2014年09月28日(日) |
キス我慢選手権THE MOVIE2サイキック・ラブ、パワー・ゲーム |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『キス我慢選手権THE MOVIE2サイキック・ラブ』 2013年5月に紹介したテレビ東京・深夜枠番組からの映画版 の第2弾。前作同様、異常なシチュエーションの中でキスを せがむ美女の攻撃を、川島省吾こと劇団ひとりがアドリブの 演技で交わして行く。 そのシチュエーションは、前作の時はゾンビものだったが、 今回は題名の通り超能力者もの。物語は劇団ひとりが超能力 者によって殺されるというプロローグに始まり、そこから時 間を遡った高校生の劇団ひとりが過去を改変してその未来を 回避できるか…という展開になる。 この物語を相手役の役者たちはシナリオに従い、それに対し て劇団ひとりは何も知らないままアドリブで演じて行くとい うものだが、殺陣や中には弾着付の上着を着せられてそれが 破裂するシーンなどもあって、これらを展開を知らずに演技 するのはかなり大変だろうとは思わせるものだ。 しかも前作の時は、さすがに後半では劇団ひとりの集中力が 切れた感じで多少見苦しい部分もあったが、今回はペース配 分が本人なりに理解できていたようで、最後までしっかりと 演技を続けられていたのは、お見事と言ってあげられる作品 に仕上がっていた。 共演は、伊藤英明、近藤芳正、マキタスポーツ、入江雅人、 戸次重幸。また上原亜衣、小島みなみ、白石茉莉奈。それに 福士誠治、中尾明慶、柄本時生、安井順平らがドラマの脇を 固めている。さらにMC役としておぎやはぎ、バナナマンと テレ東アナウンサーの松丸友紀。 という作品だが、これは前作の時もそうだったが番組進行の 時間経過が曖昧で、設定では24時間だったはずの時間経過が それより長くなってしまっていたりする。それが今回は最後 に放送事故のような状況も招いているもので、これは製作者 側がしっかりしていれば防げたと思えるものだ。 しかも本作では、上記の展開からもう一ひねり裏の話も進行 しているのだが、ここまで来るとストレートな作品でも理解 できない観客が出るかもしれないと思える程のもの。これを 全てシナリオなしのアドリブで交わし切るのは、いくら何で も酷というものだろう。 もっともその全体がやらせならば話が始まらないが、作品の 意図をしっかり考えるならばその辺からちゃんとするべき作 品に思える。とは言え、前作に比べれば数段良くなっている ことは認められるもので、その辺を踏まえて第3弾が作られ ることは期待したい。 公開は10月17日より、全国ロードショウとなる。
『パワー・ゲーム』“Paranoia” 2008年3月紹介『ラスベガスをぶっつぶせ』などのロバート ・ルケティック監督による最新作で、2013年12月などで紹介 『ハンガーゲーム』シリーズに出演のリアム・ヘムズワース が現代社会の闇に陥れられた若者を演じるサスペンス作品。 主人公は、大手モヴァイル企業に勤めるIT技術者。仲間と 共に斬新なアプリケーションを考案した主人公だったが、最 大手の会社から独立起業したCEOへのプレゼンテーション に失敗し、チームごと解雇されてしまう。 現代のアメリカ企業、特にIT産業は一握りのセレブCEO に支配され、若者たちがいくらあがいても成功を夢見ること などできない社会になってしまったようだ。そしてCEOに 見限られた主人公らは路頭に迷うことになる。 映画の巻頭で、「アメリカンドリームは無くなった」という ような主人公の述懐がナレーションされる。この状況は日本 も同様かも知れないが、特に上昇志向の強いアメリカでは、 さらに事態は深刻と言えるかもしれない。 その一方でこれは、ある意味アメリカンドリームの象徴でも あったハリウッド映画が、ついにその現実を描き始めたとも 思わされたものだ。そんな正しく原題の若者を取り囲む現代 社会の闇が主人公の周りで蠢き始める。 そして解雇された腹いせに社用カードで乱痴気騒ぎを行った 主人公は、改めてCEOの前に呼び出され、そこで犯罪行為 を指摘された主人公は、その告発と引き換えにある提案を受 け入れざるを得なくなる。 その提案とはCEOの元の勤務先に潜入し、最大手の企業が 開発中の新規格を盗み出すこと。こうして病弱な父親を人質 にも取られた主人公は、アメリカでは殺人にも匹敵する重罪 の産業スパイに従事することになるが…。 共演はハリスン・フォード、ゲイリー・オールドマン、今年 1月紹介『マチェーテ・キルズ』などのアンバー・ハード。 それにポスターなどには掲載されていないが、リチャード・ ドレイファスが登場している。 フォード、オールドマン、ドレイファスの3人のヴェテラン が主人公を囲む善悪の導師役という感じだが、前の2人に対 してドレイファスだけポスターに名前が出ないのは、まあ最 近の活躍の度合いだろう。 ただこの3人の名前が並ぶと大体善悪の判別がついてしまう 訳で、その点で言うとドレイファスの名前がないのは賢明な 処置と言えるかもしれない。それにしてもフォードの名前を 最初に知った映画『AG』の主演は…だったものだが。 公開は11月15日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード ショウとなる。
2014年09月21日(日) |
ヲ乃ガワ、茜色クラリネット |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ヲ乃ガワ』 山形県米沢市にある小野川温泉が製作した長編劇映画作品。 因に試写状にはスチームパンクSFと書かれていた。 物語の背景は、2033年に地球規模の災害が発生し人類がほぼ 滅亡して1000年後の未来。旧日本の小野川温泉があった場所 には大災害を生き延びた人々の末裔が僅かながら暮らしてい た。そしてそのコミュニティは「ヲ乃ガワ」王国と称し、そ の国は絶対権力を持つ国王が支配していた。 その国王が定める国法の根幹は、1000年より以前の旧世界に 関る調査を禁止すること。そして子供たちには国王の業績を 崇める教育が徹底され、それらを監視する「監視局」が強権 を持って人々を統制していた。そんな統治が1000年も続き、 人々は貧しいが安定した社会を築いていた。 しかしそんな社会に疑問を持つ者はいた。それは主に考古学 者で、彼らは遺跡からの発掘物を解析して旧世界の真の姿を 探ろうとしていた。そして主人公は、亡き父の遺志を継いで 違法な発掘を続けている少女。そんな彼女が見付けた電子機 器が社会に新たな局面を招来する。 脚本と監督は、2003年発表の『グシャノビンヅメ』がモント リオール・ファンタジア映画祭で受賞を果たすなどしている 山口ヒロキ。主演は、2009年8月紹介『携帯彼氏』などに出 ている前田希美。共演に戦隊シリーズの劇場版などに出てい る及川奈央。 他に今年1月紹介『魔女の宅急便』などの志賀廣太郎、侏儒 役者のマメ山田、『るろうに剣心』などの深水元基、2013年 12月紹介『ゼウスの法廷』などの川本淳市。さらに『グシャ ノビンヅメ』にも出演の漆崎敬介らが脇を固めている。 登場する国王の姿が毎回異なるものになっているなど、映画 の端々にはいろいろな仕掛けが施されている。それらの因果 関係は、SF映画を観馴れている者にはある程度予測できる ものだが、それなりの見識は理解できた。 その他にも、この種のユートピア(ディストピア)物にあり がちなある設定が、最後に重大な意味を持っているなど…。 先の受賞作も未来社会を背景にした物だったようだが、この 手の物語はお得意のようで、本作もしっかりした世界観で作 られていた。 それに試写状に添えられたスチームパンクという言葉が、な るほどこれならと納得できたものだ。 地元での先行上映はすでに行われたようだが、一般向けには 11月1日から、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム を皮切りに全国順次公開される。
『茜色クラリネット』 北海道札幌市で6年間も続いているという中学生向けの映画 ワークショップが製作、ワークショップで学んだ高校1年生 の少女が監督した上映時間81分のファンタシー作品。 主人公は、札幌市の一角で屯田兵の歴史を持つコトニの中学 に通う3年生の女子。夏休みになりそろそろ進学先の進路を 決めなくてはいけない時期だが、彼女自身は自分の将来の夢 が決まっていない。 そんな主人公が、親友が店番をしている古書店で「夢の中に 入れる」本に遭遇する。そしてその本に書かれた手順を実行 してみると…。主人公と親友は、場所はコトニだが人影のな い不思議な街を歩いていた。 そんな夢の中で主人公たちは助けを求める少女の声を聞く。 それはその場所で交通事故に遭い昏睡状態が続く幼馴染みの ものだった。こうして幼馴染みの窮状を知った主人公たちは 彼女を救うことを決意。 これに、最近コトニで異変が起きていると主張する新聞部の 男子や、夢を失ったまま大人になってしまった「大人病」の 大人たちが絡んで、コトニの街を襲う最大の危機との闘いが 開始される。 監督は、ワークショップで中学の3年間学んだという坂本優 乃(1997年生まれ、撮影時高校1年生)。すでに中学時に脚本 監督した短編作品が受賞も果たしているとのことで、今回は ワークショップ初の長編作品に抜擢された。 脚本は一般公募された島崎友樹という男性のものだが、監督 はその改稿も行ったとのことで、今どきの女子中学生の言い 回しや、元々ファンタシーが好きという監督の感性が作品の 各所に磨きを掛けているようだ。 主演は、監督の前作にも出演したという佐藤楓子と佐藤莉奈 (共に1999年生まれ)。その周囲を劇団系や舞台演出も務める 大人の俳優たちがしっかりと支えて、見事なアンサンブルを 繰り広げている。 映画の巻頭では躍動する演出で活気に溢れた街の風景が描写 され、そこから一転して静謐な夢の世界に入って行く。その 切り替えが見事で、正しく夢に入ったという感覚が伝わって きた。これが高校生の作品かと括目したものだ。 また物語には、夢と現実の多層化という複雑な構成があり、 さらにそこに監督自身の映画に掛ける想いや現実社会の状況 なども重なって、一歩間違えば混乱の極みになるような作品 だが、10代の監督が見事にそれを処理していた。 僕が観た初回の試写会では、上映後に監督も登壇のティーチ インがあって、そこでの発言によると編集や画質の調整など には大人のプロの手も入っているとのこと。しかし基本は監 督の意見な訳で、この才能は期待したい。 それにしても、登壇した現在高校2年生の監督は受け答えも しっかりとして正に才媛という感じ。将来は三谷幸喜のよう なコメディも書いてみたいと話していたが、ファンタシーの 路線も忘れずに夢を実現して欲しいものだ。 地元での公開はすでに行われたようだが、東京では11月1日 から14日まで、渋谷のユーロスペースにて2週間限定のモー ニングショウが行われる。以後は全国のミニシアターで順次 公開となるようだ。 また海外の映画祭での上映も決定しているようで、それに向 けたファンドの支援が呼びかけられている。ファンディング の期間が10月23日までで、映画を観ない内の支援は難しいか もしれないが、観た僕は少し支援したいと考えている。
2014年09月14日(日) |
荒野はつらいよ〜アリゾナより愛をこめて〜、風邪(ふうじゃ) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『荒野はつらいよ〜アリゾナより愛をこめて〜』 “A Million Ways to Die in the West” 日本でも大ヒットを記録した2012年11月紹介『テッド』のセ ス・マクファーレンが、脚本、監督、主演を務める19世紀末 のアメリカ西部を舞台にしたコメディ作品。 主人公はアリゾナの荒野で羊飼いをしている男性。飼ってい るのが牛や馬でなく羊というところからおやおやと思い始め るのだが。しかもこの主人公が臆病というか、非暴力主義者 で、正しく原題通りの「100万通りの死に方」を思い知らさ れることになる…というお話。 さらにそこに西部最凶と呼ばれる悪人とその愛人が絡んで、 ただでさえ右往左往している主人公はさらに振り回されるこ とになる。しかし主人公もただ坐している訳ではなく、何と か反撃の特訓も行われるが。徐々に進歩はするもののいざと なっては太刀打ちできるはずもないもので…。 コメディとは言っても全部がアチャらかではなく、それなり の理屈は通して物語が進められる。従って観ていても嫌味な 感じはしないし、退くところもなかった。まあただ下ネタと いうか、多少下品なネタも登場するが、そこは『テッド』が 受け入れられたなら日本の観客もOKかな。 共演は、シャーリズ・セロン、リーアム・ニースン、アマン ダ・セイフライド。 他に、2012年4月紹介『ラム・ダイアリー』などのジョヴァ ンニ・リビシ、2004年2月紹介『スクール・オブ・ロック』 などのサラ・シルヴァーマン、2006年2月紹介『ニュー・ワ ールド』などのウェス・ステューディらが脇を固めている。 さらに、ユアン・マクレガー、ジェイミー・フォックスらの カメオ出演もあったようだ。 本作はアメリカ西部が舞台のコメディなのだけれど、いわゆ るパロディではなく、その点では予備知識などはなくても楽 しめる作品になっている。ただ映画の雰囲気が何となくどこ かで知っている感じがして、映画を観ながらいろいろ考えて いる内、ふとある題名に辿り着いた瞬間…!! いやあこれは本当に衝撃だった。ここでこのネタが振られる とは思いもよらなかった。でも、本作の全体に漂う雰囲気は 正しくその作品で味わったのと同じもの。本作は、その作品 の傍系とも呼べ、そう考えるといろいろ符合する点もあった ような感じだ。 これはファンには極上のプレゼントだし、お蔭でこの作品の 評価は一気に高まった。 公開は10月10日から全国ロードショウとなる。 なお、本作は『テッド』と同様のR15+指定になっている。
『風邪(ふうじゃ)』 邪な風と書いて本当は病気のカゼのことだけれど、本作では 敢えて「ふうじゃ」と読ませる。 2009年9月紹介『戦慄迷宮』や2010年7月紹介『七瀬ふたた び』などを手掛けた小椋悟プロデューサーが、2008年1月紹 介『軍鶏(Shamo)』などの脚本を担当した橋本以蔵を招いて 製作した伝染病が題材の作品。 まず登場するのは、廃材置き場のような現場で単純作業に従 事している男性。彼は体調が良くないらしく、常に咳き込ん でいる。そんな彼は仲間に誘われてスナックに飲みにも行く が、そこでも仲間の騒ぎには加わらない。 ところがスナックのホステスにちょっかいを出した仲間を諌 めた彼は仲間の不興を買い、そのままホステスの家に暮らす ことになってしまう。そんな彼はカールツアイスの顕微鏡を 後生大事に抱えていた。 実はその男性は学生時代から頭角を現した細菌学者で、彼は 風邪のウイルスの研究し、すべての風邪に効く万能ワクチン の開発を進めていた。しかしそのワクチンを巡る利権争いに 巻き込まれ、自らの身を隠していた。 一方、彼を匿ったホステスには病弱な幼い息子がいて、その 息子は風邪をひいたら命が危ないとされたいた。そんな息子 のためにも万能風邪ワクチンは絶対の延命手段だったが…。 こうして彼らは企業の争いの渦に巻き込まれて行く。 主演は、窪塚洋介、小西真奈美。他に江本明、秋吉久美子、 和田哲史、クリス・ペプラーらが脇を固めている。 風邪のワクチンは、僕が子供の頃には完成させたらノーベル 賞とか、実は開発されているが製薬会社が隠しているとか、 一種の都市伝説のようなものだったが、その状況は何十年も 経った今も変わらないようだ。 そんなワクチンがテーマの作品で、ちょうど国内でもデング 熱や海外でも重大なパンデミックが起きている時期には格好 の作品と言えるかもしれない。でも本作は上映時間が96分と いう作品で、重大な内容の割にはちょっと短かったかな。 全体的に何か言い足りない感じがして、特に背景にあるはず の企業間の争いなどがほとんど描かれないから、主人公が開 発したワクチンの重要性なども、ストレートには理解し難い 感じだった。 その辺をしっかり描ければ、もっと面白い作品になったと思 うのだが。 公開は9月27日から、東京はシネマート六本木ほかで、全国 ロードショウとなる。
2014年09月07日(日) |
ミニスキュル−森の小さな仲間たち−、The Congress(コングレス未来会議) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ミニスキュル−森の小さな仲間たち−』 “Minuscule - La vallee des fourmis perdues” 南フランスにある国立公園を背景に、その森林で撮影された 実景の中に様々な昆虫をCGIで登場させて人気を呼んだと いうフランス製アニメーションシリーズからの3D劇場版。 物語の舞台は南フランスの国立公園でもある森林地帯。そこ で兄弟と共に誕生したテントウムシの子供が主人公となる。 ところが好奇心旺盛な主人公は家族とはぐれ、途方に暮れて いたところを食糧調達に来た黒アリのグループに遭遇する。 そして行動を共にすることにした主人公は、黒アリたちが見 つけた宝物をアリ塚に運ぶ手伝いをするのだが、それは目も 眩む冒険の連続となる。しかも宝物のことを知った赤アリの 軍団が黒アリを襲撃、さらに住処のアリ塚に襲い掛かる。 果たして黒アリたちはその宝物とアリ塚を守ることができる のか…。 お話はまあ他愛ないものだし、自然科学的にも有り得ない展 開だが、メルヒェンとしては合格点かな。特に台詞が全て擬 音というか言葉ではないので字幕もなく、お子様にも容易に 理解できるようにされているのは、目的合致だ。 その一方で、実景で撮影された森林の風景は奥行き感も明瞭 で、3D作品としても及第点。さらに合成された昆虫たちの CGIは、その配置も正確でこの技術力は相当に高いものと 言える。これでシリーズ化されたらまた観たいものだ。 脚本と監督は、2007年2月紹介『ルネッサンス』に関ってい たというエレーヌ・ジローとトマス・ザボ。2人は2006年に 公開されたオリジナルの第1シーズン、2012年公開の第2シ ーズンも手掛けており、正にシリーズの顔と言える。 そして第2シーズンの企画と共にスタートした本作の計画で は、当初はオリジナルのエピソードを繫いだものも考えられ たが、劇場に足を運んで貰うには新たな物語が必要との判断 になり、5年の歳月を掛けて本作が産み出されている。 因にエレーヌは、『エイリアン』や『トロン』などのデザイ ンを手掛けたフランスの漫画家ジャン・ジロー(メビウス) の娘だそうで、本作のエンディングロールには2012年に亡く なった漫画家への献辞があったようだ。 本作はアクションもたっぷりで、いろいろな点で充分に楽し める作品ではある。特に黒アリと赤アリの攻防戦は、戦いの 後の様子などは大人の目にも考えさせられるものが描かれて いた。ただクモのお家と、それに関ったトカゲの去就はもう 少し描いて欲しかったかな。その辺が少し物足りなかった。 公開は10月18日から、全国のイオンシネマで2D/3D上映 される。この公開シチュエーションも本作にはぴったりの感 じだ。
“The Congress” スタニスワフ・レム原作『泰平ヨンの未来学会議』の映画化 で、今年3月20日−23日にTOHOシネマズ日本橋で開催された 東京アニメアワードフェスティバル2014において、グランプ リを受賞した作品。実は日本公開は未定の作品だが、フェス ティバル2015の開催告知と共に、特別上映が行われた。 物語の始まりは現代のハリウッド。少し盛りを過ぎた女優が マネージャーから決断を迫られている。それは女優の容姿を データ化して以後はCGIに演技させるというもの。これに より女優は人気絶頂の頃の姿を取り戻せるが、以後は生身で 人前に出ることは禁じられるという。 一方、女優には心に障害を持つ息子がおり、その息子との生 活も考えて女優は決断を下す。こうしてデータ化された女優 は往年の容姿のまま、SF映画など今まで演じたこともない ようなアクションにも進出して人気を博して行く。 それから20年、映画会社との契約期間が満了して現役復帰も 可能になった女優は、会社が主催する「未来学会議」に招か れるが…。その会議では会社が新たに開発した幻覚剤が発表 され、それは人々を現実と幻想の境目のない世界へと引き摺 り込んで行く。 脚本と監督は、前作『戦場でワルツを』が2009年のゴールデ ングローブ賞外国語映画賞を受賞し、米アカデミー賞の外国 語映画部門にもノミネートされたアリ・フォルマン。前作も 実写とアニメーションの混合だったが、本作ではさらにそれ を推し進めた作品になっている。 出演は、本作の製作者にも名を連ねるロビン・ライト。その 脇を、2004年12月紹介『ナショナル・トレジャー』や2012年 12月紹介『ムーンライズ・キングダム』などのハーヴェイ・ カイテル、2011年4月紹介『エンジェル・ウォーズ』などの ジョン・ハムらが固めている。 ロビン・ライトは劇中も実名で登場し、彼女が契約する映画 会社の名前はミラマウント。さらにアニメーションのキャラ クターには、思わずニヤニヤしてしまう顔ぶれが登場するな ど、映画ファンにはプレゼントのような作品。 でもそれ以上に、現実と幻想の入り混じりや俳優をデータ化 して活躍させるアイデアなど、SFファンにはこちらも極上 の贈り物という感じの作品だ。しかもストーリーの複雑さは 到底1回観ただけでは理解し切れない構造になっている。 先にも書いたように本作の日本公開は未定のものだが、告知 された東京アニメアワードフェスティバル2015の開催概要で は、アリ・フォルマン監督が審査員を務めることも発表され ており、開催時には特別上映の可能性も高そうだ。 因に、今年の東京アニメアワードフェスティバル2014では、 上記の『ミニスキュル−森の小さな仲間たち−』と、2012年 6月「フランス映画祭2012」で紹介した『アーネストとセレ スティーヌ』もコンペティションで上映され、後者は優秀賞 を受賞している。 なお東京アニメアワードフェスティバル2015は、2015年3月 19日−23日にTOHOシネマズ日本橋で開催される。
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