組み立てる。おそらく、「黒酢市場の拡大続く、飲みやすい商品増え幅広い世代に定着」などといった見出しが立ち、これから書こうとする記事のイメージが浮かぶかもしれない。これはこれでいい。記事として成立するのだけど、例えば上の見出しの「黒酢」を他の言葉に置き換えてみる。豆乳でも焼酎でも何でもいい。「焼酎市場の拡大続く、飲みやすい商品増え幅広い世代に定着」、これはこれで成立しそうだ。つまり、先に立てた見出しは他のものでも置き換え可能で、黒酢が売れているという記事に「だけ」ふさわしいものとは言えない。それは、つまらない。
ここで経験がものを言うようになると思う。もう少し踏み込んだ情報を集めてくる。黒酢が売れているなら他の商品が売り上げを落としているのではないか、どこの会社の商品が最初に市場に出て商品化までどんな苦労があったのか、各社はどんな販促をしてきたのか、同じ黒酢でも売れる商品と売れない商品の差は何か、黒酢の原料はどこから供給されているのか・・・。
ここらへんの質問は、「黒酢が売れている」という情報を手にした時に、どんな記事を書こうと考えたかで、いろいろ変わってくる。「ヒットの秘密を探って、他の分野でも似た事例を探してまとめて書こう」と思えば、何より開発話や販促のことを深く聞きだす必要がある。「需要増で生産増強する会社が多いのでは」と思えば、各社の原料調達の仕組みや生産拠点のことを詳しく尋ねねばならない。もちろん、一つのネタから幾つも記事を書くことができるくらい、あらゆる情報を引き出せればそれにこしたことはないけど。
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とにもかくにも、こうして何を尋ねるかについて、臨機応変に考えながら、取材に応じざるを得ない。こんなもん口でいくら説明したって、何度も様々な記事を書くことを経験する以外に、やれようもない。ちなみに、取材でネタを集めてくることと、集めたネタを記事にすることと、どちらが大事かと言うと、圧倒的にネタを集めることのほうだ。材料が無いことには、加工のしようもない。材料がありさえすれば、調理が下手でもそれなりの味に仕上がる。寿司屋と同じで、おいしくて新鮮なネタがあってこそ、うまい寿司になる。 というわけで、まぁ、そういうおいしいネタを探すのに必要なものは経験で、最近少し、やり方が分かってきた(もしくは、分かったつもりになっている)けれど、まだまだ経験が足りない。何をもって一人前の記者なのか、今もよく分からないけれど、とりあえず単なる「黒酢が売れている」という情報から、読者をうならせるようなおもしろい記事を書けるようになったとしたら、その時は、少し胸を張ってもいいんじゃないかとは思う。
・・・と、いっても。まぁ、記者の仕事・記事の種類ってほかにもいくつかあって。目に見える一つの事実を掘り下げていくこと以外に、取ってきた情報を30分で完成原稿に仕上げるとか、浅い内容でいいからとにかく量を書くとか、表に出ない話をどこからか入手してくるとか、まぁ、人によりタイプはあるのだけど、やっぱり、単純な事実を掘り下げて新しい事実を掘り出してくることこそが、一番の醍醐味だと、俺は思います。
偉そうなに書きながら、まだ充分な働きはできてないし、まだまだ若造だから、後で振り返って、思わず失笑してしまうようなことを書いているのかもしれない。とにかく今は、目の前のやるべきことをやるしかない。経験を積んでって、その先に何を思うのかは知らないけれど。稽古を重ねる以外に上達の方法はない剣道と、やっぱ似ているものを感じる。
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