井口健二のOn the Production
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2012年05月27日(日) NAVY S、ヤクザみたいな恋人、SHERLOCK、そして友よ、ロマンチック・ヘブン、ディーパー・シェイド、SEX&禅、ビッグ・ボーイ、コナン

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『NAVY SEALS』“Act of Valor”
アメリカ海軍特殊部隊Navy Sealsの活動に関るフィクション
の脚本を、現役の隊員たちに演じさせて映像化したという前
代未聞の作品。
その物語は中東での自爆テロに始まり、CIAエージェント
の救出作戦など特殊部隊の活躍が描かれる。また一方で金属
探知を擦り抜ける自爆装置を開発した武器商人やメキシコか
ら米国潜入を目指すテロ集団などの行動も描いて行く。そし
てテロを未然に防ぐ特殊部隊の活動が描かれる。
物語はフィクションだが、隊員たちの行動は各シチュエーシ
ョンでの訓練の一貫とも言えるもので、テロリストの潜む集
落への襲撃や地下トンネルでの攻防などが、正しく実戦さな
がらに描かれている。
その他、原子力潜水艦の浮上シーンやヘリから吊り降ろされ
る戦闘舟艇など、過去には実物が撮影されたことのない兵器
や装備も登場。因に飛び交う銃弾は全て実弾とのことだ。
ただし夜間のパラシュート降下シーンは、実際には深夜の真
っ暗闇の中でも行われるが、本作では撮影のため少し明るく
なった夜明けに時間を変更してもらったそうだ。
また襲撃シーンでは、隊員たちにシチュエーションのみを提
示して、そこから彼らが作戦を練り上げ、その計画に沿って
カメラの配置などを定めて撮影が行われたものもあるとのこ
とだ。

製作と監督は2006年6月紹介『ダスト・トゥ・グローリー』
などのマイク・マッコイとスコット・ワウ。2人は2007年に
米海軍を描いた短編ドキュメンタリーを発表し、その実績を
買われて本作に抜擢されたようだ。
脚本は2007年3月紹介『300』などのカート・ジョンスタ
ッド。また1990年『レッド・オクトーバーを追え』などジャ
ック・ライアンシリーズの原作者トム・クランシーが企画協
力者として名を連ねている。
なお主要なキャストは現役の兵士だが、その他の政府関係者
やテロリスト、武器商人などの配役では、主にテレビで活躍
の俳優たちが脇を固めていたようだ。

『僕のヤクザみたいな恋人』“내 깡패같은 애인”
『怪しい隣人たち』“수상한 이웃들”
5月26日から6月15日まで東京新宿K'sシネマで開催される
「真!韓国映画祭2012」で上映の13作品の中から、標記2作
品の試写を鑑賞した。
前者は、地方の大学を出てソウルの会社に勤めたものの程な
くして勤務先が倒産し田舎には帰れない女性と、幹部の身替
りで刑務所に入りはしたが一向うだつは上がらい三流ヤクザ
の男が主人公。偶然隣り同士になった2人の唯では済まない
交流が描かれる。

脚本と監督は、本作で青龍賞新人監督賞に輝いたキム・グァ
ンシク。出演は2011年10月紹介『人喰猪、公民館襲撃す!』
などのチョン・ユミと、2009年『TSUNAMI-ツナミ-』などの
パク・チュンフン。
後者は、地方新聞社の編集部が舞台に、一癖も二癖もある記
者連中の日々の行動が描かれる。それぞれのエピソードはサ
ブタイトルも付されて独立しているが、相互に繋がりもある
というちょっと凝った構成で、かなりブラックなユーモアも
込められている。

脚本・監督のヤン・ヨンチョルは1997年に『朴対朴』という
作品があって以来の監督作だそうだが、ミュージックヴィデ
オやCMでは受賞歴もある人のようだ。また出演者には主に
舞台やテレビの俳優が起用されているようだ。
両作ともコメディの範ちゅうに入る作品だが、いずれも多少
特殊なシチュエーションで、自分から共感して笑えるという
感じではなかった。ただまあそれなりにニヤリとする感じの
笑いはちりばめられていたものだ。
特に後者では、途中に挟まれるタクシー運転手のエピソード
が捻りもあって面白く感じられたものだが。実はこのエピソ
ードだけが編集部内の話ではなく、多少浮いている感じなの
は残念なところと言えそうだ。
もっともこのエピソードでも話の展開がかなり強引で、その
辺が自分で共感できなかった原因でもあるかな。とは言えそ
ういった笑いを好む人がいることも確かなようで、これは案
外日本でも評価はされそうな感じの作品ではあった。

なお、この2作はすでに映画祭の初日に上映されているが、
映画祭の会期中には各作品でそれぞれ5〜6回程度の上映が
あるようだ。

『SHERLOCK』“Sherlock”
2010年にイギリスで製作された「シャーロック・ホームズが
現代に生きていたら」という設定による各話約90分のミニシ
リーズ。その第1話〜第3話がDVDリリースされることに
なり、第1話の試写と第2話、第3話はサンプルDVDで提
供された。
試写された第1話の副題は「ピンク色の研究」“A Study in
Pink”。「緋色じゃないの?」と突っ込みたくなるが、取り
敢えず物語ではホームズとジョン・ワトスンの出会いなどが
描かれる。
そして事件は、一見自殺と思われる事件を発端に連続殺人事
件の謎が推理される。ただし背景は現代で、ホームズはスマ
ートフォンやインターネット、eメールなどを駆使して事件
に挑んで行く。
一方のワトスンは、アフガニスタン帰りの軍医で杖を突いて
いるが、実は負傷は脚ではなく心因性だなど、物語は原作と
着かす離れずの感じ。それにホームズは名探偵というより変
人で、この辺は2010年1月紹介『シャーロック・ホームズ』
とも上手く重なっていた。

出演は、ホームズ役に2007年12月紹介『つぐない』や、昨年
12月紹介『戦火の馬』、今年2月紹介『裏切りのサーカス』
などのベネディクト・カンバーバッチ。彼は来年公開予定の
“The Hobbit”の第2作や“Star Trek”の続編にも出てい
るようだ。
そしてワトスン役には、今年12月から公開“The Hobbit”の
2部作で主人公ビルボ・バギンズを演じているマーティン・
フリーマン。2005年7月紹介『銀河ヒッチハイク・ガイド』
の主演でも知られる俳優がホームズに振り回される。
なお、DVDでは同時に、密室殺人に挑む「死を呼ぶ暗号」
“The Blind Banker”と、宿敵からの挑戦を受けて立つ「大
いなるゲーム」“The Great Game”がリリースされる。
本シリーズでは、最初からモリアーティやマイクロフトが登
場するなど、シャーロキアンにはどうなの…?という感じは
あるが、原作の全体を踏まえた作品ということでは、これも
ありというところだろう。

なお本作では、イギリスアカデミー賞のテレビ部門でフリー
マンが助演男優賞を受賞するなど好評を呼び、本国では今年
1月からシーズン2(3作品)の放映も開始。その副題は“A
Scandal in Belgravia”“The Hounds of Baskerville”と
“The Reichenback Fall”だそうだ。

『そして友よ、静かに死ね』“Les Lyonnais”
6月21日〜24日に東京有楽町朝日ホールほかにて開催される
「フランス映画祭2012」での上映作品の1本。
2006年10月紹介『あるいは裏切りという名の犬』などのオリ
ヴィエ・マルシャル監督による最新作で、元警察官という異
色の経歴を持つ監督が、1970年代に起きた実際の事件に基づ
いて描いたフィルムノアール。
物語は、1960年代と1970年代、それとその25年後という3つ
の時代を背景にし、幼い頃から兄弟のようにして育ち、共に
悪事も働いてきた2人の男の友情と、それに伴う苦難の生涯
が描かれる。
開幕は現代に近い時代、初老の主人公は孫の洗礼式に出席し
ている。ところがそこに、幼い頃からの親友が逮捕されたと
の報が入る。その主人公は悪事からは足を洗って久しいが、
親友はまだその渦中にいたようだ。
そして組織ともトラブルを抱える親友には、刑務所に入ると
命が危ないとの危惧もあった。そこで親友の奪還を考える主
人公だったが、それは彼と親友の長年に渡る友情を検証する
ことにもなる。
1960年代、小学校に転校してきたロマの主人公を快く迎えた
のはその親友だけだった。そして1970年代、リヨンに集まっ
た男たちは、ドゴール政権の抑圧政策の下でギャング団とし
て生き残る術を見いだす。
映画の中で主人公がロマであることは明示されるが、その親
友もロマかどうかは最後まで解からなかった。しかし被差別
民であるロマの男たちの辿る人生が、壮絶かつ切なくも描か
れた作品だ。

出演は、2007年2月紹介『輝ける女たち』などのジェラール
・ランヴァンと、2011年11月紹介『ラスト・アサシン』など
のチェッキー・カリョ。
なお本作は、今年9月に東京・銀座テアトルシネマほかでの
日本公開も決定しているものだ。

『ロマンチック・ヘブン』“로맨틱헤븐”
5月26日から6月15日まで東京新宿K'sシネマで開催される
「真!韓国映画祭2012」で上映の13作品の中から、本作はD
VDを借りて鑑賞した。
映画は、幾つかの物語が並行するアンサンブル劇の構成で、
その始まりは天国で聴く音楽のCDを手に入れたタクシー運
転手の話。彼には入院中の祖父がいるが、その祖父はアルツ
ハイマーを発症。祖母ではない初恋の女性の名を呼び続けて
いる。
次は骨髄移植を待つ母親のいる女性の話。移植の血液型の合
致するドナーが見つかるが、そのドナーは殺人容疑で逃亡中
だった。そこで逃亡犯を追う刑事らに接近した彼女は徐々に
捜査に加わって行く。
そして妻に先立たれた弁護士の話。彼は妻が病室に持って行
ったハンドバッグを探しているが、妻の思い出の詰まったそ
のバッグが何故か見つからない。そして彼の許には、検事時
代に冤罪で刑務所に送ってしまった男も現れる。
これらのエピソードに、タクシー運転手が乗せた占い師の老
婆の話や、天国の作り主なども現れて、現世と天国を舞台に
した、神様が創造の7日目に作ったあるものを巡る物語が展
開されて行く。

監督は、2006年8月紹介『トンマッコルへようこそ』などの
製作・脚本家で、2010年5月紹介『グッドモーニング・プレ
ジデント』などのチャン・ジン。今までの作品と同様、物語
の設定ははかなり奇抜だが、そこに見事な人間味とユーモア
を織り込んでいる。
出演は、2001年『火山高』などのキム・スロ、ドラマ『コー
ヒープリンス1号店』などのキム・ドンウク、CMで人気の
キム・ジウォン、『グッドモーニング・プレジデント』など
のイ・スンジェ。
先に紹介した日本映画『スープ』とも似た世界観だが、物語
の展開の上手さでは本作品の方が多少優れているかな。特に
単純な3幕ものにせずに、並行して進む複数の物語が最後に
収斂して行く気持ちの良さは、アンサンブル劇の醍醐味とい
う感じもした。

これこそが映画を本当に判っている人の作品かも知れない。

『ディーパー・シェイド・ブルー』
              “A Deeper Shade of Blue”
サーフィン及びサーフボードの歴史を紹介するドキュメンタ
リー作品。1975年の“Tubular Swells”以来多数のサーフィ
ン映画を発表しているジャック・マッコイ監督作品で、本作
は昨年のサンタバーバラ国際映画祭でプレミア上映されてい
るようだ。
作品は全11章に分けられ、そこではハワイの古代史からサー
フボードの開発史。また著名サーファーの名鑑みたいなもの
や、ビッグ・ウェーブに挑んだ歴史。それに未来的な最新ボ
ードの紹介まで、正に総合雑誌的なサーフィンの紹介が行わ
れている。
この内容は、プレス資料に添えられた文章によるとサーフィ
ンに詳しい人には一方的な見方とする批判もあるようだが、
僕のようなサーフィンを知らないものには実に判りやすく楽
しめる作品だった。
そしてその中には、前回紹介『プリンセス・カイウラニ』の
王女が、ハワイ文化におけるサーフィン再興の立て役者とし
て紹介されていたり、また名鑑では、3月紹介『ソウル・サ
ーファー』のベサニー・ハミルトンがチラリと写っているの
も楽しめた。
さらに1960年代のサーフィンブームの背景として、1959年サ
ンドラ・ディー主演“Gidget”やサリー・フィールド主演の
同作テレビシリーズが紹介されていたのも映画ファンとして
は嬉しかったところだ。
それに名だたるプロサーファーたちの妙技やチューブを抜け
る爽快感など、いずれにしても初心者がその歴史から現状、
さらに将来までのサーフィンを学ぶには格好と言えそうな作
品だ。

なお本作の配給会社では、この他に少女サーファーの成長を
描いた『ファースト・ラブ』“First Love”などの公開も予
定している。

『3D SEX&禅』“肉蒲団之極楽宝鑑”
1991年にも映画化のある「中国三大奇書」と呼ばれる原作の
3Dによる再映画化。昨年公開の香港では、『アバター』を
超える歴代首位の初日興収記録を樹立したそうだ。
物語は清王朝の頃、学者の主人公は名家の女性に一目惚れし
結婚するが、夫婦の夜の営みでは何故か満足が得られない。
そして徐々に愛情も薄れていった主人公は、友人に誘われて
とある秘密の館に足を踏み入れる。そこは男女が官能に酔い
痴れる場所だった。
その館で自らの性の未熟さを知った主人公は様々な達人たち
の手解きを受け、ついには自らの身体も改造し性の快楽を極
限まで体感する。しかしその時、館や主人公にも危機が迫っ
ていた。そんな中で主人公が知り得た究極の愛の姿とは…

主演は、京都府出身の葉山豪。休暇中の台湾旅行でスカウト
され、2005年1月紹介『香港国際警察』や、2009年2月紹介
『新宿インシデント』などにも出演の日本人俳優が大抜擢さ
れている。
他にロシア映画などにも主演の香港女優レニー・ラン、日本
のAV女優で2010年7月紹介『GARO THE MOVIE』などにも出
演の原紗央莉、同じくAV女優の周防ゆきこ、香港ポップシ
ンガーのビニー・ルイ、2004年10月紹介『カンフー・ハッス
ル』のティン・カイマンらが脇を固めている。
原の艶技を2作連続で3Dで観られることになったが、その
部分で3Dの効果がどれだけあったかというと、まだまだ工
夫の余地はある感じがした。それは風景やセットの立体感が
優先では何となく物足りないものだ。
最近は日活ロマンポルノの再上映もあったが、ポルノ映画の
映像表現には10年1日の感じが付き纏う。ポルノは所詮その
程度て良いというのも理解はするが、3Dポルノも日本では
1973年公開の“The Stewardesses”(邦題:淫魔)など連綿
とある。その辺も検証して何か新規性のある作品も観てみた
いものだ。


『ビッグ・ボーイズ/しあわせの鳥を探して』
                   “The Big Year”
毎年アメリカを舞台に繰り広げられるアメリカ探鳥協会主催
の大イヴェントBig Yearを題材にしたジャック・ブラック、
オーウェン・ウィルスン、スティーヴ・マーティン共演によ
るハート(バード)フルコメディ。
ブラックが演じるのは、アメリカに生息する全ての鳥の鳴き
声が聞き分けられるという男性。バツ1で父親からも冷たい
目で観られている彼が、密かにBig Yearの1位の座を目指す
決心を固めるところから物語は始まる。
その彼のライヴァルとなるのは、ウィルスン演じる現在の記
録保持者と、マーティン扮する自ら起業した会社をリタイア
しようとしている社長。1人は自分の威信に掛け、もう1人
は財力にものを言わせて新記録樹立を目指す。
そんな2人に挟まれて、主人公は金も時間もない身の上だっ
たが…。年齢も社会的地位も異なる3人が、それぞれの立場
に応じた彼ら自身の問題を抱えつつ、同じ目的に向かって競
い合う。
1人がちょっと嫌みで対する2人が共闘するなどの展開は正
に定番だが、それが−29度のカナダ北部ユーコン準州から、
酷暑44度のフロリダ州キーズまで、全米100箇所にも及ぶロ
ケ撮影と、CGIも駆使した野鳥との遭遇などの素晴らしい
映像と共に描かれる。
それはもう野鳥ファンではなくても目を見張るような見事な
世界が展開されていた。

作品は、1998年に実際に3人のバーダー(と呼ぶようだ)に
よって競われたThe Big Yearのルポルタージュを原作として
いるが、映画の巻頭には「作品は実話に基づくが、物語はフ
ィクションである」とのテロップが掲げられていた。
上記の3人以外にもブライアン・デネー、アンジェリカ・ヒ
ューストン、ラシダ・ジョーンズ、ロザムンド・パイク、ダ
イアン・ウィースト、ジョベス・ウィリアムスらの豪華な脇
役陣も注目の作品。
原作は、「コロンバイン乱射事件」報道のリードライターと
して2000年ピュリッツァー賞を受賞しているマーク・オブマ
シック、脚本は1986年『薔薇の名前』にも名前を連ねている
ハワード・フランクリン、監督は2006年『プラダを着た女』
などのデイヴィッド・フランケルが担当。また本作は俳優の
ベン・スティラーが製作総指揮を務めている。

『コナン・ザ・バーバリアン』“Conan the Barbarian”
ロバート・E・ハワード原作ヒロイック・ファンタシーの映
画化。同じ原作からは1982年と1984年にアーノルド・シュワ
ルツネッガー主演による映画化があるが、本作はその1作目
と同じ原題を持つreboot作だ。
物語の背景は、アトランティスが滅亡してから現代に繋がる
歴史が始まるまでの空白の時代。その時代はまだ妖術が力を
持ち、暗黒の力を支配しようと歴代の王たちが競い合う時代
だった。
そんな時代の中で、戦場に倒れた女剣士の命と引き換えにコ
ナンは誕生する。しかし族長である父親の厳しい鍛練の許に
育てられたコナンは、今度は父親の命と引き換えに窮地を脱
することになる。
そして長じたコナンは父親に非業の死をもたらした仇敵を捜
し、自らが率いる義勇海賊と共に旅していたが…。ある日、
遂にその手掛かりを得る。
その仇敵は妖術を操る娘と共に古代の秘術の復活を目指して
おり、その最後の鍵は古代人の純血を引く1人の女性。そし
てその女性を巡ってコナンは妖術を駆使する父娘との戦いに
肉弾戦で挑んで行く。

主演は、ハワイ出身TVドラマ『スターゲイト:アトランテ
ィス』で人気のジェイスン・モモア。共演は2009年『スター
トレック』に出演のレイチェル・ニコルズ、2011年7月紹介
『デビルクエスト』などのロン・パールマン。
さらに2009年『アバター』に出演のスティーヴン・ラング、
2007年7月紹介『プラネット・テラー』などのローズ・マッ
ゴーワン、日本でも人気の格闘家ボブ・サップなどが脇を固
めている。
脚本は、2005年11月紹介『サウンド・オブ・サンダー』など
のトーマス・ディーン・ドネリーとジョシュア・オッペンハ
イマー。監督は、2007年『悪魔のいけにえ』や、2009年には
『13日の金曜日』のリメイクも手掛けたマーカス・ニスペ
ルが担当した。
ジョン・ミリウスが監督した1982年作では、日系人俳優マコ
岩松が演じる魔法使いなどの登場はあるものの、全体的には
シュワルツネッガーの名前ばかりが印象に残っている。特に
クライマックスの戦いはアレレという感じがしたものだ。
それに対し今回の作品は、CGI−VFXの進歩による背景
やアクションの展開もバランス良く、万人に楽しめる作品に
なっている。ただし、血みどろの古代の戦いがさらにリアル
になっており、その結果、日本公開での鑑賞制限はR-15+が
指定された。



2012年05月20日(日) LONE CHALLENGER、岸部町奇談、カイウラニ、グスコーブドリ、希望のシグナル、バルーンリレー、アイアン・スカイ、The Lady+DS記者会見

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『LONE CHALLENGER』
2008年開催の第10回インディーズムービー・フェスティバル
で、一般MOVIE部門のグランプリを受賞した林一嘉監督によ
る同年に企画された作品。作品は2010年には完成していたよ
うだが、3・11と類似する内容的な問題により公開が見送ら
れていた。
物語の背景は3・1と呼ばれる災害が発生して10年ほどが過
ぎた時代。その災害の情報はなぜか隠蔽され、人々の記憶か
らは消え去ろうとしていた。そんな時、若い女性の犯行と見
られる爆弾テロ事件が発生する。
それに対して軽薄なマスコミは事件をショウアップし、模倣
犯を演出して真犯人の女性をおびき出そうとするが…。その
一方で民間には犯行に理解を示す連中も現れ、そして地下で
は別の事件も進行していた。
映画の途中でマニアにはお馴染みの台詞が登場し、これはも
うあれしかないなと思っているとその通りだった。この辺は
マニアには嬉しいものだが、年配の評論家氏には唐突だった
ようで、監督に文句を言っている人もいたようだ。言っても
仕方ないが。
因に3・1の設定は3・11以前にすでにあったもののようだ
が、中での東日本大震災への言及は、元は阪神淡路だったも
のを台詞だけ吹き替えているそうだ。しかし3・1のメルト
ダウンを思わせる映像は当初からのもののようで、これには
感心した。

監督の林は、プロデューサー、脚本、撮影、編集、アクショ
ン指導、デザイン、造形、合成、エフェクトと出演も兼ねて
いる。共演は林由莉恵と、2009年6月紹介『吸血少女対少女
フランケン』などの乙黒エリ。なお林由莉恵はそこそこアク
ションもできるようだ。
お話はかなりのごった煮感覚でインディーズ映画の典型のよ
うな作品だが、それだけマニアックでもあり、その点では楽
しめた。また格闘技のシーンも楽しめるが、そこからの展開
は唐突と言えば唐突で、一般にはもう一言必要だったかな。
マニア的にはこれでOKだが。
ただ主人公の行動について監督は、秋葉原の通り魔事件にも
インスパイアされたと言っていたが、僕らの世代だと「大地
の牙」なども思い出される訳で、その辺には世代の違いも感
じられた。
それにしても3・11以前に、震災とメルトダウンを一つの物
語の中で描いているのは凄いことだ。

なお一般公開は6月2日から15日まで、東京下北沢南口にあ
るTOLLYWODという短編映画館(火曜定休日)で行われる。

『岸部町奇談〜探訪編〜』
上記の『LONE CHALLENGER』と共に公開される林一嘉監督の
最新作。
岸部町の高校に教育実習でやってきた美人先生を巡って、謎
が謎を呼ぶ怪奇な事件が発生する。その謎に挑むのは「怪奇
特別探偵」の2人。2人は謎を解明し、町に平和を取り戻す
ことはできるのか…
事件は3人の悪餓鬼が、ヴィデオカメラ片手に廃屋に肝試し
に行くところから始まる。しかしそのヴィデオカメラには、
肉眼では観えない飛んでもないものが写っていた。そこで、
「怪奇特別探偵」の登場となる。
しかし探偵たちの目にはさらに恐ろしいものが見えてくる。
そして2人の目が向けられたのは、教育実習で現れた美人先
生だった。誰もを魅き付ける不思議なオーラに包まれた彼女
の正体とは!?
物語は幾つかの時間軸を駆使したもので、その構成はかなり
凝ったものになっているが、物語の全体は解かり易く描かれ
ていた。しかもその物語はかなり切なさも漂う、良い感じの
ものが展開されていた。

出演は、2008年6月紹介『赤んぼ少女』などの水沢奈子と、
名古屋で活動しているモデルの横田亜美。なお本作で林監督
は、プロデューサー、脚本、撮影、照明監督、編集を兼ねて
いるが、出演は声だけのようだ。
作品は、元々は2010年に林監督が製作総指揮も務めて名古屋
市在住の監督たちによって制作されたオムニバス映画の一編
として林監督が手掛けた短編映画を基にしたもので、形とし
てはその続編になっている。
ただし、物語自体は独立したもので本編だけでも充分理解で
きたが…、本作を観ているとその「第1章」も観たくなって
くる。現在はオムニバスの関係でDVD化もされていないよ
うだが、何かの方法で観る機会を作って欲しいものだ。

さらに、本作の内容には続編も期待できるし、上記の『LONE
CHALLENGER』も含め、今後に期待の持てる監督を発見できた
感じがした。

『プリンセス・カイウラニ』“Princess Kaʻiulani”
アメリカ合衆国によるハワイ併合に関ったハワイ王朝最後の
プリンセスを巡る物語。
物語の発端は1889年、ホノルルのイオラニ宮殿に初めて電気
が引かれた夜。アメリカ人を中心とする反王制派が反乱を起
こし、混乱の中を脱出したカイウラニ王女は、スコットラン
ド人の父親と共にイギリスに渡る。
そのイギリスで、父親の友人のデイヴィーズ家に迎えられた
王女はやがて寄宿学校に入学するが、そこでは教師などから
の人種差別に直面することになる。そんな彼女を支えたのは
デイヴィーズ家の兄妹だった。そしていつしか王女はその兄
と愛し合うようになる。
その頃、ハワイでは王女の叔父である先王が死去し叔母がそ
の後を継いでいたが、その叔母は王女を王位継承者の第1位
に指名していた。そして外国の干渉に屈しない王朝に対して
合衆国は軍事行動を開始しようとしていた。
それに対して王女が採った行動は…
ハワイが合衆国によって暴力的に併合された事実は、1993年
にクリントン大統領が公式に謝罪するまで歴史に埋もれてい
たことのようだ。その際にカイウラニ王女は、イギリスを出
て各国を歴訪し援助を求めているが、その中には明治政府も
含まれる。
僕は、明治時代にハワイ王朝と日本の皇室の間で政略結婚の
話があったことは知っていたが、その背景がこのようであっ
たことは知らなかった。映画の中で日本との関係は描かれな
いが、王女が政略結婚も辞さないという発言は出ていたもの
だ。

出演は、2006年2月紹介『ニュー・ワールド』ではアメリカ
先住民の娘ポカホンタスを演じていたクリオンカ・キルヒャ
ー。南米インディオの血を引くが、ドイツ生まれでハワイで
育ったという女優に、演じた2つの役柄でのイギリスにおけ
る待遇の違いはどのように感じられただろうか。
他には2011年1月紹介『トゥルー・グリット』などのバリー
・ペッパー、2009年11月紹介『フォース・カインド』などの
ウィル・パットン。さらに2007年11月紹介『フローズン・タ
イム』などのショーン・エヴァンス、2005年3月紹介『ラヴ
ェンダーの咲く庭で』などのジミー・ユィールらが脇を固め
ている。
因に、原題の途中に入っている記号はハワイ語にある声門閉
鎖音で、Unicodeでは(&#×02bb;)となる。これは僕のPC
のWordは表示できなかったが、Excelでは書けたようだ。

『グスコーブドリの伝記』
1933年に37歳で亡くなった宮沢賢治がその死の前年に発表し
た短編童話のアニメーション映画化。その映画化に、監督・
脚本杉井ギサブロー、キャラクター原案ますむらひろしらの
1985年『銀河鉄道の夜』のスタッフが再結集した。
物語は、前半では山間の農作地を襲った冷害などによる飢饉
の様子が、口減らしや人身売買などの当時は実際に行われて
いたのであろう厳しい現実を思わせる展開も含めて、ややメ
ルヘンに描かれる。
また中盤では、てぐす工場やオリザ畑での出来事が描かれ、
主人公はイートハーブ市へと導かれる。さらに後半では、ク
ーポー博士との巡り合いや火山局での出来事が描かれ、主人
公の最後の決断へ続いて行く。
その物語は、主人公の行動に関してはほぼ原作の通りのもの
で、台詞なども原作に書かれたままのようだ。ただし、主人
公が観る風景などは原作に基づいてイマジネーション豊かに
描かれている。
そしてその映像は、原作にも描かれているクーポー博士の乗
物も含めてかなりファンタスティックな世界観のものになっ
ている。この辺には宮崎アニメを思わせる部分もあって、日
本のアニメファンが待望しているものだろう。
そんな世界観の中で、原作者の説く自己犠牲の精神が描かれ
て行く。それはもう原作者の描いた精神そのものだから、そ
れを変えることは許されないものだが…。ただ僕自身の個人
的には、それを容認することは難しかった。

声の出演は、主人公役に小栗旬。他に、忽那汐里、柄本明、
佐々木蔵之介、林家正蔵、林隆三、草刈民代らが脇を固めて
いる。
多少脚色された物語の監修には宮沢賢治研究者の天沢退二郎
が当り、総作画監督は『銀河鉄道の夜』も手掛けた江口摩吏
介、美術監督は『日本昔ばなし』などの阿部行夫、音楽はバ
ンドネオン奏者の小松亮太が担当。また主題歌には、小田和
正の「生まれ来る子供たちのために」がフィーチャーされて
いる。

『希望のシグナル』
秋田県で自殺防止活動に取り組む人々を追ったドキュメンタ
リー。因に秋田県は、2010年までの統計において15年連続の
日本で1番自殺率の高い県なのだそうだ。
その秋田県で自殺防止に取り組む人々の活動が描かれる。そ
こには、元は倒産した企業の経営者で倒産後には欝病になり
自殺も考えたという男性や、息子に自殺された母親などが登
場して、その人たちの自らの体験に基づいた活動が紹介され
ている。
その一方で精神障害者に対する差別などによる自殺問題にも
言及され、それらを包括して解決する道が検討されている。
そしてその活動の一環として公民館のような場所に開設され
たカフェの模様が紹介され、そこでの会話が自殺防止に役立
つと説明される。
ただし、それで本当に効果が上がっているのか否か、具体的
な数値などが示される訳ではない。しかしその活動が成果を
上げていることを祈りたくなる。そんな地道な活動の様子が
描かれている。
その活動が徐々に秋田県全域の連携ネットワークへと広がっ
て行く。それは行政やその他の機関をも巻き込んだものにも
なって行くが、そこでは宣言一つを採択するにも議論が必要
になるなど、創設者たちの思いと裏腹な現実も描かれる。
こうして秋田県全域での活動が進み始めた2011年3月11日。
震災による被害は秋田県では大きなものではなかったようだ
が、県はいち早く被災県からの避難者の受け入れを決め、そ
れを受けて被災者たちのケアも活動の中に組み入れられて行
くことになる。
そこでは予め整えられていた組織が力を発揮することになる
が、当然その間の本来の活動は制限されることになるはずの
ものだ。ただしその問題点は、敢えて本作では描かれていな
かった。

製作と監督は、1982年生まれ隣接岩手県在住の都鳥拓也・伸
也という双子の兄弟。すでに地元では社会問題を扱ったドキ
ュメンタリーの企画・製作を手掛け、ドキュメンタリーの上
映会なども催している兄弟が、今回は自らの手で監督と撮影
も務めている。
それから本作では、音声技術の確かさにも感心した。その整
音は日本映画大学の録音スタジオ管理も務める若林大介が担
当しているが、カフェでの騒音の中でのインタヴューなどで
も発言者の言葉が明瞭で、さすがプロの仕事と感じられた。
それにしても、このような活動を続けている人たちの姿には
本当に頭が下がる。それに比べたら自分のやっていることな
ど何の意味があるのかとも思ってしまうが、せめてこの作品
を通じてこの人たちの活動が世間に知られるように、紹介を
させて貰うものだ。

『バルーンリレー』
ユナイテッド・シネマ主催による若手育成プログラムD-MAP
で、2011年の第5回シネマプロットコンペティションに出品
された作品からの映画化。
主人公はバスケ部ではレギュラーポジションにいる女子中学
生のこずえ。そのこずえはある日、仲間と帰宅中に街路燈に
引っ掛かった赤い風船を発見する。そして通り掛かったサッ
カー部の男子に登って風船を取るように命じるのだが…
その男子は取ることを失敗した上にこずえの上に落下、彼女
は腕を負傷してレギュラーの座を逃してしまう。そんなこと
でもやもやしているこずえの目に、再び空を漂う赤い風船が
見つかる。そしてその後を追ったこずえは首尾良く風船を掴
まえることに成功。
しかしその風船に付けられていたSDカードを再生したこず
えは、思いも拠らない冒険に導かれることになる。
といってもVFX満載の大冒険というものではないが、日本
の女子中学生には等身大の、しかし決して尋常ではない冒険
が、次々現れる怪しい人物たちと共に、さらには決して真面
とは言えない発想の下で、繰り広げられて行くものだ。

出演は、「ネスレキットカット」のCMキャラクターで前回
紹介『スープ』にも出ていた刈谷友衣子、若手俳優集団D2
の大久保祥太郎。他に2011年10月紹介『ミツコ感覚』などの
古舘寛治、同年12月紹介『アフロ田中』などの美波。さらに
内田春菊、松金よね子らが脇を固めている。
脚本と監督は、2007年の函館港イルミナシオン映画祭のシナ
リオ公募でグランプリを受賞しているという藤村亨平。なお
本作は65分の作品だが、6月23日からの一般公開では同監督
による2011年の作品『逆転のシンデレラ』(25分)が併映さ
れるようだ。
最初の赤い風船が漂うシーンには、アルベール・ラモリス監
督の短編映画『赤い風船』を思い出した。そしてその後の展
開の中にも同作品に通じるものがあって、その点は監督にも
聞いてみたくなった。それはただの偶然にしても嬉しかった
ものだ。


『アイアン・スカイ』“Iron Sky”
フィンランド、ドイツ、オーストラリアの共同製作で、今年
2月のベルリン国際映画祭でプレミア上映された奇想天外な
SF映画。
時は2018年。大統領選挙を控えるアメリカ・ホワイトハウス
は、低落する人気の回復のため黒人飛行士を乗せた宇宙船を
46年ぶりに月に送り出す。しかし乗っていたのは訓練も受け
ていないただのモデルだった。
ところが月着陸も成功し、1人の飛行士が地平線の向こうを
覗いたとき、そこには巨大な鍵十字をあしらった軍事基地が
存在していた。そしてそこから現れたナチスの兵士に捕えら
れた黒人飛行士は、彼らが1945年に移住し今や地球再侵攻を
企んでいることを知る。
そこでナチスに洗脳された振りをして地球先遣隊に加わった
黒人飛行士は、何とか地球に舞い戻ることに成功するが…。
1950年にジョージ・パルが映画化した『月世界征服』の原作
とされるロバート・A・ハインラインの1947年作品『宇宙船
ガリレオ号』にも、ナチスによる月面基地の話があったと記
憶しているが、ナチスが月を目指していたというのは欧米で
は知られた話だ。
従って本作の設定は、欧米人にとってはそれほど奇想天外で
はないのかも知れない。しかしそこから後の展開は、それは
もうかなりの奇想天外と言えるものだ。しかもそこには名作
のパロディなども満載で、中では『博士の異常な愛情』が見
事に登場したのは嬉しかった。

出演者にあまり知られた俳優はいないようだが、中でナチス
将校役のゲッツ・オットーは2005年5月紹介『ヒトラー〜最
後の12日間〜』に出演、また黒人飛行士(モデル)を演じた
クリストファー・カービーは2010年9月紹介『デイブレイカ
ー』に出ていたようだ。
ヒロイン役はドイツのテレビを中心に活動しているユリア・
ディーツェ、さらに2010年12月5日付のニュースでも紹介し
た『ソウル・キッチン』のウド・キアーも出演していた。
原案は2004年のティプトリーJr.を受賞しているヨハンナ・
シニサロ。脚本は、1997年ハワード・スターン主演『プライ
ベート・パーツ』などのマイクル・カールスニコ。監督は、
2005年“Star Wreck: In the Pirkinning”が話題になった
ティモ・ヴォレンソラが担当している。
内容的にはかなりハチャメチャな作品だが、CGIを中心と
したVFXはそれなりの見所にもなっており、パロディも楽
しめるなどSF映画ファンにはお勧めの作品と言えそうだ。

『The Ladyひき裂かれた愛』“The Lady”
ビルマ民主化のシンボル=アンサウン・スー・チー女史の姿
を描いたリュック・ベソッン監督作品。監督は数年前に「も
う監督はしない」と宣言していたが、この作品は自ら監督を
熱望したそうだ。
始まりは1947年、ビルマの首都ラングーンの川縁に建つ邸宅
で、幼いスー・チーは両親と共に健やかに暮らしていた。と
ころがある日、父親であり「ビルマ独立の父」とも呼ばれる
アウンサウン将軍が暗殺されたとの報が飛び込んでくる。
そして物語は1988年、アジア研究者であるイギリス人の夫と
2人の息子と共にロンドンで暮らすスーチーの許に、母親の
看病のため帰国して欲しいという手紙が届けられる。こうし
てビルマに戻ったスーチーが見たのは、軍事政権の圧制に喘
ぐ民衆の姿だった。
そして学生や学者らによる反政府運動の高まりの中で、英雄
を父に持つスーチーは、何時しか運動のシンボルに祭り上げ
られて行くが、それは今までが学者の家の専業主婦だった女
性を過酷な運命に導いて行く。
試写状の邦題を見たときには、「ひき裂かれた愛」って何だ
ろうと考えてしまった。しかし映画には、実はプロローグが
あってVFXも使われたそのシーンで、ああその話なのかと
思い至った。
そして物語は、夫婦愛と2007年までのビルマの政治情勢を表
裏一体にして、巧みに見事に展開されて行く。

脚本は、BBCなどでドキュメンタリーを手掛けてきたレベ
ッカ・フレイン。その脚本の映画化を、マレーシア生まれで
2008年7月紹介『ハムナプトラ3』などのミシェル・ヨーが
自らの主演で企画してベッソンに提案したものだそうだ。
それにしてもヨーが演じるスーチーは、顔立ちなどもそっく
りで、妻であり母親であり、そして今も闘いを続けている歴
史的な人物が、それは見事に演じられていた。

共演は、2011年12月紹介『戦火の馬』などのデイヴィッド・
シューリス。2009年5月紹介『縞模様のパジャマの少年』な
ど脇役での印象の強い俳優だが、今回は図らずも歴史的な人
物になって行く妻を支える夫の姿を見事に演じていた。
映画の字幕では、ビルマの国名がダブルコーテーションで囲
まれていたが、背景となる国際情勢なども織り込まれて、今
も続いているビルマの情勢が解かり易く描かれた作品だ。
        *         *
 記者会見の報告を一つ。
 19日公開『ダーク・シャドウ』に関してティム・バートン
とジョニー・デップの会見が行われた。そこで質問はできな
かったが、興味の湧く発言があったので紹介しておく。
 まずは今回3Dにしなかった理由については、1970年代の
鮮やかな色彩とホラーのダークなイメージを描くのに、画面
の暗くなる3Dは適さないと判断したのだそうだ。
 それと映画の内容に関連して、未来に甦るとしたらどのよ
うな時代に行きたいかと訊かれ、バートンが冥王星に住める
時代と答えたのに対して、デップは「“The Jetsons”の時
代が良いな。家族の役をやってみたい」と発言。ハナ=バー
ベラのアニメーションで、実写映画化の企画は現在頓挫した
ままだが、デップが出演を希望すれば一気に実現…の可能性
も期待したいものだ。
 他にもいろいろあったが、それはまたの機会にしよう。



2012年05月13日(日) 汚れた心、サニー 永遠の仲間たち、スープ、プレイ/獲物、愛の残像/灼熱の肌、ダーク・シャドウ、臍帯、MIB3

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『汚れた心』“Corações Sujos−國賊−”
2006年8月『Oiビシクレッタ』と2011年12月『善き人』を紹
介しているヴィセンテ・アモリン監督による1946年−47年の
ブラジル日本系人社会を襲った悲劇を描いた作品。
第2次世界大戦の終結直後、ブラジル日系人社会では地元政
府の抑圧によって情報が遮断されていた。そして戦争が終っ
たという報の中で、彼らの大半は「皇国日本が負けるはずが
ない、勝ったのだ」と信じて疑わなかった。
そんな日系人社会の小さな町で写真館を営む主人公は、町の
顔役である陸軍大佐の取り巻きの1人だった。しかしその大
佐の開いた集会が警察の摘発を受けたことから、その取り調
べで通訳を務めていた主人公の隣人が槍玉に挙げられること
になる。
その一方で町の実業家の間では、密かにラジオを聞いて日本
の敗戦を確信する者もいた。そんな中、陸軍大佐は日本から
帰国船が来ると吹聴し、帰国を希望する人の土地の買収を進
める。また主人公には写真の捏造が依頼された。
さらに大佐は日本の勝利を信じない者の粛清を開始し、その
尖兵が主人公に任される。

原作は、ブラジルで元ジャーナリストのフェルナンド・モラ
イスが2000年に発表したノンフィクション。
その著作から、2003年に『Oiビシクレッタ』を発表した監督
が、同作の脚本家のダヴィッド・F・メンデスと共にフィク
ションの物語を作り上げている。ただし描かれたエピソード
はノンフィクションの実話に基づいているものだ。
「臣道聯盟」事件と呼ばれるこの出来事に関して僕は、「勝
ち組」「負け組」という言葉ぐらいしか知らなかったが、映
画ではその裏にあった事情なども含めてかなり判り易く描か
れている。それは情報の欠如によって生じる恐ろしい現実の
物語だ。

出演は、井原剛史、常盤貴子、奥田瑛二。奥田は本作のアソ
シエート・プロデューサーも務めている。他に余貴美子、菅
田俊、2011年7月紹介『朱花の月』などの大島葉子。さらに
セリーヌ・フクモト、エドゥアルド・モスコヴィスという人
たちが脇を固めている。
なお台詞の大半は日本語のものだが、使われている言い回し
などは適切で、その翻訳を担当した人には敬意を表したくな
った。
因に現実の事件では、1946年1月から1947年2月の間に23人
が暗殺され、約150人が襲撃によって負傷。これに対してブ
ラジル軍事警察隊は、約3万件を捜査し最終的に381人に懲
役30年の刑が言い渡されたそうだ。

『サニー 永遠の仲間たち』“써니”
1970年代後半にヒットしたドイツのディスコバンド=ボニー
Mによるダンスミュージック『サニー』に載せて25年を隔て
た女性たちの友情を描き、昨年の韓国で740万人の動員を記
録した作品。
主人公は、専業主婦としてなに不自由ない生活を送っている
ナミ。ところが入院中の母親を見舞った病院で、特別室に掛
かったハ・チュナという名札を見つける。その名前は、高校
時代に地方から転校してきたナミを仲間に入れてくれた女子
グループのリーダーのものだった。
こうしてリーダーと再会したナミは、彼女が余命2カ月と聞
かされ、彼女の希望で昔の仲間たちを捜す約束をする。そし
て最初に母校を訪ねたナミは、そこから仲間たちの消息を探
り当てて行くが…
永遠に一緒だと誓い合っていたはずの仲間たちが何故別れ別
れになってしまったのか、観客にはそんな謎も孕みながら、
ナミが仲間たちとの思い出に向き合い、自分自身を再確認し
て行く旅が綴られる。
映画では現在と25年前の世界が巧みに交錯し、それは物語と
してはファンタシーではないのだけれど、正しくファンタス
ティックな展開が描かれる。そしてそれは映画の真骨頂とも
言える素晴らしいものになっていた。特に校門での25年間の
入れ替わりを描いたシーンは見事なものだ。

出演は、主人公のナミ役に2004年8月紹介『酔画仙』のユ・
ホンジョ。韓国テレビで人気女優の映画出演は先の紹介作品
以来だそうだ。他に、2002年6月紹介『銀杏のベッド』など
に出演のジン・ヒョン、2006年7月紹介『グエムル』などに
出演のコ・スヒ。
さらに10年ぶりの芸能界復帰というホン・ジニ。役柄は彼女
のために用意されたものだそうだ。また『銀杏のベッド』な
どにも出演のミュージカル女優のキム・ソンギョンなど。
その女優たちに対する25年前の配役は、ドラマ『ファン・ジ
ニ』などのシム・ウンギョン、ドラマ『ドリーム・ハイ2』
などのカン・ソラ、2009年の映画『キングコングを持ち上げ
ろ!』などのキム・ミニョン。
さらに本作で映画デビューのパク・チンジュ、2010年の映画
『悪魔を見た』などのナム・ボラ、ドラマ『風の絵師』など
のキム・ボミ、本作で映画デビューのミン・ヒョリンらの若
手女優が集結している。
脚本と監督は、2008年のデビュー作『過速スキャンダル』が
韓国で830万人動員を記録したカン・ヒョンチョル。本作は
その2作目で、前回紹介『依頼人』のソン・ヨンソン監督と
並んで昨年の韓国映画を席巻した作品3作以下の監督の1人
とされているようだ。
小道具だけでなく、照明や色彩のコントラストなどで25年の
隔たりを巧みに表現した映画美術及び技術の素晴らしさも評
価に値する作品だった。


『スープ』
不思議研究所主宰・森田健の著作『生まれ変わりの村』に基
づいて描かれたこの世とあの世、それに来世を繋ぐ物語。
主人公はベテラン営業マンの中年男性。しかし最近の成績は
芳しくなく、後輩女性に長年の取引先も奪われそうになって
いる。しかも家庭では妻と離婚し、一緒に暮らす娘はそれを
根に持っているのかあまり会話もしてくれない。
そんな主人公が出張先で不慮の死を遂げ、後輩女性と共にあ
の世に送られるのだが。そこは天国でも地獄でもなく、ただ
来世に向かうまでの間を過ごすだけの場所。そして来世に行
くには、生まれ変わるための「忘却のスープ」を飲まなくて
はならなかった。
しかし主人公には前世に残した思いが強く、特に娘と仲違い
したままの死だったことが悔やまれ、何とか記憶を残したま
ま来世に行きたいと考える。そして後輩女性と共にその方法
を探す主人公に有力な情報がもたらされるが…
あの世の設定は上記の原作に基づくようで「忘却のスープ」
もその中にあるものだそうだ。さらに原作には前世の記憶を
持つ人も登場し、本作の主人公の行動もそれに倣ったものに
なっている。
そしてその設定の中で、主人公の娘に向けた思いの物語が描
かれて行く。それはまあ、娘を持つ父親の身である筆者とし
ては、いろいろ考えてしまうものでもあるが、何と言うかま
あそんなものだろうという感じの物語が描かれていた。

出演は生瀬勝久、小西真奈美、古田新太、松方弘樹、3月紹
介『愛しの座敷わらし』などの橋本愛、2008年5月紹介『グ
ーグーだって猫である』などの大後寿々花、2010年1月紹介
『ソラニン』などの伊藤歩。
さらにモデル出身の刈谷友衣子と広瀬アリス、2011年7月紹
介『天国からのエール』など野村周平らが出演している。
脚本と監督は、2006年松方弘樹主演『首領の一族』などの大
塚祐吉。製作は2011年3月紹介『それでも花は咲いていく』
などの太代眞裕が担当。
物語は典型的な3幕もので、この世とあの世と来世が各幕と
なる。ただし舞台では確立しているこの形式が映画に合って
いるかは常々疑問に感じるところだ。それは映画では繋ぎが
スムースで幕間がないから、その辺にも問題があるのかも知
れない。
実際に本作でも、1幕と3幕とでは10数年の時を隔てている
はずだが、画面ではそれがあまり感じられず、何となくドラ
マにメリハリがなくなっていた。ここではもっとしっかりと
時間の流れを見せる工夫が欲しかった。
上記の韓国映画がそれをしっかり描いていたのと、その辺が
違うと感じてしまうところだ。


『プレイ/獲物』“La proie”
2009年6月紹介『96時間』や、2011年7月紹介『この愛の
ために撃て』などが注目されているフレンチ・サスペンスの
1本。
物語の中心は刑期満了を間近した強盗犯。しかし彼は奪った
金を1人で隠しているらしく、その隠し場所を探ろうと様々
な攻撃が仕掛けられ、それには看守たちも手を貸しているよ
うだ。そして彼は填められて刑期が延長されてしまう。
そんな彼の同房には冤罪を主張する性犯罪者がいたが、被害
者が訴えを取り下げてその男の釈放が決まる。その状況に主
人公は男を信用し、娘と暮らす妻の現住所を教えてある伝言
を頼むのだが…
その男が釈放された数日後、主人公の許へ憲兵隊を名告る男
性が現れ、男性は釈放された男には連続殺人犯の疑いが濃い
ことを告げる。この事態に主人公は急遽脱獄を敢行し、釈放
された男の行方を追うが、すでに男は娘を連れ去っていた。
そして脱獄した主人公の捜索には名うての女性刑事が起用さ
れる。

出演は、2005年1月紹介『ロング・エンゲージメント』など
に出演のアルベール・デュポンテル、2003年6月紹介『シェ
フと素顔と、おいしい時間』などに出演のアリス・タグリオ
ーニ。
さらに2009年7月紹介『幸せはシャンソニア劇場から』など
のステファン・デバク。先月紹介『ブラック・ブレッド』な
どのセルジ・ロペス、1998年『天使が見た夢』などのナター
シャ・レニエらが脇を固めている。
監督は、2008年12月紹介『ベンジャミン・バトン』のVFX
スーパーヴァイザーなどを務め、2008年には『ワン・ミス・
コール』でハリウッド映画の監督も手掛けたエリック・ヴァ
レット。
製作と脚本は、2005年11月紹介『エンパイア・オブ・ザ・ウ
ルフ』の原案と脚本を担当したリュック・ボッシ、共同脚本
にはテレビシリーズを数多く手掛けるローラン・ターナーが
参加している。
作品にはフランス映画らしい、ハリウッド作品とは違うテイ
ストもあり、それなりの見応えのある作品だった。


『愛の残像』“La frontière de l'aube”
『灼熱の肌』“Mentiras y gordas”
2006年11月紹介『恋人たちの失われた革命』などのフィリッ
プ・ガレル監督による2008年と2010年の作品。いずれも監督
の息子のルイ・ガレルが主演若しくはキーとなる役柄で出演
している。
前者では結果として2人の女性を愛することになる男の悲劇
が描かれる。主人公はルイ扮する若いカメラマン。彼は新人
女優のポートレートの撮影に呼ばれるが、やがて彼女と愛し
合うようになる。しかしその恋は悲劇で終る。
そしてその1年後、主人公は別の女性と愛し合うようになっ
ていたが…。モノクロームの画面の中で、正しくフランス・
ヌーヴェルヴァーグを思い出させるようなドラマが展開され
て行く。

共演は往年のアイドル歌手ジョニー・アリディの娘で2007年
2月紹介『石の微笑』などのローラ・スメットと、『恋人た
ちの…』や2006年12月紹介『マリー・アントワネット』にも
出演していたというクレマンティーヌ・ポワレツ。
かなり怪奇的な味付けもされた作品で、それを観客としてど
う取ればよいのか。そこには監督自身の悲恋の思い出も重な
っているようで、それを思うと痛々しい感じもしてくる作品
だ。
そして後者でも、ルイ扮する芸術家の悲劇的なシーンから開
幕する。その物語は芸術家の友人を語り手として進められ、
芸術家の妻の映画女優と、映画監督を目指している友人との
関係が悲劇を生み出して行く。

芸術家の妻役でモニカ・ベルッチが共演し、他に2010年11月
紹介『ヒアアフター』に出演のセリーヌ・サレット、また友
人役には『愛の残像』にも出演のジェローム・ロバールが扮
し、さらに監督の父のモーリス・ガレルも出ている。
両作共に、登場人物の死や死者の霊のようなものも描かれ、
監督の死に対するイメージを色濃く感じる作品だ。しかし脚
本には、監督の長年の協力者であるマルク・ジョロデンコ、
アルレット・ラングマン、それに後者では監督の妻のカロリ
ーヌ・ドリュアスも参加しているもので、そのイメージは共
有のようだ。


『ダーク・シャドウ』“Dark Shadows”
1966年6月27日から1971年4月2日まで、ほぼ5年に渡って
毎週5回ずつ合計1245回が放送された昼間の連続ドラマの映
画化。そのアメリカでは絶大なファン層があるという伝説の
ドラマにジョニー・デップとティム・バートンのゴールデン
コンビが挑んだ。
物語の開幕は18世紀の半ば、アメリカ東部メイン州で事業を
興したコリンズ家は海産物の取り引きで財を成していた。と
ころが当主の息子バーナバスが火遊びのつもりで手を出した
メイドのアンジェリークは、実は恐ろしい妖術を使う魔女だ
ったのだ。
やがて美しい女性ジョゼットに心変わりしたバーナバスに、
アンジェリークは呪いを掛ける。それはジョゼットを死に追
いやり、バーナバスは不死の吸血鬼にしてその悲しみから逃
れられないよう鉄の棺に閉じ込め、地中に埋めてしまう。
しかし200年の時が過ぎ、ある偶然の出来事でバーナバスの
棺が掘り起こされる。そしてその時を同じくして1人の女性
が、半ば廃屋と化したコリンズ家の館を訪れる。その女性の
姿はジョゼットにそっくりだった。
一方、復活したバーナバスは様子の違いに戸惑いながらも没
落したコリンズ家の再興に乗り出す。だがそれは、200年間
姿を変えながら町を支配し、今では海産物業界をも牛耳るア
ンジェリークを相手にするものだった。こうして200年の時
を超えた闘いが始まる。

このバーナバスにデップが扮し、アンジェリーク役は2008年
1月紹介『黄金の羅針盤』などのエヴァ・グリーン、そして
ジョゼット役には2012年『TIME/タイム』などの新星ベラ・
ヒースコートが起用されている。
他にミシェル・ファイファー、ヘレナ・ボナム=カーター、
2006年2月紹介『イーオン・フラックス』などのジョニー・
リー・ミラー、2010年5月紹介『エルム街の悪夢』などのジ
ャッキー・アール・ヘイリー。
またデップが製作した『ヒューゴの不思議な発明』に出演の
クロエ・グレース・モレッツとガリー・マクグラス。さらに
クリストファー・リーや、テレビシリーズ当時の出演者もゲ
スト出演していたようだ。
映画化の原案は2005年7月紹介『チャーリーとチョコレート
工場』などの脚本家ジョン・オーガストが手掛け、さらにス
トーリーと脚本を6月に全米公開される“Abraham Lincoln:
Vampire Hunter”の原作者で脚本も手掛けたセス・グラハム
=スミスが担当している。
僕自身、オリジナルに関してはその題名を知っている程度で
日本公開された劇場版も見逃しているものだが、今回の物語
はオリジナルよりユーモラスに作られているようで、バート
ン+デップらしい楽しい作品になっている。
また作品には、1970年代にオマージュを捧げているような感
じもあり、そんな背景の中で奇妙でダークなストーリーが展
開されているものだ。


『臍帯』
2010年の「東京国際映画祭・ある視点部門」で上映された後
に、2011年の上海国際映画祭で審査員特別賞などを受賞した
作品。2005年『トニー滝谷』などをプロデュースした橋本直
樹による長編監督第1作。
物語はある一家に冷たい視線を向ける女性の姿から始まる。
その一家は1人娘と夫婦の一見平和そうな家族だが、思い詰
めたような女性の目にはただならぬ背景が感じられる。そし
て女性は、その一家の1人娘を拉致する。
その娘と倉庫のような場所に閉じ籠もった女性は、娘に精神
的な圧迫を加え続け、やがて娘の携帯から1通のメールを送
信する。そこには「・・・だから私は、あんたの一番大事な
モノを壊してあげる」と書かれていた。
最初は父親の不倫相手かな…なんて思いながら観ていると、
物語は予想外の展開に進んで行く。そして結末まで、それは
見事に構築された人間ドラマが展開されていた。その間の心
理描写も巧みで、これは一級の心理サスペンスだ。

出演は、2007年9月紹介『Mayu−ココロの星−』に出ていた
於保佐代子、2005年6月紹介『七人の弔』などの柳生みゆ、
そして1998年『女刑事RIKO』などの滝沢涼子。
試写後、主人公が過去の経緯を知った手段が不明だと注文を
付けている人がいたが、それは探偵を雇うなど方法はいろい
ろあるだろう。それを示唆する描写などはあっても良いが末
節のことだ。
それより本作では、表情のアップを多用した映像演出や何よ
り物語の展開の巧みさに注目すべきものだ。その映画的なセ
ンスには、さすが映画を良く知っている人の感じがしたし、
さらに一般の日本映画とは違う感じも受けた。
こんな感覚の作品が増えれば、日本映画にも見所が増えてく
るだろうという期待も抱かせるものだ。しかしその作品が、
2010年の映画祭上映から2年間もお倉入りになっていたこと
は問題である訳で、こういう作品がしっかり観られる環境も
欲しいものだ。

なお本作の公開は、東京は6月16日から新宿武蔵野館など、
全国順次公開となるようだ。

『MIB3』“Men in Black III”
1997年と2002年に公開された…地球上にはすでに異星人が侵
入しているとするSFシリーズの第3弾。その新作に主演の
ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーズと、バリー・ソネ
ンフェルド監督が再結集した。
前作から10年、エージェントKとJのコンビは、互いの理解
は進まないまま、でもしっかりと続いているようだ。そんな
時、月面の監獄から最強の異星人が脱獄する。その異星人は
1969年にエージェントKが逮捕したものだった。
そしてエージェントJに変調が起き、彼は存在しないエージ
ェントKの姿を追い始める。そのエージェントKは1969年に
異星人の逮捕に失敗して殉職していた。そして彼が逮捕でき
なかった異星人の軍団が地球に襲い掛かる。
一方、エージェントKの記憶を残すエージェントJは、その
事実から過去に飛ぶことを命じられる。そしてその場所でJ
は若き日のエージェントKに巡り会うが…。そこにはKを亡
きものにしようとする異星人の姿もあった。

共演は2011年1月紹介『トゥルー・グリット』などのジョッ
シュ・ブローリン、2009年8月紹介『パイレーツ・ロック』
などのエマ・トムプスン、2010年5月紹介『セックス・アン
ド・ザ・シティ2』などのアリス・エヴァ。
他に、ジェイミー・クレメント、マイクル・スターバーグ、
ビル・ハーダーらが脇を固めている。さらにティム・バート
ン、ジャスティン・ビーバー、レディ・ガガらのゲスト出演
もあったようだ。
脚本は、2008年『トロピック・サンダー』などのイーサン・
コーエンと、2009年5月紹介『天使と悪魔』などのデヴィッ
ド・コープ。エージェントKとエージェントJの間に隠され
た関係など、思わず納得するものになっていた。

VFXの監修には前2作も手掛けたケン・ラルストンが名を
連ね、エイリアンの特殊効果は、こちらも前2作を手掛けた
リック・ベイカーが担当している。製作総指揮はスティーヴ
ン・スピルバーグで、映画の最後にはAmblinのマークも出て
きた作品だ。



2012年05月06日(日) 依頼人、リンカーン弁護士、オードリー/See You、ハローキティ、死刑弁護人、ディヴァイド、ラブド・ワンズ、ラヴ・ストリームス+F&F6

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『依頼人』“의뢰인”
2011年10月31日付「東京国際映画祭」で紹介『哀しき獣』な
どのハ・ジョンウと、2009年5月紹介『セブンデイズ』など
のパク・ヒスン、それに2004年10月紹介『僕の彼女を紹介し
ます』に出演チャン・ヒョクの共演で、昨年韓国で観客動員
240万人を記録したという法廷サスペンス。
事件の現場はとあるアパートの寝室。夫婦のベッドが大量の
血で染まり、裾からは血液が滴り落ちている。しかし遺体は
なく、現場の血の量では被害者が自ら動けたとは考えられな
い。そんな現場検証の最中に、被害者の夫がプレゼントを手
に帰ってくる。
しかしその夫は、物的証拠もないまま状況証拠だけで第1容
疑者とされ逮捕されてしまう。その裏には検察が威信を賭け
るある事情が潜んでいた。そしてその夫の弁護を引き受ける
ことになった主人公は、一つずつ証拠を検証して行くが…。
検察官の威信と弁護士の正義が、法廷の場で真向からぶつか
り合う。決定的な証拠のない事件。それは緻密な調査で検察
の挙げる状況証拠の裏を取り、それに反証して行くもの。そ
の調査の模様などが克明に綴られて行く。
韓国映画で本格的な法廷ものは初めての作品だそうで、確か
に武術を駆使したアクションや激しい戦闘シーンなどが売り
のものの韓国映画の中では毛色の変わった作品とは言えそう
だ。しかしエンタメ上手な韓国映画はこれも巧みな作品に仕
上げていた。
しかも謎解きの興味が半端ではなく、犯行の手順を解き明か
して行く過程や果たして真犯人は誰かなど、ぐいぐいと観客
を引っ張って行く脚本と演出も、見事としか言いようのない
作品だった。

その脚本は、同じく昨年の韓国映画で480万人を動員したと
いう『朝鮮名探偵 トリカブトの秘密』を手掛けたイ・チュ
ンヒョン、監督は、2008年『略奪者たち』以来の2作目とな
るソン・ヨンソンが担当している。
因に昨年の韓国映画界では、作品3作以下の監督たちが大活
躍したのだそうで、本作のソン監督もその一角を担っている
ものだ。

『リンカーン弁護士』“The Lincoln Lawyer”
2002年12月紹介『ブラッド・ワーク』でも知られる推理作家
マイクル・コナリーの原作で日本でも翻訳されているミステ
リー小説の映画化。
主人公のミッキー・ハラーはロサンゼルスで開業する刑事弁
護士。運転手付きリンカーン・コンチネンタルの後部座席を
事務所として、依頼人の罪を司法取り引きなどで軽減するの
が得意技だ。そのためかなりやばい連中とも付き合い、一部
には悪徳弁護士の汚名もある。
そんな主人公の許にでかい仕事が舞い込む。それは保釈金保
障業者の男がもたらしたもので、資産家の息子が女性を殴っ
て重傷を負わせたという事件。その息子が年収60万ドルで前
科が無く、司法取り引きも容易と踏んだ主人公は保釈手続き
から仕事を始める。
ところが保釈された息子は絶対に無実と主張し、司法取り引
きにも応じないと言い出す。そのため裁判の手続きを始めた
主人公は、次々に無実の証拠を発見して行く。そして裁判は
主人公の思う方向に進んで行くが…。

主演は2008年4月紹介『フールズ・ゴールド』などのマシュ
ー・マコノヒー。共演は、今年2月紹介『スーパー・チュー
ズデー』などのマリサ・トメイ、2006年10月紹介『父親たち
の星条旗』に主演のライアン・フィリップ、2008年1月紹介
『団塊ボーイズ』などのウィリアム・H・メイシー。
他に2011年12月紹介『J・エドガー』などのジョッシュ・ル
ーカス、同年1月紹介『リセット』などのジョン・レグイザ
モ、12月紹介『ペントハウス』などのマイクル・ペーニャ、
さらに2010年5月紹介『ブレイキング・バッド』などのブラ
イアン・クランストンらが脇を固めている。
脚本は2008年8月紹介『最後の初恋』などのジョン・ロマー
ノ、監督は2007年『ハード・クライム』などのブラッド・フ
ァーマン。レグイザモ主演の前作を観たマコノヒーが本作の
監督に推薦したそうだ。
(以下ネタバレです)
実は、本作は上記の韓国映画と同じ会場で行われた試写を続
けて観たものだが、その展開が余りに類似するのに驚いた。
もちろん扱われる事件そのものは全く異なるし推理の内容も
違うのだが、そんな2作を続けて観る偶然に驚かされた。


『オードリー』
『See You』
2011年3月に『はい!もしもし、大塚薬局ですが』を紹介し
ている勝又悠監督作品。因にこの2作品は、それぞれ昨年と
今年の「ゆうばりファンタスティック映画祭」に公式出品さ
れているものだ。
以前紹介の作品は、監督が「自分の母親世代にも観て貰える
作品」としていたものだが、本2作は…。これが監督本来の
作品のようだ。
前者は、文化祭の準備に忙しい共学校が舞台。主人公はある
男子生徒を密かに思っていたが、突然遊び仲間の女子がその
男子生徒を好きだと言い出す。しかも主人公に向かっては、
「学園祭で告白するから、それまで代りに付き合って彼のこ
とを調べて欲しい」とも。
こうしてその男子生徒と付き合うようになった主人公だった
が…。

主演は、『大塚薬局』に続けて監督とのタッグになった笠原
美香。男子生徒役にオーディションで見出された暮浩平、そ
して遊び仲間役に2008年3月紹介『パーク・アンド・ラブホ
テル』の梶原ひかりと、映画は初出演の小田島渚。
後者は、夫婦不和で父親が家を出てしまった一家の娘が主人
公。そんな彼女は帰宅中に声を掛けてきた男性に誘拐される
が…。何処でも連れて行くと言う男性に、彼女は父親の故郷
の地名を告げる。

主演はオーディションで選ばれた清瀬やえこ。共演は2003年
1月紹介『アカルイミライ』に出演の園部貴一。他に『大塚
薬局』などの桜井淳美、2011年6月紹介『ふゆの獣』などの
前川桃子、それに近藤圭子。女優3人は勝又監督作品の常連
組のようだ。
2作とも物語自体は作り物めくが、登場する女子の姿はそれ
なりに現実に則したものなのかな。そうでもなければこれだ
けの支持も得られないとは思うが、筆者も小父さんになって
しまうと中々判らない世界が展開される。
しかも本2作の場合、特に前者では音声のバランスが良くな
くて重要な台詞が聞き取れず、それも物語を理解し辛くして
いた。ヴィデオ制作で同時録音なのは判るが、もう少し整音
などには手を掛けて欲しい感じのものだ。


『ハローキティ みんなあつまれ星空パラダイス!』
光学機器メーカー五藤光学の制作によるプラネタリウム作品
の試写を観せて貰った。今回の鑑賞は別の理由もあっての見
学で、試写の前には担当の方に質問をすることもできた。今
回はそのようなことも踏まえて作品を紹介させてもらう。
実は、以前に渋谷のプラネタリウムで上映された『HAYABUSA
/Back to the Earth』の一般公開を観ており、その際にもド
ラマ作品の可能性は頭に浮かんでいた。そのドラマ作品を今
回は観られたものだ。
で、お話は題名通りキティと友達のダニエル、キキ&ララ、
それにバッドばつ丸の5人が登場し、ほうき星のホーキーが
壊してしまった星座を修復するため大活躍するという内容。
他にもオリオンやさそりなども登場して、25分の上映時間の
割には良く纏められていた。
もちろんお子様向けの番組だが、オリオン座とさそり座の関
係などはそれなりに考えて作られていたようだ。

ということで、以下は技術的な話だが、今回見学した五反田
のプラネタリウムでは、まず映像の解像度は4K×2Kのプ
ロジェクターが2台で、全天では4K×4K=16Mというこ
とになる。対するプラネタリウム装置は1億個の星を投影で
きるものもあるそうだ。
そこで物語は映像で表示し、星空のシーンはプラネタリウム
装置で投影するのが理想的な作品になるが、全国に展開され
ている「プラネタリウム」の中には、プラネタリウム装置を
持たない施設もあるそうで、そのため今回の作品も映像だけ
の構成だった。
ただし、プラネタリウム装置を併用する作品をパラで作るこ
とにはさほどの問題はないようで、今後はそのような作品を
増やしたいというのがメーカー側の期待のようだった。
またプロジェクターでの3D上映の可能性についても訊いて
みたが、通常の装置は単光源を一旦色分解して再合成する形
式になっており、光量が少ないので難しいとのことだった。
確かに今回の試写でもそれは感じられたものだ。
ただしI-Maxからは、すでにレーザー光源を使用して幅36mの
スクリーンに対応するプロジェクターも発表されており、将
来的にはそれも視野に入れる必要はありそうだ。
以上、今回はプラネタリウムでの映像作品の上映に付いて紹
介させてもらった。
なお今回紹介した作品は、神奈川県伊勢原市立子ども科学館
では4月から上映が始まっており、今後は5月に宮城県仙台
市天文台、6月に東京都タイムドーム明石などで順次公開が
決まっているようだ。

『死刑弁護人』
オウムの麻原彰晃、和歌山カレーの林眞須美、新宿バス放火
の丸山博文などなど、いずれも死刑の求刑されているこれら
の裁判では、実は同じ弁護人が被告人の弁護に当っている。
その弁護士の名は安田好弘。彼の姿を追った東海テレビ制作
のドキュメンタリー。
東海テレビ制作のドキュメンタリーでは、2011年5月『青空
どろぼう』という作品を紹介しているが、作品によっては内
容があざといというか、制作者の視点に今一つ共感できない
ものもあり、試写の案内を貰うといつも構えてしまう。本作
もそんな感じだった。
実際に上記の事件の名称を見れば、何でこんな奴らの弁護を
するんだ…、みたいな気分になるものばかりだ。そんなもの
を選んで弁護する弁護士なんて共感できるはずがない、とい
うのが先入観だった。しかし映画は観なければ何も始まらな
い。
それで観ての感想は、安田弁護士が信念の人であることは理
解できたし、また事件によっては多少見方の変わるものも生
じた。それはこの作品がドキュメンタリーとして、それなり
の意味を持つものであったということだろう。
因に、安田弁護士は本来が死刑廃止論者であり、その信念に
基づいて死刑囚の裁判に関っているものだが。その信念自体
は裁判で争うものではなく、裁判では飽く迄も真実を追求し
て行くという態度を貫いている。
それが、死刑反対弁護士ばかりが集まった麻原裁判では逆目
に出ている様子や、それでも検察からは目の敵にされて、妨
害としか思えない家宅捜査や逮捕の行われる様子は、弁護士
もののドラマを観ているようでもあった。
その一方で、丸山裁判では被告人の境遇にまで遡って無期懲
役を勝ち取るが、それでも結局は被告人を救えなかったとす
る悔悟の様子なども丁寧に描き出されていた。
そして最高裁から関ることになる林裁判では、現場を再検証
して明らかになる目撃証言への疑惑や、警察による証拠の捏
造を思わせる事象などが指摘され、それでも死刑判決を覆す
ことはできなかったが、今後の動きへの関心は高めるものに
なっていた。

僕自身は死刑廃止論に対しては態度を決めかねているものだ
が、本作はそのような議論に対してもいろいろな意味で一石
を投じる作品にはなりそうだ。その点でも、意味のある作品
と言えるものだ。

『ディヴァイド』“The Divide”
突然何者かの攻撃によって摩天楼の崩壊したニューヨーク。
そのとあるビルの地下に閉じ込められた9人の男女の姿を描
いたサスペンス作品。
映画は突然の攻撃によって崩壊して行くニューヨークの描写
から始まり、逃げ惑った人々がとあるビルの地下室に逃げ込
む。そこはミッキーと名告る男の個人シェルターだった。そ
して最初は大人しく運命を考える彼らだったが…
外部の状況も判らぬまま時間が過ぎる内、彼らの間には徐々
に焦燥や緊張が高まり、主導権争いも勃発する。そして外部
からは異様な防護服を着た連中の侵入など、不穏な動きも伝
わり始める。果たしてこの事態に生き延びる術はあるのだろ
うか!?

出演は、2002年12月紹介『ウォーク・トゥ・リメンバー』な
どのローレン・ジャーマン、1984年『ターミネーター』など
のマイクル・ビーン、テレビ『ヒーローズ』などのマイロ・
ヴェンティミリア。
さらに、2011年9月紹介『ファイナル・デッド・ブリッジ』
などのコートニー・B・ヴァンス、2006年2月紹介『ヒスト
リー・オブ・バイオレンス』などのアシュトン・ホームズ、
それにロザンナ・アークエット、マイクル・エクランらが脇
を固めている。
監督は、2008年8月紹介のフランス映画『フロンティア』の
サヴィエ・ジャン。脚本は、ドイツで活動する人形アニメー
ターのエロン・シーンと、ロサンゼルスで活動する脚本家の
カール・ミューラーが担当。シーンは製作と第2班監督も務
めている。
シェルター物は、2月に『テイク・シェルター』を紹介した
ばかりだが、アメリカではそんな気分が高まってるのかな。
途中で登場する防護服の連中の正体が何なのかなど、釈然と
しない部分も多々ある作品だが、密室内で繰り広げられる人
間模様には綺麗事ではない部分も多く描かれ、それは現代社
会を反映させた作品とも言えそうだ。
監督の前作も極めて特異な極限状態を描いたものだったが、
本作もその流れの作品ということだろう。ただしそれは、ニ
ューヨーク以外でも無いとは言い切れない状況であり、そん
な極限状態がリアルさをもって描かれていた。


『ラブド・ワンズ』“The Loved Ones”
オーストラリアの小さな町を舞台にした少しSMチックなス
プラッター・コメディ。
主人公は男子高校生のブレント。彼は半年前に仲の良かった
父親を自分の運転する車の事故で亡くし、その時から後悔と
葛藤の中で暮らしている。そこでは心優しいガールフレンド
=ホリーの存在も慰めにはならない。
そんな高校生活も最後のプロムが開かれる日のこと、ブレン
トは内気な同級生ローラからプロムに誘って欲しいと頼まれ
る。しかしホリーと約束しているブレントはその頼みを丁寧
に断るのだったが…
ホリーが車で迎えに来るまでの間、自宅裏の山でフリークラ
イミングをしていたブレントは、登頂した崖の上で景色を眺
めていたところを突然何者かに襲われる。そして目覚めたと
き、彼は椅子に縛られ、ミラーボールが回り着飾ったローラ
が微笑む一室にいた。
チラシのヴィジュアルは着飾った若い女性が電気ドリルを突
き出しているというもので、その背後には血みどろの男性の
姿もあり、それは何となく1976年ブライアン・デ・パルマ監
督の『キャリー』を連想させた。
そんな訳で多少期待も高まって試写を観たものだが、期待の
方向性は多少異なってはいたものの、これはこれで充分に納
得のできる作品だった。特に映画後半の羽茶目茶ぶりは、正
に元気一杯のオーストラリア映画という感じのものだ。

主人公のブレントを演じたのは、2006年11月5日付「東京国
際映画祭」で紹介した『2:37』(公開題名:明日、君が
いない)や、2008年3月紹介『ブルー・ブルー・ブルー』な
どのハビエル・サミュエル。地元では注目の若手俳優だそう
だ。
そしてローラ役を怪演したのは、今年6月に全米公開される
ハリウッド大作“Abraham Lincoln: Vampire Hunter”にも
重要な役柄で出演しているというロビン・マクレヴィー。正
に旬の若手俳優の共演になっている。
他には1984年生まれだが脚本や演出も手掛けるというヴィク
トリア・タアイン、ガイ・ピアースとの共演歴のあるリチャ
ード・ウィルスン。さらに4月紹介『君への誓い』に出演の
ジェシカ・マクナミーらが脇を固めている。
監督はCMディレクター出身のショーン・バイルン。脚本も
手掛けた長編映画デビューの本作で、世界20カ国以上の映画
祭に招待され、各地で受賞も果たしている。
正しく羽茶目茶な作品で、出演者も楽しんで製作されたよう
だ。そんな気分も伝わってくる作品になっていた。スプラッ
ターではあるが…


『ラヴ・ストリームス』“Love Streams”
1989年に59歳で亡くなったジョン・カサヴェテスの監督作品
6本が、東京では5月24日から「レトロスペクティヴ」とし
て特集上映されることになり、一部作品の試写会が実施され
た。その中から表記の作品を鑑賞した。
作品は、1984年に製作され事実上のカサヴェテス最後の監督
作品とされるもので、今までDVD化もされていなかった。
その幻の作品が今回はニュープリントで上映される。
物語は、ハリウッドの郊外で秘書や取り巻きなど複数の女性
と奇妙な共同生活を送っている流行作家が主人公。その彼の
許に、15年の結婚生活に破れた実姉と、彼自身が前妻との間
に儲けた息子が現れる。
そこで急遽、共同生活をしていた女性たちを追い出した主人
公は、精神状態が不安定な実姉と、初対面で接し方も判らな
い息子との生活をスタートさせることになるが、それは彼自
身の生活を脅かし始める。
映画では終盤に突然オペラのシークェンスが登場するなど、
かなり思い切った構成で、それはフランス・ヌーヴェルヴァ
ーグに親近感を憶えるようなアメリカ映画とは思えない作品
だった。
ただし、主人公の離婚問題や息子との関係、さらに実姉の精
神状態などは、やはりアメリカの状況を描いているようで、
その辺は今日にも通用する物語が描かれているとも言えるも
のだ。

出演は、流行作家をカサヴェテス自身が演じる他、実姉役は
妻のジーナ・ローランズ、さらに2005年4月紹介『ライフ・
アクアティック』などに出演のシーモア・カッセル、スタン
トマンのエディ・ドノらが出演している。
なお「レロトロスペクティヴ」では、他に1959年『アメリカ
の影』、1968年『フェイシズ』、1975年『こわれゆく女』、
1976年『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』、1977年『オ
ープニング・ナイト』も上映され、この内『こわれゆく女』
の上映は、GUCCIの支援により復元作業の行われたものにな
っている。
        *         *
 出演した『アバター』の記録的な大ヒットを始め、『世界
侵略:ロサンゼルス決戦』や『バイオハザード』第1作など
のアクション作品への出演で、今や女性アクションスターの
No.1とも呼ばれるミシェル・ロドリゲスが、今年の夏にヨー
ロッパで撮影される“The Fast and the Furious 6”にメイ
ンキャストとして出演することが報告された。
 このシリーズでロドリゲスは、ヴィン・ディーゼルの妹役
として第1作と第4作にはフル出演していたが、第5作では
あっと驚くようなクレジット後のカメオ出演だった。そして
今回は第6作への出演が報告されたもので、第5作での出演
の謎が解き明かされることになりそうだ。
 因に第3作以降を手掛けるジャスティン・リン監督による
第6作には、ディーゼルを始め、ポール・ウォーカー、ドウ
ェイン・ジョンスン、ジョーダナ・ブリュースター、タイリ
ーズ・ギブスンら、今までの登場人物が総出演するようで、
正に総決算の作品が期待できる。全米公開は2013年5月24日
の予定だ。
 この他にロドリゲスは、『バイオハザード』最新作、一昨
年公開『マチェーテ』の続編にも出演が発表されている。


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井口健二