井口健二のOn the Production
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2013年05月30日(木) オン・ザ・ロード、素敵な相棒、風切羽、シェフ、恋のベビーカー大作戦、ジェリーフィッシュ、オーガストウォーズ、ワイルド・スピード6

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『オン・ザ・ロード』“On the Road”
1957年に発表されたビートジェネレーション文学の代表作で
あり、その後は「ヒッピーの聖典」とも呼ばれたジャック・
ケルアック原作小説の映画化。原作は何度も映画化が企画さ
れ頓挫していたが、今回はフランシス・フォード・コッポラ
製作総指揮の許、2004年8月紹介『ビハインド・ザ・サン』
などのウォルター・サレス監督によって実現された。
主人公は、ニューヨークに暮らす若い作家。父親を亡くして
喪失感に囚われていた彼に転機が訪れる。それは西部から上
京してきた1人の男によってもたらされた。その男は少年院
上がりの自動車泥棒の常習犯で、若い女性と一緒に暮らし、
何もかもが型破りだった。
その後、その男からの手紙でコロラド州デンバーに招かれた
主人公は、初めて訪れる未知の西部で人生を変える旅を開始
することになる。そしてその旅は、ノースカロライナからル
イジアナ、果ては隣国メキシコの地にまで及んで行く。

原作は元々起承転結のストーリーもなく、原作者の体験に基
づく様々なエピソードが羅列されたものだそうで、それは映
画化には不向きな作品だったようだが、その原作からサレス
と2003年『モーターサイクル・ダイアリーズ』でも組んだホ
セ・リベーラが見事な物語を紡ぎ出している。
因にコッポラは、2003年の作品を観て彼らなら映画化を実現
できると見て依頼したそうだが、その実現までには8年の歳
月が掛けられたものだ。
出演は、2010年10月24日付「第23回東京国際映画祭」で紹介
『ブライトン・ロック』などのサム・ライリー、同年12月紹
介『トロン:レガシー』で主演のギャレット・ヘドランド、
『トワイライト』でブレイクする以前に出演が決まっていた
というクリステン・スチュワート。
さらに昨年12月紹介『ザ・マスター』などのエイミー・アダ
ムス、2009年8月紹介『パイレーツ・ロック』などのトム・
スターリッジ、2011年2月紹介『ザ・ライト[エクソシスト
の真実]』などのアリシー・ブラガ。
またキルスティン・ダンスト、ヴィゴ・モーテンセンらが脇
を固めている。なお、登場人物にはそれぞれモデルがおり、
主人公が原作者である他に、モーテンセンが演じるブル・リ
ーは『裸のランチ』のウィリアム・S・バロウズだそうだ。

『素敵な相棒』“Robot & Frank”
2009年1月紹介『フロスト×ニクソン』などのフランク・ラ
ンジェラが介護ロボットとコンビを組む近未来を背景にした
作品。
主人公は高齢の独居老人。週に1回息子が訪ねてくるが、お
互いにその存在は目障りになっている。そしてついに息子は
最新式の介護ロボットに父親の面倒を見させることにするの
だが、何でも1人で出来るとする老人には迷惑だ。
ところがそのロボットには、老人に生き甲斐を見付けさせる
機能がプログラムされていた。そして息子にも内緒の老人の
密かな生き甲斐は、他人の家の錠前を破り、忍び込んで高価
な品物を盗んでくることだったのだ。
こうしてロボットに錠前破りの技術を教え込んだ老人は、自
分の技術を活かして、行きつけの図書館の廃館を企む連中を
懲らしめる作戦を開始するが…。ロボットの相棒には大きな
問題があった。

共演は、昨年12月紹介『クラウド・アトラス』などのスーザ
ン・サランドン、2008年1月紹介『魔法にかけられて』など
のジェームズ・マースデン、『LOTR』3部作などのリヴ・タ
イラー。そしてロボットの声優を、2009年9月紹介『エスタ
ー』などのピーター・サースガードが務めている。
脚本と監督は共に新人で、監督はジェイク・シュライヤーと
脚本はクリストファー・D・フォード。2人はニューヨーク
大学の出身で、共同で制作プロダクションを設立してCMな
どを手掛けてきたそうだ。
そんな2人の映画デビュー作となっているものだが、物語は
老人問題や合理主義の問題を取り上げて社会性も有り、そこ
にロボット介護を介在させるアイデアは斬新で面白いと感じ
られた。
しかもロボットの抱える問題点は、これはいわゆるロボット
物の中でも新しい視点と言えるもので、これはなるほどと納
得した。しかしそれに対する解決が安易というか多少呆気な
く、ここはもう少し主人公に悩んで欲しいとも思えた。
もちろんそこまでに葛藤はあるのだが、それが物語の中で充
分に描かれていない。これではSFファン以外の観客には、
脚本家及び監督の真意が伝え切れないのではないかとも感じ
られた。
ロバート・A・ハイラインの『月は無慈悲な夜の女王』など
SFの小説では定番の結末ではあるが、この切なさをもっと
しっかりと描いて欲しかったものだ。


『風切羽』
2010年の長編デビュー作『こもれび』が上海国際映画祭など
に正式招待され、本作では韓国・全州国際映画祭の新人監督
部門で第2位にあたる作品賞を受賞した小澤雅人監督作品。
主人公は、実の母親や姉にも疎まれている少女。過去の虐待
の事実から現在は児童養護施設に措置されているようだ。そ
の身体には虐待の跡も残っている。しかしそれでも家族との
絆の切れない少女は、施設を抜け出し家族に会いに行く。
そして将来に夢を抱く少女はアルバイトをして貯金してもい
たが、訪ねてきた母親とは別居中の父親はそこにも目をつけ
る。そんな少女が街角で1人の少年と出会う。その少年は昔
住んでいたその地区で自分の過去を探していた。
こうして、共に自分の拠り所を求める2人は、何となく行動
を共にするようになるが…。やがてそれは重大な事件へと繋
がって行く。
監督は以前の作品でも、社会に馴染めない不器用な人たちを
テーマにしていたそうだが、本作ではその根源と言えるかも
しれない児童虐待を取り上げ、さらにこれを3部作として描
いて行く計画だそうだ。

出演は、2011年3月紹介『大木家のたのしい旅行』に出てい
たという秋月三佳、2012年『仮面ライダーウィザード』にレ
ギュラー出演した戸塚純貴。他に、川上麻衣子、五大路子、
重松収、石田信之、佐藤太、寺田有希らが脇を固めている。
題名は、鳥の翼の一部で飛翔に不可欠とされるもの。ペット
として飼われている鳥ではその部分を切除して飛べないよう
にすることも行われており、映画ではその切除のシーンも繰
り返し描写される。また映画のチラシには「歪んだ愛と暴力
が、私の羽を切り落とした」と記載されている。
しかし映画の中でその具体的な説明はなかったようで、こと
さら衝撃的なそのシーンが印象に残るが、それも監督の目的
なのだろう。その他にも印象的な演出や構成が散見され、な
かなか巧みに作られた作品に感じた。これなら映画祭の受賞
も頷けるものだ。
そして物語には、児童虐待を受けている少女たち(少年側に
は具体的な描写はないが、容易にそれを想像させる)への同
情ではない優しい眼差しが溢れ、この作品の意図を見事に描
いていると感じられた。

公開は6月22日から。東京は池袋のシネマ・ロサ。その他
全国は、愛知県を中心に青森から小倉まで展開するコロナシ
ネマワールドというチェーンで公開されるようだ。

『シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』
“Comme un chef”
昨年12月に日本公開された作品だが、その折に僕は試写を観
られなかったもので、今度はそのDVD&Blu-rayでのリリース
が決まり、サンプル版を観せてもらった。
物語は、自分の料理に絶対の自信を持ち、そのため客や店の
オーナーと対立して職を失い続けているシェフ。しかし同棲
中の女性が妊娠し、我が子の誕生が近づいてやむ無く別の職
に就くことになる。
ところがその職場で厨房を外から覗いた主人公は、思わずそ
の調理に口を出してしまう。しかもそこには彼が信頼する名
シェフが勤める店の先代オーナーが暮らしていた。一方その
名シェフも跡を継いだオーナーとの確執に悩んでいて…
パリの有名レストランの厨房を舞台にした作品では、2007年
6月に『レミーのおいしいレストラン』なども紹介している
が、ミシュランガイド(とは名指ししないが)の星の数が引
き起こす問題は、人情コメディには最適なようだ。

出演は、2009年公開の“Lucky Luke”でビリー・ザ・キッド
を演じたというミカエル・ユーン、そして名シェフ役にジャ
ン・レノ。
他に、2011年3月紹介『黄色い星の子供たち』などのラファ
エル・アゴゲ、2010年12月紹介『ナンネル・モーツァルト/
悲しみの旅路』などのサロメ・ステヴナン、同6月紹介『セ
ラフィーヌの庭』などのセルジュ・ラリヴィエール、2002年
12月紹介『ブラッディ・マロリー』などのジュリアン・ボワ
ッスリエらが脇を固めている。
脚本と監督は、俳優でもあるダニエル・コーエン。舞台では
二人芝居も得意だという監督が、ユーンとレノの2人を中心
に据えて、見事な作品を作り上げている。
因に本作の企画を進めていた当時は、上記の『レミー』以外
には高級レストランを舞台にした作品は少なかったそうで、
本作は「未開拓地」として取材からスタートしたそうだ。し
かし映画が完成時にはブームが到来していたとのことだ。
それにしても、映画には「分子料理」と称する得体の知れな
いものも登場するが、その他は正に高級レストランの厨房を
覗いているような雰囲気。美味しそうな料理のレシピなども
次々に紹介される。
しかもそこには伝統を重んじるあまり硬直化したシェフや、
そのレシピに果敢に挑戦する若手の姿などもあって、素敵な
人間ドラマが描かれていた。

なお今後もこのような形で、見逃した作品を紹介する機会が
ありそうだ。

『恋のベビーカー大作戦』
“La Strategie de la Poussette”
日本未公開の作品をwowowで放送する「W座からの招待状」
が、さらにその上映の場を映画館に広げて放送前に公開する
企画「旅するW座」の第4弾作品。
物語は、自分に自信がないために父親になることに踏み切れ
ない男性が主人公。とあるパーティで一目惚れをした女性と
交際を始めるが、彼女には子供が欲しいと願望があった。こ
のため2人は別離を余儀なくされてしまう。しかし主人公は
彼女への未練を断ち切れない。
そして1年後、主人公の許に突然赤ん坊が降ってくる。そし
て特定の期間、赤ん坊の面倒を見る羽目に陥った主人公は、
その赤ん坊を利用して別れた彼女に育メンをアピールする作
戦に出るが…。
作品は、今年初春にフランスで公開されて40万人の動員を記
録したそうだが、若い男性が赤ん坊の面倒を見る羽目に陥る
という物語は従来からいくつも知られているものだ。しかし
育メンブームと言われる日本ならさらに観客へのアピールも
し易いかな?

出演は、今年6月開催の「フランス映画祭2013」で『黒いス
ーツを着た男』が紹介されるラファエル・ペルソナーズと、
フランスではお天気お姉さんとしても人気の高いシャルロッ
ト・ルポン。他に2010年2月紹介『オーケストラ!』などの
フランソワ・ベルレアンらが脇を固めている。
脚本と監督は、2008年の「フランス映画祭」で『娼婦とニワ
トリ』という作品が紹介されているクレモン・ミッシェルの
作品。
自分自身が子供2人の子育てに協力したと思っている男性と
しては、主人公が育児に興味を持つまでの過程をもう少し詳
しく描いて欲しかった感じもするが、今の状況ではその必要
はないのかな?
まあこれで男性の育児への興味を喚起する程の野望を持った
作品という訳ではないのだろうが。

なお本作は「旅するW座」として、7月5日の名古屋シネマ
スコーレを皮切りに、松山、大阪、佐賀、宮古、浜松で各々
2回ずつ全12回が、金曜夜に無料上映されるとのこと。
残念ながらこの中に東京での上映は予定されていないが、実
は前回紹介した『愛のあしあと』も「旅するW座」の第1弾
として昨年11月に地方で公開されたとのことで、その流れで
今後東京での公開もあるかもしれない作品だ。

『ジェリーフィッシュ』
昨年9月に『自縄自縛の私』を紹介した「R-18文学賞」シリ
ーズのvol.2。今回は、1990年代の『ガメラ』シリーズや、
2000年代の『デスノート』を手掛けた金子修介が監督した。
原作は雛倉さりえという新人作家による6月21日に新潮社か
ら刊行予定の同名の小説。因にこの原作は第11回「女による
女のためのR-18文学賞」の最終候補だが、受賞はしなかった
ようだ。
女子高生の夕紀は、学校行事で訪れた水族館のクラゲの水槽
の前で同級生の叶子に声を掛けられ、戸惑いながらも唇を重
ねる。こうして親しくなった2人だが、平凡な家庭に育つも
日常に不満を抑えきれない夕紀はバイト先の店長に身体を委
ねたりもしている。
一方の叶子は常に孤独の闇を抱えており、そんな2人の関係
は徐々に深みに嵌って行くが、それと同時に叶子は同級生の
男子の告白を受け入れ、彼との行為に興じてしまう。そして
夕紀は叶子が中学時代に先輩の子供を妊娠して堕胎したとの
噂を聞き…

出演は、昨年8月紹介『FASHION STORY~Model~』に出てい
たという大谷澪と映画初出演の花井瑠美。因に花井は、東京
女子体育大学卒業のインカレ2連覇を果すなどした元新体操
選手で、試写会で挨拶に立って試写後に言葉も交わしたが、
なかなかしっかりした感じで好感が持てた。
他に、奥菜恵、秋本奈緒美、竹中直人、ガレッジセールの川
田広樹らが脇を固めている。
金子監督作品は一昨年から年2作のペースで公開され、その
殆どを試写会で観ているが、このページではできるだけ紹介
しようとしたものの、特に昨年の1本目に観た作品では何も
書く事ができず、結局この作品から全作品の記録を残すこと
を断念したものだ。
そんな金子監督の新作ということで、正直には試写会に行く
ことも躊躇われたが、観ての感想はやっと原点に戻ってくれ
たというものだった。
金子監督は、元は日活ロマンポルノ出身だが、僕が最初に注
目したのは1988年公開の『1999年の夏休み』。この萩尾望都
原作『トーマの心臓』を基にしたとされる作品で、深津絵里
ら若い女優を巧みに演出した手腕は高く評価された。そして
本作では大谷、花井がその期待に応えている。
金子監督は上記の大作でも評価されたが、このような作品で
も手腕を発揮してもらいたいものだ。


『オーガストウォーズ』
“Август. Восьмого”
2008年8月に起きた南オセチア紛争を背景に、巨大ロボット
が跋扈するという奇想天外な発想に基づく物語。
物語は、多少空想癖のある少年を中心に描かれる。彼の両親
は離婚しており、母親と共に暮らす少年に平和維持軍として
オセチアに駐在する父親から誘いが来る。そこは父親の故郷
でもあり、その地に暮らす祖父母に会いに来ないかというの
だ。その時現地は平穏に見えていた。
一方、新しい恋人からバカンスの誘いを受けていた母親は、
恋人に馴染まない息子をこの時とばかりに送り出すのだった
が…。突如南オセチアにグルジア軍の侵攻が始まる。そして
国際情勢を懸念して手をこまねくロシア政府を尻目に、グル
ジア軍は一般人も巻き込む戦闘を開始した。
この事態に息子の実父や新しい恋人も頼りにならないと判断
した母親は、単身で息子の救出のため交通も情報も途絶した
南オセチアの戦地に向かって、幼い息子との携帯電話の連絡
だけを頼りに潜入を開始する。
という物語に巨大ロボットが登場する。ただしそのロボット
の登場のさせ方は、ある種の常識的なものであり、常套手段
とも言える。しかしそれによって監督らが本当は何を描きた
かったのかは如実に判るし、その思いが観客にもストレート
に伝わってくる作品だ。

原案と脚本、製作、監督を務めたジャニック・ファイジエフ
は、2005年に“The Turkish Gambit”という文芸大作で評価
されたということだが、本作では原案から考え、「自分と主
人公とを無意識に重ねることができた」としている。
また脚本には、元はNewsweek誌などに寄稿した従軍記者で、
アフガニスタン戦争や南アフリカのアパルトヘイトの取材な
ども行ってきたというマイクル・A・ラーナーが参加して、
戦場の実態を描き尽くしているようだ。
母親役は、舞台出身で映画出演での受賞歴もあるスベトラー
ナ・イヴァーノヴナ。他に監督の前作にも出演のエゴール・
ベロエフ、舞台出身のマクシム・マトヴェーエフらが脇を固
めている。
戦場に向かう母親の姿を描いた作品では、2008年10月にアレ
クサンドル・ソクーロフ監督の『チェチェンへ/アレクサン
ドラの旅』なども紹介しているが、ドキュメンタリータッチ
のその作品に対しては対極と言える作品かもしれない。しか
し監督らがそこに描こうとしているのは同じものだ。
ロボットVFXのオブラートにくるみながら、ここまで戦争
の実態を描き切った監督に、心からの賞賛を贈りたいと思う
作品だった。


『ワイルド・スピード/ユーロ・ミッション』
“Fast & Furious 6”
ヴィン・ディーゼル主演によるシリーズの第6作。第3作で
東京、第5作でリオデジャネイロを舞台にした物語は、今回
はついにヨーロッパに上陸する。
物語の始まりはスペイン領カナリア諸島。リオの作戦で大金
を手にした主人公らは国際手配はされているものの、合衆国
との犯罪者引渡し条約が結ばれていない南国で優雅な生活を
送っている。
ところがそこに前作で捜査に協力したインターポールの刑事
が現れ、新しい任務への協力を要請する。とは言えそんな協
力の義務はない主人公らだったが、そこに刑事はある情報を
提供し、さらに恩赦の実施を持ち出す。
こうして止むなく協力をすることになった主人公たちだった
が、今回の敵はロシアンマフィアを背景にした今までの相手
とは桁違いに強大な勢力を誇っていた。そしてその首領が疾
駆するのは正に最強の車だった。

共演はポール・ウォーカー、ジョーダナ・ブリュースター、
それに本作から本格復帰のミシェル・ロドリゲス、さらに前
作に続けて登場のドウェイン・ジョンスン。またタイリーズ
・ギブスン、クリス・ブリッジス、ガル・ギャドット、サン
・カンらの前作のメムバーも再登場する。
一方、敵役には今年2月紹介『ノー・ワン・リヴズ』などの
ルーク・エヴァンスが扮して凄みのある悪党ぶりを演じてい
る。脚本は前々作からのクリス・モーガン、監督は第3作以
来4連投のジャスティン・リンが担当した。
2001年にシリーズの第1作を手掛けた監督のロブ・コーエン
とディーゼルのコラボレーションでは、2002年9月紹介『ト
リプルX』も高評価を得たものだが、ヨーロッパが舞台で、
さらに恩赦が取引材料の一部というのはその作品も髣髴とさ
せるものだ。
そして本作のアクションは、映画の中に「うまくいくと思っ
たの?」、「いや思わなかった」という台詞が出てくるくら
いに、言わば荒唐無稽の一歩手前という感じ。本シリーズは
どちらかというとメカニカルなアクションが主体で、『トリ
プルX』が肉体系だったが、本作ではその垣根が取り払われ
てしまったようだ。

なおエンディングクレジットには、本シリーズ恒例の次作に
繋がるサプライズが挿入されているが、今回は前作にも増し
てとんでもないもの。その第7作は2014年の公開が予定され
ている。



2013年05月20日(月) ザ・タワー、愛のあしあと、NY恋人たちの2日間、アート・オブ・ラップ、ギャツビー、コンプライアンス、ごみアート、特別映像(AE,LR,MU)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『ザ・タワー 超高層ビル大火災』“타워”
往年のファンには1974年の『タワーリング・インフェルノ』
が思い出される超高層ビルを舞台にした韓国製のパニック作
品。
ビルの名前はタワースカイ。地上448m、108階建ての建物に
は、1700世帯5700人が住む居住区と65階には展望レストラン
やショッピングモールも併設された複合ビルだ。
そしてその日はクリスマス・イブ。天気予報では晴天が予想
される中で、ビルのオーナーは10機のヘリコプターから人工
雪を降らせるサプライズを演出。ところがその最中に1機が
バランスを失い、ビルに激突して火災が発生する。
この火災に出動した消防は、直ちに激突したヘリの消火活動
と住民たちの避難誘導を始めるが、65階の展望レストランに
集められた客らにはそこから先の脱出のすべが残されていな
かった。
単純に言って物語の中心は、はしご車の届かない超高層ビル
からの脱出劇となるものだが、様々な人間模様が絡むのも、
1974年作品とさほど変わるものではない。ただそれが最新の
CGI-VFXでどこまでリアルに描き尽くせるかが勝負と
なる作品だ。
それはまあ、1974年作品では背景もホリゾントの絵でしかな
かったものが、リアルな動画で表現されている辺で、それは
技術の進歩は如実に感じられるものになっている。特にヘリ
の激突シーンなどはCGIがなければ描けなかったものだろ
う。
その一方で人間模様はいろいろ工夫はされているが、所詮は
人間の行動などは何10年経っても変わらないもので、実力者
の横暴などが変わらず描かれているのは、人間社会のつまら
なさを描いているようでもある。
家族問題や宗教問題などが比較的大きな比重で描かれている
のは、韓国に特有のものも表現されていたようだが、それも
韓国映画ではステレオタイプかなという感じではあった。

出演は、2009年『TSUNAMI』などのソル・ギョンギ、2005年
7月紹介『私の頭の中の消しゴム』などのソン・イェジン、
2008年3月紹介『光州5・18』などのキム・サンギョン。
他に昨年10月紹介『マイウェイ』に出演のキム・イングォン
とト・ジハン、『光州5・18』などのアン・ソンギらが脇
を固めている。
脚本と監督は、『光州5・18』や2011年9月紹介『第7鉱
区』などのキム・ジフン。VFXは『マイウェイ』なども手
掛けた韓国のDIGITAL idea社が担当している。

『愛のあしあと』“Les Bien-aimés”
2011年のカンヌ国際映画祭のクロージングを飾った作品。カ
トリーヌ・ドヌーヴとリュディヴィーヌ・サニエによる2人
1役のダブル主演と、ドヌーヴの娘キアラ・マストロヤンニ
の共演で、1960年代から現代に至る恋する女性の過酷な運命
が描かれる。
サニエが扮する60年代の主人公マドレーヌは、パリの靴店の
店員。ある日の閉店間際にハイヒールを倉庫に戻そうとした
彼女は靴箱が見つからず、咄嗟にスカートの下に隠して持ち
出してしまう。そして街角で赤いハイヒールを履いたマドレ
ーヌは、男性に声を掛けられる。
こうして娼婦の仕事も始めたマドレーヌだったが、それは彼
女を犯罪者に落とさないための方策でもあった。そして街で
男を拾っている内に、彼女はプラハからやってきた医学生と
運命の出会いをする。その彼に請われるままにプラハに移住
し、長女も儲けたマドレーヌだったが…
プラハの春やその後の世界情勢なども背景に置きながら、男
性に翻弄される、あるいは男性を翻弄する女性の生き様が描
かれる。さらに物語はマストロヤンニ扮する娘ヴェラの時代
にも進み。そこでも母親の運命をなぞるかのようなその姿も
見詰めて行く。
正直に言ってかなり壮絶な女性の物語が描かれ、それはある
種の現代を象徴しているようにも映るが、それは一方で今年
1月紹介『アンナ・カレーニナ』にも通じる女性の姿でもあ
る。作品はそんな古典文学のような雰囲気も漂わせながら描
かれている。

脚本と監督は、2006年6月紹介『ママン』などのクリストフ
・オノレ。作品はミュージカル仕立てで、60年代以降の様々
な音楽や『シェルブールの雨傘』にオマージュを捧げている
ようなシーンも描きつつ、各時代のファッションも見事に再
現しながら構成されている。
共演には、歌手のミシェル・デルペッシュや映画監督のミロ
ス・フォアマンなど、これもカンヌのクロージングに相応し
い多彩な顔ぶれが登場している。
なお作品は7月5日にDVD&ブルーレイで発売されるもの
で、今回はそのサンプル版で鑑賞したが、東京での特別上映
が6月28日から新宿K's cinemaで決定している。因に上映は
フィルムで行われるようだ。

『ニューヨーク、恋人たちの2日間』
“2 Days in New York”
2008年3月紹介『パリ、恋人たちの2日間』のジュリー・デ
ルピー製作、脚本、監督、主演、編集、音楽による続編。
2006年製作の作品は、イタリア旅行帰りにパリの妻の実家に
寄って2日間を過ごすことになったアメリカ人とフランス人
の夫婦の姿を描いたもので、文化の違いなどがかなり辛辣な
形で描かれていた。
そして本作はその6年後。6年前の夫婦は別離し、フランス
人の女性は1人息子を引き取ってニューヨークで暮らしてい
る。そしてカメラマンの彼女は生活資金を稼ぐための個展の
準備を進めていた。
そんな彼女には人気DJの彼氏がいて、彼の1人娘も含めた
4人は順調な都会生活を送っていた。ところがそこに彼女の
個展を観に彼女の父親と妹、それに妹の恋人で主人公の元彼
の男がフランスからやってくる。
こうして英語とフランス語が入り混じり、文化や人間性のぶ
つかり合うとんでもない2日間が幕を開けるが…。映画の後
半にはちょっと意外なゲストも登場して、前作と同様の見事
に本音を突いたコメディが展開される。

共演は、2006年3月紹介『ロンゲスト・ヤード』や『マダガ
スカル』シリーズ(声優)などのクリス・ロック。他に監督
の実父のアルベール・デルピー、2006年12月紹介『マリー・
アントワネット』に出演のアレクシア・ランドー、アレック
ス・マチュら『パリ』にも出演の顔ぶれが再登場している。
デルピーの監督作品では、2009年3月に『伯爵夫人』と今年
3月に『スカイラブ』という作品も紹介しているが、あまり
に強烈だった前々作と、かなり実験的な前作に比べると、本
作はそれなりに理解できる作品になっている。
ただしデルピーは、秩序が整って清潔感の漂う現代のニュー
ヨークより、危険だった昔のニューヨークの方が好きなのだ
そうで、言われてみればそんな雰囲気も各所に伺える感じの
作品にもなっている。

とは言え、現代のニューヨークを観光的に楽しめる作品にも
なっており、その辺はデルピーの長年住んでいる大都会への
愛情も感じられる作品だ。

『ロード・トゥ・ライオン』“Reincarnated”
『アート・オブ・ラップ』
“Something from Nothing: The Art of Rap”
現代アメリカの音楽シーンを巡る2本のドキュメンタリー。
前者は、2011年10月紹介『ザ☆ビッグバン!!』などの俳優と
しても知られるラッパーのスヌープ・ドッグが、レゲエ・ミ
ュージシャンのスヌープ・ライオンに転生するまでを描く。
それはレゲエの本場ジャマイカへの旅に始まり、親友の死な
ど様々な出来事も描かれる。
ただしジャマイカのレゲエについては、2006年6月紹介の映
画『ワン・ラブ』や2008年6月紹介『MADE IN JAMAICA』、
さらに2007年7月紹介『ルーツ・タイム』などでも知ってい
たところで、特に新たな知見が得られるものでもなく、むし
ろスヌープ本人の内面的な部分に注目されるが、それもさほ
ど深く描かれたものでもない。
これはまあ、スヌープ本人のファンには好適な作品で、彼の
楽曲が多数流れるなど音楽ファンにも聴きどころは満載の作
品にはなっているが、そうでない僕にはこんなものかなあと
いう感じの作品だった。
それに対して後者は、こちらも2011年7月紹介『アザー・ガ
イズ』のナレーションを務めるなど、俳優としても知られる
ラッパーのアイスTが初監督に挑んだ作品で、現代アメリカ
のラップ・シーンがアイスTならではの描き方で活写されて
いる。
そしてこの作品には、スヌープ・ドッグを始め、エミネム、
モス・デフ、アイス・キューブ。さらにプロデューサーのド
クター・ドレーなど、総勢47名もの代表的ラッパー及びその
関係者たちが登場して、ラップの魅力や現状について語り尽
くしている。
その中では、ドクター・ドレーが人気ラッパーの誕生の裏話
を語っていたり、さらにアイスT自身が舞台で歌詞を忘れて
しまった時の飛んでもない対処法を語るなど、音楽を知らな
くても興味の尽きない話題が登場するもので、僕は結構ニヤ
ニヤしながら観てしまったものだ。もちろんラップの作詞の
発想法などについても語られている
その一方で、1980年代に活躍した先駆者たちも登場し、その
歴史的な偉業にも目配りするなど、デビュー30周年を迎えた
というアイスTが、ラップへの愛を最大限に表現した作品と
も言えそうだ。そしてその気持ちが観客にも心地よく感じら
れる作品だった。

なお公開は、東京は渋谷シネマライズで7月27日から、2作
同時公開となっている。その他は全国順次公開だそうだ。

『華麗なるギャツビー』“The Great Gatsby”
1974年にロバート・レッドフォードの主演で映画化されたF
・スコット・フィッツジェラルドの原作を、オーストラリア
出身のバズ・ラーマン監督が、レオナルド・ディカプリオを
主演に迎えて3Dでリメイクした作品。
背景は禁酒法下、1922年のアメリカ東海岸。ニューヨークの
摩天楼から少し離れた邸宅街にその館は建っていた。その主
のジェイ・ギャツビーは毎夜その館でパーティを催し、そこ
にはニューヨークのセレブたちが集っていたが…
物語の語り手のニックはその隣家でその喧騒を聞きながら慎
ましく暮らしていた。しかしその彼に館への招待状が届く。
実は彼には資産家に嫁いだ従姉妹がいて、ギャツビーは彼女
に想いを寄せていたのだ。
こうしてニックは、それまで思いも掛けなかったセレブたち
のラヴアフェアへと巻き込まれて行く。
実は1974年の作品は観ていない。共演はミア・ファーロー、
ブルース・ダーンだから観ていてもおかしくはないのだが、
内容はそれなりに知っていたし当時は何となく食指が動かな
かったのだろう。
従って本稿ではオリジナルとの比較はできないが、本作では
正に絢爛豪華なパーティ・シーンなどが3Dで見事に描かれ
ているものだ。
それは舞い散る紙吹雪であったり、温室のように豪華に花の
飾られたニックのリヴィングルームであったりもするが、特
に遠くに浮かぶ緑色のランタンの灯りが、その距離感と共に
ギャツビーの心情を描いていたりもしていた。

共演は、キャリー・マリガン、トビー・マクガイア。マリガ
ンは何時ものように薄幸の女性の姿を見事に演じている。因
にアメリカの映画評で、セットや美術の豪華さが俳優の演技
を消しているというのがあったそうだが、今の時代にそれに
目を眩まされていては批評家失格だろう。
他に2011年11月紹介『アニマル・キングダム』などのジョエ
ル・エルガートン、2011年7月紹介『ランゴ』で声優を務め
たアイラ・フィッシャー、『欲望のバージニア』などのジェ
イスン・クラーク、それにオーストラリア出身で本作に大抜
擢されたエリザベス・デビッキらが脇を固めている。
実は披露試写は2Dで行われ、その際のエンドクレジットに
3D Conversionという項目があって、本作は撮影時から3D
なのに何故だろうと思っていた。しかし再度3Dの試写を観
に行ったら、途中に挿入されたニュースリールが見事に3D
でカラー化されており、その映像も堪能したものだ。


『ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡』“Waste Land”
2010年11月2日付「第23回東京国際映画祭」で報告した作品
が日本で一般公開されることになり、試写会が行われたので
改めて紹介する。
作品は映画祭の《natural TIFF》部門で上映されたもので、
この部門では自然や環境破壊などを中心テーマとしたドキュ
メンタリー作品が選ばれて紹介されている。
その中にあって本作では、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ
市郊外にある世界最大とも言われるゴミ集積場「ジャウジン
・グラマーショ」を舞台に、当事者たちも予想しなかった感
動的なドラマが描かれた。
ゴミ集積場を背景にした作品では、2005年11月7日付「東京
国際映画祭」で紹介した『ダラス地区』や、2009年4月紹介
『BASURA』などもあるが、いずれもその過酷な生活ぶ
りが印象に残るものだ。
そんな現実に対して、ブラジル出身の写真芸術家ヴィック・
ムニーズが行動を起こす。元々ムニーズはサンパウロの労働
者階級の息子だったが、街で金持ちが誤射した銃弾に当たっ
て、その慰謝料でアメリカに渡り成功したとのこと。そんな
芸術家が祖国で始めたのは…
2010年の紹介の時に僕は、「題名からは廃棄物から芸術を生
み出す変態芸術家の話かと思っていたら、全く違う感動的な
作品だった。」と書いているが、その思いは今回も変わらな
い。実際にこの題名は何とかならないのかとも思ってしまう
ものだ。
ただし、原題のWaste Landも「荒野」の意味だから似たり寄
ったりだが、そこに生まれる人間ドラマの素晴らしさは、こ
れらの題名だけでは到底表現しきれていない気がする。映画
の中では、ムニーズの行動によって多くの人々が救われて行
く様も見事に描かれているのだ。
それは邦題に謳う「奇跡」にも近いものなのだが。

一般公開は7月20日から東京渋谷のユーロスペース。その後
は全国順次公開となっているが、全国での自主上映での展開
も期待されているようだ。その詳細は、作品のホームページ
(gomiart.net)に紹介されている。
機会があったら是非とも観て欲しい作品だ。

『コンプライアンス-服従の心理-』“Compliance”
2004年4月にアメリカ・ケンタッキー州で起きたとされる事
件を再現した作品。
事件は町のファストフード店の店長に1本の電話が架かって
くることから始まる。その電話の主は警察官を名乗り、店員
の1人が客の財布を盗んだと語って、説明する特徴にぴった
りの女性店員を店長室に呼ぶように指示する。
さらに電話の主は家宅捜索で出向けないとの口実の下、店長
らに女性店員の身体検査を命じ、やがてそれはエスカレート
し、ついには女性店員に対する性的暴行にまで及ぶ。しかし
警察官を名乗る男の指示に誰も反抗できなかったという。
常識的に考えて、まず逮捕以前に着衣を脱がせての身体検査
などは、たとえ警察官であろうとも実施は不可能であり、ま
してやそれを民間人に代行させるなどはありえない。従って
この事件の実行者たちが、後に保護観察処分や実刑判決を受
けたというのは当然のことと言える。
とは言え、最近のオレオレ詐欺などの横行を見ると、その多
くが警察など公的権力を名乗っており、それに被害者が盲目
的に従っていることを考えると、この事件をアメリカでの出
来事と座視することもできないものだ。
因に事件はそれ以前の約10年に亙って全米で70回以上起きて
いたとのことで、それに対する注意義務を怠ったということ
で、当事者企業に610万ドルの損害賠償が命じられたという
のも納得できるところだろう。ただし賠償裁判が裁判員に委
ねられない日本では、企業は保護されるだろうが。

出演は、2009年2月紹介『グラン・トリノ』でイーストウッ
ドの娘役を演じていたドリーマ・ウォーカー、2006年10月紹
介『父親たちの星条旗』などのアン・ダウト。ダウトは本作
の演技で数多くの受賞に輝いている。他に、2007年12月紹介
『ジェシー・ジェームズの暗殺』などのパット・ヒーリー、
今年4月紹介『欲望のバージニア』などのビル・キャンプら
が脇を固めている。
脚本と監督は、本作が2作目のクレイグ・ゾベル。2006年の
デビュー作でナショナル・ボード・オブ・レビューのトップ
10に選出され、本作ではL.A.タイムズ紙の2012年ブレイクし
た映画人の1人に選ばれたそうだ。因に次回作にはSF作品
が予定されている。
それにしても、事件を企業がひた隠しにしていたというのも
恐ろしい話で、その間どれだけの口止め料が支払われていた
ことか。それを考えると当初被害者が要求した2億ドルの賠
償請求も認められるべきだったと言えるものかもしれない。

それほどに重大な事件だ。

《フッテージ上映》
6月以降に公開予定作品のフッテージ映像を3本観られたの
でまとめて紹介しておく。
『アフター・アース』“After Earth”
2007年1月紹介『幸せのちから』のウィル・スミスとジェイ
デン・スミスが、7年ぶりの親子共演を果たしたSF作品。
背景は西暦3071年。登場するのは宇宙遠征で惑星に不時着し
た父子。その際に父親は負傷して動けなくなり、救助される
ためには離れた場所に落ちた緊急ビーコンの回収を息子1人
で行わなければらない。
しかしその星は、1000年前に環境が破壊されたために人類が
見捨て、その後は自然が人類への悪意を持って復活した地球
だった。このためビーコンの回収に向かう息子には、凶悪な
自然が容赦なく襲いかかってくる。
先に紹介した『オブリビオン』も2070年頃に人類は地球を捨
てているが、どうもそんな思想が欧米にはあるのかな。ほと
んどがCGIで描かれる凶暴な未来の自然はなかなかの迫力
だった。

なお監督は、1999年『シックス・センス』などのM・ナイト
・シャマランが担当しており、オスメントから見事な演技を
引き出した手腕にも期待が持たれる。
本編の日本公開は6月21日となっている。
『ローン・レンジャー』“The Lone Ranger”
『POTC』のゴア・ヴァービンスキー監督とジョニー・デップ
が再びタッグを組んだ往年の人気TVシリーズの映画化。
フッテージでは、暴走列車やモニュメントバレーの岩柱の上
に作られた復活の祭壇のシーンなどが紹介されたが、実際に
レールを敷いて走らせたり、撮影時はヘリコプターで上がり
付き添いのスタントマンから命綱は絶対に外すなと言われた
という実写のシーンは迫力満点だった。

ただし、10数分紹介された映像の中で番組のテーマ曲だった
「ウィリアム・テル序曲」が聞こえて来ず、これは姉妹編の
『グリーン・ホーネット』における「熊ん蜂の飛行」と並ん
でラジオドラマ時代からの絶対に外せないもののはず。本編
の何処でそれが聞かれるかも楽しみになった。
本編の日本公開は8月2日。
『モンスターズ・ユニバーシティ』“Monsters University"
2002年1月紹介『モンスターズ・インク』の続編。
といっても物語は前日譚で、前作では最強の怖がらせ屋と言
われていたマイクとサリーの出会いが描かれる。それでフッ
テージは映画の始りの30数分だったが、新入生の2人が最初
は最悪の出会いからコンビを組まざるを得なくなるまでの経
緯が紹介された。
そこでは、モンスターたちが怖がらせに向う基地の様子など
懐かしいシーンも登場し、前作からのファンには楽しめそう
だ。因に紹介では、この後に『モンスターズ・インク』にも
勝る事件が起きるのだそうで、それも楽しみな作品だ。

本編の日本公開は7月6日。



2013年05月16日(木) 第193回(訃報,Pride and Prejudice and Zombies,A.I.P.,Doc Savage: The Man of Bronze,Ice Station Zebra)

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回は訃報から。
 1963年の『アルゴ探検隊の大冒険』や1981年の『タイタン
の戦い』など、ダイナメーションと呼ばれる特撮映画で有名
だったレイ・ハリーハウゼンが5月7日にロンドンの自宅で
亡くなられた。
 ハリーハウゼンは、1920年6月29日アメリカ・ロサンゼル
スの生まれ。1933年の『キング・コング』に感激して、その
表現技術であるストップモーション・アニメーターを志す。
そしてジョージ・パルの許で研鑽の後、1949年の『猿人ジョ
ー・ヤング』に事実上の撮影監督として参加。さらに1953年
の『原子怪獣現る』を皮切りに次々にストップモーション・
アニメーションによる怪獣映画を発表する。
 また1958年『シンドバッド七回目の航海』では、ストップ
モーション・アニメーションの怪獣と人間の俳優が共演する
ダイナメーションの技術を完成させ、幾多の名作を生み出し
て行く。因にこの技術では、アニメーションの撮影中にライ
トの熱で人形が加熱され、色温度が変化するのをフィルター
などで補正しており、これにより色変動の少ない見事な映像
が実現されているものだ。
 この業績により、1992年にアカデミー賞技術部門の特別賞
を受賞。プレゼンターには『原子怪獣現る』の原作者で、ハ
リーハウゼンとは高校時代からの親友だったSF作家のレイ
・ブラッドベリが登壇して、オスカー像が手渡された。
 そのハリーハウゼンの晩年は、『タイタンの戦い』以降は
新しい作品を発表することもなく、家族と共にイギリス・ロ
ンドンに居住していた。
 そこには訪問客も多かったようで、その中では2005年9月
紹介『コープスブライド』をロンドンで撮影していたティム
・バートンとジョニー・デップが訪ねて歓談し、後日にハリ
ーハウゼンがスタジオを訪ねて来て現場のアニメーターたち
を感激させた話や、2010年4月紹介『タイタンの戦い』のリ
メイクを担当したルイ・ルティリエ監督が面会して「好きな
ようにやりなさい」と励まされた話などが伝わっていた。
 これらの話はそれぞれの監督らの来日記者会見で語られた
ものだが、いずれも師匠のように慕われているハリーハウゼ
ンの人柄が感じられたものだ。
 そして今回の訃報は、5月7日に遺族が公式のfacebookに
発表したものだが、その直後からスティーヴン・スピルバー
グやジョン・ラセターなど世界中の弟子を自称する映画人に
よる追悼の書き込みが殺到し、アメリカの芸能紙などではそ
れらの紹介だけでかなりの紙面が費やされていた。
 VFXがディジタルの時代になって、アナログの極致とも
言えるダイナメーションは過去のものとなっているが、観客
が驚く映像を観せたいというハリーハウゼンの精神は今も確
実に受け継がれている。そんな作品がこれからも世界中に残
された彼の弟子たちによって作られて行くことだろう。
        *         *
 製作ニュースはこの話題から。昨年8月紹介『リンカーン
/秘密の書』の原案、脚本、製作総指揮を務めたセス・グレ
アム=スミスが2009年発表した小説“Pride and Prejudice
and Zombies”の映画化がようやく動き出しそうだ。
 この原作は、19世紀イギリスの女流作家ジェーン・オース
ティンが1813年発表し、1995年や2005年にも映画化された小
説『高慢と偏見』のオリジナルの文章をそのまま活かして、
そこにゾンビの要素を挿入したというもの。2つの文章が混
ぜられていることからmash-upと呼ばれるジャンルの代表と
もされる作品だ。
 その作品の映画化が進められているものだが、実は計画は
数年前から昨年12月紹介『世界にひとつのプレイブック』な
どのデイヴィッド・O・ラッセル監督と、ナタリー・ポート
マンの主演で進められていた。ところが自分で脚本も執筆す
るとしたグレアム=スミスの筆がなかなか進まず、結局ラッ
セル監督もポートマンもスケジュールの都合で降板する事態
になってしまった。
 その計画が再び動き出しているものだが、その監督には、
新たに2009年4月紹介『セブンティーン・アゲイン』などの
バー・スティアーズの起用が発表され、主演には、昨年6月
紹介『白雪姫と鏡の女王』などのリリー・コリンズが交渉中
とのことだ。因にポートマンはプロデューサーとして関って
はいるようだ。
 物語は、19世紀のイギリスの田園地帯で進む恋物語に不死
身のゾンビ軍団が繰り込んでくるというもので、アメリカ大
統領が実はヴァンパイア・ハンターというより、さらに強烈
な物語が展開されそうだ。
 なおmash-upというのは、文学では上記の定義によるもの
だが、今回の米紙の記事を読むと2011年8月紹介『カウボー
イ&エイリアン』などもその範疇に入れられているようで、
実はその2011年作の興行成績が芳しくなかったことから、営
業サイドでは躊躇もあったようだ。しかし本作が上手く行け
ば新たなジャンルの誕生ともなる訳で、そんな意気込みで計
画を進めて欲しいものだ。
        *         *
 1954年に創設され、1981年に終業するまでに500本を超え
る数のティーン映画やジャンル映画を量産/配給して若年層
のアメリカ文化を席捲したとも言えるアメリカン・インター
ナショナル・ピクチャーズ(A.I.P.)。
 その創始者の1人で2001年に亡くなったサミュエル・Z・
アーコフの息子ルー・アーコフが、2008年4月紹介『シュー
テム・アップ』などに参加した製作者のジェフ・カッツと、
2005年11月紹介『ホテル・ルワンダ』などの製作総指揮者ハ
ル・サドフと手を組み、A.I.P.最初期の作品10本をシリーズ
でリメイクすると発表した。
 計画されているのは、1955年“Day The World Ended”、
1956年“The She-Creature”“Girls in Prison”“Runaway
Daughters”、1957年“The Saga of the Viking Women and
Their Voyage to the Waters of the Great Sea Serpent”
“The Undead”、1958年“Teenage Caveman”“War of The
Colossal Beast”“The Cool and the Crazy”“The Brain
Eaters”
 この内の“Teenage Caveman”は、後に前回リメイク情報
も紹介したテレビシリーズ“The Man from U.N.C.L.E.”で
人気者になるロバート・ヴォーンが主演していたことでも知
られる作品だが、実はこれらの作品には共通の出演者もいて
全体が1つのワールドを形成しているのだそうで、今回はそ
の全体像が描かれることになりそうだ。
 シリーズ第1作の撮影は今秋スタートの予定で、以後は連
続して公開されるように製作が進められるとのことだ。
 なおルー・アーコフは、1990年代にスタン・ウィンストン
と組んでケーブルテレビ向けにA.I.P.作品のリメイクを手掛
けたことが有り、このような計画を進めるのは初めてではな
いようだ。
        *         *
 “Iron Man 3”の脚本と監督を担当して、作品を予想以上
の大ヒットに導いたシェーン・ブラックが次の作品の契約を
ソニーと結び、2010年3月7日付と2011年1月16日付でも報
告した1930年代に一世を風靡した“Doc Savage: The Man of
Bronze”の映画化を進めると発表した。
 この原作に関しては、以前の紹介記事にも書いたように、
1975年にジョージ・パル製作脚本、マイクル・アンダースン
監督による映画化が行われており、僕は当時旅行先のロンド
ンで観たものだ。ただしこの映画化は、1930年代のパルブ雑
誌のイメージだけに頼った、どちらかというと他愛ないお話
が展開されていたと記憶している。
 しかし原作は、北極に秘密基地を持つ科学に裏打ちされた
超能力を持つヒーロー=ドク・サヴェジが、仲間たちと共に
世界の敵と対決して行くもので、そこに登場する珍発明など
も結構楽しめる作品。これをハリウッド有数のパルプ雑誌の
コレクターとされるブラックの脚本監督でどのような作品が
登場するか、興味津々というものだ。
 なお脚本は、以前にも紹介したアンソニー・バガロティ、
チャック・マンドリーとの共同で進められており、製作には
『ワイルド・スピード』などのニール・モリッツの名前が並
んでいる。
        *         *
 もう1本リメイクの話題で、1968年にMGMで製作された
北極海を舞台にした海洋ドラマ“Ice Station Zebra”に、
今年1月紹介『アウトロー』のクリストファー・マッカリー
脚本・監督が挑戦する計画が報告された。
 オリジナルは、1961年『ナバロンの要塞』や、1965年『サ
タン・バグ』(イアン・スチュアート名義)などの映画化で
も知られるスコットランドの冒険小説作家アリステア・マク
リーンの原作に基づくもので、北極海に墜落したスパイ衛星
の回収をめぐって、アメリカ・ソ連の原子力潜水艦がしのぎ
を削るというお話。
 監督は『サタン・バグ』も手掛けた『荒野の七人』などの
ジョン・スタージェス。出演者の顔ぶれには、ロック・ハド
スン、アーネスト・ボーグナイン、ジム・ブラウン、それに
イギリスから『プリズナー』のパトリック・マッグーハンら
が並んでいる。
 映画化された1968年は、MGMでは『2001年宇宙の旅』を
公開した年でもあり、それが宇宙の関わる話で、しかも大型
アクション映画の代表とも言える『ナバロン』の原作者の映
画化。そして撮影はスーパーシネラマ方式の70mmとくれば、
これは期待は膨らむ一方の作品だった。
 ところが勇んでシネラマ館に観に行った僕の前に繰り広げ
られたのは、プロローグこそ宇宙空間から落下するスパイ衛
星の壮大な映像だったのだが…。そこから後は原子力潜水艦
の艦内での二重スパイや裏切りなどが横行するお話で、当時
の僕の目には何が描かれているのかさっぱり判らなかった。
 実際に最近の評価も10点満点中6.5程度とのことで、正直
に言って成功した映画化とは言えないオリジナルだが、それ
に敢えて挑戦しようというマッカリーの意図がどこにあるの
か? 当然それなりの勝算あっての計画のはずなので、それ
に期待を持ちたい作品だ。
 なおリメイクの製作は、当時のMGM作品の権利を所有す
るワーナーで行われる。



2013年05月10日(金) 箱入り息子の恋、はじまりのみち、殺人の告白、モスダイアリー、オブリビオン(追記)、クソすばらしいこの世界、キス我慢、シャニダール

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『箱入り息子の恋』
2009年8月紹介『無防備』の市井昌秀監督による新作。前作
はぴあフィルムフェスティバルに出品された自主映画だった
が、本作はプロデューサーも付いた本格的な商業映画だ。
主人公は、地方都市の市役所に勤める35歳独身の男性。人付
き合いが下手で女性と付き合ったこともなく、当然童貞だ。
そんな男性が、ある切っ掛けから1人の女性を好きになる。
しかしそこには大きな障害が立ちはだかっていた。

題名を見たときに、以前なら字義通りのものを考えただろう
が、最近の状況では引き篭りやオタクといったものが連想さ
れる。そのどちらもが日本映画に登場すると、まずステレオ
タイプで薄っぺらなものが多く、納得のできる作品に出会っ
た例がなかった。
従って本作に関しても、試写を観るまでには多少の躊躇もあ
ったものだ。しかし先の紹介作で、釜山国際映画祭のグラン
プリやベルリン国際映画祭のフォーラム部門上映も勝ち取っ
ている市井監督は、流石に見事な作品を作り上げていた。
因に本作の物語の基本は、プロデューサーと劇作家でテレビ
ドラマの脚本を数多く手掛けている田村孝裕が作ったものの
ようだが、市井監督は物語にもかなり関与したようで、共同
脚本とノヴェライズ小説の著者にもなっているものだ。
その物語では、両親による代理お見合い(この題材は2009年
2月紹介『レイン・フォール』などのマックス・マニックス
監督がもたらしたものだそうだ)など、日本の恋愛事情の現
状を描くようなシーンもあり、社会性の感じられる作品にも
なっている。
そして上にも書いた主人公を待ち構える障害の部分が、これ
は何とも言えない切なさで、見事に日本の現状を描いている
ようにも見えるものだ。その障害を克服して行く主人公の姿
には、思わず応援したくなる。そんな素敵な作品に仕上げら
れている。

出演は、2008年10月紹介『ノン子36歳』などの星野源、彼
はシンガーソングライターでもあるようだ。相手役に同1月
紹介『うた魂♪』などの夏帆。両親役に平泉成、森山良子、
大杉漣、黒木瞳。他に穂のか、柳俊太郎、竹内都子、古舘寛
治らが脇を固めている。
シチュエーションは特別だが巧みに作られた物語で、作品と
して良くできていた。

『はじまりのみち』
木下恵介監督の生誕100年記念として製作された作品。
木下監督作品では、昨年12月に日本初のカラー長編映画『カ
ルメン故郷に帰る』を特別上映で観て紹介しているが、その
社会派的な視点などには現代の目で観ていても感嘆するもの
があった。
その木下監督は、第2次大戦中の1943年に監督デビューして
いるが、翌44年に陸軍省の後援で監督した4作目の『陸軍』
が内容的に軍部の批判に晒され、一時映画界を離れている。
本作はその頃を背景にしている。
その映画『陸軍』公開の直前に、監督の母親たまは東京蒲田
の自宅で脳溢血のため倒れ、実家のある浜松の病院に入院し
ていた。しかし空襲が激しくなることを懸念した監督らはさ
らに山中の疎開場所へと向かう。
その行程は、リヤカーに病身の母親を乗せ、他に身の回りの
品を載せたリヤカーの2台を、迎えに来た兄と雇った便利屋
の3人で引いて行くというもの。その初日は、真夜中に出発
して17時間を休みなく山越えをするという強行軍となる。
物語はそんな男たち3人と母親の姿を追いながら、映画『陸
軍』の場面なども挿入して、当時の木下監督の置かれた立場
や、日本の時代背景などを描いて行く。それは脚本も巧みで
演出も的確に描かれた作品だった。
因に物語は、木下監督が昭和30年に新聞に発表したエッセイ
に基づくものだ。

その物語からの脚本と監督は、2002年の『クレヨンしんちゃ
ん』で第6回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞
などを受賞したアニメーション監督の原恵一。実写作品は初
めてだが、1959年生まれのベテランが見事な作品を作り上げ
ている。
出演は、木下恵介役に2011年10月紹介『永遠の僕たち』など
の加瀬亮、兄役にユースケ・サンタマリア、便利屋役に昨年
11月紹介『みなさん、さようなら』などの濱田岳、そして母
親役に田中裕子。
他に、光石研、濱田マリ、大杉漣、宮﨑あおい、山下リオ、
斉木しげるらが脇を固めている。
また作品の中には、問題にされた映画『陸軍』のエンディン
グシーンがほぼ完全に収められており、母親役の田中絹代が
スクリーンに映し出される。その息子を見送る母親の姿は、
珠玉とも言える素晴らしい演出で描かれており、本作の原監
督には申し訳ないが、このシーンのためだけでもこの映画を
観る価値があると言えるものだ。


『殺人の告白』“내가 살인범이다”
連続殺人犯が、その公訴時効後に手記を発表するという正に
現代を象徴するかのような韓国映画。
物語の主人公は、その事件を長年追ってきた刑事。一度は犯
人を追い詰めその身体に銃弾も撃ち込んだが、その身柄の確
保には至らなかった。そんな主人公は公訴時効の日をやりき
れない思いで迎えるが。
それから2年後、衝撃的なニュースが主人公に届く。それは
連続殺人事件の犯人と自称する男が告白本を出版するという
ものだった。そしてその告白本には真犯人にしか知りえない
内容が記され、本は瞬く間にベストセラーとなる。
しかし主人公には、その名乗り出た男を真犯人と認めること
に違和感があった。そしてその男との対立を繰り返す主人公
もまた時の人へとなって行く。それはやがてテレビ番組での
対決へとエスカレートして行くが…
これも劇場型の犯罪と言えるのかな。マスコミを巧みに利用
して売名し、それによって自己の目的を達成して行く。そこ
にインターネットのことをあまり描かないのは、却って見識
のようにも感じられる作品だった。

出演は、2010年10月紹介『黒く濁る村』などのチョン・ジェ
ヨンと本作が映画デビューのパク・シフ。パクはテレビで活
躍していたようだが、若いのに堂々とした立ち居振る舞いが
見事に本作に生きていた。
他に、2011年5月に紹介した1980年の作品『風吹く良き日』
に出演のキム・ヨンエ、2008年2月紹介『妻の愛人に会う』
などのチョ・ウンジ、2011年2月紹介『ビー・デビル』など
のオ・ヨン、昨年7月紹介『トガニ 幼き瞳の告発』などの
チャン・グァンらが脇を固めている。
物語は正にフィクションという感じのものだが、それが荒唐
無稽にならないように巧みに描かれている。最近日本映画で
も、大嘘という感じのアクション映画があったが、日本映画
がそのリアルさまでも消してしまっていたのに対して、本作
は実に巧みにそのリアルさを保っている。
それは日本映画のように物量や大掛かりな撮影をしているも
のではないが、映画の面白さが決してそんな無駄に金を掛け
たシーンによるものではないことを、本作は見事に証明して
いる感じの作品だった。


『モスダイアリー』“The Moth Diaries”
古風な女子寄宿寮を舞台にしたゴシックロマン風の物語。
主人公は、父親の自殺を目撃してしまった女学生。その心の
傷は癒えていないものの、何とか2学年に進級した寄宿寮に
戻ってくる。そこには親友と呼べる同級生もいた。
ところがそこに新たにヨーロッパから来た転校生が入ってく
る。そしてそのミステリアスな転校生の出現によって、寮の
雰囲気も徐々に変化して行く。
やがて英語の授業で「女吸血鬼カーミラ」の物語を読んだ主
人公は、転校生の姿にある疑問を感じ始めるが…。それが契
機のように主人公の周囲で不審な事故が頻発し始める。

脚本と監督は、1996年『アンディ・ウォーホルを撃った女』
などのメアリー・ハロン。なお脚本はレイチェル・クライン
が2002年に発表した日本未訳の原作小説に基づいている。
出演は、2007年『アレックス・ライダー』などのサラ・ボル
ジャー、今年2月紹介『コズモポリス』と4月紹介『アンチ
ヴァイラル』に出演のサラ・ガドン、2009年11月紹介『Dr.
パルナサスの鏡』などのリリー・コール。さらに昨年4月紹
介『君への誓い』などのスコット・スピードマンらが脇を固
めている。
物語は明らかにヴァンパイアものだが、展開上では主人公の
妄想とも取れるように描かれていて、それは監督自身が好き
な作品に『ローズマリーの赤ちゃん』や『シャイニング』を
挙げているのにも通じるようだ。
しかしそれは一方で中途半端な描き方にも通じてしまうもの
で、特に本作ではそれが若い女性を主人公にしていることで
倍加しているようにも感じられた。勿論それは僕が若い女性
の心理に疎いことにもよるが、その物足りなさがホラーとし
ての興味にも水を差している感じがした。
壁抜けや空中浮遊を描いているのだから、それならもっとヴ
ァンパイアの本質も描いた方が良かったのではないかな? 
実際にこれでは日本の観客の中にはヴァンパイアと判らない
人も出てくるのではないかと心配もしてしまうところだ。
ゴシックロマン風の描き方などはかなり楽しめたし、最近の
アクション映画風ヴァンパイアものも食傷気味の中では、久
しぶりに本格風の感じもしていたので、その辺が多少残念な
感じもしてしまった。


『オブリビオン』“Oblivion”(追記)
4月30日付で1度紹介したが、その後に記者会見で質問もで
きたので、今回はその報告も含めて追記をさせてもらう。な
お、以下の記事ではかなりネタバレもありますので、読む人
は注意してください。
前回の記事では物語に気になるところがあると書いたが、試
写を見直した結果はOKだった。ただ、完成披露試写の時に
あったはずのシーンが見直した時にはなかったような気がし
て、その辺はちょっと気になっている。これは公開後に確認
することにしたい。
それで記者会見では、監督に『2001年宇宙の旅』との関連性
について訊いてみた。実はその前に監督は、本作の撮影にフ
ロント・プロジェクション技術を使ったことを話していて、
僕は『2001年』で実施されたその技術が再現されたことにも
興味が湧いていた。
それに対する監督の答えは「『2001年宇宙の旅』は、自分に
とって最も影響を受けた作品だ。今回の撮影でも、グリーン
バックなどの合成は使わず、できるだけカメラの中で映像が
作られるようにした」とのことだ。
また、「『2001年』で使われたフロントプロジェクションは
スチル映像だったが、今回は高精細のヴィデオ映像をプロン
トプロジェクションに採用し、これは21世紀の進化形だ」と
胸を張っていた。
この監督の発言の端々には『2001年』への心酔ぶりもはっき
りと伺えたもので、映画の中には『トップガン』へのオマー
ジュのようなシーンも見られるが、映画の全体は『2001年』
に捧げられたものだという感じは強く受けたものだ。
因に僕が目に留めた『2001年』からの影響と思われるシーン
は、登場する宇宙船の名前がディスカバリーであること、そ
の中では2人のパイロットだけが目覚めていて、他の乗員は
冷凍睡眠状態に置かれていること、さらにその冷凍睡眠カプ
セルの形状など。
また、映画に登場するドローンと呼ばれる無人機の正面デザ
インが『2001年』のワンマンポッドに似ていることや、地上
からビーコンが発射されたという展開。そして極めつけは、
最後に登場するスターチャイルドを思わせる主人公の姿など
だ。他にもいろいろあるが、これらは間違いなく『2001年宇
宙の旅』の要素が描かれていた。

2011年6月紹介『ツリー・オブ・ライフ』も『2001年』を想
起させる作品だったが、1968年の公開から45年を経て、その
影響力は益々大きくなっているようだ。

『クソすばらしいこの世界』
2010年1月紹介『桃まつり-うそ』で「きみをよんでるよ」
という作品が上映された朝倉加葉子監督による長編第1作。
「きみをよんでるよ」も何か不思議なムードの漂う作品だっ
たと記憶しているが、本作ではその不思議方向の志向がさら
に追求されたとも言えそうな作品だ。
物語はアメリカ西部が舞台。大学に通う韓国人留学生の主人
公は、日本人留学生のグループに週末旅行に誘われるが、旅
を始めるなり彼らの英語も真面に学ぼうとしない態度に辟易
してしまう。
それでも何とか目的地に辿り着いた主人公たちだったが、そ
こで彼らを惨劇が襲う。宿泊する山荘の持ち主が実は殺人鬼
で、前の犯行の証拠を見られた思い込んだ奴らが主人公たち
を襲い始めたのだ。そして物語は別の様相も見せ始める。

出演は、2009年の『息もできない』という作品で韓国大鐘賞
新人女優賞を受賞したキム・コッピ。キムの主演では、今年
6月8日に『蒼白者』という作品も公開される。他に2011年
6月紹介『ムカデ人間』などの北村昭博らが共演。
上映前に監督の挨拶があって、女性監督の作品だという認識
でいたらプロローグからかなり強烈なシーンが登場した。監
督はこれをスラッシャーと称しており、スプラッターほど血
は迸らないが、かなり強烈な血みどろの惨劇が描かれる。
これは確かにスラッシャーであってスプラッターではない作
品だが、日本の男性監督の多くがある意味血糊の量に逃げて
いるのに対して、真正面からスラッシャーを描いたこの女性
監督には、心からの賛辞を贈りたくなったものだ。
いやあそれにしても強烈な作品だった。
ただし映画を観ていて、後半の展開はやはり物語として唐突
な感じが否めなかった。まあ描きたいことは判る感じだし、
僕もこの展開は嫌いではないのだが…。この物語的にこれが
必要であったか否か。
もっとストレートにスラッシャーとして描き切った作品も観
たかったかな? あるいは後半の展開が目的なら、プロロー
グからその伏線をもっと明確にしておいた方が良かったので
はないかな?
まあプロローグでこれを持ち出すには、かなり捻りが必要に
なるとは思うが…。現状のままではテーマの融合が不完全に
も感じられて、そこがちょっと残念な気がした。


『キス我慢選手権THE MOVIE』
テレビ東京で土曜深夜に放送されている「ゴッドタン」とい
う番組の企画の一つを映画として映像化した作品。
企画の内容は、美人がキスをせがむのを出演する男性芸人が
決められた時間我慢するというもの。それだけでは面白くも
何ともないが、その時間をアドリブの演技でかわすというの
が見せ所になるらしい。
それが番組では人気企画だったようで、番組が5年間続いた
記念でそれを映画化したようだ。しかも映画版ということで
我慢する時間を24時間に拡大し、撮影には20台のカメラを動
員、さらに爆破などの仕掛けも設けられている。

という正に拡大版という感じの作品だ。
そして出演するのは、本来は番組のMCの1人だという劇団
ひとりこと川島省吾。元々彼が挑戦した時の出来が良くて企
画が成功したという実績があるようで、それで映画版にも起
用されたようだが、本人には詳細は知らされていない。
こうしておぎやはぎやバナナマンらが外野から茶々を入れる
中、番組はスタートして行くが…。
確かに作品の乗りとしてはテレビで見慣れている連中が登場
するもので、テレビのファンにはこれで充分な作品だと思わ
れる。実際に画面を観ながら僕も結構笑わせて貰った。しか
しこれは所詮ヴァラティ番組、ドラマ番組ですらない。
従ってドラマの展開などに映画のクオリティが感じられるか
というと、それは残念ながら物足りなさが目に付くもの。特
に川島は全編をアドリブで交わして行くのだが、流石に24時
間はモチベーションも保ち切れなかったようだ。
設定にはゾンビなども登場して僕ら的には興味も惹かれる作
品だったが、やはりドラマはちゃんとシナリオのあった方が
良いし、そこに伏線やどんでん返しがあって初めてドラマと
呼べる訳で、アドリブだけの即興劇にそれは望めない。

とは言え、テレビのファンにはそんなことは期待されてもい
ないのだろうし、そのファンを取り込むだけならそれなりの
作品になっているとは言える。下手に訳の分からない作品を
観せられよりは良いと言えるところだろう。
ゲスト出演はミッキー・カーチス、斎藤工、渡辺いっけい、
竹内力、京本政樹。他にもお笑い芸人やグラビアモデルらが
多数出演して、作品を盛り上げている。

『シャニダールの花』
イラクのシャニダール遺跡で、ネアンデルタール人の墓所か
ら一緒に埋葬されたとみられる花が発見されたという事実を
モティーフにしたファンタシーというよりSFの作品。
背景は現代というより少し未来かな。舞台はとある研究所。
その時代、極少数の女性の胸に花が咲くという現象が起き、
その花からは希少な薬品が製造される。そしてその対価には
1億円の契約金が支払われているようだ。
主人公はそんな研究所に勤める研究員と、女性たちの面倒を
見るために雇われたセラピスト。ところがその花を女性の胸
から切除の際に女性が死亡する事故が起き、主人公らは研究
所のあり方に疑問を感じ始める。
最近では4月紹介の『アンチヴァイラル』もそうだったが、
特にVFXなどを用いずに、特異なテーマ性だけで未来社会
を描くSF作品には秀作も多い。本作もそんな線を目指して
作られたと言えるものだ。
しかし本作では、背景となる未来社会が曖昧で、それが物語
を不明確にしている。もちろん監督にはそんな社会など描く
つもりはないのだろうが、例えば女性の死に関しても背景社
会との関連は重要になる。
それは当然1億円の対価が支払われるものである訳で、その
作られる薬品などにも相応の意味があるはずだ。それらを全
て不問にして描けるほどのテーマ性がこの花だけにあるかと
いうと、それは疑問に感じられた。
その他にも、主人公以外の研究員の対象物に対する態度も、
僕自身が理工学系の出身者である目からするとありえないも
のばかりで、その辺からもこの映画に対する不信感が拭えな
いものになっていた。
ただし映画のテーマ性については、後半に明らかにされる話
が監督の言いたいことではあるのだろうが、その結論を急ぐ
あまりに、本来のドラマの部分が描き切れていない感じもし
てしまったものだ。

出演は、2011年10月紹介『東京オアシス』などの黒木華と、
昨年6月紹介『るろうに剣心』などに出ている綾野剛。他に
刈谷友衣子、山下リオ、伊藤歩、古舘寛治らが脇を固めてい
る。
脚本と監督は、1980年『狂い咲きサンダーロード』などの石
井岳龍が担当した。



2013年05月01日(水) 第192回(Star Wars,The Man from U.N.C.L.E.,Into the Woods,The Woman in Black: Angel of Death,Cinderella)

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 まずはこの話題から。
 “Star Wars: Episode Ⅶ”の劇場公開が2015年夏と発表
され、その後は毎年1作ずつ“Star Wars”作品が公開され
ると、制作を担当するルーカスフィルム及び配給を担当する
ディズニー社から報告された。
 この情報に関しては、すでに日本のメディアでも紹介され
て、そこでは3年後の2017年に“Star Wars”が完結すると
いう報道もされていたようだ。しかしこの報道にはいくつか
疑問が生じている。そこで今回はこの報道の検証から始めて
みたい。
 因にこの情報は、4月下旬にラスヴェガスで開催された全
米映画館主協会(NATO)主催のCinemaConの席上で行われた
ディズニー幹部の発言に基づくものだが、この幹部の発言が
以前から2転3転しているようにも見える。ただしこの発言
は公式ではなく、あくまでもディズニー社の2013-2014年の
公開計画を発表した後に追加でされたものとのことだ。
 そしてここで述べられているのが“Star Wars”作品に関
してであって、“Star Wars: Episode Ⅶ-Ⅸ”の新3部作
とは言ってないのだ。つまり今回の情報の中で“Star Wars:
Episode Ⅶ”の劇場公開が2015年の夏というのは間違いない
(ただし日付は判明していない)ようだが、その後の毎年作
られるのは“Episode Ⅷ,Ⅸ”に限らないのだ。
 このため海外のメディアの多くでは、ここで言われている
作品とは、2月16日付第187回で紹介した3部作に並行して
製作される独立作品のことだという観測が一般的になってい
る。そして新3部作については計画通りの3年ごとに制作さ
れ、“Star Wars”作品の全体は少なくとも2021年まで、も
しかすると宇宙が燃え尽きる日まで、毎年1作ずつ続けられ
るかもしれないとのことだ。
 一方、今回のCinemaConではパラマウントが、日本は8月
公開予定“Star Trek Into Darkness”のプロモーションも
行ったが、その席に“Star Wars: Episode Ⅶ”の監督に決
まっているJ.J.エイブラムスが姿を現さなかったようだ。
 これについては、4月末にロンドンで行われたワールドプ
レミアに向けて作品の完成がギリギリになっているとの観測
が強いものだったが、実際にエイブラムスは最後の瞬間まで
作品の完成に心血を注いでいたようだ。となると、当然まだ
“Episode Ⅶ”については着手していない訳で、その状態で
以後の3部作のスケジュールなど決まるはずもない。
 ということで、“Star Wars: Episode Ⅶ”の劇場公開は
2015年夏でまず間違いなさそうだ。しかし過去の6作の公開
日はずべて5月だったがそれが踏襲されるか否か。そしてそ
の後は、かなり長く“Star Wars”ワールドを楽しむことが
できそうだ。
        *         *
 次は続報で、4月1日付第190回で報告したトム・クルー
ズ主演、ガイ・リッチー監督による往年のテレビシリーズの
映画化“The Man from U.N.C.L.E.”が本格的になってきた
ようだ。
 そこで今回報告されたのは、主人公ナポレオン・ソロの相
棒イリア・クリアキン役に、昨年6月紹介『白雪姫と鏡の女
王』で王子役を演じたアーミー・ハマー起用が話し合われて
いるとのこと。テレビシリーズではデイヴィッド・マッカラ
ムが演じたこの役は、色々な面で暴走しがちなソロに対して
そのお目付け役のような役回りで、ロバート・ヴォーンが演
じたソロとの掛け合いも楽しめたものだった。
 その役に期待されるハマーは、2010年10月紹介『ソーシャ
ル・ネットワーク』で主人公に対して訴訟を起こす双子の役
を1人で演じて注目されたが、今夏にディズニーが公開する
『ローン・レンジャー』では、ジョニー・デップ扮するトン
トとの共演でタイトルロールを演じており、正に今が旬の俳
優となっている。
 そしてそのハマーは、5月13日に『ローン・レンジャー』
のプロモーションで来日して記者会見を行うことになってい
るが、実はその前の週の5月7日にはクルーズが『オブリビ
オン』のプロモーションで来日記者会見も予定されており、
日本での接近遭遇もありそうだ。
 まだ2人とも交渉段階ということだが、出来たら実現して
欲しいものだ。
        *         *
 続いては『ローン・レンジャー』ではトント役のジョニー
・デップの情報で、ディズニーが映画化を進めているミュー
ジカル“Into the Woods”への主演が交渉されている。
 物語は、魔女の呪いで子供ができなくなったパン屋の夫婦
が、その呪いを解くために森に入り魔女の要求する品物を集
めるというもの。その森には髪長姫やシンデレラ、ジャック
と豆の木のジャック、それに赤ずきんらの童話の主人公たち
がいて、パン屋の行動は彼らの生活にも影響を与えることに
なる…というものだ。
 監督は、デップとはすでに2011年5月紹介『パイレーツ・
オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』でも組んだことのあ
るロブ・マーシャルで、2003年2月紹介『シカゴ』や2010年
1月紹介『NINE』なども担当したミュージカルのベテラ
ンがデップと本格的なミュージカルに挑むことになる。
 なおデップは主人公のパン屋を演じる計画だが、魔女役に
は2008年『マンマ・ミーア』のメリル・ストリープも交渉さ
れているということで、マーシャル監督は上記の2作でも豪
華な配役を実現したが、今回も森の住人たちでそれが期待で
きそうだ。
        *         *
 昨年9月紹介『ウーマン・イン・ブラック亡霊の館』の続
編が計画され、その出演者に2012年12月紹介『戦火の馬』の
ジェレミー・アーヴァインと、テレビドラマ“Switch”にレ
ギュラー出演しているフィービー・フォックスの起用が発表
されている。
 物語は、前作の原作者であるスーザン・ヒルが新たに書き
下ろしたオリジナル・ストーリーによるもので、その題名は
“The Woman in Black: Angel of Death”とされている。そ
してそのストーリーから前作のストーリー・エディターを務
めたジョン・クロッカーが脚本を執筆したものだ。
 また監督には、2009年に“The Scouting Book for Boys”
という作品のあるトム・ハーパーが起用されることになって
いる。
 因にダニエル・ラドクリフ主演の前作は、全世界の興収が
1億3000万ドルとなる大ヒットを記録したそうで、これは続
編の企画が立てられて当然のものだ。ただし今回の物語は、
舞台が前作から40年後の第2次世界大戦下のロンドンになる
とのことで、配役も一新した作品が制作されるものだ。
 なお作品はカンヌ国際映画祭でプレセールスに掛けられる
とのことで、そこでの契約が上手く行けば日本での公開の可
能性も高くなりそうだ。
        *         *
 最後に3月16日付第189回でも紹介したディズニーがケネ
ス・ブラナー監督で進めている実写版“Cinderella”のタイ
トルロールにリリー・ジェームズという女優の起用が発表さ
れた。
 この作品は、童話に基づく2010年12月紹介『恋とニュース
のつくり方』などのアライン・ブロッシュ・マッケンナの原
案から、2008年1月紹介『ライラの冒険・黄金の羅針盤』な
どのクリス・ウェイツが脚本を担当したもので、前回は一時
発表されていたエマ・ワトスンの降板を紹介していた。
 そして今回起用が決まったジェームズは、昨年4月に紹介
した『タイタンの逆襲』でカロリナという役名で登場してい
たようだが、さてどのような役柄だったか。ただし、昨年の
カンヌ国際映画祭批評家週間に出品された“Broken”という
イギリス作品では、ティム・ロス、キリアン・マーフィに次
ぐ位置でクレジットされていたようで、将来期待の新進女優
のようだ。
 作品は、継母役にケイト・ブランシェットの出演も決まっ
ており、今秋撮影開始で2014年の公開が予定されている。


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井口健二